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ピクシースパイス ―魔法少女大戦―  作者: 弥馬田 ぎゃん


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古生白子の行方

ピクシースパイス古生小梅を乗せたピクシーブルーファイア藍井ノエルの運転するワゴン車は、ピクシースパイス古生小梅の実家の前で停車した。

「おかしい。明かりが点いていない」

ワゴン車の助手席から白い2階建ての家を見上げ、ピクシースパイスは、不安げな声が漏れる。


「もう寝てるんじゃないのか?」

ブルーファイアは、たいした関心も無く、言った。


「私の親は、まだ、そんな年寄りじゃない」

ピクシースパイスは、ワゴン車から飛び出し、外階段を登り、玄関の扉を

「お母さん!お母さん!私よ!ねぇ、いるの!?」

と激しく、叩いて、大声を上げた。


「鍵、持ってないの?私の爆音魔法でぶっ壊すぅ?」

後ろをついて来たピクシーミュージック轟 響が訊ねる。


「やめて。まだ15年もローンが残ってる」

ピクシースパイスは、玄関脇の鉢植えの下から合鍵を取り出し、玄関の扉を開け、中に入ろうとした。


そこで隻腕のブルーファイアに肩を掴まれ、

「待て」

と止められる。

「もう、お前が脱走して、だいぶ時間が経ってる。中で警察が待ち構えてるかもしれない。私も一緒に入ろう」


「じゃあ、私も行くわな♪」

二人について来ようとするピクシーミュージックをピクシースパイスが止める。

「やめて。まだ15年もローンが残ってる」


「そうだ。誰かは、車に残って、総理を見張っとかないと。いつ、起きるか、わからない」

ブルーファイアが冷静にピクシーミュージックを説得する。


「起きたら、どうしたら、いいんだわな?半殺しor全殺しぃ♪」


「福音魔法でもう一度、寝かせればいい。福音魔法には、回復効果だけじゃなく、強烈な睡眠効果があるからな」


「アイアイサー♪」

ピクシーミュージックがるんるんとワゴン車に戻っていくのを見ながら、〝そんな方法があるなら、総理官邸を爆撃なんかしないで、福音魔法で警備兵を全員、眠らせれば良かったんじゃないの?〟とピクシースパイスは、思ったが、ここで言い合いをしても、不毛なので、何も言わずに家の中に入った。

家の中は、外から見た通り、照明が一つも点いておらず、静まり返っていて、まるで他人の家のようだと思いながら、ピクシースパイスは、ゆっくりとリビングの扉を開けた。

やはり、変だ。とピクシースパイスは、改めて、気づく。

このリビングには、違和感しかない。

何故なら、いつもこの曜日のこの時間、ピクシースパイスの母親 古生こしょう白子しらこは、相棒を見ているはずだからだ。昼の再放送も掃除や洗濯などの手を止めて、かならず、ウォッチングしている程の相棒好きのピクシースパイスの母がこの時間、家におらず、外出してるなどありえない。


ピクシースパイスがテレビを前にし、リビングの中央で固まっていると、後ろから来たブルーファイアが

「母親が帰ってなくても、父親は、帰ってるんじゃないか?」

と訊ねる。


確かに、リビングには、中年男性特有の加齢臭が充満していた。

「父は、海外勤務よ」

そのピクシースパイスの一言にブルーファイアの目つきが変わる。

「スパイス、すまないな」


「え?」


「ローンあと15年なんだろ?」


「そうだけど?」


「燃やすぞ」

リビングだけでなく、ピクシースパイスの実家全体が青い炎に包まれる。

ピクシースパイスは、それを自らを魔法障壁で囲って、ガードした。

青い炎が物凄い勢いでピクシースパイスの家を燃やし尽くす中、露わになったのは、いつの間にか、彼女達を取り囲んでいた10人の火だるまだった。

「透明化の機能付きに耐火素材……フゴウコーポレーション社製か」

ブルーファイアがその火だるま達を見ながら、つぶやくと、その火だるまのうちの一人が

「よくわかったな」

と答えた。


「その声、魔人対策課の本郷か?」

ブルーファイアが確信して、訊ねる。

本郷達は、自らについた火を払って、ナノテクダイヤモンド繊維の戦闘スーツ姿を露わにする。


「今は、魔人対策課ではなく、北大阪府警預かりの魔法少女対策緊急強襲部隊だよ。誰かさん達のせいでな」

本郷は、そう言って、一歩前に出る。

ブルーファイアは、身構えるが、すでに彼女のガス熱並の青い炎は、彼らの戦闘スーツに通用しないのは、実証済みだ。

本郷は、

「お前らは、すでに詰んでいる」

と断言した。

「ピクシーミラージュの能力の化学的再現、お前の炎の対策だけじゃない。フゴウコーポレーションは、お前ら魔法少女を研究し尽くしている。本当なら、お前らが気づく前に後ろから、テーザー銃じゃなく実弾を撃ち込む事もできた。俺達がそれをしなかったのは、ここにいる全員があの魔人達との戦いをお前達と共に戦ってきた戦友だからだ。投降しろ。フゴウコーポレーションのテクノロジーの前では、お前ら、魔法少女に勝ち目はない」


「断る」

ピクシースパイスが答える前にブルーファイアが力強く言った。

本郷達は、テーザー銃を構えた。

「仕方ない。使いたくない手だったが……」

と言う本郷のハンドサインですでに黒こげで炎が収まりつつある玄関の方から、さらに二人、戦闘スーツを着た本郷の部下が現れる。

その二人に両脇を抱えられ、捕縛されているピクシーミュージックは、すでに意識を失っている。

「安心しろ。生きている。テーザー銃で気絶させただけだ」


「人質か?らしくない手だな、本郷」

ブルーファイアは、気づかれない程度に目尻をぴくっと一瞬、震わせた。


「倫理観のない魔人達には、使えなかっただけだ」

本郷は、再び、

「投降しろ」

と言った。


ピクシースパイスは、迷わず、戦闘スーツを着た隊員達全員に向け、スパイス魔法を発動した。

本郷達は、一瞬だけ身をぴくりと震わせたが、それだけだった。

誰一人として、テーザー銃を下ろさず、戦闘態勢を解く者は、いない。


「スパイス魔法か?無駄だ。俺達は、もう魔人対策課じゃない。魔法少女対策緊急強襲部隊だ。すでに抗体ワクチンは、打っている。諦めて、投降しろ。お前らは、詰んでいる」

人情家の本郷が説得を試みている間にピクシースパイスは、魔法障壁を出現させ、魔法障壁でできたボックスの中に本郷達を一人ひとり閉じ込めた。

「無駄だ」

本郷は、余裕を崩さなかった。

「隊員、全員、抜刀!!」

本郷のその掛け声で閉じ込められた隊員達が一斉にナイフを取り出す。

それは、蝉川秀一が対ピクシーブロックで使ったナイフと同じもの。

フゴウコーポレーション社製の秒間1000万回震える超振動型ナイフ――。

それを使えば、魔法少女の作る魔法障壁など安々と切り裂く事ができるはずだった。

が、

「なんだ!?この異様に硬い魔法障壁は!?」

と本郷が驚く程、ピクシースパイスが作った魔法障壁は硬く、刃先をいくら立てても、切るどころか刺さりもしなかった。


「私が師匠と作り上げた魔法障壁は、そんなナイフが通じる程、ヤワじゃない!!」

本来なら、そのまま魔法障壁のサイズを小さくしていき、圧縮して押し潰し、敵を殺すのが、無慈悲の魔法少女の定石だが、ピクシースパイスは、それをしなかった。魔対の隊員達は、ピクシースパイスにとっても、戦友だったのだ。

ピクシースパイスは、魔対の隊員を魔法障壁で閉じ込めたまま、そのボックスを縦に横にとぐるぐるとシャッフル、回しに回した。

隊員達は、平衡感覚を失い、視界がぐらぐらぐるぐると揺れ回り暴れて、吐き気をもよおす。

「私のお母さんは、何処に行ったの?何処に連れて行ったか、言うまで、これを永遠に続けるわよ」

ピクシースパイスは、これですぐに母の行方を知れると思っていた。

しかし、魔法障壁のボックスに閉じ込められ、自身も回しに回されている本郷が、

「お前ら、絶対、言うんじゃねぇ!!テロリストの言うことなんて、聞くんじゃねぇぞ!!魔対魂見せろ!!」

と怒鳴ると、

「誰が言うもんか!!」

「魔対魂なめんじゃねぇ!!」

と隊員達は、同調した。

仕方なく、ピクシースパイスは、隊員達を閉じ込めた魔法障壁をぐるぐると回し続ける。

が、本郷を含めた隊員達は、

「我ら大阪の正義の星ぃ  府民を守る盾となり、  悪を討つ剣となるぅ  屍の山ができても、  鉄の意志で繋がった仲間と共にぃ  乗り越えるぞ戦うぞ  一人になっても、諦めない  何故なら心は、いつも仲間と共にぃ  魂、燃やせっ  OHSAKA MATAI!!」

と大合唱を始めて、幾らピクシースパイスの母の行方を聞いても、誰も答えない。


「おっさん供が!何、青春してんだ!気持ち悪い!付き合ってられるか!」

痺れを切らしたブルーファイアが本郷を閉じ込めた魔法障壁のボックスを炎殺魔法の青い炎で炙り始めた。

「耐火仕様の戦闘スーツでも熱が無くなるわけじゃない。こうやって炙っていれば、中の酸素が無くなり、酸欠になるだろう。本当に仲間が一人ずつ炙り殺されて、たった一人になっても、魔対魂っつーのを見せてくれるか試させてもらおうじゃないか」

ピクシースパイスは、ブルーファイアの発想にゾッとした。ついこの間まで、正義の味方だったのに、なんていうヴィランぶり。彼女が今のところ、味方についている事が有り難くもあり、恐ろしくもあり、気持ち悪くもあり、精神を穢される想いもあったが、他に母の行方を知る名案が思いつかなかった為、そのまま魔法障壁のボックスを維持し続け、本郷が炙られるのをただ見続けた。

本郷は、顔を赤紫にして、そんな事をすれば、余計に酸素が無くなるのに

「魔対フォーエバー!!」

と狂気じみて叫んでいた。

これでは、まるで正義の殉教者だ。

しかし、そんな本郷の抵抗は、無駄に終わる。


「やめろ!それ以上は、やめてくれ!!古生白子の居所を言うから、隊長を殺さないでくれ!!」

あまりの地獄めいた光景に隊員の一人が音をあげたのだ。

ブルーファイアは、青い炎の放出をやめた。

「やめろ!!言うんじゃない!!斎藤!!」

本郷は、赤紫の顔のまま、泡を吹き、止めようとするが、斎藤は、

「隊長、すみません!!」

と一礼し、

「古生白子さんは、フゴウコーポレーション本社にいます!!」

と白状した。

ピクシースパイスは、その瞬間、すべての魔法障壁を解いた。

自由になった魔対隊員達は、限界まで身体を揺り動かされ、回転させられたので、誰一人として、立ち上がる事ができない。

黒こげの床に這いつくばりながら、呼吸を整え、本郷が

「ピクシースパイス。いや、古生小梅。お前、このまま、テロリストになるつもりか?俺達が今まで共に戦ってきたのは、正義の為じゃなかったのか?」

と訊く。

ピクシースパイス古生小梅は、いろんな事が短期間に起こり過ぎて、善悪の境目がすでにわからくなっていたが、

「フゴウコーポレーションも正義じゃないよ」

となんとか言い返した。



――フゴウコーポレーション本社――

ピクシースパイスの母、古生白子は、薔薇園となっている温室内の白い丸テーブルを前にして、白い椅子に座り、白いティーカップでアールグレイを飲んでいた。

「あのポイリーさん、本当にここで待っていれば、娘は、無罪になり、釈放されるんですか?」

古生白子に訊かれ、黒の燕尾服を着たポイリー・カタルシスは、空になったティーカップにアールグレイをティーポットで注ぎながら、

「ええ」

と済まして、答える。

そこで携帯が鳴り、ポイリーは、ティーポットを起き、携帯の通話ボタンを押し、耳に当てる。

「はい、そうですか。本郷さん、ご苦労様でした」

ポイリーは、通話を切る。


「あの本郷さんって、確か娘の同僚の魔対の人じゃありませんか?」

古生白子は、おかっなそうに遠慮ぎみにポイリーに訊ねた。


「ええ、今、あなたのお嬢さんがこちらに向かっていると連絡をしてくれました」


「本当ですか!?」

と状況を知らない古生白子は、顔がパッと明るくなる。

それを優しい目で見つめて、ポイリーは、ライフルを手に取った。


 ?


「ポイリーさん、何を?」

何も知らない古生白子は、きょとんとした顔になる。

その表情と対峙しているポイリー・カタルシスは、平然と

「決まっているでしょう。フゴウ家のタカラ様の執事としての当然の役目を果たすのです」

と答え、ライフルに弾を装填した。

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