殺し合え
「このダイヤモンドダストMk18なら、ボクは、お前ら魔法少女二人に圧倒的勝利を収めることができるが、たった二人に圧倒的勝利なんてしたところで、たいした再生数は、稼げないだろう」
金ピカに光る新たなダイヤモンドダストを装着したフゴウ・タカラは、どこまでも、上から目線でピクシースパイスとブルーファイアに物を言い、
「だから、お前ら、二人で殺し合えよ」
と異常なことを命令した。
「魔法少女が仲間同士で殺し合うところを配信すれば、ちょっとは、お前らもボクのチャンネルに貢献できるだろう」
「気でも狂ってやがるのか?」とブルーファイア。
しかし、その時、ピクシースパイスは、嫌な予感がしていた。
「ブルーファイアは、乗り気じゃないが、お前は、違うよな?ピクシースパイス」
ピクシースパイスの嫌な予感は、的中する。
金ピカの戦闘スーツ姿でフゴウ・タカラは、
「ポイリー。頃合いだ。連れて来い」
と誰かに語りかける。姿はないが、誰かと通信していることが、ピクシースパイス達にも見てとれた。
やがて、フゴウコーポレーション本社の東側から、一台の大型バイクが駆け抜けてくる。運転するのは、老年の黒の燕尾服の男性で、そのバイクに取り付けられたサイドカーには、縛りつけられた古生白子がいた。
バイクは、フゴウ・タカラに守られるように彼の脇で止まり、運転手の男性、ポイリー・カタルシスは、ライフルの銃口を
「失礼致します」と言って、古生白子に側頭部につけ、引き金に指をかけた。
「やめて!!」と叫ぶピクシースパイス。
動揺するブルーファイア。
フゴウ・タカラは、
「ピクシースパイス、ブルーファイアを殺せ。殺さなかったら、わかるだろ?」
と非情な脅迫をした。いや、それは、脅しなどてわはなく、強制的な命令だった。
「小梅……」と涙を滲ませる古生白子。
マジカルステッキを構えるピクシースパイス。
それに呼応して、同じように構えるブルーファイア。しかし、両者は、それ以上、動かなかった。
互いに見つめ合い、苦悶を表情に浮かべる。
もう、魔法少女課の魔法少女は、彼女たち以外にいない。
「ほら、どうした?二人で殺し合えよ」とフゴウ・タカラは、高みの見物をして、二人を煽る。
そこで大地が盛り上がり、一人の少女が這い出て来る。少女には、12本の巨大なイカの触手が生えていた。
「フゴウ・タカラァ!!油断したなぁ!!私の効果範囲だぞぉ!!げれへっへっへっ!!」
不気味に笑うゾンビのような顔色に成り果て、そこにいたのは、加鳥花子だった。
フゴウ・タカラは、たじろいだ。
「ポイリー!!どういうことだ!?何故、あの女が生きている!?」
「わかりません!!完全に想定外です!!」
ポイリー・カタルシスの言葉に嘘は、無い。
あの時、ポイリー・カタルシスは、確かに加鳥花子の脳髄をライフル銃の弾丸でぶち抜いた。
しかし、その跡は、加鳥花子の頭部からは、今は、もう無くなり、彼女は、自由にうねうねと動きまくっている。
「万が一の時の為に飛行ドローンに私が死んだら、魔人細胞を撃ち込むように、電脳ジャックで命令しておいたのさ!あんたと私じゃ、おつむの出来が違うつってんだろ!ボンボン!!」
「クソッ、これは、クソやばい!!」
フゴウ・タカラは、余裕を失い、ダイヤモンドダストMk18で飛行し、逃げ出した。
が、
「遅いよ」
とマッハに到達しかけたダイヤモンドダストMk18に向け、加鳥花子は、指をくいっと動かした。
「おっ、おい!?」
ダイヤモンドダストMk18は、フゴウ・タカラの操縦を無視して、加鳥花子の元に戻る。
「爆ぜろ」
加鳥花子に命令されるとダイヤモンドダストMk18は、いとも簡単に自爆した。
ピクシースパイス達に対して、圧倒的優位に立っていたフゴウ・タカラは、散らばっただるま落としのようにバラバラの肉片と化す。
「タカラ様!!」
フゴウ・タカラの執事のポイリー・カタルシスは、バラバラになったフゴウ・タカラの肉片をみっともない動きで四つん這いになり、かき集め、おいおい泣く調子でまた
「タカラ様!!」
と叫んだ。
イカの魔人少女と化した加鳥花子と対峙し、息を飲む二人の魔法少女。ピクシースパイスとピクシーブルーファイア。
先に口火を切ったのは、ブルーファイアだ。
「加鳥、私達が争う理由は、何も無いはずだ。裏切ったことなら、私は、もう許している」
目の前でフゴウ・タカラが爆死するのを見て、はっきり言って、ブルーファイアは、怯えていた。
イカの魔人少女となった加鳥花子の戦闘力は、未知数だ。加えて、そのゾンビのような肌色をした不気味な見た目も、恐怖を与える要因となった。
魔人と戦い慣れた魔法少女であっても、怖いものは、怖い。
「はぁん?」
加鳥花子の目は、据わっていた。
「私が魔法少女を生かすわけないでしょ。魔法少女は、私一人いればいい。私だけが、この世で最上の存在なのよ」
加鳥花子は、そう言うと、12本の触手のうちの一本が握っている黒い特級呪物のような干からびたような細い塊をピクシースパイス達の目の前で掲げた。
「ねぇ、おじさん」
加鳥花子は、その黒い即身仏のような塊に魔人細胞を打ち込み、命を与えた。
干からびた物体は、みるみるうちに生気を取り戻し、膨らみ、一体のイカの魔人と化す。
クラーケンマン蝉川秀一である。
「これで2対2よ」
蝉川秀一は、加鳥花子の隣に並び立ち、ピクシースパイス達と対峙する。
「さぁ、おじさん。魔法少女を殺して、復讐を果たすのよ!」
「ああ、復讐を果たそう」
蝉川秀一は、12本の触手で加鳥花子の頭部を包み込み、根元の大きな二つ目の口でガブリと食わえ込んだ。
「おじさん?何を?」
「今、そこのポイリーという爺さんが、テレパシーとやらでお前の記憶を送ってきたぞ。お前の記憶、全てを」
「は?」
加鳥花子は、焦った。蝉川秀一のイカの部分の大きな口の鋭利な歯が頭部にざくりとくい込み始めていた。
「愛子が、マナが死んだのは、お前のせいだったんだな」
「ちょっと待って!おじさん、騙されないで!」
「ずっと、不思議だったんだ。どうして、お前が私の復讐にここまで協力的なのか……今、答えがわかった。全ての納得のいく答えが」
「おじさん、私を信じて……」
加鳥花子が涙声で言っても、蝉川秀一は、加鳥花子の頭部を離さなかった。むしろ、イカの触手と化した腕の根元の口の噛む力をより一層、強くした。
加鳥花子は、そのあまりの痛みに思わず、キレてしまう。
「セミカワァ!!誰がポンコツじじいのテメェの尻拭いをっ!!」
その瞬間、加鳥花子の頭は割れ、蝉川秀一に噛み砕かれ、鮮血がブシャアアァー!!と辺りに飛び散った。
蝉川秀一は、無言でそのまま、加鳥花子の全身を食べ尽くした。
ピクシースパイス達は、その咀嚼音が聞こえる中、ただ、じっと見ていた。もの凄い光景に言葉を失い、自分が今、何をすればいいかもわからなかった。
復讐が果たされるのをただ見ている以外に彼女達にできることは、なかった。
その間にポイリー・カタルシスは、一人でせせこましく動き回り、フゴウ・タカラの肉片を全て集め終わると、フゴウ・タカラの脳髄だったものに注射を打ち込んだ。
それは、魔人細胞だった。
バラバラだったフゴウ・タカラの肉片は、あっという間に結合していき、一人のイカの魔人に変わる。
「間に合った」ポイリー・カタルシスは、感激して、天を仰いだ。
「クソッ、ボクの身体をイカ臭くしやがって、許さんぞ!!」
復活したフゴウ・タカラは、指を鳴らして、ダイヤモンドダストMk19を呼び出し、自らの全身に一秒程で装着した。
そして、共振発生装置を付けた左手パーツで古生白子の頭部を鷲掴み、
「仕切り直しだ!!ピクシースパイス!!ブルーファイアと一緒にその蝉川もぶち殺せ!!」
と叫んだ。
またしても、理不尽な命令。それに一番に反応したのは、ピクシースパイスではなく、蝉川秀一だった。
蝉川秀一は、ピクシースパイスに向かい、一歩、全身した。
そこに一匹の白い虎が飛んでくる。
虎は、背に翼が生え、尾は、数匹の蛇となり、分かれていた。
魔人少女キメラタイガーに他ならなかった。
魔人少女キメラタイガーは、仰向けで飛んで来て、蝉川の前の地面にピクシースパイスの方へ進むのを阻むように倒れ、力尽きた。
見ると、その白い虎は、ところどころ血で赤く染まり、多大な負傷をしていた。
それに跳び乗り、蝉川の前に降り立つ一人の男――。
銀色のナノテクダイヤモンド繊維の戦闘スーツがキメラタイガーの爪によって、引き裂かれ、彼は、全身、痛々しいむごたらしい大きな引っ掻き傷だらけだったが、その分厚い脂肪で致命傷は、免れていた。
ジャパン・ストロンガーズの生き残り荒巻則夫だった。
「フヒューフヒューふひゅーふひゅー」という呼吸音を立てながら、荒巻則夫は、蝉川秀一を強く睨む。
「ピクシースパイスちゃんに手を出すな!!」
と叫ぶ荒巻則夫は、
「スパイスちゃんは、いや、小梅ちゃんは、僕ちんと結婚するんだ!!」
と宣言した。
「えぇえええ〜!?」
ピクシースパイス古生小梅は、もちろん、初耳だった。
今、物語の本軸とは何も関係ない一人の童貞男の世界一どうでもいい回想が始まろうとしていた。




