魔法少女カフェにて
「萌え萌えキュンキュン♥せーのぉ、おいしくなぁ〜れ♥」
「お……美味しくっ」
「はい、恥ずかしがらないで、ご主人様♥萌え萌えキュンキュン♥せーのぉ、おいしくなぁ〜れ♥」
「おおお美味しくな〜れ」
「はい、よくできましたぁ〜♥これでご主人様とワタシ二人の愛の込もった萌えキュン魔法によって、このパフェは、通常のパフェより100倍おいしくなりましたぁ〜♥値段は、通常の2倍なので、心配なさらず、た〜んと召し上がれ♥」
「2……2倍。味が100倍なのに、2倍。なんて安上がりで良心的な店なんだ」
「あんた、騙されてんのよ」
「カモネギ客、確定っす」
北大阪府日本橋駅近くのメイドカフェを全盛期のきゃりーぱみゅぱみゅがデザインしたかのようなファンシーでぶっとんだ内装に改築して本日、開店したばかりの魔法少女カフェは、大盛況で大勢の客に埋もれるように、魔法少女二人とイカの魔人が角のボックス席に座っていた。それが私たちだ。
別に魔法少女が魔法少女カフェに客としてやって来たわけではないのだが、同行するイカの魔人のおっさん(時東誠人)が、せっかく来たんだから、何か注文しようと言い出し、勝手に一人で、グフ子のファンシーふるふるフラッペ全部乗せパフェ(萌えキュン魔法入り)を頼み、見たくもない醜態を晒してくれちゃって、私の冷めた視線もなんのそので、ガツガツと
「うん、イケる。イケる」
とパフェを頬張っているので、私たちピクシースパイスとピクシータイガーちゃんの魔法少女二人は、おっさんが食べ終わるまで、待っていなくてはならなくなった。
ったく、あんな中学を出たばかりの少女にマジカルステッキを模したぱちモンステッキでパフェの上でフリフリされるだけで大喜びするなんて、このおっさん、終わってるな。
私の隣のタイガーちゃんも見たところ、大口を開けて、あきれ返っている。
「あの、わたしも同じの頼んでいいっすか?」
「タイガーちゃん!?」
「うんうん、遠慮せずに頼みなよ。ホント、これバチくそ美味いから」
40近いおっさんが、バチくそとか、無いわぁ〜。
と思いつつ、私は、裏切ったタイガーちゃんを横目で軽く睨む。
「すみません、先輩。時東さんが、あまりにも美味しそうに食べるもんだから」
確かに、時東はんの食べっぷりは、グルメ漫画のキャラのようだった。2代目彦摩呂も狙えるかも。
結局、ピクシータイガーちゃんも時東と同じパフェを頼み、私は、萌えキュン魔法パフォーマンスをやりたくないので、普通のナポリタンを頼んだ。
「ったく、私たち、ここに食事に来たんじゃないんだからね」
「わかってる、わかってる。すでに魔法能力を失ってる魔法少女達の護衛だろ」
そうなのだ。私たち、まだ退化薬を打ってない魔法少女二人とクラーケンマン時東誠人は、正式に魔法少女になる前に今回の法案可決で引退を余儀なくされた元魔法少女候補生達とすでに退化薬を摂取し、魔法能力を完璧に失った魔法少女一人を護衛する為に、この魔法少女カフェにやって来たのだ。
全ては、先日、大阪湾でジュリアーノ拳子ことピクシークラッシャーの遺体の一部が見つかった事が発端だ。彼女以外の退化薬を摂取した魔法少女二人の行方もわからない事から、誰かが元魔法少女を狩ってるのは、ほぼ間違いないのだ。
私たち、まだ退化薬を打っていない魔法少女が、もうすでに打っている魔法少女を自主的に守るしかない。
国は、何もやってくれない。
国は、今回の法案可決で私たち魔法少女には、魔法を公然と使用し、誰かを攻撃する一切の権限が無くなったから、自分達を攻撃する危険人物に遭遇しても、魔法を使用せずに、まずは、警察に連絡を入れるようにと通達してきた。
ふざけるな!!
私たちに何も抵抗せずに死ねと言うのか!!
だから、私たちは、自主的に魔法少女同士で徒党を組み、自分達の身は、自分達で守ることにした。
魔法少女課が解散して、公的機関の預かりどころが未だに無いほぼ無職のクラーケンマンことイカの魔人の時東さんも今回の私たちの取り組みにボランティアで参加し、護衛を買って出てくれた。
本来なら、感謝すべきなんだろうけど、この人、イカの魔人になる前は、元ニートなだけあって、イマイチ緊張感に欠けるんだよな。
閉店時間になって、やっとやって来たこの魔法少女カフェのオーナーに向け、時東誠人は、
「このパフェ、おかわりある?」
と言った。
このおっさん、いっぺん、殺しちゃろか。
「お客様、あいにく、ラストオーダーは、30分前となっておりますぅ〜」
とふざけた口調で時東に答えたこの店のオーナーは、ピクシートラップこと弥馬田グフ子だ。
彼女は、魔法少女課が解散した当日に一番乗りで引退届けを出し、退化薬を誰よりも先に打ち、巨額の退職金を当日に受け取り、メイドカフェを買収して、今の魔法少女カフェ開業工事に着手した。そして、離職した魔法少女候補生達を一手に引き受け、魔法少女カフェの店員にした。
サイコパスでしかあり得ない身軽さと経営手腕で引退した魔法少女中で一番の成功を収めようとしているが、彼女は、もう魔法が使えない。
かつて、最強の魔法少女の名を欲しいままにしたトラップ魔法。自分の思い描いたトラップをいつでもどこでも召喚できる創造神とも言われる魔法を彼女は、もう使えない。
かつて、最弱の魔法少女とまで言われた私が守らなくてはいけない存在になってしまったのだ。
なのに、彼女は、事態を理解してるのか、いつものグフ笑いを絶やさず、
「いやぁ~、初日から、この売り上げなら、今年は、魔法少女だった頃の10倍の年収は、軽く稼げますなぁ〜。やっぱ店員がモノホンの魔法少女だったというのが、マニアやオタクの心をくすぐるんでしょうなぁ〜。この調子なら、来年には、実業家として世界の100人に選ばれるのは、間違いなしですぞぉ。グフッグフフ」
などと言っている。
「なぁ、注文ができないなら、テイクアウト。さっきのパフェ、テイクアウトは、できないの?」
と時東は、甘えた声を出す。気持ち悪いおっさんだな。
「時東さん、その歳で甘いものばかり食べてると糖尿になりますよ」
とタイガーちゃん。違う。そこじゃない。ツッコミどころが違う。
「しょうがないだろ。なんか最近、味覚が変わって、甘いもんが欲しくて、欲しくて仕方がないんだ。人間に戻りかけてんのと、なんか関係あるのかも。だから、パフェをくれ。パフェを。パフェを食えば、早く人間に戻れる気がする」
どういう理屈だ。
私は、呆れながら立ち上がり、今日は、魔法少女候補生達とグフ子ちゃんを守りに来たのだ、とグフ子ちゃんに説明した。
すると、グフ子ちゃんは、
「最弱の魔法少女が護衛ぃ?」
とあきらかに私をバカにした。
魔法少女だった頃は、見せなかったが、やはり、彼女は、最強の魔法少女は、私を下に見ていたのだ。
「ちょっと!いけませんよ!今の発言は、トラップさん!スパイス先輩は、大魔人会の魔法少女対策課研究部のDr.ゲルリオンにスパイス魔法を無効化するワクチンを作られたから、対魔人戦では、無能と化し、最弱扱いされていただけで!スパイス魔法は、本来、相手を麻痺させる不殺中最強に近い魔法なんですから!実際、大魔人会撲滅後の南大阪自治区から来る犯罪者捕縛率は、スパイス先輩が魔法少女中No.1!豪華客船ゾンビ大量出現事変の時、出動をバックレた誰かさんより、よっぽど、魔法少女課に貢献してます!」
タイガーちゃん。フォローしてくれるのは、ありがたいけど、人のこと、無能って……。
「あぁああ〜ああ!!耳タコ!耳タコ!一回、任務をバックレたぐらいで、どいつもこいつもうるせぇんだよ!」
グフ子ちゃんは、逆ギレした。
「トラップさん、怒ったフリして、ごまかしてもダメです。スパイス先輩にちゃんと無能呼ばわりしたことを謝って下さい」
いや、無能呼ばわりしたのは、あなただけだよ。タイガーちゃん。
「ごめんちゃいちゃいチャイニーズ♪」
グフ子ちゃんは、ふざけながらも、謝ってくれたので、私は、それでよしとした。
「いやぁ~、スパイスちゃんをバカにするつもりで、あたしゃ、言ったんじゃないんですよぉ。旦那ぁ。ほんとでゲスぜ。あたしゃ、ただ護衛してもらうなら、無慈悲の魔法少女が良かったなぁっていう意味で言ったんでさぁ」
グフ子ちゃんが言ってる無慈悲の魔法少女とは、私の師匠、ピクシーブロックさんのことだ。
「ブロック大先輩なら、他の元魔法少女を護衛に行ってますよ」
とタイガーちゃんが言うと、グフ子ちゃんは、すかさず、
「ちぇっ、ハズレくじ引いたってことか」
と言った。それを聞いて、
「誰がハズレくじだってぇ?」
と魔法少女ピクシーブルーファイアが店の中に入って来る。
「ほう。灼熱の魔法少女!あんたなら、うちの店員を預けても、安心だ!」
グフ子ちゃんは、おどけてその場で小踊りした。
「守るのは、店員だけじゃなく、お前もだぞ。ピクシートラップ」
ブルーちゃんは、強い目の輝きをグフ子ちゃんに向ける。
「わたしは、いーや。ここで籠城させてもらうよ。食事なら、ウーバーで届くし」
「そういうわけには、いかんぞ。トラップ」
「ここがわたしにとって、一番安全な場所なんだよ」
グフ子ちゃんは、いくらブルーちゃんが強い目の輝きを向けても、頑として引かなかった。
こうなると、グフ子ちゃんは、揺るがない。一度、自分で決めた事は、誰がなんと言おうと、何をしようと、変えないのだ。
「わかったよ」
と結局、譲ったのは、ブルーちゃんの方だった。
元魔法少女候補生達を連れて、私たちが店を出る寸前でグフ子ちゃんがブルーちゃんを呼び止める。
「ブルーちゃん。本当にわたしのかわいいあの娘たち、君に任せて大丈夫なんだろうね?」
と訊く。
「もちろんだ。魔法少女の未来は、私に任せておけ」
ブルーちゃんは、男より男前にそう答えると、グフ子ちゃんに背を向け、店の出口の階段を下りて行った。
「信じているよ」
グフ子ちゃんは、らしくない表情でそう言った。
それが私の見た最後のシリアスグフ子ちゃんだった。




