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17.無知ゆえの切り札



 理由はともかくとして、先生からの呼び出しがあった時点で、彼女と戦闘になる事は目に見えていました。


 何度か目にする機会はあったものの、彼女の魔法は未知数。せっかくなら様々な魔法を見たいと思い、抑えていたのですが、トランプ兵でゴリ押しされるとなれば話は別です。


 見るべきものがないのならあえて加減をする必要もありませんから。



「……ふむ、たしかに手応えはあったはずですが、存外、アリスちゃんは丈夫なのですね」



 加減を止めた私の一撃を受けてなお、立ち上がるアリスちゃんに思わずそんな言葉が漏れました。


 防壁か何かで受け止めたのか、それとも受けてから回復したのかは分かりませんが、どちらにせよ、彼女の魔法によるもの。


 ならばやはりトランプ兵を早々に片付けたのは正解だったようです。


 なにせ、追い詰める事で彼女の新たな魔法を見ることができたのですから。



「…………こんな小さな子に対して容赦ないんだね。姫ノ宮さんは」


「おや、おかしな事を言いますね。貴女は見た目こそ若返ってますが、実年齢は違う……それに今の一撃を受けて起き上がってくる時点で容赦は不要でしょう」


「……あっそ、やっぱり貴女は消すべき存在だね。今ので改めて確信したよ」


「今更、ですね。ならどうしますか?ご自慢のトランプ兵は打ち止めでしょう?」



 そう煽ると、アリスちゃんは表情を消し、無言のまま手を掲げました。



「……貴女が化け物なのは十分、理解したよ。でもここは私の、私だけの世界……好き勝手は許さない」



 掲げた手を彼女が振り下ろしたその瞬間、地面が激しく揺れ、私の足元が崩壊。その大穴の奥から巨大な(あぎと)が私を呑み込もうとしています。



「っ……」



 咄嗟にその場を跳び退き、顎の強襲をかわしましたが、衝撃で弾けた瓦礫を避けきれず、結界で防ぐ他ありませんでした。


 これはこれは……少し予想外ですね。


 流石の私もソレには驚きを隠せません。一体、どんな手段、魔法で攻めてくるのかと思えば、まさかこんな隠し球があったとは。



「……巨大な竜、思い当たるとすればジャバウォックですが……あれは鏡の国、物語で語られる物語の存在でしょうに……まあ、曖昧だからこそ、でしょうか」


「何をぶつぶつ言っているのか分からないけど、この子はトランプ兵とは訳が違うよ。ほら、よく言うでしょ?化け物には化け物をぶつけるって――――やっちゃえジャバウォック!」


「GALUUUUUU――――!!」



 彼女の号令と共にジャバウォックと呼ばれたソレは咆哮を上げて跳躍、こちらに向けて鋭い爪を振り下ろしてきます。


 その巨体からは想像できない速度で迫るジャバウォック。かわせない速度ではないですが、ここはあえて受けてみようと思い、正面に結界を展開しました。



「これは……っ?」



 しかし、その判断は私をして、失敗だったといわざるを得ません。ジャバウォックの一撃は結界を容易く砕き、腕を交差させたガードごと私を吹き飛ばします。


 巨体から繰り出される鋭い爪の一撃は私の身体に深々とした裂傷を刻んでくれました。



「……すっごい痛そうだね。姫ノ宮さん?どうする?降参する?」


「フ、フフ……おかしな事を聞きますね。確実に倒すのでしょう?」



 今の私は誰が見ても重傷、大きな裂傷と大量の出血、ガードした両腕はかろうじて繋がっているものの、今にも千切れてしまいそうな状態……いわゆる満身創痍というやつです。



「そうだよ?ただ聞いてみただけ。まあ、でも、無駄に苦しませるつもりはないから次で終わらせてあげるね」



 アリスちゃんが言い終えると同時にジャバウォックは動き出し、今度は横薙ぎにその爪を振るいます。


 それに対して私は結界を五重に展開して迎え討ちます。


 一枚目は先程と同じく一瞬で、二枚目、三枚目も同様に砕け、四枚目で僅かに勢いが弱まり、五枚目によって生まれた僅かな時間でさらに結界を重ねます。


 そして張った結界の数が十を超えたところでようやくジャバウォックの攻撃を止める事が出来ました。



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