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10.決着と共犯者



「――――フ、フフフ……本当に……本当に素敵ですね五療くん。これはもう逃がすわけにはいかなくなりましたね」



 ゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払いながら私は五療くんへと笑みを向けました。



「はぁ……最初から逃がすつもりなんてないだろ。というか、もう本当に勘弁してくれ。お前が何をしようとしてるのかは知らないが、邪魔するつもりはないから」


「ウフフ……そんなの駄目に決まっているじゃないですか。どうしても逃れたければ最初の取り決め通り、勝つしかないですよ五療くん?」


「……どうしてもやると?お互いに決め手のないこの状況じゃ泥仕合にしかならないぞ」


「そうですね。攻撃はいなされ、防御は解かれてしまいますし、かといって生半可な攻撃で私は倒れません……これは困りましたね?」


「困った奴の顔じゃないだろ。泥仕合が望みかよ戦闘狂め」



 苦々しい表情を浮かべる五療くん。切り札たる魔法を使ってなお、私を仕留めきれないのですからその表情も仕方ありません。


 とはいえ、私としてもこれ以上、戦いを引き延ばすのは困ります。


 個人的にはこの楽しい闘争を続けたいという思いはあれど、長くなればなるほど、誰かに見られてしまうリスクは高くなりますからね。


 結界によって人払いはしてありますが、絶対ではありませんから。



「……戦闘狂という評価には物申したいところですが、この闘争が楽しいという点は否定しませんよ。時間が許すのならずっと戦っていたいと思ってしまう程に」


「……殴り合いが楽しいとか意味わかんねぇ。とことん価値観が合わねぇな」


「それは残念です。しかし、私個人の感情は別として、これ以上、時間を掛けるわけにはいきません。次の攻防で決着といきましょう」


「決着……それが簡単につかないから困ってるって話――――っ」



 五療くんが言い終えるよりも早く、私は先程までとは比較にならない速度で駆け、距離を詰めて()()()()の力で掌底を放ちます。


 突然の奇襲じみた一撃は速度差も相まって五療くんに突き刺さり、身体を九の字に曲げて苦悶の表情を浮かべて声を漏らしました。


 次の攻防で決めると言った以上、手を休めるつもりは毛頭ありません。


 そのまま速度を変えず、足を振り上げて五療くんの顎を蹴り抜き、意識を断とうと試みますが、食らった後に反応した彼は意識も朧気ながら、ほとんど反射的に反撃を繰り出してきます。



「素晴らしい反応です!……まあ、これで決着ですが」



 その反撃が届くよりも先に振り上げた足を使って踵落としを決め、五療くんの意識を完全に断ち切りました。






「――――っ……ここは…………確かあの頭のおかしい女と戦って…………」


「頭がおかしいとは聞き捨てなりませんね。せっかく保健室まで連れてきて差し上げたというのに」



 起き抜けの開口一番に失礼な事を言う五療くんに言葉を返すと、彼は目を見開き、ぎょっとした表情を浮かべます。



「っ…………なに恩着せがましく言ってんだ。そもそもお前が原因なんだからマッチポンプもいいとこだろ」


「おや、そうでしたか?まあ、元気そうで何よりです。また後日と思っていたのですが、この分なら今でも大丈夫そうですね」


「あ?一体何の…………」


「戦う前に挙げた取り決めについてですよ。まさか反故にするなんて言いませんよね?」



 そう言って私は怪訝な顔をする五療くんへにこりと微笑みかけました。


 証人はおらず、あくまで私達二人のやりとりですから彼が惚けてしまえばそれまで。


 だからこそ、取り決めの内容よりも、ここで五療くんが頷くか否かが重要なのですが、はてさて彼の返答はどうでしょうか?



「…………はぁ……言わねぇよ。負けは負けだ。それで?お願いってのは一体なんだ?」


「フフ、話が早くて助かります。心配しなくともそこまで難しい事ではありません。五療くんには私の協力……いえ、()()()になって頂きたいのです」


「共犯者……随分と物騒な響きだが、具体的には何をしろと?」


「そうですね……当面は私のする事を見守っていてくださいな。頼みごとができたらまたお願いしますから」



 今のところは五療くんという規格外に邪魔をされないだけで十分です。彼という戦力の活躍はまだ先でしょうからね。



「……一つだけじゃないのかよ。面倒くせぇな」


「何か言いましたか五療くん?」


「…………なんでもねぇよ。負けた俺が文句を言える立場じゃないしな」



 ふいっとそっぽを向き、ぶっきらぼうに答える五療くん。こうしてみると彼も可愛く見えますね。


 とはいえ、素直に言う事を聞いてくれるのは助かります。


 大なり小なり不満は出てくるでしょうが、クラスの掌握に関しては概ね順調といっていいでしょう。



「フフフ、素直な事は美徳ですよ五療くん。それに負けたといっても、貴方はとても強かった。私をして、どちらが勝つかは最後まで分からない程に」


「ハッ、よく言うな。俺はお前に()()()()()を使わせる事すらできなかったのに」



 思わぬ言葉に私は本心から驚いてしまいました。てっきり身体能力について言及してくると思っていたのですが、まさかのまさか、そこに疑いを向けてくるとは思いませんでした。



「はて、何の事でしょうか?」


「……あくまで話すつもりはないってか?まあ、あえて言及はしねぇけど」


「…………フフ、本当に素敵ですね五療くんは。ますます好きになってしまいそうです」


「……止めろ気色の悪い。寒気がする」



 それ以上、私の魔法について話題にする事はなく、五療くんは呆れたような表情を浮かべ、軽口を返してきます。


 触らぬ神に祟りなし……ではありませんが、やはり五療くんは頭も相当に切れるようですね。


 本当に共犯者としては理想的な人材です。



「あら、酷いですね。絶世の美少女からの好意を無下にするなんて」


「はぁ…………冗談に付き合うだけ徒労だな。それじゃあ、最後に一つだけ聞いとく。()()()()()()()()()?」



 溜息を吐いた五療くんは表情を改めると、真っ直ぐ私の方を見つめ、そう尋ねてきます。


 今までの事を考えるならここで下手な誤魔化し、あるいは沖久保さん達に提示したようなメリットなどを(あげつら)うのは悪手。


 五療くんの信頼を得るためには本当の事を話すべきでしょう。



「……そうですね。五療くんには話しても問題はないでしょう。私の目的は――――」






ここまで読んでくださりありがとうございます。


まだ序盤ですが、ここで一旦、区切りになります。


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