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13.原点を知らないアリス



「………なるほど、状況から鑑みるにこの空間そのものが貴女の魔法という訳ですか、寶野宮先生?」



 メルヘンな景色に変貌した空間を一瞥しながら目の前の少女にそう尋ねます。


 外見は私と同い年くらいに見えますが、明らかに寶野宮教諭と類似していますから少女になった本人と考えるのが妥当でしょう。


 先程の言動に願望、そして鍵言、授業でのトランプ兵と少女への変貌……大方、不思議の国のアリスになぞられた魔法なのでしょうが、随分と強力ですね。


 ある程度、資質や練度も関わってきますが、魔法は想像力が一番重要です。不思議の国のアリスという分かりやすい指針があるのならもう少し型に嵌っていても良さそうなものですが……



「そうだよ?たぶん、察しは付いてるのかもだけど、私の魔法は不思議の国のアリス。()()()()()()()()()()()()()()()()()



 見た目だけでなく、中身まで変貌してしまったのか、あたかも少女のような口調で寶野宮教諭は私の問いに答えます。


 確かに薄々察してはいましたが、自分から手の内をバラしてしまうメリットはないはず、それでも答えたという事は何か思惑があるのでしょうか。



「なるほど、それはそれは便利な魔法ですね。ですが、先生の願望から考えるのならピーターパンなどの方がよかったのでは?」


「ん~もしかして姫ノ宮ちゃんってそういうのに詳しいのかな?私はあんまりだからねぇ……正直に言うと不思議の国のアリスも読んだ事ないんだ~」


「……ほう、それは面白いですね。原点ならともかく、アリスの物語そのものを読んだ事がないと?」


「うん、登場人物やなんとなくの流れは知ってるけど、それだけ。そんなにおかしい事かな?」



 皮肉を込めてみたものの、伝わっていないらしく不思議そうに小首を傾げる寶野宮教諭。自らの魔法の源流を知らないのはおかしい……というより、普通は気になってしまいそうなものですが、彼女は違ったようですね。



「おかしい、とまでは言いませんが、自分の魔法の事を深く知るためにと気になりそうなものですが」


「そうかな?私、活字って苦手なんだよ~漫画もあんまり読まないし……でもね、原点を知らないからこそ、この魔法は色んな事ができるんだよ?こんなふうに――――」



 そういって寶野宮教諭……いえ、ここはアリスちゃんと呼びましょうか。


 アリスちゃんが片手を上げると、以前、赤城くんを制したトランプの兵隊が私を囲うように出現しました。


 ざっと十八体、よく見ると顔の部分にトランプのスートと数字が表示されており、おそらくこの場にいるのはスペードとクラブの二から十の兵という事でしょう。



「ふむ、知らない故の拡大解釈ですね。わざわざ数字とスートを表示させているなら相応の役目と強さがあるのでしょうか?」


「そうだよ~数字が上がるほど強くて、スペードは純粋に戦闘、クラブは戦闘と工作が得意なの……説明はこの辺でいいかな?それじゃあ、みんなお願いね~」



 話を打ち切ったアリスちゃんがトランプ兵をけしかけてきました。スペードの兵は槍のような武器を振るい、クラブの兵は魔法のような衝撃波を飛ばすのが主な攻撃手段のようです。


 スペードの振るう槍をいなし、クラブの放つ衝撃波をかわしながら立ち回りつつ、観察を重ねた結果、トランプ兵の強さも大まかに見えてきました。


 スペードは戦闘特化というだけあって最弱のスートである二でも、魔法を使い慣れていないクラスメイト達の数倍は強く、五以上となれば沖久保さんや赤城くん辺りでも苦戦は必至。


 クラブはスペードと比べれば直接的な戦闘能力は低いものの、連携や衝撃波を使って搦め手を使ってくるため、脅威度で考えればどちらも大差はありません。


 まあ、五療くんならそれらも相手取れるでしょうし、顕現されている中で最も数字の高い十であっても倒せるでしょうが、あくまでそれは彼が規格外だから。


 一般生徒から見て優秀な沖久保さんや赤城くんが苦戦を強いられる時点で驚異的……五療くんのような特例がいなければトランプの兵だけで一年全員を制圧できるでしょう。


 とはいえ、私ならば全てを相手にしても問題ありません。仮に他のスートが混じったとしてもそれは変わらない。


 懸念があるとすればここにいない絵札の戦力です。トランプなどをモチーフにした力は絵札になると、桁違いに強くなるのが定石。


 ただの兵士だけであれだけ強いとなると、絵札がどれほどものか楽しみではありますね。



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