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1.挨拶と自己紹介


強大な力を持ち、増長する彼、あるいは彼女。けれど、すぐに知る事になる。


本物の怪物、その恐ろしさを。




「このクラスのリーダーはこの俺で決まりだな。全員、文句はねぇだろ?」



 教室内に響く粗暴な声。その中には確かな暴力性と威圧が含まれていて、小心者が聞こうものならあっという間に萎縮してしまう事でしょう。



「ハッ、何だよ張り合いねぇな。全員だんまりだとは思わなかったぜ」



 静まり返る教室、ここにいる全員が小心者かはさておき、彼の子供じみた発言に呆れて笑い転げそうなのはきっと私だけではないはず。


 だって高校生にもなってあそこまでザ・俺様ムーブができるなんて思わないじゃないですか。


 たぶん、威圧的な声音だけでなく、その恵まれた体格といかつい顔で今までそのムーブを続けてこれたのでしょうが、私だったら羞恥で死にたくなりますし、もしかしたら彼のメンタリティは尊敬できるかもしれませんね。



「…………おい、そこのお前。今、俺の事を見て笑っただろ?何か文句があるなら言ってみろや。なあ?」



 あまりの滑稽さに笑いが漏れてしまっていたのでしょうか。まるでチンピラのような言葉を並び立てて威圧してきます。


 おそらく、私を吊るし上げる事で逆らうとこうなるぞ、という風にクラスメイトへ周知させたいのでしょう。


 そんな狙いが透けて見え、思わず吹き出しそうになるのを堪えた私はこちらを睨む彼へと視線を向け返します。



「――――ふふ、失礼しました。あまりに滑稽な立ち振る舞いだったので喜劇でも演じているのかと思いまして」



 きっとこう返せば怒り狂うだろうと予想しながら微笑みを返すと、案の定、彼は額に青筋を浮かべて詰め寄ってきました。



「…………そうか、つまりお前は俺を舐めてるんだな?――――この()()()()を持ったこの俺を!!」



 瞬間、彼の身体から強烈な炎が吹き上がり、明確な意思の下に辺りを漂い始めます。明らかに自然の炎ではなく、どんどんとその熱量を上げていくのが見て取れました。



「これは……」


「――――これが俺の〝魔法〟……『剛炎』だ!全てを()()()()最強の力を前に平伏しやがれ!!」



 なるほど、これは中々に強力な〝魔法〟ですね。彼がここまで増長するのも頷けます。


 焼き潰すと言った以上、おそらくはただの炎ではないのでしょう。


 まあ、私にとってはあまり関係ありませんが。



「……ふむ、なんとまあ、大層な魔法ですね。キャンプにはもってこいではないですか?」


「っ――――ぶっ潰す!」



 いとも容易く挑発に乗った彼は炎を拳の形に変えて思いっきり振りかぶり、微塵の容赦もなく殴りかかってきます。


 その威力はおおよそ、人間を相手に使っていいものではなく、直撃すれば跡形も無く身体が吹き飛ぶ事でしょうね。



――――()()()()()()()



「…………は?」



 目の前であった事が信じられないと言わんばかりに目を見開き、呆けた声を漏らす彼へ私は再び笑顔を返します。



「おや?今、何かしましたか?」



 あらゆるものを焼き潰すらしい剛炎の拳は私に届く前に霧散し、残ったのは拳を空振って間の抜けた顔を晒す彼の姿だけでした。



「てめぇ……今、何をしやがった……?俺の剛炎が…………」



 未知による恐怖か、それとも自らの力が通じなかった焦りか、どちらにせよ、彼の心には私への畏怖が芽生えたようですね。



「さあ?特別な事は何もしてませんが……それより、私とお話しましょうか。赤城正我(あかぎせいが)くん?」


「な、なんで俺の名前を…………」


「なんで、と言われても、クラスメイトなのですから名前を知っているのは当然でしょう。何もおかしい事はありません……ああ、私の名前を知らないと言う事なら自己紹介をしましょうか?」


「っ……」



 動揺している様子の彼……赤城くんの心を支配するのはくすくすと笑う私に対しての恐怖でしょう。


 まあ、そうなるように私が仕向けたのですけど。



「それでは改めまして。私は姫ノ宮(ひめのみや)(もも)……気軽にモモちゃんとでも呼んでくださいな」


「っその気色の悪い笑いを止めやがれ!この――――」



 自分を奮い立たせるように声を上げて再び剛炎の拳を振り上げる赤城くん。先程のやり取りでその行為が無駄だと理解した筈ですが、どうやら恐怖で冷静さを失っているようですね。



「――――酷いですね。傷つきました……くすん」



 よよよと泣き崩れるような仕草を見せつつ、再度、迫る剛炎を()()()()()あげると、彼は恐怖に顔を歪ませて後退し、そのまま尻もちをついてしまいました。



「なんなんだ……なんなんだよお前はっ!?」


「おや、どうしました赤城くん?そんなに怯えて…………」


「く、くるな……くるなぁっ――――」



 おそらく、恐怖が限界に達したのでしょう。赤城くんは私が一歩、二歩と後退り、恐慌に駆られた声を上げたその瞬間、彼は白目を剥いて失神してしまったようです。



「ふむ、どうやら赤城くんは体調が悪いみたいですね。私では彼を抱えられませんのでどなたか保健室に連れて行ってくださいませんか?」



 気絶した赤城くんを他の生徒に任せ、すっかり静まり返ってしまった教室を見渡し、私はとびっきりの笑顔を向けてその言葉を口にします。



「――――僭越ながら、赤城くんに代わって私がこのクラスの代表を務めさせてもらいます。異論は……ないようですね。ではみなさん、よろしくお願いします」



 ここまで全ては思惑通りですが、これで上手くいったと喜ぶわけにはいきません。


 なにせ、クラスの掌握はあくまで過程……とある人物に近付き、目的を遂げるための第一歩に過ぎないのですから。



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