第110話 他人から見ればそうでしょう
満と風斗は、幼馴染みの香織と書店で出くわしてしまう。そこで、香織と一緒にいた女性と向かい合っている。
「初めまして、私は星見真麻と申します。香織ちゃんとは仲良くさせて頂いてます」
ぺこりと折り目正しく頭を下げる星見。
それでも、香織と一体どこでどういう感じ知り合ったのか理解ができない風斗は、先程から警戒の態度を崩していない。
じっと睨んでいる風斗の姿に、満は首を傾げているし、香織はどうしたものかと困っている。
「ん~、さすがにそんな顔で見られてしまうと私もショックが大きいですね。でも、そのくらいに香織ちゃんのことを大切に思っているのですね。安心しました」
さすがに風斗の態度の困惑はしていたものの、友人を思うからこそだと理解すると気持ちの切り替えは早かった。
星見は優しい笑みで香織を見つめている。
「さて、せっかくのデートを邪魔して仕方ありませんね。私たちは予定がありますし、そろそろ行きましょうか、香織ちゃん」
「えっ、あっ、はい!」
「ででで、デート?!」
星見の言った言葉に、三人揃ってびっくりして慌てふためいている。
それはそうだろう。事情を知らない人からしたら、満と風斗は男女のペアなのだ。デートと勘違いするのも無理もないのである。
「そそ、そんなんじゃねえから!」
「そ、そうですよ。僕たちはただの幼馴染みです」
必死に否定する風斗と満である。
その慌てっぷりに、星見はついつい意地悪な笑みを浮かべてしまう。
「分かりました。お二人がそういうのでしたら、そうなのでしょうね。それに、そちらの方は僕っ娘ですか。……興味がありますね」
「へっ……」
「ちょっと、星見さん!」
満のことをじっと見つめる星見の姿に、満と香織が慌てた反応を示している。
二人の反応を見た星見は、おかしそうにくすくすと笑い始めた。
「ごめんなさい、からかうつもりはなかったのですよ」
「もう、星見さん……」
にこにこと笑う星見の姿に、香織は顔を赤くしながら呆れてしまっていた。
「村雲くん、ルナちゃん。それじゃまた学校でね」
「ああ、またな」
香織は星見に連れられて書店を出ていった。
二人が出ていくと、満と風斗は大きなため息をついている。
満は膝に手を当てながら、風斗は額に手を当てながらである。こういう動作の違いでも、二人の性格の違いというものがよく分かるものだ。
顔を上げた二人は顔を見合わせようとする。ところが、思わず真っ赤になりながら顔を背け合ってしまった。
星見に言われたデートという単語が脳裏をちらついたからだ。そんなつもりはないというのに、今は男女だからか意識してしまったようなのだ。
「……そうじゃない、そうじゃない」
二人はぶつぶつと呟きながら、しばらくその場から動けずにいたのだった。
「ありがとうございました~」
ようやく落ち着いた満と風斗は、本を購入して書店を後にする。
しかし、やっぱり顔を合わせるとさっきの星見の言葉がよみがえって、顔を赤くしながら目を合わせられなくなる。
ここまで気まずい雰囲気になったのは、おそらくこの関係になってからは初めてだろう。
「おや~、少年たちじゃん。久しぶり」
購入した本を読もうと、いつも使っているファストフードの店に移動している満たちの前に、これまたよく知っている顔が現れる。
「えっと、確か……」
満が首を捻りながら思い出そうとしている。
「ああ、そこそこ前少し話をしたお姉さん。確か、小麦さんですよね」
「覚えていてくれたんだ、嬉しいな」
にこにことした笑顔で、小麦は二人のところへとやって来て椅子に座る。勝手に相席をしているのである。
「ふ~ん、今日も彼女ちゃんと一緒か。デートか、いいねえ」
「ちちち、違うんです。こ、こいつとはそんなんじゃないですから」
小麦に言われて取り乱す風斗。満は満で俯いてしまっている。
「あははは。必死になっちゃって、可愛いなぁ」
からかいが成功して、小麦は大笑いである。
ところが、あまりにもおかしい二人の様子に、次第に笑い声がおさまっていく。
「いやあ、なんかごめん。そ、そんなつもりじゃなかったからね?」
小麦はやりすぎたと思って謝っている。
「しょうがない。今日はお姉さんがお詫びにおごってあげよう。少年たち、何がいいかな?」
「い、いや。さすがにそれは悪いですよ」
「遠慮するな。今日は私におごらせなさーい」
結局押し切られる形で、満たちは小麦に昼ご飯をおごってもらうことになってしまった。
少し話し込んでいたものの、しばらくして時計を確認した小麦は立ち上がる。
「よ~し、今日は昨日代わってあげた代わりにバイトに出なきゃいけないんだ。それじゃ、もう行くから二人は楽しんでいってね~、ばいび~」
小麦は嵐のように去っていった。
結局最後は反論することもできず、二人は呆然と席に座ったままになってしまった。
「……もう帰ろっか」
「あ、ああ。うん、そうだな。なんか気まずいしな」
散々からかわれた挙句、ろくに弁明することもできなかったために、今日の二人の間にはもやもやとした気持ちが漂っていた。
これ以上はなんとも気が休まらないということで、この日のお出かけはここで打ち切りとなってしまった。
家に帰る間もお互いの顔も見ることができず、言葉少なに解散することとなってしまった。
満たちは一体どうしてしまったというのだろうか。