5.五療独歩攻略会議
「五療くん、放課後の予定は空いていますか?」
魔法実技を終えた後のお昼休み、私は席を立とうとしている五療くんを呼び止めました。
「…………空いてない。用がそれだけなら俺はもういくぞ」
「まあまあ、そんなに邪険にしなくてもいいではないですか。今日の放課後が駄目でしたら明日はいかがです?」
「明日も明後日も予定は空いてない。というか、ここまできたら流石に察せよ。俺は化け物と行動するつもりはねぇよ」
五療くんは呆れた表情と共にそう言うとそのまま教室を出ていってしまいます。たぶん、食堂にでも行ったのでしょう。
おそらく、ここで追いかけたとしてもあの様子では取り合ってくれないでしょうね……さて、どうしましょうか。
彼の出て行った後の教室でお弁当を広げつつ、五療くんを誘い出すための策略を考えるのでした。
「――――というわけで沖久保さん、ちょっと五療くんといい感じになってきてくれませんか?」
その日の放課後、私は沖久保さん達を招集し、考えた末の妙案を彼女にお願いします。
「…………は?」
「おや、聞き取れませんでしたか?ではもう一度、ちょっと五療くんといい感じに――――」
「いや、ちゃんと聞こえてるから。聞こえてる上で意味わかんないから聞き返したんだけど?」
「ふむ、それは困りましたね。これ以上の説明はないのですが……」
もしかして私の説明が難しかったのでしょうか。仕方ないのでもう少し簡単に噛み砕く文言を考えていると、呆れた表情を浮かべた木匠くんが恐る恐ると言った様子で口を開きました。
「あー……その、姫ノ宮?たぶん、沖久保は説明が分からないんじゃなくて、どうしてそれをする必要があるのかを聞きたいんだと思うぞ」
「……ああ、そういう事ですか。失礼、私とした事がその辺りの説明を失念していましたね」
木匠くんからの指摘を受け、私は五療くんの信頼を得るために必要な事なのだと、順序立てて説明します。
「……それって私がやる必要ある?アンタがやればいいんじゃないの?」
「そうしたいのは山々なのですが、私が美少女過ぎるせいで五療くんが照れて逃げてしまうので……」
「……あれが照れてるように見えるならちょっと眼科に言った方が良いんじゃねぇの?」
「何か言いましたか木匠くん?」
「…………いや、何でもない」
まだ何か言いたげな木匠くんでしたが、私がそう聞き返すと、諦めたように首を横に振りました。
「なるほど、つまり我らが姫が美し過ぎる故に逃げてしまうため、ころん嬢に代わりを務めてもらうと……」
「勝手に下の名前で私を呼ばないでくれる?ぶっ飛ばされたいの?」
「ハハッ、照れてるのかい?ころん嬢――――」
再度、下の名前で呼ぼうとしたナルシスト風の彼……和泉くんが言い終えるよりも前に沖久保さんに蹴り飛ばされます。
まあ、今のは止めろと言われてなお、デリカシーのない発言をした彼が悪いので私からは特にいう事はありませんね。
「……貴女が彼に避けられているのは分かりました。でも、どうして沖久保さんなんですか?というか、そもそも何故、信頼を得る必要が?クラスをまとめるためだとしても、そこまで固執する意味が分かりません」
沖久保さんの取り巻き……いえ、その言い方は失礼でしたね。彼女……潮さんが言わんとせんことは分かります。
信頼を得るという目的だけなら木匠くんや和泉くんでもいいでしょうし、女性の方が得やすいというのなら潮さんでもいいわけですからね。
「疑問に思うのは分かります。しかし、人選についてはともかく、固執する理由のついては貴女達も分かっているはずですよ。なにせ彼は私の攻撃を悉く捌けるほどに強い……戦力的に重要視するのは当然でしょう?」
「……まあ、確かに魔法実技での動きは凄かった。魔法がどうかは分かんねぇけど、少なくとも俺達じゃあの攻撃は受けられないだろうしな」
「それは……そうかもしれないけど…………」
納得していない様子の潮さんですが、頭では木匠くんの言っている事を理解しているらしく、それ以上は何も言わず、口を噤んでしまいました。
「――五療の奴が強いのは分かったけど、アイツの信頼を得るってのはアンタが私達に提示したメリットのために必要な事なの?」
「……そうですね。必ずしも必要という訳ではないですが、このまま放っておけばいずれ問題が起きるでしょう。そうなる前に彼と信頼関係を結ぶ、あるいは首輪をつけたいと思っての提案ですよ」
クラスをまとめるという目的において私の危惧した捻くれ者な化物……とまで言わないものの、私の手加減した攻撃に対応できる強さを持った彼は明らかな障害です。
最悪は実力行使による排除も考えました……けれど、協力してくれるというのならそれに越した事はありません。
ですから分かりやすく私に惚れてもらおうと思ったのですが、少しはしゃぎすぎてしまったようで警戒されてしまい、その目論見は失敗に終わってしまいました。
それならばと考えた代案……沖久保さんが嫌だというなら無理強いはできませんね。
「ふーん……まあ、いいわ。人選が気になるところだけど、私じゃないといけない理由があるんでしょ?ならやるだけやってみるわ」
正直なところを言えば、沖久保さんを選んだのに確固たる理由はありません。けれど、ここでわざわざそれを口にして彼女のやる気を削ぐ意味もないでしょうから黙っておくことにします。
「本当にいいの?もし無理してるなら私が……」
「大丈夫。要はアイツと仲良くなれって事でしょ?失敗しても何があるわけでもないし、気楽にやる事にするわ」
「……意外だな。もう少しごねるもんだと思ってたぜ」
お願いした私が言うべきではないでしょうが、木匠くんの言う通り、こうもあっさり承諾してくれるとは思いませんでした。
「ごねたところでどうせそこの怪物に丸め込まれて結局やる事になるんだから一緒じゃない?」
「酷い誤解ですね。私だって嫌な事を無理矢理させるようなことはしませんよ」
肩を竦める彼女へ私は少し頬を膨らませて抗議します。すると、彼女はドン引きしたような表情をこちらに向けてきました。
「……少しだけ五療の奴の気持ちが分かった気がするわ」
「おや、それは朗報です。これで仲良くなれる可能性が上がりましたね」
「…………たぶん、そういう意味じゃないと思うんだけど」
「……姫ノ宮は天然なのか、わざとなのか分かんねぇな」
私の言葉に何故か呆れる三人。何はともあれ、無事に沖久保さんが引き受けてくれるのなら文句はありません。
後は彼女が上手くやってくれる事を期待して私は待つ事にしましょう。




