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12.呼び出しと不思議の国



 その日、最後の授業も終わり、皆さんそれぞれ放課後の時間を満喫する中、私は担任である寶野宮教諭から呼び出しを受け、生徒指導室まで足を運びました。



「――――どぉして呼び出されたかぁ、分かってますかぁ姫ノ宮さぁん?」



 頬をぷくっと膨らませた寶野宮教諭はいかにも怒っていますと言わんばかりの表情を浮かべています。


 正直、思い当たる節はないのですが、こうして呼び出された以上、何か気に障る事をしてしまったのでしょう。



「いいえ、心当たりはありませんね。何か悪いことをしてしまいましたか?」


「む~……そう聞き返してくるってことはぁ、悪い事をした自覚があるんじゃないですかぁ?」


「フフ、心当たりはないと言ったじゃないですか。まあ、そうですね……もしかしたら先生にとって()()()()()事はした、あるいはするかもしれません」



 薄く微笑み、そう返すと、彼女は目を細め、普段とは違う剣吞な雰囲気を纏いました。



「……へぇ、()にとって都合の悪いってどういう意味かな?」


「おや、いつもの喋り方はいいのですか?私としてはどちらでも構いませんが」



 あえて煽るような言葉を選んだのは寶野宮教諭を怒らせるため。


 まあ、たかだか十代の小娘に煽られたくらいで感情を表に出す程、彼女も子供ではないでしょうから、多少なりとも揺らいでくれればいいという程度のつもりだったのですが、寶野宮教諭は表情を変え、怒気を孕んだ大きなため息を吐きました。



「……相も変わらずムカつく物言いね。その私は何もかもお見通しですってすまし顔にも腹が立つわ」


「それはそれは、大変失礼しました。何分、この喋り方は性分ですから」



 私の返答に寶野宮教諭は再度、大きなため息を吐くと、髪をかき上げ、冷めた視線をこちらに向けてきます。



「あっそ。まあ、そんな事はどうでもいいわ。それよりまだ質問に答えてもらってないんだけど?」


「ああ、そうでしたね。正直、私としてもどう動くは今後次第なのですが、可能性としてはまあ、()()()()()()()程度の事はあるかと思いまして」



 まだ準備段階とはいえ、目的を達成するために学校が立ちはだかるというのなら排除するといった含みを持たせた私の言葉に対して、彼女の反応はある意味、予想外なものでした。



「はぁぁ…………やっぱりそういうこと。予測はしてたけど、その中でも一番最悪ね」


「ふむ、てっきりもっと感情を出して怒るものだとばかり思っていましたが、存外、冷静なのですね」


「ハッ、もちろん、内心は怒り心頭よ。でもね、私は大人で教師なの。感情に任せて叫ぶなんてしない……ただただ、淡々と原因を排除するだけ」



 そう答えた寶野宮教諭はどこか遠くを見つめるように明後日の方向を向いて言葉を続けます。



「……ねぇ、姫ノ宮さん。貴女に分かる?何年も付き合っていた相手に可愛くないって言われた時の絶望や毎日、鏡を見る度に少しずつ老いていく恐怖が」


「生憎と分かりかねますね。意中の相手はいれど、お付き合いはまだですし、老いを感じるような年齢でもないですから」



 何の脈絡もなく投げ掛けられた問い。


 これはあくまで私の見解ですが、彼女の服装や作られたキャラクターはこの問いに繋がっているのでしょう。


 まあ、何にせよ、私には理解できない事ですが。



「……でしょうね。理解できるとも、してほしいとも思わない。けれど、姫ノ宮さんが学校を潰すというのなら私は私を守るために貴女をここで排除する」


「?それはどういう――――」



 言葉の意味を聞き返すよりも早く、寶野宮教諭がタンッと足を鳴らして一回転、まるでドレスの裾を拡げるような仕草を見せ、その鍵言を口にしました。



――――『わたしのためにある(アリスイン)私だけの世界(ワンダーランド)



 瞬間、世界が一変。何の変哲もなかった生徒指導室の景色が消え失せ、なんともメルヘンチックで摩訶不思議な風景が私の視界に広がっています。



「――――ようこそ私の世界へ。歓迎するわ、姫ノ宮さん」



 普段とはまた違うフリフリのドレスに身を包んだ寶野宮教諭……いえ、その()()は不敵な笑みを浮かべてこちらを見つめていました。



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