悲劇の魔人少女
地上の三人の魔法少女と空中のダイヤモンドダストMk17
両者が対峙する中、フゴウコーポレーション本社の社屋の壁を内側からぶち破って、二人のイカの魔人が戦場に現れる。
12本の巨大なイカの触手同士でピクシースパイス達やフゴウ・タカラが視界に入っていないかのように、戦い続けるその二人は、復讐者 蝉川秀一と魔法少女課元室長の柊 香子であった。
PNCで思考ジャックが無効化されている二人の戦いは、互いにイカの魔人化している事から、単純にそのフィジカルを活かした肉弾戦となっていた。
柊のその身体から巨大なイカの触手を12本生やしたグロテスクな姿を見ても、フゴウ・タカラは、平然としていて、上空から
「おい、柊。この三人の魔法少女を思考ジャックで操り、自殺させろ」
と命令した。
ピクシースパイス達に緊張が走る。
が、柊の答えは、
「すみません。蝉川の対処に精いっぱいで、思考ジャックを使えるだけの集中力が保てません」
だった。
「肝心な時に使えん奴だ。まぁ、そんなチートで勝っても、ストーリーが盛り上がらんから、別にいいがな」
そう余裕たっぷりに言うフゴウ・タカラの前にピクシーブルーファイアは、総理大臣 泉 総一郎をマジカルステッキで小突いて、跪かせ、見上げ、
「なんで、そんなに余裕かは、知らないが、こっちには、人質がいるんだ。総理の命が惜しくば、おとなしく、降参して、スパイスの母親を返すんだな」
と高圧的な声音で言った。
「助けろ!フゴウ・タカラァ!!」
と人質の泉 総一郎は、フゴウ・タカラに命令する。
それを上空のフゴウ・タカラは、
「フン。人質交渉のつもりか。くだらん」
と鼻で笑った。
そして、ダイヤモンドダストの手の甲から青いレーザーを照射し、泉 総一郎に当てた。
泉 総一郎は、体内から青く光り始めたかと思うと、いきなり全身がその光に耐えられなくなったかのように、発火した。
「ぎゃあああっ!!」
火だるまになった泉 総一郎は、地面に転げ回り、のたうち回る。
「これは、ブルーファイア。お前の能力を化学的に再現し、強化した高熱レーザーだ。お前の炎殺魔法が外側から火力で燃やすのに対し、これは、内側から対象の温度を上げ、自然発火させる。レーザーを当てられた対象は、火元が自分だから、逃げ場がない。おまけにお前の炎殺魔法よりこちらの方が発火スピードが早い。たいしたもんだろ?我が、フゴウ・コーポレーションの技術力は」
フゴウ・タカラは、キラキラと光るダイヤモンドマスクで隠れていたが、口元に笑みを浮かべていた。
「お前、総理を……」
とブルーファイアは、想定外の事態に続く言葉がない。
フゴウ・タカラは、その様子に満足そうに
「一国の総理がどうした?そんなのいくらでも、代わりがいるだろ」
と言い放つ。
そして、手の甲をブルーファイアに向ける。
「燃やすのは、得意でも燃やされるのは、どうかな?ブルーファイア。灼熱の魔法少女の死因が焼死なんて、実に笑えるじゃないか。まるで、誰かさんの姉みたいで」
「貴様っ、この下衆がぁ!!」
ブルーファイアがフゴウ・タカラの安い挑発に乗り、我を失いかけたその時、
黒こげになった泉 総一郎が地面から起き上がる。
「許さんぞ!フゴウ・タカラァ!!」
と叫んだ泉の背中から12本の巨大なイカの触手が生える。
〝こいつ、魔人細胞を隠し持っていたのか〟
ふいを突かれたブルーファイア達は、思わず、ぎょっとする。
その間に泉 総一郎の身体からは、みるみるうちに焦げめが消えていき、皮膚が元通りになる。
全裸の総理は、裸で地団駄を踏み、
「この私を人外に変えやがって!!許さんぞ!!フゴウ・タカラ!!」
と空に向かって、吠えた。
「いや、知らん知らん。あんたが勝手に変わっただけだろ」
冷めたトーンであしらうフゴウ・タカラに
泉 総一郎は、
「ぶち殺してやる!!」
と歯を剥き出しにして、怒りを露わにする。
それをフゴウ・タカラは、また、鼻で笑った。
「魔人化したくらいで俺に勝てると?」
泉 総一郎は、醜悪に表情を歪めて、
「私が魔人化したのは、生きる為だ。お前と戦うのは、私じゃない」
といきなりブルーファイアに襲いかかった。
とっさのことで、動揺したが、ブルーファイアは、炎殺魔法の青い炎を放射し、応戦。
しかし、泉 総一郎は、自分の身体が燃えるのも、構わずにブルーファイアに抱きついた。
「ブルーちゃんから、離れろ!!」
とピクシースパイスとピクシーミュージックが急いで、力ずくで泉をブルーファイアから引き剥がすが、
「え?」
その頃には、すでにブルーファイアの首に注射が刺さっていた。
ブルーファイアは、倒れ、びくんびくんと痙攣しだす。
「ブルーちゃん!!」
ピクシースパイスとピクシーミュージックは、倒れたブルーファイアを抱き寄せ、状態を確認するが、
ブルーファイアは、白目を剥き、口から泡を吹き始めていた。
「大丈夫だわな。私が治すわな」
と言いながら、ピクシーミュージックは、震え、動揺していた。彼女の福音魔法エンジェルボイスで治せるケースと治せないケースの範囲を彼女自身は、正確に把握していない。実際、ブルーファイアの失われた片腕は、彼女では、どうしようもなかった。
一見、回復魔法として万能に思えるピクシーミュージックの能力にも救える命と救えない命があるのだ。
ブルーファイアが死んでしまうかもしれない。
そう思うとピクシーミュージックは、震えが止まらず、上手く透き通るような歌声が出ない。
魔法少女の魔法は、使用する魔法少女の精神状態におもむろに左右される。
ピクシーミュージックがらしくなく、あわあわしてる間にピクシースパイスがブルーファイアに刺さった注射を引く抜く。
一方、ピクシースパイス達にブルーファイアから引き剥がされた泉 総一郎は、浴びせられた青い炎を叩いて、消し終わり、元通りに再生していく自身の体を見て、
「素晴らしい。どんどん回復していく。やはり、クラーケンマンの魔人細胞の研究を進めるように言った私の判断は、正しかった」
と一人、自画自賛していた。
ピクシーミュージックは、心を落ち着かせ、天使の歌声を放つ準備が整う。
耳を塞ぐピクシースパイス。
しかし、意識を失っているブルーファイアの身体から青いいばらが幾本も勢いよく生え、彼女達を吹き飛ばした。
青いいばらに包まれ、立ち上がり、青い角が頭から生えた眼球が真っ青に光るブルーファイアを見て、泉 総一郎は、
「フハハハッ!!なんとおぞましい姿だ!!ヘルブルーファイアと言ったところか!!フゴウを葬るがいい!!魔人少女よ!!」
と高らかに笑った。
泉は、ブルーファイアに抱きついた瞬間に、まだ隠し持っていた魔人細胞を彼女に注射で注入したのだ。
自分の代わりにフゴウ・タカラを葬ってもらう為。その為だけに、彼女を魔人少女に変えた。
その非道極まりない泉 総一郎を瀕死の状態から回復しようと餌を求めて、地面を這い回っていた肉ヘドロのような形まで潰れていたヘルエクストラが飲み込み、捕食する。
そんな!こんなところで!!私は、世界のリーダーとなるべき……
という泉の断末魔は、誰にも聞こえず、彼は、ただの肉塊となって、ヘルエクストラに消化された。
しかし、ヘルエクストラもそれで存命することは、できない。
魔人少女になり、完全に自我が欠落した藍井ノエルが本能の赴くまま、破壊的な魔法を発動したのだ。
ヘルブルーファイアとなった彼女を中心にドーム型のマグマより熱い青い炎が周囲を次々と飲み込んでいった。
大魔法マジカル テラ・アトミック ヘルブルーフレアである。
全てを燃やし、溶かし尽くす青い熱源は、フゴウコーポレーション本社の社屋西側とフゴウコーポレーションの正門と正門前に集結した車群と道路を全て消し炭に変え、地上に巨大なクレーターを作った。
もちろん、再生能力の高いクラーケンマンの魔人細胞を持つヘルエクストラも蝉川秀一も柊香子もタダでは、済まない。
彼、彼女らは、黒炭化して、もはや、生物の原形を留めていない。
が、その絶望的なまでの破壊と暴走は、それで終わりではなく、ブルーファイアの意識が戻るまで、続いた。
ブルーファイアの意識が目覚めた時、彼女の前には、焼け落ちるように生命力を失った幾本もの青いいばらの残骸が散らばり、右半身を黒こげにし、失ったピクシーミュージックが立っていた。
「轟。誰がこんな事を……っ!!」
ピクシーブルーファイアは、彼女に駆け寄り、抱き支えた。
「やっと、いつものノエルちゃんに戻ったんだわな……」
ピクシーミュージックのその一言でブルーファイアは、全てを察した。
周りにある姉が魔人化した時のようないばら、しかも青い、そして、最上級魔法を放ったような巨大な焼け跡。
「これを全て、私がやったのか?」
辺りを改めて、見渡すとすぐ近くに四角い半透明のボックスが青い炎を上げ、まだ燃えていた。
その魔法障壁で作った箱の中にいたのは、ピクシースパイスだ。見たところ、かなり疲弊している。
青い炎を魔法障壁ごと消すと、彼女は、その場にへたり込んだ。
そのピクシースパイスにブルーファイアは、
「どうして、轟を助けなかった?」
と攻めるような事を言う。
ピクシースパイスは、ぜぇぜぇと息をしながら、
「響ちゃんが魔法障壁の中からじゃ、エンジェルボイスが使えないって……」
と答える。
ブルーファイアは、驚愕して、目を丸く見開き、ピクシーミュージックを凝視する。
「エンジェルボイスで私の魔人化を治したのか……!?その為に自分を犠牲に!?響、どうしてだ!?」
ピクシーミュージック轟 響は、消え入りそうな声で
「どうして、そんな事、聞くんだわな?」
と言った。
「私たち、友だちなんだわな……」
それだけで?
とブルーファイア藍井ノエルは、困惑した。
と共に命を張った友に対する自分のその気持ちを強く恥じた。
「味方殺しと呼ばれてる私を仲間に誘ってくれて、嬉しかったんだわな」
違うんだ。響、私は、自分の復讐の為にお前の能力をただ利用しようと……
「ノエルちゃんの作る新しい魔法少女課、見たかったんだわな。復讐、果たせるといいわな……」
「響……」
ブルーファイアは、もう友の顔をまともに見る事ができなかった。くしゃくしゃに顔を歪ませる。
「自分じゃ自分を治せないから、……先に仲間の元で待ってるんだわな♪」
ピクシーミュージックは、崩折れて、もうブルーファイアでも支えられなくなり、力なく物言わぬただの亡骸となった。
「響……」
ブルーファイアは、彼女の遺体を抱きしめて、その場に膝をついた。
「私は、何を……」
そこにぼすっぼすっと間抜けなエンジン音を立て、黒こげのダイヤモンドダストMk17が上空から降り立つ。
マジカル テラ・アトミック ヘルブルーフレアが発動している間中、ヘルブルーファイアが暴走中もずっとフゴウ・タカラは、空高く飛んで、逃げていたのだ。
それでもダイヤモンドダストMk17は、無傷では、済まなかった。
「魔人少女ヘルブルーファイア……恐ろしい敵だったが……」
フゴウ・タカラは、自ら黒こげになったダイヤモンドダストMk17を取り外し、脱いだ。
すると、フゴウコーポレーション本社から新しいダイヤモンドダストが飛んで来て、自動でフゴウ・タカラの身体に装着された。
「魔法少女ブルーファイアが相手なら、なんの問題もなく、対処できる。このダイヤモンドダストMk18なら、圧倒的勝利を収めることができるだろう」
フゴウ・タカラは、魔人化が解けたブルーファイアを前にダイヤモンドマスクで見えなかったが、余裕満面でそう宣言する。
ブルーファイアは、赤く充血した目でフゴウ・タカラを睨みつける。
戦いは、まだまだ終わらない。




