3.権力と理不尽
クラスメイトからの襲撃を受けた翌日、私達のクラス担任である寶野宮亜里栖教諭からこの学校の仕組みと目的についてのレクチャーを受けていました。
「――――というわけでぇ、この学園は魔法教育の重きを置いていますぅ。将来、皆さんの魔法でより良い社会貢献を目指していきましょうね~」
俗に言うゴシック調……ゴスロリとでもいうべきファッションに身を包んだ彼女はその服装と同様に教師らしからぬ口調ながらも、分かりやすい説明で概要を説明してくれます。
まあ、要は魔法の扱いをより実践的に学ぶべく、学生間同士の争いを激化させる要求戦を始めとして学内の規則や制度全般がその方向に向いているということ。
今、寶野宮教諭の言った事は支給された端末に備え付けられた生徒手帳から確認できるのですが……反応を見る限りそれに気付いた生徒は私以外にいないようですね…………おや?
すでに知っている説明を聞き流しつつ、ちらりとクラスを見渡すと、一人の男子生徒が目に留ました。
……確か彼は五療独歩くんでしたね。名前が特徴的だったので印象に残っていましたが……ふむ、中々に面白そうな人材です。
「…………ちょっとぉ姫ノ宮さん~?先生のお話聞いてますか~?」
「聞いていますよ寶野宮先生?続きをどうぞ」
「む~……なんかぁ先生の事を馬鹿にしてないですか~?」
頬を膨らませてこちらにジト目を向ける寶野宮教諭。聞いたところによると、彼女は二十代も後半に差し掛かる年齢のはずですが……いえ、どんな在り方だろうと個人の自由、私がとやかく言う事ではありませんね。
「もちろん、馬鹿にしていませんよ。ただ、今、先生が仰った事は生徒手帳にも書いてありますから私にとっては既知のこと。少し聞き流しているように見えたかもしれませんね」
「……なーんか、大人というかぁ、達観してますね~姫ノ宮さんってば……そうだ、良い事を思いつきました~」
つまらなそうな表情から一転、意味ありげに笑みを浮かべた寶野宮教諭から粘着質な視線を感じます。
ふむ、どうやら私の態度が寶野宮教諭の気に障った様子。大方、何を思いついたのか、想像できますが、まあ、ここはあえて答えを待ちましょうか。
「達観だなんて滅相もない。私のは小娘が背伸びをしているだけですよ。それで、その良い事とは一体なんでしょう?」
「んふふ~今、姫ノ宮さんはクラスの代表ですよね~?でもぉ、それに納得してない子もいると思うんですよ~……だからぁ、次の魔法実技の授業は姫ノ宮さん対その他のクラスメイトにしようと思います~」
「なっ!?」
「……おいおい、それはあんまりじゃねぇか?」
ほとんど想定の範囲内である寶野宮教諭の思い付きに対して声を上げたのは私に敵愾心を持っていた筈の沖久保さんと木匠くんでした。
ある程度、私の事を認めている木匠くんはともかく、沖久保さんまでそういった反応を見せるのは流石に予想外です。
「なるほど、それは中々に面白い提案ですね。私は構いませんよ」
「ちょっアンタ本気!?こんなの横暴を受け入れるなんて……」
「おや?心配してくれるんですか沖久保さん。それは嬉しいですね」
「っせっかく人が心配してるのに……もう知らないから!」
少し揶揄うように言うと、彼女は顔を赤くし、ぷいっとそっぽを向いてしまいました。
どうやらその態度とは裏腹に彼女は優しい心の持ち主のようですね……なんとも揶揄いがいがありそうです。
「はいは~い、生徒であるみなさんがなんと言おうと~先生である私の決定は絶対ですぅ~……そもそも~姫ノ宮さん当人がいいと言ってるんですからぁ~他の人は黙っていてくださいね~」
笑顔を浮かべながらも、いいから黙って言う事を聞けと言外に告げる寳野宮教諭。
その様子から察せられるのは彼女の在り方は作為的なものであるということ。
趣味か、自衛の手段か、理由は分かりませんが、意図的にあのキャラクターを作り出している以上、彼女の本質は別のところにあるのでしょうね。
「……別にその怪物がどうなろうと知ったこっちゃないが、勝手に決めてんじゃねぇよ。教師だろうと俺にとっちゃ関係ねぇ――――」
私にやられて以降、大人しく黙っていた赤城くんが寶野宮教諭に対して不満を漏らしつつ、自身の魔法である剛炎を使おうとしたその瞬間、どこからともなく着ぐるみのようなトランプ柄の兵隊たちが出現し、彼の首元に剣を突きつけました。
「――――駄目ですよー赤城君。先生の言う事はちゃーんと、聞きましょうねー」
「ッ……!?」
口調はそのままに言い放たれた寶野宮教諭の冷たい声音と圧力に赤城くんを含めたクラスメイト達に緊張が走ります。
私にとってこの程度はそよ風にも等しいのですが、他の人にとってはそうもいかないのでしょう。
「……面白い魔法ですね寶野宮先生。どういう種なのか教えてもらっても?」
「……本当に姫ノ宮さんは規格外ですね~……先生の魔法については乙女の秘密なのでぇ教えられません~」
小さく溜息を吐いてからそう言った寶野宮教諭は圧力を解き、人差し指を口元に当てて片目を瞑ります。
正直、今のやりとりだけでは彼女の魔法の概要を測る事ができなかっただけに、詳細を教えてもらえないのは非常に残念でなりません。
まあ、何はともあれ、これで次の魔法実技は私対他のクラスメイト全員という構図に決まりました。
果たして私の胸を弾ませてくれるような心躍る相手は現れるのでしょうか……少しだけ楽しみにしておきましょう。




