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7.束の間の日常



「――――何なのちょっとアイツ!話しかければかけるほど無視されるんだけど!」



 紗良さんという素敵なお友達ができた次の日、早々に私を呼び出した沖久保さんは開口一番、怒鳴るような声と共にそう切り出しました。



「……朝から元気ですねころんさん。そんな大声を出さなくても聞こえていますよ」



 別に特別弱いというわけでもないですが、それでも朝から怒鳴り声を聞くのは誰だって嫌なもの……ですから少しだけ意地悪のつもりで沖久保さんを名前で呼び、言葉を返します。



「っちょっと名前で呼ばないでって言ったでしょ!」


「おや、そうでしたか?すっかり忘れていました」



 悪びれる素振りもなく肩を竦める私の態度にヒートアップしそうな様子の沖久保さんでしたが、言うだけ無駄だと悟ったのでしょう。


 大きく溜息を吐いた後、声のボリュームを落として話の続きを口にしました。



「……アンタに言われた通り、五療の奴に近付こうとしたけど、全然、取り合ってくれなかった。なんていうか……最初から話しかけた私を警戒してたって感じ。二回目以降はそもそも無視されるし、もう散々だったわ」



 まあ、概ね予想通りといいますか、やはり五療くんは他人の意図を読み取る事に長けていますね。おそらく、私の指示を受けて近付こうとする沖久保さんの意図に気付き、警戒したというところでしょうか。



「なるほど、つまり沖久保さんは思っていたよりもコミュニケーションに難ありと……」


「ちょ、なんで私が悪いみたいになってるのよ!どう考えてもコミュニケーションに難があるのは五療の奴でしょ!」


「……そうは言いますが、私は沖久保さんに五療くんと仲良くなってほしいとお願いした筈です。それがまさかまともに話す事もできていないなんて……その外見はただの飾りですか?」


「はぁっ?何それ喧嘩売ってんの?」


「売っていると言ったら買うんですか沖久保さん?」


「……っ分かってて言うのは本当に性格悪いわね。ともかく、私はもう五療に警戒されてるからこの役目は無理。まだ続けるなら他の誰かに頼んで……じゃ、私は席に戻るから」



 最後にそれだけ言うと、沖久保さんは本当に自分の席に戻ってしまいました。



「……いけませんね。沖久保さんがあまりにからかい甲斐があるのでつい、怒らせてしまいました。要、反省です」



 さて、反省は良いとして、問題は五療くんですね。沖久保さんでも駄目となると、相当警戒心が強いということ……だとしたら他の方に頼んでも結果は変わらないでしょうね。


 ならここはやはり私自ら赴く他ないでしょう。まあ、私は警戒されているので真正面から仲良くなるのは難しいでしょうが、それならそれで考えはあります。



「――――おはようございます。桃ちゃん」


「おや、おはようございます紗良さん。昨日ぶりですね」



 お友達と朝の挨拶をかわす……何とも素敵な青春の一ページではありませんか。何気ない事かもしれませんが、私にとってはとても嬉しいやり取りです。


 おそらくそれが表情に出たのでしょう。紗良さんが少し不思議そうに小首を傾げました。



「桃ちゃん、なんだか嬉しそうですね」


「ふふ、分かりますか?紗良さんのおかげで今、とてもいい気分になりました。ありがとうございます」


「どう……いたしまして?特に何もしてないのですけど……」



 困惑する紗良さんも可愛いですね……あまりやり過ぎて嫌われてしまうのも嫌ですけど、思った事をそのまま説明するのも気恥ずかしいものがあります。


 ですからここは私の笑顔で納得してもらうしかありません。



「……そろそろ授業が始まりそうですね。また今度、本について語り合いましょう」


「あ、もうそんな時間なんですね。それではまた」



 紗良さんが席に戻るのを見送った後、始業ギリギリで教室へ入ってきた五療くんに視線を向けた私は返ってくる警戒を笑顔で受け流しつつ、今日の放課後に仕掛ける事を心に決めました。



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