6.初めてのお友達
五療くんの信頼を得る役目を沖久保さんに任せた以上、口出しするのも違うという事で、しばらく暇になってしまった私はまだ一度も踏み入れていない図書室へと足を運びました。
「思っていたよりも幅広いジャンルの本が置いてありますね。時間もある事ですし、新しい分野を開拓して…………おや?」
幅広いジャンルの揃っている図書館ではありますが、この学園は他の娯楽施設も充実しており、ここを利用する生徒は決して多くはありません。
まして、まだ入学して間もない新入生ならなおのこと。ですからここで同級生……それもクラスメイトと会う事になるとは思いもよりませんでした。
「――――あら、珍しいところでお会いしますね姫ノ宮さん」
私の視線に気付いたのでしょう。声を掛けてきた彼女……白眉紗良さんは読んでいる本から目を離し、こちらへ視線を返してきます。
「こんにちは、白眉さん。もしかして読書の邪魔をしてしまいましたか?」
「大丈夫ですよ。そもそも声を掛けたのは私ですから」
そう言って小さく微笑んだ彼女は自分の隣の椅子を引いて私に座るよう促してきました。
ふむ、もう少し見て回りたかったのですが、せっかくのお誘いを無下にするわけにもいきません。
なにより、白眉さんは魔法実技において私と戦わなかった生徒の一人です。
その理由を知るという意味でも、親睦を深めるこのチャンスは活かすべきでしょう。
「それでは失礼して、と…………白眉さんはよくここに?」
「ええ、入学式の日に初めてきて以来、毎日入り浸っています。ここなら色々な本が無料で読めますから」
「確かにそう考えると、書店もある中、無料でこの種類の豊富さは秀逸ですね。白眉さんが入り浸るのも分かります」
この学園は全寮制、それも卒業まで基本的に外へ出る事ができません。その代わり、外となんら遜色のない暮らしができるよう、学園内に大抵の施設が揃っています。
しかし、月に支給される金額は決まっており、成績、実績に変動するものの、考えなしに使ってしまえば生活を切り詰める必要も出てくるでしょう。
まあ、生活が苦しくなった生徒への救済措置や学園内でのアルバイトなどもあるので、飢えて死ぬという事もないのですが。
ともかく、決まった額でやりくりする上で、お金をかけずに読書という娯楽に興じる事の出来るこの施設は本好きにとっては堪らない場所……つまり、ここでは同じ趣味のお友達が見つかるという事です。
「ふふ、ここの良さが分かってくれる人は初めてです。まあ、話しかけたのも初めてなんですけどね?」
「おや、そうなんですか?それは光栄ですね……ところで白眉さんは何を読んでいらしたので?」
「これですか?これは――――」
お互いに初めて話す間柄にもかかわらず、会話が弾み、気付けばあっという間に一時間が経過していました。
「――――と、もうこんな時間ですか。楽しくてつい話し込んでしまいましたね」
「あ、本当ですね。普段はこんなに喋ったりしないんですけど、姫ノ宮さんとお話するのが楽しくて時間を忘れちゃいました」
「あら、それは嬉しい。せっかくですし、姫ノ宮さんなんて他人行儀ではなく、桃と呼んでくださいな」
「ふふ、それじゃあ私の事も紗良でいいですよ。桃ちゃん」
「ではそう呼ばせてもらいますね、紗良さん」
初めてできた読書仲間……お友達である紗良さんと連絡先を交換して次の約束を交わした私は上機嫌な足取りで図書室を後にしました。
その帰り道でそもそもの目的である戦わなかった理由を聞き忘れた事に気付き、それほどまでに浮かれていたのかと、少しだけ恥ずかしくなってしまったのは内緒です。




