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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第103話 相談相手は間違えない

 Vブロードキャストのアバター配信者たちによるバレンタイン配信があった翌日、満はまた女の状態で学校にやって来ていた。


「最近、本当に女になってばかりなんだけど、一体どうしたんだろう……」


 また変身していたために、満は特大のため息をついている。なにせ前回変身したのは一昨日だ。あまりにも短期間であるために憂鬱になってしまっているのだ。

 目の前でそんなため息をつかれてしまっては、風斗も気になってしまう。なにせ、異性が目の前で悩ましい姿を見せつけているのだから。


「またルナになってるのか。最近頻繁だな」


「そうなんだよう……。ああ、僕どうなっちゃうんだろう」


 満は机に両肘をついて首を左右に捻っている。


「俺が知るかよ。当人に聞いてみたらどうなんだ」


「それができれば苦労はしないって……」


 もう一度ため息をつくと、満は机に突っ伏してしまう。

 だが、次の瞬間、思わぬ感触に体を起こしてしまう。


「どうしたんだよ、満」


 あまりにも慌てた様子に、風斗は慌てて声をかけてしまう。


「むむむ……」


「むむ? むがどうかしたのか?」


 自分の胸を見ながら唸る満の姿を見て、風斗は難しそうな顔をしている。


「どうしよう、風斗。胸が大きくなってる……」


「はあ?!」


 困り顔で泣きついてくる満を見て、風斗は反応に困っている。

 今の満は女性だ。ところが、満は男同士のつもりでいるものだから、これは風斗が困って当然だろう。


「おはよう。……何してるのよ」


「ああ、花宮。いいところに来た。こいつの相談に乗ってくれ」


「相談?」


 風斗に言われて、香織は首をこてんと傾けている。事情がのみ込めないからだ。

 満に視線を向けたところで、香織はようやく事情を把握した。風斗が慌てている様子と合わせれば、実に簡単なことだった。


「なるほど、み、ルナちゃんの相手をすればいいわけね。任せてちょうだい」


 香織は満の隣に立ってじっと顔を見る。


「ど、どうしたの、花宮さん」


「さあ、ルナちゃん。悩みを聞かせて。ええ、私が相談に乗りますとも」


「ど、どうしちゃったんだよ、本当に」


 普段はおとなしくおどおどした印象のある香織なだけに、この時の様子は違和感がありすぎた。こんな積極的な姿は、もっと小さい時に少しあったかどうかくらいの印象なのである。


「わ、分かったよ。今気が付いたんだけど」


「うん、なにかな」


 少し恥ずかしそうに話をしようとする満に、香織はしっかり聞こうとして真剣な表情を向けている。


「ちょっと、胸が大きくなったみたいなんだ。机に触れた時の感触が違ってたから」


「ああ、そういうことね。それだったら、村雲くんに言うのは間違いね」


「なんで?!」


 香織にすっぱり断言されて、満は戸惑っている。


「当たり前でしょ。女の子の相談を男の子にしちゃダメよ。村雲くんみたいな反応なるのは当然じゃないの」


「え~……」


 満はものすごく残念そうな顔をしている。


「はあ、ルナちゃんももう少し女の子としての自覚を持ってほしいものだわ」


 香織は呆れた表情で愚痴をこぼしていた。


 キーンコーンカーンコーン。


 満が話し掛けようとしたタイミングで、チャイムが鳴ってしまう。


「うん、次の休み時間にでも聞くわよ。さっ、席に行って行って」


「むぅ、しょうがないなぁ。約束だからね」


 ホームルームが始まるとあって、満は仕方なくルナの席へと移動していく。

 一方、風斗とは前後の席になっている香織は、ようやく満が退いた席に腰を落ち着けていた。


「大変ね。空月くん、女の子の時でも男同士の感覚が抜けないんだから」


「まったくだよ。でも、タイミングよく来てくれて助かったぜ」


 風斗は大きく息を吐いていた。ようやく安心できたからである。

 一呼吸して落ち着いた風斗は、改めて香織に話し掛ける。


「それはそうと、昨日は大丈夫だったのか?」


「えっ、なんの話?」


「いや、ブイキャスの配信だよ。出てただろ」


「あ、その話かぁ……。先輩に囲まれて大変だったけど、大丈夫だったよ」


 風斗の心配そうな声に、香織ははにかみながら答えていた。

 香織がVブロードキャストの第四期生の一人『黄花マイカ』なことは、風斗には知られている。声で一発バレするとはさすがに想像できるわけがなかったが、そのおかげでこういう感じで話ができるのである。

 ただ、もちろん他の人たちに聞かれるわけにはいかないので、小声でひそひそ話になってしまう。


「そうかぁ。大手のアバ信ってのは仲がギスギスしてるってこともあるからさ、ちょっと心配だったんだよな」


「昨日の配信はトップが揃っていたんですもの。そこはちゃんとしてくれてるから何の問題もなかったわ」


 なぜか自慢げな顔をしている香織である。この表情には、風斗もついつい苦笑いをしてしまう。


「ならよかった。まあ頑張れよ。幼馴染みとして応援してるからよ」


「うん、ありがとう、村雲くん」


 風斗からの励ましに、香織は優しく微笑んでいた。


 その日の放課後、満は香織に誘われて服を見に行くことになる。

 元が男である満は挙動不審になっていたが、そこはさすが幼馴染み。香織はどうにか満を落ち着かせて、買い物を済ませたのだった。


「ありがとう、花宮さん」


「どういたしまして。こういうことなら、いつでも相談に乗ってね。間違っても村雲くんにしちゃダメよ」


「わ、分かったよ……」


 満はただただ反省するだけだった。

 その後、満と別れた香織は、とても満足そうな顔をして満を見送ったのだった。

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