ジャパン・ストロンガーズVS電脳の魔法少女
フゴウコーポレーションの大型トラクターを改造して作った防弾護送車9台が、六車線道路の左側を密集して進んでいる。
縦3列横3列の真ん中に位置する護送車の防弾トラックの中にジャパン・ストロンガーズの五人は、いた。
「まったくよぉ、なんで俺らがメンツ揃えて、イカ野郎の護送役なんてしなくちゃいけねぇんだよ〜」
髪をツンツン頭にセットした銀色のナノテクダイヤモンド繊維のスパッツのようにぴちぴちに身体にフィットした戦闘スーツ姿で左側の壁に面した椅子に腰掛ける堂田林 猛は、不満を口にする。
「蝉川のおっさんは、麻酔タンクの中でおとなしくしてるしよぉ。逃亡中の魔法少女は、総理を人質にして、南大阪に向かってんだろ?誰も襲ってくるわけねぇしよぉ。俺ら、ここにいる意味ねぇじゃん。ったく、フゴウの旦那も何、考えてんだかなぁ」
堂田林は、同乗している丸い麻酔液がたっぷり入った貯水タンクの中のすでに頭部だけだった状態から全身を再生済みの蝉川秀一を不気味そうに見ながら、言うが、他のナノテクダイヤモンド繊維の戦闘スーツを着たジャパン・ストロンガーズの面々は、それを無視して、無言で葬式のような顔で椅子に座っている。
堂田林以外誰も携帯すらいじっておらず、じっとしている。
「俺ら、ジャパン・ストロンガーズよぉ?直訳すると日本強い達、つまり、日本の一番強い奴らつー意味だろぉ?なんで、日本で一番強い俺らの仕事が何時間もトラックの中でおとなしくする事なの?意味わかんねぇーよ!!こんなところで五人も男がずっとじっとしてよぉ、後でグラドルとハメさせてでもしてくれねぇと割に合わねぇよ!!なぁ、運転手さん、いつになったら、フゴウコーポレーション本社に着くんですかぁ!?」
堂田林は、立ち上がって、運転席へ向け、トラックの壁をガンガンと蹴った。
「あと100mもありません。しばし、お待ちをっ」
と運転手が声を震わせた怯えた調子で運転席とトラックが繋がった鉄格子のような柵のついた小さい窓枠から答える。
「おい、よさないか」
と立ち上がったのは、堂田林の向かい椅子に座っていた荒巻 則夫だった。
「なんだよ、やんのか?童貞ピッグモンスター」
「誰が童貞ピッグモンスターだ?俺は、ヴィジランテMr.スランプだ!」
堂田林と荒巻は、胸を張り合わせて、睨み合いになる。
「何がMr.スランプだ?ヴィジランテだ?漫画の見過ぎなんだよ!お前なんて、醜い森の豚さん、ピッグ・プーじゃねぇか!」
「なんだと!」
荒巻は、堂田林の両肩を上から押さえ込むように掴んだ。
堂田林は、それを払う。
「文句があんなら、力ずくで黙らしてみろよ。暇つぶしに豚のミンチカツしてやるぜ!」
そこで護送トラックが急停止し、争っていた二人は、よろけて、体勢を崩し、離れた。
「おい!どこで止まってんだ!フゴウコーポレーションにもう着いたんだろうなぁ!?信号待ちとかだったら、テメェからミンチにすんぞ!!」
堂田林は、そう言って、再び、運転席側の壁を蹴り上げた。
「それが……」
運転手は、声を震わす。
「なんだ?」
と堂田林は、イラ立った声を隠そうともせず、訊ねる。
「100体以上のスプリングバルーンが道路を占拠してるようです!!」
「あんだと!?」
堂田林が運転席側の窓を覗き込むのと、ジャパン・ストロンガーズが乗っていない前の車列の護送車が炎を上げて、吹き飛ぶのは、同時だった。
堂田林が小さい窓枠から確認すると、むらむらと群がる銀色の大きなヤドカリの群れとその後ろに控えるフゴウコーポレーション社製のAI戦車が戦車砲から煙を上げているのが、見えた。
「やべっ、やべやべ」
堂田林は、慌てて、トラックの出入り口の大きな扉を開け、外に出た。
外に出ると、すでに周りの護送車から魔法少女対策緊急強襲部隊とSATと自衛隊とフゴウコーポレーションが雇った民間兵が出て、銃を構え、スプリングバルーンの大群に向け、戦闘態勢に入っていた。
「桐山とスライスラーも外に出て、戦え!童貞と童貞豚は、中に残って、蝉川を守れ!死んでも、麻酔液から出すんじゃねぇぞ!!」
「どうして、お前が命令する!?」
と荒巻は、イニシアチブを取った堂田林に腹を立てたが、桐山 美獣とスライスラーは、素直にそれに従い、外に出た。
護送車に入っていた人間の兵士対戦闘ロボットスプリングバルーンの銃撃戦、いや、戦争が始まる。
ジャパン・ストロンガーズを乗せていた護送車の運転手は、
「どうなってるんですか!?」
とフゴウコーポレーション本社にクレーマーのようにスマホで通話し、事実確認をするが、返答を聞く前にスプリングバルーンに運転席の扉を開けられ、撃ち殺されてしまう。
彼の血飛沫がかかった小さな防弾の窓を見て、荒巻は、
「どうなってるんだ!?」
と運転手と同様の動揺の声を上げる。
「どうなってるもこうも、私達も戦うしかないでしょう」
と言って、怪人童貞3号は、自らのアポンツ能力で自らの愛銃である片手撃ち式変体型ガトリング砲パイオIID改を召喚しようとした。
瞬間、青紫色の濃いまだらな光の穴が童貞3号を飲み込み、消えた。
「どうなってるんだ!?」
とまた、荒巻は、自分のギャグかのように動揺を繰り返した。
童貞3号は、自らのアポンツ能力を強化する実験装置をフゴウコーポレーションによって、装着させられていた。
その装置が暴走し、童貞3号は、時空嵐の穴に飲み込まれ、再び、別世界線に強制転移されてしまったのだ。
彼の代わりに彼の愛銃であるパイオIID改だけが、ごとっと音を立て、その場に残った。
護送車の中に一人残された荒巻 則夫は、外から迫って来るスプリングバルーンの大群を見て、そのパイオIID改を手にした。
ナノテクダイヤモンド繊維の戦闘スーツのおかげで、スプリングバルーンに撃たれても、即死はしないが、荒巻 則夫には、自らのフィジカル以外に他に頼る武器がなかった。
しかし、パイオIID改は、童貞3号専用武器。生体認証でロックされているパイオIID改を荒巻は、本来なら使用できないはずであった。
が、奇跡的に時空嵐が一瞬とはいえ、発生した事による磁場の影響で荒巻 則夫の掴んだパイオIID改は、起動した。
銃を使用した事のない荒巻は、でたらめにパイオIID改を乱射したが、パイオIID改自身が自動でスプリングバルーン達を敵として、ロックオンし、銃弾で捉えた。
通常の銃弾で傷一つつかないスプリングバルーンは、パイオIID改の異世界製の特殊な銃弾によって、貫かれ、大量に戦闘不能になる。
「こいつ、凄げぇ〜!!」
荒巻は、童貞3号の力でなければ、とても耐えきれないパイオIID改の射撃の振動に脂肪をぶるぶると揺らしながら耐え、その後もパイオIID改で戦い続けた。
桐山 美獣は、速鍵拳でスプリングバルーンを破壊し、戦っていた。
速鍵拳の甲冑通しは、本来、鉄製の鎧の中の人間の内臓は、破壊できても、鉄自体を破壊しない。
が、フゴウコーポレーションは、桐山 美獣の速鍵拳の甲冑通しという奥義の仕組み、原理を化学的に解明し、強化した。
この世界には、共振と呼ばれる現象がある。
物体に〝共〟鳴する〝振〟動。〝共振〟。
どんなに硬く頑丈に作られた物体でも、その物体を一瞬で粉々に崩落させてしまう揺れ、振動の周波数というものが各物体には独自にあり、速鍵拳の甲冑通しという技は、甲冑の上からその滅びの周波数を手の平の振動で伝えて、〝共振〟作用を起こし、内臓を破壊する。
その各物体に合った滅びの周波数を一瞬のうちにチューニングし、その滅びの周波数通りの振動を発生させ、物体を粉々に破壊する装置を桐山 美獣にフゴウコーポレーションは、速鍵拳の甲冑通しと呼ばれる共振を使った攻撃を倍加、倍増する武器として与えた。
化学技術で強化された桐山 美獣の速鍵拳は、もはや、生物の内臓や細胞だけでなく、合成金属でできたロボットすらも粉々に破壊する。
しかし、彼が破壊できるのは、その手に装着された装置が触れたものだけ。
彼以上にフゴウコーポレーションの化学技術で強化された者がいた。
スライスラーである。
桐山 美獣の速鍵拳を強化する為の共振発生強化装置の応用で、スライスラーの指先の秒間2000万回を超える振動でなんでも切り裂く能力は、さらに強化された。
スライスラーの生み出す振動は、フゴウコーポレーションの作った装置により、さらに鋭利になり、物体のみならず、もはや、空気をも切り裂く。ソニックウェーブいわゆるかまいたちを発生させ、自らと距離のある遠くのものまで、なんなく切り裂いた。
それは、合成金属でできたスプリングバルーンすら例外ではない。
スライスラーは、左手の人差し指と中指の指先を動かすだけで、広範囲のスプリングバルーンの群れを一斉に切断した。
しかし、桐山 美獣も負けていない。
強化された能力で劣っていても、彼には、知恵がある。
桐山 美獣は、スプリングバルーンではなく、地面に手を置いた。
すると、地面は、割れて、大量のスプリングバルーンを飲み込んだ。
スプリングバルーンは、高く跳べても、飛行能力の無い地上兵器だ。
スプリングバルーンに抗う術は、なかった。
桐山 美獣は、共振で地下にある水道管を破壊し、地盤沈下を引き起こしたのである。
地割れに巻き込まれずに生き残ったスプリングバルーンを窓枠に残った埃でも指先でなぞって、拭うようにスライスラーが切断していく。
「ひぃいいっ!私があんな人達と戦うなんて、無理ですよぉ!私の能力、白い虎に変身するだけなんですよ!」
ピクシータイガー白井大河は、ジャパン・ストロンガーズの乗っていた護送車の天井でひよっていた。
「大丈夫。私が秘策を用意してるから」
隣には、加鳥花子がいた。
「じゃん♪」
と加鳥花子は、注射器を二本、取り出した。
「なんですか?これ?」
「魔法少女の魔法少女因子を強化するクスリよ。これを使えば、あなたの獣化の魔法も強化されるわ」
「合法なんですか?」
ピクシータイガーは、おっかなそうに訊ねた。
「合法。なわけないでしょ」
加鳥花子は、ピクシータイガーを睨みつける。
「こんなの使って、後遺症とか大丈夫なんですか?」
ピクシータイガーは、加鳥花子の差し出す注射器を受け取ろうとしなかった。
「ここまで来て、何、ひよってんのよ。じゃあ、このまま、あいつらに殺される?それとも、逃げ出す?あんた一人で逃げて、行く宛があるの?私は、逃げるのなんて、ごめんよ。肝心な時に引いたら、後で後悔するもの」
それは、加鳥花子の実体験から来る本音だった。
彼女は、ピクシータイガーの目の前で注射器を首に打ってみせた。
数秒、間を置いて、
「ほら、なんともないでしょ」
と両腕をWの字に曲げて、広げる。
しかし、それは、彼女のパフォーマンスだった。
ピクシータイガーは、恐る恐る注射器に手を伸ばし、自らの首に打った。
数秒、間を置き、
「ほんとだ。なんともない」
と安心して、胸を撫で下ろすが、
加鳥花子は、
「どうかな?」
とおどける。
「え?それって?どういう」
意味?とピクシータイガーが訊く前に加鳥花子は、ピクシータイガーを護送車の天井から突き飛ばした。
ピクシータイガーの体は、みるみるうちに白い虎に変わり、巨大化し、背中には、翼が生え、頭には、角が生え、尻尾は、六匹の大蛇となり、目は、赤くなって、6つに増えた。
「私が打ったのは、ただの生理食塩水。あんたが打ったのは、クスリじゃなくて、魔人細胞。魔人少女キメラタイガーの御誕生おめでと〜う」
加鳥花子は、ぱちぱちと拍手する。
自重で翼が生えても、飛べないキメラの白井大河は、地面に落ちて、咆哮を上げる。
そして、スプリングバルーンとの戦闘で生き残ったジャパン・ストロンガーズ以外の兵士に噛みつき、噛み砕き、貪り喰って、次々と襲いかかった。
それを見て、加鳥花子は、
「理性もブッ飛ぶ効き目ね」
と笑った。
「私が魔法少女と同盟なんか組むわけないでしょ。本当なら、あのピクシースパイスっていういけ好かない奴も魔人化させたかったけど、仕方がない。あんただけで我慢してやる。今は、ね」
「あれは、」
後ろからキメラタイガーと化した白井大河の咆哮が聴こえ、自分達の乗って来たトラックの天井の上に見知らぬ魔法少女がいるのを桐山 美獣とスライスラーは、同時に視認する。
「誰だ?あいつは?あんな魔法少女いたか?」
桐山 美獣が目を細める。
「ここからだとパンツ丸見えだな」
それが桐山が聞く初めてのスライスラーの発言だった。
「マジか」
桐山達が加鳥花子に気づいたのを加鳥花子も気づき、彼らの方を見る。
「私は、電脳の魔法少女ピクシーサイバー」
「あんな奴、いたか?」
「青紫のレースだ」
「もう、いいよ」
「私の能力は、機械を操ること」
加鳥花子が能力を開示した瞬間、桐山 美獣とスライスラーの身体は、勝手に独りでに動き出し、互いの近く、手が互いの身体に触れられる距離まで進み、向かい合わせになった。
「なんだ?これは?どうなってる?」
「おそらく、あの少女が操ってるんじゃないか?」
とスライスラーは、初めてまともな事を言った。
「戦闘力を上げようとナノテクの戦闘スーツにしたのが、仇となったわね。あなた達は、すでに私の操り人形よ」
「これ、まずいんじゃいか?」
「桐山」
「なんだよ?」
「俺、童貞なんだ」
桐山がスライスラーに次の言葉をかける前にナノテクスーツを着た桐山の身体は、動き出し、スライスラーの心臓のある胸部に手を当てた。
スライスラーのナノテクスーツに包まれた左手がブィイイン!と電動ひげ剃りのような音を立てている。
もちろん、それは、彼らの意思ではない。
桐山が速鍵拳の甲冑通しの共振作用でスライスラーの心臓を破壊するのと、スライスラーが左手で桐山の首を切断し、跳ね飛ばすのは、同時だった。
二人は、さけるチーズのように仰向けで倒れた。
その最中、荒巻 則夫は、パイオIID改を使って、魔人少女キメラタイガーを相手に必死で戦っていた。
「オラ!オラ!オラ!オラ!オラぁ〜!!あれ?あれれ?」
しかし、頼りのガトリング砲は、急に回転が止まり、銃弾を出さなくなった。
弾切れである。普段なら、童貞3号がアポンツ能力で銃弾を無限装填するので、弾切れになる事は、ないのだが、荒巻 則夫に童貞3号のようなアポンツ能力は、ない。
弾を避ける必要の無くなったキメラタイガーは、
「ガルルルッ!!」
と喉を鳴らしながら、荒巻に近づく。
「ぶひえ〜!!見た目が怖すぎるぅ!!」
荒巻は、パイオIID改をその場に捨て、トラックの中から外へと一目散に逃げ出した。
キメラタイガーは、トラックの中の麻酔タンクの蝉川には、目もくれず、野生の本能のままに、荒巻を追いかけた。
加鳥花子は、勝利を確信し、護送車の天井の上からフゴウコーポレーション本社を眺め、
「私をいいように利用してくれた礼は、きっちり払ってもらうぜ、フゴウ・タカラ。魔法少女だろうと天下の大財閥のフゴウコーポレーションだろうとな。私に舐めたマネをした奴らには、全員、地獄に落ちてもらうぜ」
とそう息巻いた。
が、何かに首を強く圧迫されてしまう。
今まで息を潜めていた透明な何者かが彼女の首を絞めていく。
「フゴウの旦那が言った通りだぜ!テメェら、操作型の能力者は、意識外のものを操れない!自分が知覚したものしか操れないんだ!」
透明化している刺客は、堂田林 猛だった。
「クラーケンマン戦で透明化って能力の凄さを思い知ったからよぉ。フゴウ様に俺のスーツにもその機能、足してくれって注文したんよ。そしたら、もうできてるつって、俺らにナノテクスーツをくれたんだわ。さすが、天下のフゴウ財閥だよなぁ」
加鳥花子は、堂田林が嬉しそうに喋っている間、もがいていたが、
「ああ、無理無理。プロの裸締めは、完ぺきにキマるとプロの格闘家でも解くのは、無理なわけ。あと、5秒で天国にイケるから、おとなしくしてな」
と堂田林に愉快そうに言われ、膝を地面に落とし、気を失いそうになったが、既で留まり、
「おじさん、出番だよ」
と息を吐いた。
瞬間、加鳥花子達の足場であるトラックの天井を突き破り、出てきた12本のイカの触手が堂田林を包み込んだ。
加鳥花子がスプリングバルーンとは、別動隊で操っていた飛行ドローンが、すでに蝉川秀一を解放していたのだ。




