第108話 悩める日曜日
配信の終わった翌日の日曜日。満は部屋でゆっくりしていた。
気分転換に出かけようと思ったのだが、風斗が用事で誘えず、一人では出かける気になれなかったからだ。
(う~ん、どうしよう。何もする気になれないし、……アバ信コンテスト用の動画のネタでも考えようかな)
部屋の中で転がっていても気分が沈むだけなので、満は体を起こしてパソコンを起動する。
今は明るい時間なので、光月ルナとしては活動できない。自然と動画漁りになってしまう。
PASSTREAMERの動画を漁っていた満だったが、突然スマートフォンが震える。
(うん、なんだろう……)
スマートフォンの振動に気が付いた満は、動画を見る手を止めてスマートフォンに手を伸ばす。
画面を確認すると、メール着信があったようだ。
「あっ、世貴兄さんからだ」
差出人の名前を見て、ぴょんと背筋を伸ばす満。早速メールを確認する。
『満くんへ
昨日の配信を見ていたよ
アバ信コンテストへの参加は本気のようだな
俺でよければ多少なりと協力しよう
なんといっても、そのアバ信を作り上げたのは、俺と羽美の二人だからな
困った時にはいつでもメールを送ってくれ、相談には乗るぞ
健闘を祈る
世貴』
どうやら、配信を受けての内容を今頃になってメールを送ってきたらしい。
とはいえ、実に心強い味方だ。世貴の心遣いに、満はつい笑顔を浮かべていた。
このメールで俄然やる気が出た満は、どういうネタで勝負するのか改めて考え始めた。
「ダメだぁ~……。なにも出てこない」
ところが、昼ご飯の時間を迎えてもまったく何のアイディアも出てこない。
すっかり参ってしまったのか、満は机の上に突っ伏してしまっていた。
「はあ、もうお昼の時間か。ご飯にしようっと」
モニタに表示された時間を確認した満は、大きなため息をつくと立ち上がって部屋を出ていった。
食事を終えて戻ってきた満は、再びモニタの前で必死に考え始める。
今日は配信のない日だし、月曜日提出予定の宿題はすべて済ませている。
つまり何もやることはないので、真家レニの配信までの間はずっと考え込んでいられるのだ。
考え詰まったところで、満はふとスマートフォンを手に取ってSNSに目をやる。何かアイディアが転がってないかと見てみることにしたのだ。
そこで、気になるポストを見つける。
『Vブロードキャスト@公式
鈴峰ぴょこらと黄花マイカの配信を16時より行います
四期生の初々しい配信をお楽しみください
#ブイキャス #アバ信 #鈴峰ぴょこら #黄花マイカ』
Vブロードキャストの新人である四期生の配信だった。
何気に今回は鈴峰ぴょこらはお披露目の日以来の配信だ。
煮詰まっているので、気分転換に見てみようと満は考えた。
迎えた16時。
ヘッドギアをつけて、満は二人の配信を見るために準備をしている。
さすがに黄花マイカの人気が出ているとあって、すでに6万人ほどが接続している。光月ルナの配信より人が多かった。
「みなさん、こんにちは。黄花マイカです」
「すごく久しぶり。鈴峰ぴょこらだよ」
無難な挨拶を決める二人である。
『四期生のみの配信か』
『後の二人は先輩についてもらいながらの配信だったのにな』
『マイカちゃんがいるからかな』
次々とコメントが流れていく。
『スパチャできねえっ!』
『まだデビュー一か月以内やぞwww』
『お前は俺かwww』
どうやら二人に対してスパチャを投げようとしたリスナーがいたらしい。
しかし、まだデビューからギリギリ一か月が経っていない。これまでは先輩たちがいたから投げられたのだが、新人同士では無理のようだった。
『くぅ・・・、ミミたそがいれば・・・』
『諦メロン』
悔しがるリスナーに対して、配信する二人は苦笑いである。
終始二人は何気ないトークを交わして配信は進行していく。デビューして間もないので、この進行は仕方ないだろう。
ところが、特技の話になったところで様子が一変する。
「特技かぁ。それじゃ、あたしの特技、見てもらおうかな。えっと、大丈夫かな?」
『なんだなんだ』
『大丈夫って、何をする気だ?』
リスナーたちが興味を持ったのか騒めき始める。
「許可が出たので、やってみる」
次の瞬間だった。
『うおっ!』
『マジか?!』
リスナーたちのどよめきのコメントが流れていく。
それというのも、ぴょこらが突然バク宙を決めたのだ。バク転ならまだしも、バク宙である。
配信を行うスタジオ内にはいろいろ機材があるだろうに、よく許可が下りたものである。
「運動神経はあるようなのよ」
『ウサギと猫の悪魔合体ならではやな』
『スパチャさせろおおおおっ!!!』
どうやらリスナー受けはよかったようだ。
しかし、こんなすごい特技を見せられた後では、マイカにすごい負担がのしかかる。
『マイカちゃんの趣味ってなんだろ』
『楽しみ』
リスナーたちからの期待が膨らんでいく。
「ありゃ、やりすぎちゃったかな?」
ぴょこらが心配するような声を出しながらも、表情は笑っていた。さすが小悪魔系である。
しばらく沈黙が続いていたものの、マイカはきゅっと手を握りしめて前を見る。
「わ、私の趣味は、りょ、料理です」
「わおっ、意外。今度食べさせて~」
料理と聞いた瞬間、ぴょこらは積極的にマイカに絡んでいく。
「ま、また今度ね。ほら、今日はちょっと時間が……ね?」
「しょうがないなぁ。貸し一回だよっ」
「えええっ?!」
『草』
『てえてえけど、さすがに草』
笑っているリスナーが多いものの、ほんわかした雰囲気にリスナーたちは総じて満足しているようだった。
こうしてぴょこらとマイカの配信は終わりを迎えたのだが、満は何かヒントをつかめたのだろうか。
配信を見終わった満は、しばらくそのままモニタを眺め続けていたのだった。