サタンソースとブレイブハート
「ウイルス兵器なんて、使ったら、あんたも共倒れじゃない。下手なはったりは、やめなさい!」
ピクシースパイスは、怯むまいとフゴウ・タカラに向け、マジカルステッキを構え直す。
対して、魔法障壁のボックスに閉じ込められたままのフゴウ・タカラは、余裕を崩さず、せせら笑っている。
「製作者がウイルス兵器に対して、ワクチンを作ってないと思うか?バカが。当然、ボクは、すでにワクチンを打っているに決まっているだろ。それに我が社が極秘裏に作ったウイルスは、ただ人の生き死にを決める通常のウイルス兵器とは、ワケが違う。もっと高度な代物なんだ。人の善悪に作用するのだよ」
フゴウ・タカラが何を言っているのか、ピクシースパイスは、その半分も理解できなかった。
人の善悪???
ピクシースパイスが本当によほどのバカに見えるのか、フゴウ・タカラは、
「精神干渉だよ」
とまた上から目線で親から買ってもらったオモチャを自慢する子供のように語り始めた。
「我々が開発したウイルスは、どんな人格の人間でも善人に変える事ができるし、逆に悪人に変える事もできる。精神を操作して、その人物の思考や行動を操る事ができるんだよ。我々は、そのウイルスを悪人に変える作用のある方をサタンソース、善人に変える作用のある方をブレイブハートと名付けた」
「人の精神を操るですって?バカらしい。そんなウイルス聞いたことがない」
ピクシースパイスは、にわかには、フゴウ・タカラの言うことが信じられない。
「フォトンブラスタ(宇宙光エネルギー)の影響で開発する事ができたのさ。ウイルスもお前ら魔法少女のようにフォトンブラスタの影響で進化したんだ。今は、S歴2050年。人の精神をも化学で操れる時代が来た。と言っても、信じれないか?ようく考えてみろ。人の精神を操れるものがないと言うのなら、何故、精神安定剤なんてもんが、存在する?あれだって、立派な精神誘導だ。麻薬だって、そうだ。何故、薬には、出来て、ウイルスには、それができないとお前は、断言できるんだ?その根拠は?」
フゴウ・タカラにまくし立てられても、
ピクシースパイスは、
「それは……」
と返す言葉がない。
「お前は、知らないようだから、言ってやるが、自然界には、人の脳に取り憑いて、怒りの感情を誘発する微生物もいれば、寄生した生物に自分の代わりに餌を持って来させる虫もいれば、キノコもいる。我々がそのウイルスの特性を発見するのが、遅れただけで、古くは、悪魔憑きや狐憑きも人の精神を操るウイルスが原因だったかもしれない。魔女裁判で焼かれた魔女の中にもそのウイルスに感染していた者がいたかもしれないし、お前らが戦っていたあの無闇やたらに人を虐殺する魔人たちもその影響下にいたのかもな」
「魔人もそのウイルスに操られていたと言うの?嘘よ。なら、私達は、何と戦っていたの?」
ピクシースパイスは、フゴウ・タカラの言う言葉を信じてなかったが、何故か、自らの根幹を揺すられた気がした。
私達は、なんの為に戦っていたのか?
仲間たちは、何と戦い、死んでいったのか?
「考えてもみろよ。ピクシースパイス。ただのニートのおっさんだった時東誠人が何故、突如、正義の心に目覚めて、魔人化した親友と戦う道を選び、ヒーローになったのか、その逆に久保田和也が急に悪に染まり、人を殺しまくったのは、本当にクラーケン大魔人ラブリーに精神干渉された事だけが原因か。何故、人権派と言われていた泉総理が、いきなり人が変わったように、お前ら魔法少女をこんな目に合わせた?柊 香子の裏切りは、果たして、必然かな?誰かが、善と悪とを操って、シナリオを書いてるとは、思わないか?いったい、誰が書いたシナリオだと思う?その手段、善と悪を操るウイルスを持ってるのは、誰かな?」
もう、わかっただろ?とフゴウ・タカラは、ピクシースパイスを見つめる。
「まさか、今までの全部、あんたが仕組んだって言うの?」
ピクシースパイスは、頭が痺れるような感覚に襲われ、思わず、マジカルステッキを手許から落っことしそうになる。
「そうだよ。全ては、ボクがヒーローになる為の筋書きだったのさ」
そう言ったフゴウ・タカラは、スライスされた身体を再生させ、すでに新しい腕と足を魔法障壁のボックスの中で生やしていた。
「その何年にも渡るお膳立てを、まさか、最弱の魔法少女と呼ばれる君が覆そうとするなんて、まるで、ノーマークだったよ。雑魚キャラA」
「ぶっ殺してやる!!」
ピクシースパイスは、今までの過去の全てが憎しみに変わり、フゴウ・タカラに対する殺意でいっぱいになった。
マジカルステッキを振るい、再び、マジカル テラ・アトミック スパイスストリングスを発動しようとするピクシースパイスを
「待て待て。ウェイトウェイト。今、ボクを殺すと最悪のシナリオが発動するぞ」
と言って、フゴウ・タカラは、止める。底意地の悪いにやけ面で
「いいか?サタンソースとブレイブハートを散布してる放出場所は、ボクしか知らないし、サタンソースとブレイブハートのワクチンであるヘヴンオアヘルは、ボクの生体認証がないと絶対に手に入れることは、できない。世界のいたる所で悪党や正義の味方が乱立して、収拾のつかない戦いが始まってしまうぞ」
と説得しようとしてくる。
「それを止められるのは、世界でただ一人。主人公だけだ」
とフゴウ・タカラは、再生した指で自らを差した。
ピクシースパイスは、呆れなのか諦めなのか、絶望なのか、思考も動きも止まってしまう。
「世界は、すでに悪も正義もこのフゴウ・タカラが支配している。世界を救いたければ、ボクの軍門に下るんだ、ピクシースパイス」
フゴウ・タカラという男は、自分の為に世界が回っていると言わんばかりの口調でそう命令した。




