第107話 リスナーに相談だ
土曜日の配信日のことだった。
「みなさま、おはようですわ。光月ルナでございます」
『おはよるな~』
『おはよるなー』
満は男の状態のまま配信を行っていた。
「さて、本日の配信の内容ですけれど、『アバター配信者コンテスト』というものでございます」
『なにそれ』
『聞いたことあるか?』
『ワイは知ってるで』
『教えておくれ』
『大手の情報会社が開いてるコンテストで、上位入賞したアバ信はいろんな場所の広告塔になるんやで』
コメントの中で情報の提供が行われている。
さすがこれだけリスナーがいると、知っている人間はそこそこ存在しているようだ。
「説明ありがとうございますわ」
一応代わりに説明してくれたリスナーにお礼を言う満。
『ルナちにお礼言われた』
『裏山C』
『ぱるぱるぱる』
説明をしていたリスナーが発現すると、羨ましそうなコメントが次々と表示されていく。
「友人からいただきました情報によると、一次選考の応募締切は4月10日で、配信動画を一本を専用のホームページからアップロードするとのことですわね」
『せやで。ただし、ファイルサイズと時間の上限があるから気を付けるんや』
『物知りなリスナーに感謝』
ひとつ喋れば詳しい解説がついてくる。これには満も感謝である。
「その後、一次選考を突破した上位の方が主催者の用意した環境の中で生配信を行い、優勝者を決定するとのことですわね」
『そうそう』
『ほえ~、PASSTREAMERのような場所を主催が提供してくれるってわけか?』
『せやで』
有識者が情報を追加してくれるおかげで、満はあまりしゃべらなくて済む。これはなんともありがたい話だ。
「それで、見事優勝すると賞金が50万円で、副賞として専属契約がつくそうですわね。いまいち分かりませんが、何か制約はつくのでしょうかしら」
満は首を傾げながら話をしている。
『専属やいうても、配信は今まで通り行える』
『ただ、いちいち許可を取らないかんから面倒』
「ほうほう、そうなのですわね」
コメントを眺めながら、満は話に頷いている。
『つまり、広告塔として働いてもらうってことやな』
『ただ、全国向けの露出が増えるから、認知度はかなり上がるで』
「なるほどなるほど。つまりは自由を取るか、認知度を取るかというわけですか」
『そういうことやね』
説明に納得する満だった。
『ネット界隈で有名でも、一般認知度となったお察しとかよくあるしな』
『世知辛い界隈やで』
ちょっとしんみりした空気が流れ始める。
『ワイらはルナちの配信を自由に見たいから反対をしたい』
『だが、ルナちがやりたいというのなら応援するよ』
「みなさま、ありがとうございます」
みんなの温かい言葉に、満は思わずうるっときかけてしまう。
自分のところに、こんなにいいリスナーたちが集まって来てくれていると思うと、素直に感動してしまうものなのだ。
『【真家レニ】なになに、アバ信コンテスト?』
『ふぁ、レニちゃん?!』
『アイエ、レニちゃんなんで?!』
突然の真家レニの登場に、満もリスナーたちも混乱している。
『【真家レニ】てししし、今日も仕事を交代したのだ』
『なるほ』
「真家レニ様、おはようですわ」
『【真家レニ】おはよるな~、てししし』
(ああ、レニちゃんもそういう挨拶してくれるんだ。まぁリスナーの一人だもんね、うん)
真家レニの挨拶を聞いて、気持ちが一気に落ち着く満なのであった。
『【真家レニ】アバ信コンテストなら、レニちゃんも受けたことあるよ』
『マジで?』
『【真家レニ】マジのマジだよ~』
どうやら本当のようだ。
『【真家レニ】いや~、あの頃はなんとか売れようと必死だったからねぇ』
『レニちゃんも新人時代があったんやなぁ』
『当たり前やろ』
真家レニの言葉にボケとツッコミが舞う。
『【真家レニ】結果は一次選考落ち、いやぁ、仕方ないね』
『ああ、レニちゃんがアバ信始めた頃の話か、なら仕方ない』
「ふむふむ。言ってしまえば、今は売れっ子の個人勢である真家レニ様でも、当時は厳しかったというわけですね」
『【真家レニ】そそっ、おととしの無名の頃の話さ、にしし』
真家レニはいつも通り、とても明るく話をしている。
おそらくその頃の経験が、今の真家レニを作っているのだろう。満はそのように解釈したのだ。
『【真家レニ】ルナちもやるならやってみなよ、応援してるぞっ☆』
『強力な応援だなぁ』
『ルナちの配信を乗っ取る勢いだ』
『レニちゃんなら仕方がない』
「ええ、真家レニ様なら仕方ありませんわ」
『ルナち、それでええんかいww』
満の反応にリスナーからノリのいいツッコミが飛んでくる。
何にしても楽しそうな配信になったので、満はまあいっかと許容したのだ。
「締め切りまで一か月はございますので、ゆっくり考えてみようかと思いますわ」
『がんばえ~』
『応援してるで、ルナち』
リスナーたちからは励ましの声が飛んでくる。本当にいい人たちに恵まれたものだ。
「それでは、時間もよろしいようですので、本日はこれにて終了させていただきますわ。みなさま、ごきげんよう」
『おつるなー』
『おつるな~』
『【真家レニ】ルナち、お疲れだぞ☆』
真家レニの登場によって予想以上に盛り上がった配信は、無事に終了できたのであった。