引退した魔法少女たち ピクシーストーンとピクシーブラッド
今回のクラーケンマン護送任務のセキュリティ本部長としてフゴウコーポレーション本社で待機していた柊 香子は、ジャパン・ストロンガーズが謎の魔法少女もどきの手によって、敗北したと聞き、即座にフゴウコーポレーション本社に緊急防衛本部を設置し、二人の元魔法少女を招集した。
「今回は、私のような木っ端役人の招集で伝説の世代のお二人にわざわざご足労頂き、感謝致します」
柊 香子は、目の前の二人の魔法少女OBに深々と頭を下げた。
招集された元魔法少女は、
「いいって、いいって、頭なんて下げんなよ。無敵の魔法少女。私らは、もう現役を退いた一般人。ただのおばさんなんだからよ」
石化の魔法少女ピクシーストーン 石井 粒子と
「民間人の私らに助けを求めるなんて、よっぽどの緊急事態なんだろ?ピクシーブレイン」
鮮血の魔法少女ピクシーブラッド 赤井 千代でどちらも柊 香子が魔法少女として活躍するよりずっと前に魔法少女として活躍していた世代魔法少女ファーストジェネレーションズと呼ばれる魔法少女課の初期メンバー、全魔法少女の大先輩であった。
「はい。今回の敵は、厄介な事に機械を操る魔法能力を有しており、フゴウコーポレーションのハイテク兵器がまるで通用しません」
柊 香子は、電子パッドで加鳥花子の魔法能力によって、ジャパン・ストロンガーズの二人が同士討ちする映像を石井 粒子と赤井 千代に見せる。
「そこで、我々の領域である魔法の出番というわけです」
「しかしなぁ、ブレイン。私らは、もうとっくに18歳を過ぎてる」
石井 粒子は、そう言って、右手で拳を作り、石に変えてみせた。
「これが今の私の精一杯だ。右手以外は、とてもじゃないが、石化は、無理だ」
「私も同じだ。脈拍を速くできても、運動能力が向上する事は、もう無い。今は、駅の階段を上がるのも、しんどい」
赤井 千代は、自らの情けなさをシニカルに笑った。
「その点なら、大丈夫です。フゴウコーポレーションが開発した新薬があります」
柊 香子は、そう断言して、電子ボードを使って、説明を始める。
「私達の魔法少女因子は、確かに18歳を期に減少し、私達は、強力な魔法能力を発動する事ができなくなります。しかし、それは、私達の遺伝子の中の魔法少女因子の消滅を意味しません。私達の中の魔法少女因子は、魔法を発動するのに必要な脳内分泌液マジカルチルドレナリンを放出しなくなっただけで、まだ、私達の中に残ったままなのです。つまり、魔法少女因子を薬で活性化させ、再び、マジカルチルドレナリンを放出できる状態にすれば、私達は、また、以前のように強力な魔法を操ることができるのです。フゴウコーポレーションは、それを可能にしました。これが、その薬です」
柊 香子は、そう言って、赤いカプセル錠剤を二つ、取り出し、二人に見せた。
「そんな薬があるなんて、今、初めて聞いたぞ」
石井 粒子は、怪訝な表情でカプセルを見つめた。
「世間には、まだ非公表な薬だからです」
柊 香子は、少し表情を曇らせた。
それを逃さず、
「なんで非公表なんだ?何か理由があるのか?」
と赤井 千代は、訊ねた。
「隠し事をするなら、私達は、協力できないぞ」
と念を押す。
柊 香子は、すぐには、答えなかったが、気まずい空気に押されて、
「この薬の開発には、魔人細胞が使われています」
と白状した。
「ピクシーレッドファイアが魔人少女ヘルファイアになった時の細胞を彼女の遺体から採取し、培養し、魔法少女因子が魔人細胞と合わさると過剰に活性化する事が研究でわかりました。なので、私達、魔法少女因子が減退した引退した魔法少女が、この薬を使えば、魔法少女因子が活性化し、以前の力を取り戻す事ができます」
「リスクは、副作用は、ないのか?」
赤井 千代は、まだ、柊が何か隠してると踏んで、訊ねた。
「魔法少女因子が活性化してる状態で、この薬を服用すると、魔人化してしまいます。つまり、魔法少女因子が減退してる私達でも、短い時間に2回服用してしまうと魔人になってしまいます」
と正直に答えた柊に
「短い時間に、というのは、長い時間を空ければ、2回服用しても、魔人化しないということか?」
と石井 粒子が質問する。
「はい。薬の効果が続くのは、今のところ、一日までなので、一日以上、服用時間を空ければ、薬を再び、口にしても、魔人化は、しません」
柊の答えに石井 粒子は、納得したように頷いた。
「一日か。充分だな」
「そうだな」
と赤井は、石井と感情を共有してるように、頷いた。
「念の為、一人2錠ずつ、貰おうか」
と赤井が片手を差し出すと、隣の石井も片手を柊に差し出した。
「わかってるんですか?2回、服用すると魔人化するんですよ。魔人化したら、理性を保てるか、わからないし、魔人から人間に戻る技術は、フゴウコーポレーションでも、まだ開発できていないんです」
柊は、薬を飲むのを頼んでいる側なのに、何故か彼女らを責めるような口調になる。
「戦いが24時間以上、続くかもしれない事を考慮してだ」
赤井は、差し出した手を下げない。
「私達もバカじゃない。自分から魔人になるわけないだろ?」
石井も差し出した手を下げない。
柊は、逡巡したが、非情になれよ、悪役になると決めただろ、と自分を納得させ、結局、彼女たちの手の平の上に2錠ずつ、赤いカプセルを置いた。
次の時代の為に今、屍の山を積む必要がある。
誰も死ななくて済む時代の為に。
魔法少女がいらなくて済む時代の為に。
「今は、あなたたちの〝力〟が必要なんです」
今は、あなたたちの〝命〟が必要なんです。
「行ってきてくれますか?」
死んできてくれますか?
「もちろんだ」
と二人の引退した魔法少女は、柊に力強く頷いた。
受け取った赤いカプセル錠剤を飲み込み、二人は、片手を今度は、甲を見せる形で差し出し、重ね合わせた。
そこに柊も片手の甲を見せて、差し出し、上から重ね合わせる。
「「「仲間たちの元へ行こう!!」」」
三人は、声を合わせて、ゴーフォアブロックや死ぬには、いい日だ、と同じ意味の魔法少女課の伝統を叫んだ。
今、引退した魔法少女たちの最後の戦いが始まりを告げた。




