19.決着と契約
「あり、えない……だって、私の最強の……それに貴女の魔法は結界なのに……どうやって…………」
この状況が余程、ショックだったのでしょう。アリスちゃんは混乱したまま、まとまらない思考をそのまま口にしています。
まあ、確かに私が逆の立場だったとしたらそうなる気持ちも分からなくはありません。
なにせ、魔法は一人に一つの世界で、結界とはかけ離れた現象を明らかに私が引き起こしたのですから。
「はて、どうやって……と聞かれましても、見たまま、としか答えようがありませんね」
「ッふざけないで!ありえない!魔法は一人に一つ、それが世界の法則よ!どんな天才だって例外はないわ!!」
少女のような口調が崩れ始め、ヒステリックに叫ぶアリスちゃん。
その言動から切り札を失った事よりも、私が結界とは似ても似つかない魔法を使った事に動揺しているようですね。
「ふふ、ではその例外が私だったという事ではないでしょうか?それとも、貴女自らが創り出したこの空間に私達以外の誰かがいるとでも?」
「ッ……それは」
「それこそありえない……でしょう?〝アリス〟という魔法を扱う貴女が一番よく分かっている筈です」
私の言葉にアリスちゃんは反論できず、黙り込んでしまいます。彼女の魔法の詳細までは知りませんが、この手の魔法は使い手の許可なしに人は招けません。
ですから、仮に私がこっそり人を忍ばせようとしたところで魔法の性質上、それは不可能だという事になります。
おそらく、反論してこないという事は彼女もそれを理解しているのでしょう。
まあ、なんにしても、わざわざ答え合わせをするつもりはありませんが。
「……さて、問答はこの辺りにしましょう。中々に楽しい戦いでしたが、結果はこの通り……貴女の切り札は満身創痍、それに対して私は無傷の状態です。先程とは真逆の状況ですが、アリスちゃんはここから逆転の手はあるのでしょうか?」
「…………ないわ。ジャバウォックが正真正銘の切り札……これ以上となると、代償を支払う必要があるけど、生憎、私はまだこの魔法を失うわけにはいかないもの。大人しく降参するわ」
多少は落ち着いたのでしょう。意地悪を込めた私の問いにアリスちゃんは両手を上げてその意を示したきます。
その言葉の裏には暗に降参すれば殺される事はないと確信しているようですね。
「ふむ、随分とあっさり降参するのですね?殺そうとしてきた相手を私が見逃すとでも?」
「……下手な腹の探り合いは時間の無駄よ。私を殺したところで代わりが現れるだけ……その度に殺していたらきりがないし、そもそも、教員を手に掛けた事で退学になるリスクもあるなんてこと、貴女が気付いていない筈がない。ならここで私を殺すよりも、条件を付けて飼い慣らす方が良い……違う?」
先程までの動揺が嘘だったのかと疑いそうになるほどの変わり身の早さです。
おそらく、内心では打算を巡らせ、後からどうとでもなると思っているのでしょう。
「…………まあ、当たらずとも遠からず、といったところでしょうか。そもそもこの戦いは貴女から仕掛けてきたものですから私としては不本意……飼い慣らす、というより、相互不干渉という形が望ましいですね」
「相互不干渉、ね。うん、それでいいわ。私からは干渉しないし、貴女達には干渉しない。それでいいかしら?」
「ええ、それと、学園側への報告も当たり障りのないものに差し替えるという条件も付けましょう。よろしいですか?」
「……仕方ないわね。やむを得ない場合もあるけれど、出来得る限りは努力すると約束するわ」
「それで構いませんよ。それではその条件を私と貴女の契約としましょうか」
条件を並べ立てた後、話の流れから最後の確認を投げ掛けた私の言葉にアリスちゃんが頷いたその瞬間、私達の足元に魔法陣が浮かび上がりました。
「っこれは――――」
「――――契約成立、ですね。今後とも良い関係を築いていきましょう先生?」
自らの失敗に気付き、目を見開くと同時に崩れていく彼女の世界。
せっかくならもう少しこの不思議な世界を見て回りたかったのですが、仕方ありません。
一抹の名残惜しさと共に元いた場所へと戻ってきた私はそのまま寶野宮教諭を教室に残し、その場を後にしました。




