第102話 ブイキャス恒例配信・後編
こうして始まったVブロードキャスト所属のアバター配信者たちによるクイズ大会。
出題者がお題を選び、それに対して四人が解答するというものだ。
ランダムで問題が選ばれるなら、五人で解答すればいいじゃないかと思うかもしれないが、全員一致もしくは全員バラバラの時にはお題を選ぶ人に点数が入るというシステムになっている。そのために、出題者として一人抜けるようになっているのだ。
「さて、最初は私、華樹ミミが出題者となります」
『ミミたそー!』
「では、ルーレットスタート!」
華樹ミミのドアップの後ろのモニターに、なにやらいろんなお題が表示されている。
「ストップです!」
この声を合図に、ルーレットがゆっくりになっていく。
「はい、出ました。お題は『海なし県の県庁所在地』です!」
『ぶっ、答え8つしかないやん』
『でも解答者は四人やぞ』
そう、四人であっても答えが四つ以上あれば、ばらける可能性は十分あり得る話だ。
しかも、県庁所在地というちょっと捻った問題。半分は県の名前と違う名前だし、残りも一つは表記が違っているなどの罠がある。
「では、制限時間は1分。相談はなしですよ。シンキングタイム、スタート」
バックに軽快な音楽が流れ始める。
著作権フリーの民謡をバックに、マイカたち四人が必死に考え始めている。
『真剣で草』
『意外と”県庁所在地”だとわからんくなるんよな』
『そもそも海なし県って何?なワイ』
『地図を見ろwwwww』
リスナーもリスナーで盛り上がっている。
やがて音楽が終わり、解答が出そろう。
「はい、書けましたね。では、オープン!」
蒼龍タクミ「さいたま」
夜風パピヨン「さいたま」
腐乱ケン「宇都宮」
黄花マイカ「奈良」
『ワンペアだ!』
『さすがちゃんと県庁所在地を書いてるな』
『なんで一人だけ関西なんよww』
「家族旅行で行ったからですよ……」
リスナーの反応に、マイカは恥ずかしながら答えていた。
可愛い反応に、リスナーたちはすぐさま謝罪のコメントを打ち込んでいた。
『可愛いのう・・・』
「はい、というわけでワンペア達成ですね。タクミとパピヨンに10点を追加です」
「かーっ、三人はいけると思ったんだがな」
「これも運ですかね」
「てか、ケン。なんで宇都宮なんだよ」
タクミが気になるのか、ケンを問い詰めている。
「餃子が好きなので」
「……なるほどな」
ケンが答えた理由に納得のいくタクミだった。
『どゆこと?』
『腐乱ケンの名前からだいたいわかるっしょ』
『???』
リスナーの反応はそれぞれだった。
しかし、それに関係なくクイズは進行していく。
全員が二巡して、いよいよラスト。最後のお題の出題者は蒼龍タクミだ。
「よし、俺で最後だな。って、おい」
『どうした?』
「最後の問題は得点が倍になる。クイズ番組でよくあるあれかよ!」
『wwww』
『確かによくある』
ここで点数を確認してみる。
パピヨン、ケン、マイカの三人は最初の加点50があるものの、なんとトップは華樹ミミである。
きっちりワンペアやスリーカードを引いているし、二回目の自分の番では全滅を引いている。この全滅が100点とかなりの高得点なのだ。
『今年もミミたその優勝かな』
『かもなぁ。全滅引けたのは大きい』
『2位のケンとは50点差か』
『ミミたそが外したスリーカードを引くか、全滅させるかでないと逆転は不可能だな』
『ミミたそが強すぎるんよ。最初で全滅引いてたら圧勝だったぞ』
リスナーたちが盛り上がる中、タクミがいよいよお題のルーレットを回す。
「最後のお題は、これだぁっ!」
バンと表示されたお題は『憧れのアバター配信者』である。
『難問ktkr!』
『ミミたその憧れとか聞きたい!』
出てきた課題に、全員が頭を抱えている。
正直に書きたいが、それはそれで誰かとかぶりそうだからだ。
「さあさあ、考えろ。時間は1分間だ!」
真剣な表情に似つかわしくない軽快な音楽が流れる。
『絵面が公開処刑www』
リスナーたちがますます盛り上がっていく。
そして、運命の答え合わせ。
華樹ミミ『古参アバター配信者の名前K』
夜風パピヨン『古参アバター配信者のじゃL』
腐乱ケン『蒼龍タクミ様』
黄花マイカ『華樹ミミ先輩』
「しゃあーっ! 全滅で逆転だぜ!」
タクミが本気で喜んでいる。
『マジの歓喜の雄たけびwwww』
『タクミ様、喜びすぎやろww』
『しかも、尊敬するアバ信にあがっとるから余計やろ』
タクミの喜びようは、リスナーたちの大ウケていた。
「まったく、こんな形で逆転されるとは思ってませんでしたね」
すべての問題が終わる。総括に入るため、華樹ミミも司会者席へと移動している。
「ではでは、お楽しみいただけましたでしょうか。時間が押してきてしまいましたので、詳しいお話はまた個別の配信で行いましょう」
『逃wげwるwなw』
『うまい逃げやな』
『ああ、9時回っとるんか、しゃーないな』
時計を見たリスナーたちが徐々に冷静になっていく。
「はい。それでは今日のところはここまでです。私たちの得点とそれに伴うプレゼントは、公式SNSからポストがあると思いますので、そちらでご確認ください」
「最後に、参加してくれた三人からコメントをもらって終わりにするぜ」
司会の二人からコメントを求められる。
「みなさま、楽しんで頂けたようで、参加したかいがありました。また次の配信をお楽しみにして下さい」
「ちょっと私の知識を披露するには、厳しい展開で残念でした。またの博識な配信をお待ち下さいませ」
「今日は楽しかったです。私もブイキャスの一員として頑張っていきます。応援、よろしくお願いします」
『はあ、てえてえ・・・』
『新人の初々しい姿を見られただけでも、ワイは満足や』
いろいろとあった配信ではあったが、リスナーたちはおおむね満足のうちに配信を終わることができたのだった。
配信を終えると、安心したのかマイカ……香織はうとうととし始めてしまう。
「森さん、マイカちゃんをお願いしますね」
「はい、ちゃんと無事に送り届けてきます」
眠ってしまった香織をおぶると、森は駐車場へと向かって行った。
「いきなりの大舞台で緊張してただろうからな」
「ふふっ、可愛い子が入ってきて喜ばしい限りだわ」
「緊張しながらも大きなミスはなし。これは大物になりそうですね」
「では、私たちも帰る準備をしましょうか」
「ですね。では、また」
こうして配信を終えた他の四人も、それぞの家路についたのだった。