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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第1話 夢見る少年

 きっかけはほんの些細な一言だった。


「配信者になりたい」


 ただその一言が、とある少年の日常を大きく変えることになると思わなかった。

 これは、配信者を夢見た少年の数奇な運命の物語である。


 ―――


『ご視聴どうもありがとうございました。気に入ってくれたら、チャンネル登録をして下さると嬉しいです。ではまた次回~。おつれに~』


 今日も少年はとある配信者の放送を視聴していた。


「はあ、レニちゃん可愛いなぁ」


 視聴を終えて画面を閉じた少年は、両肘をついて呆けた表情で机の前で座り続けている。

 少年が見ていた配信は『真家(まか)レニ』という女性配信者の動画だ。女性とはいったものの、正確には女性キャラクターの姿を使って配信を行っている人物だ。

 キャラクターの造形はマカロニを意識したのか筒状の意匠が目立つアバターで、名前もそれに由来しているらしい。ロニでは女性っぽくないからレニとしたそうだ。

 少年はたまたま目に入った真家レニを気に入ってしまい、こうやって配信を視聴するファンとなっていた。


「僕も、やってみようかな、配信者……」


 少年はいつしかそんな事を考えるようになっていた。

 しかし、配信を始めようと思ったところで、そのための機材も知識も何もない。


風斗(ふうと)に相談してみるかな」


 少年は友人に力を借りることにしたようだ。

 ぼーっとしながら何の気なしに時計に目をやる少年。目に入ってきた時間を見て、少年はびっくり仰天。


「うわわっ、もうこんな時間?! 寝なきゃ遅刻しちゃう」


 もう夜十二時を回っていたのだ。レニの配信が終わったのが十一時。なんとそれから一時間も呆けていたのだ。

 バタバタと慌てて寝る準備をした少年は、配信者になる夢を見ながら眠りについたのだった。


 翌日、無事に起きて学校へ向かった少年。


「おっす、(みちる)。少し眠たそうだな」


 教室に入るなり、一人の少年に声を掛けられる。


「やあ風斗。まぁちょっとね」


 どうやら彼は相談しようと考えていた友人のようだ。


「その様子だとまた配信見て眠れなかったな?」


「そそそ、そんな事ないよ」


 風斗の指摘に満は露骨に動揺している。さすがは友人同士、簡単に見抜かれてしまうようである。

 満は風斗にからかわれていたものの、ホームルームの時間を迎えたのでひとまず助かったようだった。


 だが、それも昼休みになると再燃してしまう。それも満の方から、自ら飛び込む形になってだった。


「風斗、相談していいかな」


「なにをだ、満」


 まるで思い詰めたような真剣な表情の満に、風斗も少々身構えてしまう。


「僕も、配信者になってみたいんだ」


 満の突然の言葉に、きょとんと何度も瞬きをする風斗。


「本気か?」


 風斗がおそるおそる確認すると、満はこくりと頷いていた。


「僕もレニちゃんみたいな配信者になってみたいんだ。風斗にはその方面に詳しい親戚がいたはずだよね?」


「まぁな。六個年上の世貴(せき)にぃと羽美(うみ)ねぇのことだな。そういえば、満も会ったことがあったな……」


 強く迫ってくる満に、困惑した表情で答える風斗。

 風斗のいとこである世貴と羽美は双子の兄妹で、世貴の方は3Dモデルに詳しく、羽美の方は絵師をしているらしい。

 風斗の家にも何度かやって来ていて、満も何度か会った事がある。直近では大学に入る直前に挨拶に来たので、その時に会っている。


「てか、二人にお前自ら相談しろよ。SNSのアカをフォローしてるんだろ?」


「してるけど、なんとなく相談しづらかったんだよ。だから、風斗にこうやって持ち掛けてるんじゃないか」


 嫌そうにする風斗に対して、満は強く迫っている。

 あまりにも満にしては珍しい強い圧だ。それがゆえに、風斗は結局押し切られる形で折れた。


「はあ、分かったよ。でも、レニのようにってことは、アバター配信者か。デザインの希望とかあるのかよ」


「はっ! そうだった、うっかりしてた」


「……お前なぁ」


 やりたい情熱だけが暴走して、細かい部分がすっかり欠落していた満である。

 どんな配信をするかはともかくとしても、アバター配信者になるならそのアバターのデザインというものは重要だというのに困ったものである。風斗も怒りを通り越して呆れるくらいだ。


「うう、風斗。任せちゃっていい?」


 今度は泣きそうな表情で風斗に訴える満。まるで少女のようなその仕草に、思わずドキッとしてしまう風斗だった。


「分かったよ。俺から世貴にぃと羽美ねぇに連絡しておくからな。任せるって言った以上、どんなアバターが来たって文句言うなよ?」


「うん、絶対に言わないよ」


 風斗にお願いした以上、満は受け入れると約束をしてしまう。


「はあ……、絶対羽美ねぇは悪ノリするぞ。後悔したって知らないからな……」


「風斗、何か言った?」


「いや、何も」


「そっか。じゃあ、よろしく頼むよ」


 うきうきした状態で自分の席へと戻っていく満。その姿を見送りながら、風斗はこれから起こるだろうことを想像して大きなため息をついたのだった。


 こうして、配信者になる準備を全部人任せにしてしまうことになってしまった満。

 この選択肢が、後日満とその取り巻く環境を一変させてしまうことになろうとは、まったくもって想像もできなかったのだった。

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― 新着の感想 ―
キャラの距離感とか感情の変化がちゃんと伝わってきて、すごいなあって思いました。私もいつかこんな風に書けるようになりたいです!
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