無慈悲の魔法少女VS復讐者
弥馬田グフ子がオーナーを勤める魔法少女カフェの開店初日の深夜、ピクシーブロックこと堅持 要は、日本であって日本でない土地・南大阪自治区の西成エリアの乗船場に侵入し、退化薬を打って、すでに引退してる魔法少女と二人で身を隠していた。
南大阪自治区は、東京事変後、大阪を新たな日本の首都にする事に反対したかつての大阪府民を中心とする人々が運動により、自治を勝ち取った土地。
日本の新たな首都北大阪府シティの象徴的存在の魔法少女がそんなところにいると知られれば、南大阪自治区の過激派にいつ、どんな目に合わされるかわからないが、それ故、正体不明の魔法少女を狙った殺人犯の盲点を突けるはずだった。
ピクシーブロックが護衛を担当する元魔法少女の作戦は、こうだった。
まず、西成エリアの乗船場に停めてある淡路島王国行きの船に侵入し、謎の殺人者の手の届かない大阪湾へと出る。そして、淡路島王国到着後は、即亡命し、淡路島国民になる。
淡路島王国は、南大阪自治区の属国で入国するのに、かなり何重もの手続きと審査を要するが、一度、入国してしまえば、外からの影響は受けにくい場所である。
日本であって、日本から一番遠い場所。しかも、南大阪自治区よりは、淡路島王国は、だいぶ治安も良いと噂で聞いていた。自分を狙っているであろう正体不明の殺人者が捕まるまでの逃亡先として、これ以上のうってつけの場所は、ない。とピクシーブロックに守られている元魔法少女は、思っていた。
しかし、大阪湾に出るまでは、安心できない。南大阪自治区で魔法も使えないのに、一人でいるのも、危険だ。彼女は、ピクシーブロックに護衛を依頼し、ピクシーブロックは、それを快く受け入れ、ついて来てくれた。
ピクシーブロックは、その戦闘スタイルから無慈悲の魔法少女などと呼ばれているが、仲間に対しては、情の厚い人物であった。
予定通り、淡路島王国行きの貨物船に侵入することに成功するピクシーブロックと元魔法少女。
あとは、朝になり、出港を待つばかりだったが、月がまだ落ちきらないうちに、ピクシーブロックが、人差し指を立てる。
静かに、私たち以外の人の気配を感じる、のハンドサインだ。
ピクシーブロックは、自らが護衛する元魔法少女の前後左右上下を魔法障壁で囲む。元魔法少女は、魔法障壁のキューブの中に閉じ込められた形となるが、それは、彼女を守る為だった。
万が一にもピクシーブロックの意思無しで、その魔法障壁の中から出ることは、不可能だが、一応、ピクシーブロックは、そこから出るなよ、と元魔法少女にハンドサインしてから、人の気配がする方へと様子を見に行った。
そこには、コツコツと静かにゆっくりとだが、しっかりと靴音を立てながら、サラリーマン風のスーツ姿の男がこちらに向かって、近づいて来ていた。
ただ異様なのは、その男は、警察の特殊部隊が着用するような暗視スコープを着用していたことだ。しかも、右手には、ナイフ。左手には、薄っぺらいのに、やけに大きい黒カバンを握っている。
いや、おかしいのは、それだけじゃない。本来なら、この時間の乗船場にある船にサラリーマン風のスーツ姿の男が乗ってること自体が異常なのだ。
「お前が魔法少女狩りか」
ピクシーブロックは、魔法少女の基本スペックである飛行魔法で滑空して、男の前に降り立ち、訊いた。
男には、そう正面から質問させる何かがあった。
武士同士が戦いの前に名乗りを上げるような何かが。
しかし、男は、
「お前が無慈悲の魔法少女ピクシーブロックか?」
と質問に質問で返した。
「だったら、なんだと言うんだ?」
とピクシーブロック堅持 要が答えると同時に男は、動き出していた。
まだ攻撃を仕掛けられる程の間合いには、入っていないとピクシーブロックは、今までの戦闘経験からたかをくくっていたが、一気にパーソナルスペースまで男に侵入された。
男は、年相応の一般男性のスピードと動きを逸脱していた。
「くっ……」
と寸出で魔法障壁を出現させるのが間に合い、ピクシーブロックは、男のナイフに首を撥ねられずに済んだ。
が、ギィイイイ!!と音を立て、男のナイフは、魔法障壁に喰い込んでいた。
あり得ない!!ただのナイフが魔法障壁に喰い込むなんて!!しかも、私の魔法障壁に!!
ピクシーブロックは、動揺した。
男のナイフの刃先が魔法障壁を貫通し始める。そこで、
フゴウコーポレーション製の超振動ナイフ!?
と初めてピクシーブロックは、男のナイフの正体に気づく。
警察の特殊部隊の最新支給装備品だ。
超振動と呼ばれる秒間1000万回以上の振動の力でコンクリートも安々と切断するナイフである。
魔法少女一防御力が優れているピクシーブロックは、お上の御達しで警察の装備品強度試験に付き合わされたことがあるから、知っていた。
そのことを記憶から掘り起こすと、ピクシーブロックは、男の右側に魔法障壁を出現させ、車で轢き殺すかのようなスピードで魔法障壁を男に当て、男の身体を弾き飛ばした。
そして、そのまま今度は、左側に魔法障壁を出現させ、同じように男の身体を轢き、ピンボールのように男の身体を逆側に弾き飛ばし、着地した所に魔法障壁を出現させ、男の身体をマンション2階ぐらいの高さまでせり上がらせたところで魔法障壁を消失させ、落下させた。
男は、さすがにぐったりと動かなくなった。
いつものピクシーブロックの必勝パターンである。
超振動ナイフは、男の身体を離れ、未だに魔法障壁に刺さったまま、少しは、ビビらされたが、脅威は去ったとピクシーブロックは、思った。
男の前後左右上下を魔法障壁で囲み、キューブの中に閉じ込める。
「どうして、こんなことを?」
ピクシーブロックは、直裁に訊いたが、男は、意識があるのに答える気はないようだ。
囲んでいるキューブの大きさを小さくして、男を圧迫してみるが、男は、それを力いっぱい押し返そうとし、無言で抵抗した。
もちろん、ピクシーブロックは、本気になれば、キューブの大きさをさらに小さくし、男を押し潰すことが、簡単にできたが、それは、しなかった。
今回の相手は、魔人ではない。ただの人間だ。
法に基づいて、ちゃんと事情聴取せねばならない。
「とりあえず、本部に連れてくか。いや、本部は、解散したんだった。まいったな……」
そうやって、ピクシーブロックが途方に暮れていると、ピクシーブロックの背中から突然、バチバチバチ!!と火花が上がった。
ピクシーブロックは、あまりの痛さと衝撃に一瞬、気を失い、その場に倒れた。
すぐに意識を取り戻すも動けない。神経に効いて、身体全体が痺れている。
目だけ動かし、見上げると、そこには、ブレザー姿の女子高生がスタンガンを持って立っていた。
「ダメージを負ってる状態では、魔法障壁を維持できない。マジで魔法少女大百科事典に載ってるとおりの弱点っすね」
ピクシーブロックの見知らぬ女子高生は、けらけらと笑いながら、そう言った。
見ると、サラリーマン風のスーツ姿の男が魔法障壁のキューブから解放され、目の前で超振動ナイフを拾った。
最悪だ。こいつには、仲間がいたんだ……
ピクシーブロックは、自らの油断が招いた結果を嘆いた。
男が超振動ナイフをピクシーブロックの前で振り上げる。
そこで、ピクシーブロックは、なんとか口を動かし、
「私たちに何の恨みが…」と訊いた。
男は、ぴたりと動きを止め、一旦、ナイフを下ろした。
「1年前、お前ら、魔法少女が殺した少女の名を覚えているか?」
男は、答えなど求めてなかった。ただ納得したかった。納得した上で殺したかった。
娘の名も覚えていないような奴らだから、殺すんだと――。
しかし、
「蝉川 愛子さんことか? あなたは、ひょっとして、彼女の親御さん?」
とピクシーブロックは、淀みなく、一瞬で答え、男が何者であるか看破した。
蝉川 秀一は、目を丸くして、動揺した。
この女は、娘の名をちゃんと覚えてくれていた。
揺るがぬ殺意に一瞬の逡巡が宿る。
しかし、ピクシーブロックの次の言葉で蝉川 秀一の復讐の炎が再び、激しく燃える。
「復讐か? やめておけ。そんなことをしても、娘さんは、喜ばないぞ」
「お前に娘の何がわかる!!?」
蝉川 秀一は、肩を大きく上下させ、呼吸する。
「娘は、お前ら、魔法少女に憧れてたんだ!!その憧れの対象に殺されて、娘がどんな想いだったと思う!!」
「確かに非は、100%我々にある。私が本部に掛け合い、魔法少女全員に謝罪させる事を約束するし、償う為なら、一生を懸けて、なんでもする。だから、もう、こんなことは」
「謝罪だと!?あの時、お前らは、クラーケンマンとかいう新たな敵との戦いに夢中で誰一人、娘に対して、謝りに来なかった!墓前に花を添えることなく、手を合わせることもなく!今の今までやって来て、今さら、謝るだと!バカにするな!償うだと!?償うと言うなら、お前らの魔法とやらで娘を生き返らせてみろ!今すぐ!娘を生き返らせろ!!」
「人を生き返らせる魔法は、……ない。それは、できない……」
「じゃあ、死ね」
蝉川 秀一は、魔法少女ピクシーブロックを超振動ナイフで滅多刺しにした。
「おじさん、こいつ、たぶん、喋って自分の身体が回復するまでの時間稼ぎしてたんだよ。ざまぁ」
そう言うと、女子高生は、ピクシーブロックのマジカルステッキを拾った。
「これは、私が頂くね♥奥に隠れてる元魔法少女をこれを使って、ピクシーブロックみたく魔法障壁で肉のサイコロみたいにしてくるよ」
「そんなことが、お前にできるのか?」
蝉川の問いに、
「もち。わたしを誰だと思ってるの?わたしは、魔法少女になりかけた女だぜ!」
と女子高生は、答える。
後日、新大阪都庁にダンボール箱に箱詰めにされた全裸のピクシーブロック堅持 要と他元魔法少女1名の遺体が送りつけられ、二人の死亡が公になる。




