第104話 衝撃のDM
バレンタイン以降ものんびりと過ごす満だったが、その週の金曜日、SNSのダイレクトメッセー時に新しいメッセージがあることに気が付いた。
「あれ、なんだろうかな、これ」
気になった満は、ダイレクトメッセージを開く。
表示されたメッセージを見た満は驚いていた。
「えっ、Vブロードキャスト社?! なんであそこから連絡が来るの?!」
あまりの衝撃に、満は混乱してしまっていた。
(落ち着け、落ち着くんだ僕。何かの見間違いだ。僕になんて声がかかるわけないんだよ)
満は目を閉じて呼吸を整える。
思い切って目を開けてみるが、やっぱりそこにはメッセージが表示されていた。
見間違いじゃないことを確認した満は、送られてきた内容を確認してみる。
「えっとなになに……」
内容を確認した満は再度驚く。
「えっ、僕をVブロードキャストに招いて一緒に配信? いや、これは名誉ではあるけど、いいのかなぁ、部外者を入れちゃって……」
書いてあった内容を確認した満は、強く疑ってしまう。
なにせ、ど素人である自分を会社に招くと書いてあったのだから。しかも、一緒に配信をしたいとかどういうつもりなのか。
満はその真意をつかみあぐねていた。
とはいえ、自分だけでは決められない。ここは両親にも相談してみるべきだろう。
満は早速、夕ご飯の際に両親に聞いてみることにした。
「お父さん、お母さん。ちょっと相談が……」
「どうしたのよ、満」
満は食堂にやって来るなり、両親に向けて声をかける。食卓の準備をしていた母親がきょとんとした目で満を見ている。
「これを見てほしいんだ、これ」
「なになに」
満がスマートフォンを見せると、母親が覗き込んでくる。
「あら、何かしらこれ」
「アバター配信者を抱える会社だよ。そんな会社からこんなDMが来たんだ」
「あらあら、それはすごいわね」
慌てる満に対して、母親はまったく何が何だか分からないらしくて、反応に困っているようだった。
「ほう、すごいじゃないか、満。それで受けるのかい?」
「お父さん、それがそうもいかないんだよね」
ひょっこりとお風呂から出てきた父親が顔を覗かせる。気楽そうな反応を見せる父親に、満は悩んでいるような返事をする。
「どうしてだい?」
「いや、アバター配信者っていうのは、中の人が分からないものなんだ。だから、こういう時は慎重になるものなんだよ。ましてや僕は中学一年生なんだ。向こうも知ればいろいろと問題が出ると思うんだよね」
「ああ、そういうことか。確かにそうだな……」
満の訴えで、父親はようやく納得がいったようだった。
「それだったら、なんだっけか、満が好きなアバター配信者。一緒に配信したっていってだろ。その人の時のように遠隔参加っていうことはできないのかい?」
「う~ん、それは一応聞いてみるつもり。向こうの都合もあるだろうから、ダメっていわれたら断ろうかと思うよ」
「うむ、それの方が無難だな」
話を終えた満は、食事を済ませると部屋に戻る。
早速Vブロードキャストへと返信を送る。
『拝啓 Vブロードキャスト様
お誘いは誠にありがとうございます
せっかくのお誘いなのですが、そちらにお伺いしての配信をするのは厳しいかと思います
つきましては、この度のお誘いは丁重にお断りさせて頂きたく思います
貴社のご活躍をお祈りしております』
「これでよしっと」
満は慣れない文章を打ち込んで、両親にも見てもらいながら何度も確認した上で送った。
「企業からのお誘いというのは嬉しいけれど、やっぱり満が高校生になるまではやめておいた方がいいわよね」
「まぁそうだな。早いというよりは、満の身の安全の方が優先だからな」
「ありがとう、お父さん、お母さん」
「なあに、親として当然のことだよ」
父親はそういってきらりと歯を見せながら笑っていた。
その姿には、つい満と母親は面白くて吹き出してしまっていた。
「さて、そろそろレニちゃんの配信だ。今日はどんな配信なんだろうな」
両親が部屋を出ていき、一人になった満は背伸びをしながらパソコンを操作する。
PASSTREAMERのページを開いて、真家レニのチャンネルを表示させる。
これはある意味満のとってのルーティンである。どんなに落ち込んだ日でも、真家レニの配信を見ると元気になれるのだ。
だからこそ、満にとっての憧れなのである。
夜9時を迎えて、満は真家レニの配信をたっぷりと楽しんでいた。
「そうそう、前回の配信では伝え損ねたけど、パパにチョコを贈ったんだよ。そしたら、パパってば泣いて喜んでくれたんだ。へへっ、パパったらぐずっちゃって落ち着かせるの大変だったよ」
『親子仲がよくていいのう』
『うう、レニちゃんのパパになりたい・・・』
「というわけで、遅くなっちゃったけど、レニちゃんからのチョコを受け取るのだ!」
そう言い放った真家レニは、満面の笑みでチョコレートを差し出す自分のイラストを描き始めた。
相変わらず変なところから描き始める真家レニである。
「はいはい、こちらのイラストもいつも通りPAICHATに掲載しておきますね。SNSにも上げておきますので、お持ち帰りはそちらからどうぞ」
『チョコレートの供給助かる』
『家宝にするぞ』
「それじゃ、今日はここまで。おつれに~」
真家レニの配信を見た満は、気持ちが軽くなった気がしたのだった。