復讐者の協力者の過去 実技試験編
私(加鳥花子)を含む魔法少女候補生は、新大阪都庁の地下3階にあるAブロック演習場で横に3列10人ずつ整列させられた。
演習場は、体育館ほどの広さで自然の岩場や荒れ地が再現されてある。高さは、たっぷりビルの5階ぐらいのペースがあり、照明は眩し過ぎず、自然光と同じぐらいだ。
「キミ達に今から、やってもらうのは、胸元にあるコアブーストスターの奪い合いだ」
私達、魔法少女候補生は、すでにそれぞれカラフルなミニスカドレスに着替えさせられていた。
それが魔法少女の正式コスチュームというか戦闘服だ。
魔法少女になる上で覚悟はしていたが、宝塚歌劇団の衣装のようなものだと割り切ってはいたが、やはり、初めて着る魔法少女のフリフリのミニスカドレスは、小恥ずかしいものがあった。
全ては、胸元の大きなリボンに嵌め込まれた大きな宝石に見えるコアブーストスター(魔法少女因子変換機)やきゃりーぱみゅぱみゅがデザインしたのような杖・マジカルステッキ(魔法少女因子増幅機)を自然に見せる為らしいが、一般に広くそのカモフラージュがバレている今となっては、魔法少女のその無駄に派手なだけの服は、全くの意味を成さない。
「キミ達も知ってのとおり、胸元にあるコアブーストスターは、キミ達の魔法少女因子を飛行魔法に変換するものだ。これによって、魔法少女は、空中を滑空、飛行できる。つまりは、コアブーストスターを敵に奪われると、キミ達は空を飛ぶことができない。キミ達が今からやるのは、魔法少女にとって戦闘する上で当たり前のことであるコアブーストスターの死守だ。魔人との戦闘でコアブーストスターを奪われることは、死に直結する。つまり、この魔法少女候補生同士の実技試験でコアブーストスターを奪われるような者には、魔法少女になる資格がない、適性がない。と我々は、判断する。それがキミ達の合否というわけだ」
面接官がそう試験内容を説明すると、私以外の魔法少女候補生達が挙手して面接官に質問する。
「ちょっと待って下さい。私達、魔法少女候補生は、まだ何の固有魔法も開発してもらっていません。魔法を持っていない私達にコアブーストスターの奪い合いをしろとは、それは、つまり、力ずくで、という意味ですか?」
「キミ達に支給されているマジカルステッキ、正式名称魔法少女因子増幅機には、すでにショック魔法の付与されたビームが出るようにセッティングがしてある。死にはしないように威力は、調節してあるが、それで敵、つまりは、他の魔法少女候補生を行動不能にできるはずだ」
「時間制限は、あるのでしょうか?それとも、何個までコアブーストスターを奪えば、合格というような基準が設定されてあるのでしょうか?」
「制限時間は、30分。それまでにコアブーストスターを奪われずに、飛行魔法を行える者のみを合格とする」
質問するしか能のない指示待ちタイプの他の魔法少女候補生達を見て、私は、この時、自分の合格を確信していた。
面接官が
「それでは、試験、始め!!」
と号令を発すると瞬く間に他の魔法少女候補生達は、飛行魔法で、その場から散開した。
私は、誰が相手でも勝つ自信に満ち溢れていたので、その場に留まった。
すると、私以外に逃げ遅れたのか、その場に留まっている魔法少女候補生が一人だけいた。
そいつは、私を陰気な目で見ながら、唇をくにゃくにゃ動かし、不気味に笑っていた。
弥馬田グフ子だ。
「最初の対戦相手に私を選ぶとはね。あんた、魔法少女としてセンスないんじゃな〜い?」
私は言って、動き出さない弥馬田グフ子に向け、余裕たっぷりの動作でマジカルステッキを向ける。
すると、弥馬田グフ子は、手元からぽとりとマジカルステッキを落とし、目の前で両手を小刻みに振って、
「タンマ、タンマ。わたし、あなたと戦う気なんて無いんですぅ〜」
と言った。
私は、無視してマジカルステッキからショック魔法のビームを撃とうと力を込めた。
「私、この試験の本当の合格条件を知ってるんですぅ〜。だから、撃たないで下さ〜い」
弥馬田グフ子のその発言で私の放ったビームは、寸でで逸れた。
弥馬田グフ子の隣の岩に着弾する。
この試験の本当の合格条件?
「何よ、その合格条件って。言ってみなさいよ」
私は、弥馬田グフ子にマジカルステッキの先を向けたまま、訊いた。
「はい〜。それはですねぇ〜。この試験は、単なるコアブーストスターの奪い合いではなく、如何にチームプレーを行える人材かを見る為の試験なんですな〜。はい〜」
「チームプレー?」
「はい〜。そもそも魔人相手に一人で戦うなんて、愚の骨頂。魔法少女は、常に魔人相手にチームで戦うものです。この試験は、そのチームで戦う姿勢と技術を持つ魔法少女候補生を魔法少女課が見つける為の試験なのです」
「どこにそんな証拠が。適当なホラ吹いてんじゃないわよ!」
私は、ナメられたと思って、マジカルステッキに再び、力を込めようとした。
「証拠なら、ありますよ」
と弥馬田グフ子が自信満々の顔で言うので、私のマジカルステッキの力は、消失する。
弥馬田グフ子は、
「その証拠に面接官は、コアブーストスターを奪った者を合格とする、とは一言も言っていない。コアブーストスターを30分間、奪われずに飛行魔法を行える者を合格にすると言った。つまりは、最初から、この試験は、コアブーストスターの奪い合いだと言っておきながら、コアブーストスターを死守した者を合格とすると暗に示しているのです。そして、コアブーストスターを守るのに、チームを組んではいけないとは、一言も言っていない。賢いあなたなら、一人でコアブーストスターを守るのと、チームで守るの、どちらが有利でよりクレバーなやり方か、おわかりですね?」
と言った。一応は、話の筋は通っているように聞こえる。
「私があんたを信用していい理由は、あるの?」
「やだなぁ。加鳥花子さん。試験の合格条件がコアブーストスターを奪うことではなく、守ることなら、私があなたを倒さなくちゃいけない理由がどこにもないじゃないですか。コアブーストスターを守るには、あなたを倒すよりも味方につけた方が圧倒的に有利なんですから」
「つまりは、私達は、同盟を組むということよね?私があんたを守る代わりにあんたも私を守ると?」
「イグザクトリー。やはり、加鳥さんは、私が見惚れた人だ。このAブロックの魔法少女候補生達の中で一番、頭がいい」
何を当然のことを言ってるんだ、こいつは、と私は思った。
「まぁいいわ。とりあえず、あんたをこの試験に合格するまで、私の配下にしてあげる。ありがたく思いなさい」
「アイアイサー」
と弥馬田グフ子は、私の前で捨てたマジカルステッキを拾った。
「この試験、最後まで生き残るわよ」
私達の周りでは、すでに他の魔法少女候補生達が戦闘を始めていた。
「まずは、周りの魔法少女候補生に応戦しながら、他にも仲間になってくれそうな魔法少女候補生をピックアップしていきましょう。仲間は、多いに越したことは、ありませんから」
「全員を仲間にできれば、全員揃って、合格できるんだけどね」
と私は、天才にしかできない発言をする。
「その手もありますが、今は、戦いが始まったばかりで、誰も話を聞いてくれる状況じゃありませんから。私は、とりあえず、加鳥さんの後方を守りますね。加鳥さんは、私の後方を守ってください。人は、意識外の攻撃は、避けられませんから」
「わかった」
と私が返事すると、弥馬田グフ子は、自然に私の背中に回り、マジカルステッキによるショック魔法のビームを私に浴びせてきた。
はぁ!?
と思う私に向け、弥馬田グフ子が言う。
「ほらね、意識外の攻撃は、避けられないでしょ?おバカさん」
そして、近距離のショック魔法のビームによるダメージで動けない私の胸元のリボンからコアブーストスターを剥ぎ取る。
「どうして?これは、コアブーストスターを守る試験で奪う試験じゃない。あんたが、私を倒しても、何も得がないんじゃ……!?」
「そんなの決まってるじゃないっすかぁ」
と弥馬田グフ子は、私にまた不気味な笑顔を向ける。
「こっちの方が圧倒的にオモロいからっすよぉ」
私は、きっと目を丸くし、とんでもない道化に落ち込んでしまったことだろう。
こんな奴に私が負けた……っ!?
茫然自失の私の身体と弥馬田グフ子は、自らの身体をどこからか取り出したベルトでくっつける。
私を前にし、私の背中にグフ子の胸がくっつき、ベルトを巻いた状態で玉子の握り寿司みたいな恰好になる。
ダメージから回復していない私は、ぐったりとして、全身の力が入らない。
グフ子は、私をくっつけ、吊るしたままの状態で飛行魔法で飛行する。
「加鳥ちゃんのコアブーストスターもあるから、私の飛行魔法のスピードも2倍!2倍!!わしゃしゃしゃしゃ!!」
弥馬田グフ子は、空宙で奇妙奇天烈な笑い声をあげ、他の魔法少女候補生達の注目を集める。
当然、他の魔法少女候補生のショック魔法のビームの集中砲火が弥馬田グフ子に向かってくるが、それは、全て、弥馬田グフ子の腹這いにくっつくけられた私に着弾する。
こいつ、私を盾に使ってやがる!!ふざけんなっ……!!
弥馬田グフ子は、自らのマジカルステッキと私から奪ったマジカルステッキの2刀流で他の魔法少女候補生達にショック魔法のビームを浴びせていく。
「うぴょぴょぴょぴょっ!!」
という聞いたことのない笑い声を上げながら。
私は、途中でショック魔法のビームのあまりにもたくさんの被弾で気を失い、目覚めた頃には、他のAブロックの魔法少女候補生全員が弥馬田グフ子にコアブーストスターを奪われ、ぐったりとしていた。皆、気を失っているようだ。
「どうやら、Aブロックの合格者は、私だけのようっすね」
と弥馬田グフ子は、地面に降り、ベルトを解き、私を解放した。
私は、どさっとゴミのように、その場に前のめりに倒れ込んだ。
「これ、もういらないんで、返します」
と弥馬田グフ子は、私のマジカルステッキを私に向かって、投げ捨てた。
私は、千載一遇の反撃のチャンスを得たと思った。
この近距離でショック魔法のビームを浴びれば、グフ子も私同様にタダでは済まない。
まだ、30分は経過してないはずだし、被弾した奴からコアブーストスターを奪い、奴も不合格にしてやる!!
私は、倒れたまま這って、マジカルステッキを掴み取り、グフ子に向け、ショック魔法のビームを炸裂させた。
グフ子は、それを顔面で受けたはずだった。
「ざまぁ……っ!!」
しかし、グフ子は、平然と立ち、こちらを見下ろしていた。ウジ虫でも見るような見下した目で。
「まさか……魔法障壁!?」
グフ子の前には、分厚い半透明な壁が出現していた。
「そんな私達、魔法少女候補生は、まだ魔法障壁の出し方を習っていない……どうして、お前がそんなものを……!?」
驚く私に弥馬田グフ子は、
「この試験は、元々、魔法少女候補生達の中から魔法障壁の使える者を炙り出す為に行われた試験だったんっすよ。ショック魔法なんて魔法障壁が使えれば、蚊に刺されるよりもノーダメージっすからね」
と見下した目を向けたまま、言った。
「まぁ、魔法少女になる前から魔法障壁を使えるような人材じゃないと、元から魔法少女になる資格もセンスもないってことですわ」
弥馬田グフ子は、そう言うと、私を担ぎ上げ、飛行する。
「まっ待て!何をする気だ!?」
無言で上昇し続けるグフ子に私は、全身に悪寒が走り、嫌な予感に襲われた。
弥馬田グフ子は、天井に頭が着きそうな程、上昇し終わると、
「このまま、あなたを生かしておくと後々、復讐されそうなので、ここで始末します。たぶん、試験中の不幸な事故死という形で処理されるでしょう」
「待て!待て!!早まるな!!私は、復讐なんてっ……!!」
弥馬田グフ子は、私の身体から腕と手を離す。
コアブーストスターがすでに奪われている私は、飛行することなど当然、できない。
「グフ子、テメ、かならず、ぶっ殺……!!」
「kiss kiss bey 加鳥花子さん」
弥馬田グフ子は、落ちていく私に向け、投げキッスした。
ふざけんなっ!!ふざけんなっ!!ふざけんなーーっ!!
私は、奈落の底に落ちた。
人生の奈落へ。