9.怪物VS化け物
正直なところを言うと、私はこの学園……いえ、同年代の方達の事を舐めていました。
自らの魔法も十全に扱う事の出来ない未熟な子供。故に私が後れを取る事など決してない。
あるとすれば私の……いえ、ここでは例に挙げるべきではありませんね。
ともかく、初見殺しとはいえ、こうして私が思いっきり吹き飛ばされるなんて思いもよりませんでした。
「…………ああ、素晴らしい。まさか、まさかです。同年代の子に私が一撃をもらってしまうとは……フフフフフ」
「……今の一撃は不意を突いて思いっきり叩き込んだはずなんだが…………やっぱり化物だなお前は」
興奮のあまり抑えられず、つい笑いを漏らしながら起き上がってしまった私の姿に五療くんが失礼な視線を向けてきます。
まあ、我ながらさっきの起き上がり方は少し不気味だったとも思いますが、それでも私のような美少女に対して向けるような視線ではないでしょうに。
「化け物とは失礼な……まあ、いいでしょう。今のが貴方の魔法ですか五療くん?」
「……さあな、教えてやる義理はねぇよ。お前だって自分の魔法の事をペラペラと喋らないだろ?」
「フフ……それもそうですね。なら魔法の謎を解くのは戦いながらにしましょうか」
言い終えるや否や、床を蹴って加速した私は五療くんの鳩尾を狙って掌底を繰り出します。
当たれば確実に意識を飛ばせる威力と鋭さを孕んだ一撃ですが、彼は当然のごとく対応し、捌いてきました。
「速かろうと、鋭かろうと、肉弾戦の範囲なら一瞬は対応できる……そしてその一瞬があれば反撃するには充分だ」
言葉と共に飛んでくる反撃は私であれば対応できる筈の一撃ですが、案の定、不可解な現象としていつの間にか防御が崩され……いえ、解かれたといった方が正しいでしょう。
私は確かに防御の構えを取ったはず。それがなかった事になったような感覚……この表現が一番しっくりきますね。
五療くんの受けつつ、吹き飛ばされながらその正体を探るべく思考を回し、ある結論に辿り着きました。
「……なるほど、そういう事ですか」
「…………さっきといい、今といい、当たり前のように立ち上がってくるなよ化け物」
相も変わらずの言い様に少しだけむっとなりますが、私は大人なので軽く聞き流します。
「……今の攻防で貴方の魔法がおおよそ、どういうものか分かりました。随分とユニークな魔法ですね?」
「……悪いがその手のカマかけに引っ掛から――――」
「事象の改変……いえ、回帰でしょうか。その手を見る限り単純な回復から先程のように私の防御を行動する前の状態に戻すなど、とても使い勝手が良さそうです」
にこりと笑顔を浮かべて私の考えを突きつけると、五療くんは表情を変え、こちらを睨みつけてきました。
「……頭のキレまで化け物とか勘弁してくれよ全く」
「おや、随分とあっさり認めるのですね?てっきり誤魔化すものだとばかり……」
「ハッ、どうせ否定したところで確信してるんだろ?なら誤魔化すだけ無駄だ。それに分かったところでどうにかなるもんでもないからな」
意外そうな顔をする私に肩を竦める五療くん。確かにこの魔法に関してはネタばらしをしたところで何かが不利に働くという可能性は低いでしょう。
「……一理ありますね。その魔法は強力、貴方の格闘技術があればまさしく敵なし……けれど、無敵ではない」
「……この魔法を攻略する自信があるってか?けッ、やれるものならやってみろよ」
言葉と同時に彼は駆け出し、私のいる場所目掛けて蹴りを繰り出してきました。
一度、当たらなれば二度、私がかわす事なんてお構い無しに床を蹴り砕いていきます。
そんな大振り、当たらないと分かっているはずですが…………
ここまで理知的に、詰めるように攻めてきた五療くんがここにきて破れかぶれの攻撃をするはずがない。
なら狙いがある――――!?
突然、背後に衝撃が走り、中断される思考。決して五療くんから視界を外したつもりはありませんでした。
現に五療くんの姿を私の視界を捉えていますし、彼に遠距離の攻撃手段はないはずなのに何故でしょう?
疑問の答えが見つかるより先に体勢の崩れた隙を突くべく、五療くんが蹴りを叩き込んできます。
体勢の崩れた状況では防ぐ事もかわす事も叶わず、防壁を張りましたが、最早、隠す気はないと言わんばかりに五療くんは魔法を使い、私の身体に鋭い一撃が突き刺さりました。
「まだ――――」
この機を逃さないと、畳みかけるように連撃を叩き込んでくる五療くん。その一撃、一撃の威力はおおよそ小柄な少女に向けるものではなく、さしもの私も一瞬、意識が飛びそうになってします。
「っこれで今度こそ終わりだ……!」
殴打に加え、止めに思いっきり力の込もった蹴りを食らってしまい、私は再び壁際まで大きく吹き飛ばされてしまいました。
まるでボロ雑巾ような有様になり、全身に痛みが走る中、自分が先程以上に高揚していくのを感じます。
フフ……別に痛みで興奮するような癖はないのですが、ここまで追い詰められるような戦いを前にしてはこうなるのも仕方がないでしょう。




