18.偽りと現実の狭間
ジャバウォックという曖昧な存在がここまでの強さを誇るという事は彼女にとってのアリスはこの竜擬きが乗り越えるべき恐怖なのでしょう。
この局面で使う以上、ジャバウォックは彼女の切り札……本当のところを言えばもう少し毛色の違った魔法を期待したのですが、こればかりは本人の性格なので仕方ありません。
実戦練習の折、私と五療くんを引き離した瞬間移動のようなものを使ってくる様子もありませんし、やはり単純な肉弾戦は不得手なのかもしれません。
「……近付いて倒すのが正解ですが、それは難しそうですね」
「どうやらやっと分かったみたいだね。この世界で私は倒せないって。ま、もう遅かったみたいだけど」
彼女の言うように、いくら肉弾戦が不得手でも、あの回復力とジャバウォックの速度がある以上、倒す事は非常に難しいと言わざるを得ません。
ジャバウォックを倒せば話は別なのですが、今のままではまず無理でしょうね。
「……仕方がない、ですね。いくら教員とはいえ、結界だけでは無理だと結論づけましょうか」
「今更、降参宣言?なんにしても手遅れだと思うけど?」
「フフ、降参はしないと言ったでしょう。確かに現状、私の勝利は難しいように見えますね」
こうして話している間にも私の身体からは失血が続き、刻一刻と死に近付いています。
「……呆れたね。勝つつもりでいるの?まさかとは思うけど、まだ本気を出してないとか?」
「さあ、どうでしょうね。少なくとも多少、身体能力が上がったところでアレ相手には関係ないと思いますが……」
「…………本当に呆れた。その口振りだとまだ手加減してたんだ?ま、でも、貴女の言った通り、身体能力が上がったところで関係ないし、結界の魔法も通じない。もうジャバウォックには勝てないよ」
勝てないと言い切るアリスちゃんに私は思わず笑みを浮かべてしまいます。
そうも言い切られてはむしろ意地でもそれをひっくり返したくなるじゃありませんか。
「なるほど、勝てないときましたか……ならばここから私が逆転したとしたら?」
「逆転?流石にそれは往生際が悪いにも程があると思うよ」
「無理だと思いますか?やってみなければ分からないでしょう」
「血の流し過ぎでおかしくなっちゃった?……ま、いいや。やれるものならやってみたら?」
嘲りの笑みと共にそう言い放つアリスちゃん。そして、それこそが私の引き出したい台詞でもありました。
「フ、フフフ……言質は取りました――――それでは期待に応えて……くるくるりと、嘘を真に変えましょう」
「何を――――」
私の言葉にアリスちゃんが戸惑いの声を漏らしたその瞬間、空間全体が歪み、視界が一瞬だけ黒に覆われます。
そしてほんの僅かな間、アリスちゃんの視界を覆った黒が晴れ、彼女は驚愕に目を見開きました。
「――――おや、どうしました?まるで悪い夢でも見ているかのような顔ですね」
そんな彼女に対して疑問を投げ掛けるのは無傷の私。
千切れかけていた腕も、ボロボロで血だらけだった身体も、まるで何もなかったかのように、きれいさっぱり元通りになっています。
それに対して無傷だったジャバウォックは全身ボロボロのズタズタ…………完全に形勢は逆転していました。




