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ピクシースパイス ―魔法少女大戦―  作者: 弥馬田 ぎゃん


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34/54

敵は、敵の顔をしていない

新大阪都庁の地下13階の特別収容所を出てから、柳さんは、「説明する!説明するから!今は、待って!」の一点張りで私の質問に答えなかった。

私は、仕方なく柳さんの後をついて行き、新大阪都庁の39階の元魔法少女課化学分析班のラボに入った。

すでに化学分析班は、解散していて、研究員は、今は、柳さんだけしかいない。

私達だけしかいない部屋で柳さんは、PCを操作し、しばらく、無言だったけど、

「おし、この部屋の監視システムを遮断した。これで喋れるぞ」

と言って、私の方を向いた。

「っと言っても、何から伝えればいいのか、わからないんだが……」


口ごもる柳さんに私は、

「久保田が言ってた柳さんが魔法少女狩りに魔人細胞を横流ししたって本当のことなんですか?」

と訊いた。


「違うんだ。ピクシー。結果的にそうなってしまっただけで、俺は、魔法少女狩りに魔人細胞を横流ししてるつもりなんて、これっぽっちもなかったんだ。俺は、ただ化学の発展の為に……人類の為になれば、と思って」


「柳さん、あなた、何をしたんですか?正直に全部、言ってください」


「言うよ。今から言うから……コーヒー飲むかい?」

と言いながら、柳さんは、コーヒー豆を挽いてドリップできる機械に近づく。


「いらないですから、事実だけを早く言ってください」

私の言葉に怒気が込もっているのを気にしてか、自分の分だけのコーヒーをカップに入れて持ってきた柳さんの手は、わずかに震えていて、あきらかに動揺していた。

柳さんは、コーヒーを一口すすって、一呼吸置いてから、

「魔法少女課が解散になって、化学分析班も解散になっただろ」

と話を始めた。

「それでクラーケンマン時東誠人や久保田和也の遺体から採取していたクラーケン大魔人ラブリーの魔人細胞の研究がラボで続けられなくなった。クラーケン大魔人ラブリーの魔人細胞の再生能力が桁外れなのは、君も知っているだろ?クラーケン大魔人ラブリーの人格の精神干渉さえクリアすれば、あの魔人細胞は、とんでもない医学の発展に繋がる。どの人間の細胞にも拒絶反応を起こさず、適応し、再生能力だけを上げてくれるまさに魔法のような万能細胞さ。あれを上手く医学に応用できれば、事故で足や腕を失った人を一日で元に戻せる。それだけじゃない。あの魔人細胞の研究を続ければ、俺のような遺伝的な不遇に見舞われた人も理想の身体を手に入れられるかもしれないんだ」

柳さんは、そう言って、自分の大人にしては、小さすぎる身体を示した。


「それで、あなたは、何をしたんですか?」

私は、憎しみや怒りや悲しみともつかない目を彼に向けた。


「どうしても、魔人細胞の研究は、続ける必要があった。化学者として諦めるわけには、いかなかったんだよ。あんな奇跡みたいな再生細胞を国に言われるまま、処分するなんて。だから、魔人細胞は、フゴウ・コーポレーションの生物化学セクションに横流しして、研究を続ける事にしたんだ。魔法少女狩りの件が済んだら、俺も研究員として雇ってもらう契約だった」


「それが、なんで魔法少女狩りの手に?魔法少女狩りを捕まえたのは、ジャパン・ストロンガーズとダイヤモンドダスト。つまり、フゴウ・コーポレーションでしょ?」


「おそらく、魔法少女狩りとフゴウ・コーポレーションは、裏で繋がってたんだろ。俺もその事に気づいたのは、最近の事さ。わかってたら、魔人細胞なんて横流ししなかった。もう、後の祭りさ。これが、バレたら、間違いなく、俺は、糾弾されるだろう」


「ちょっと待って。じゃあ、フゴウ・コーポレーションが魔法少女狩りを退治し、捕縛したのは、自作自演?大変、柊室長にこの事を知らせて、今すぐ、政府に動いてもらわなくちゃ!本当の黒幕は、フゴウ・コーポレーションだって、伝えないと、日本の防衛機関が全て、奴らに乗っ取られる!!」

部屋を飛び出そうとした私の手を柳さんが力強く掴む。

「ピクシー、よすんだ!!」

と言う柳さんを私は、強く睨んだ。

「何故、止めるの!?」


「事態は、もう俺達個人じゃどうにもできない程、大きくなっている。この国で今、フゴウ・コーポレーションに逆らったら、消されるぞ!!」


「あなたのせいで、もう魔法少女が何人も死んでいるのよ!!これ以上、大人として間違った事をしないで!!」


怒鳴る私に向かって、何故、そんな表情ができるのか、今度は、柳さんの方が怒気の混じった目で睨みつけてきた。

「誰が君だけでも、生き残れるように手配したと思っている!!このまま、何も知らないフリをして、退化剤を打てば、君は、生き残れるんだから、それで、いいだろうが!!」


私は、魔法障壁で作ったレンガのブロック程のかたまりを柳さんの腹部におもいきり、くらわした。

柳さんの手が私から離れ、私は、飛行魔法で飛び立つ。

後ろから、柳さんが

「考え直すんだ!!ピクシー!!」

と叫ぶ声が響くが、無視して、扉も壁も魔法障壁で弾き飛ばして、猛スピードで40階の元魔法少女課室長室へ向かう。


柊室長なら、真実を知れば、なんとかしてくれる。かならず……!!


私が元魔法少女課室長に飛び込むと、柊室長は、普通にデスクで事務仕事をしているようだった。

「どうしたんだ?ピクシースパイス?戦闘服なんか着て。今日でお前は、魔法少女を引退して、ここには、もう用はないはずだろう?退化剤は、まだ打ってないのか?」

セレモニーからずっと着っぱなしの私の薄ピンク色のミニスカドレス姿に柊室長は、多少、面をくらっているようだった。


「柊室長にどうしても、お伝えしなければ、いけない緊急の事案がありまして……」

私は、柊室長を前にすると、自然と緊張して、息が上がった。


「私は、もう室長ではないが、なんだ?聞こう。簡潔に話せ」


「その……、魔法少女狩りに魔人細胞が渡っていたのは、柳班長がフゴウ・コーポレーションに魔人細胞を横流ししていたからで……その、つまり、フゴウ・コーポレーションと魔法少女狩りは、裏で繋がっていたんです……!!」


「ああ、そうだ。それが、どうした?」

私は、柊室長の言葉に頭が真っ白になった。

ああ、そうだ。それが、どうした?……って!?


「まさか、室長……。すべて、御存知だったんですか?」

私は、声だけじゃなく、全身が震えた。ひんやりと目の前の世界が固まっていく。


「魔法少女狩りのせいで、全身骨折の瀕死状態だったはずの私が何故、今、こうやって、デスクで普通に仕事ができてると思う?」

柊室長がそう言った瞬間、私は、壁に叩きつけられた。

そのまま、壁にへばりついて、動けなくなる。

私を拘束しているのは、12本のイカの魔人の触手――。

その触手は、柊室長と繋がっていた。いや、柊室長の右腕と化していた。

「まったく、スゴいよな。クラーケン大魔人ラブリーの魔人細胞は。瀕死だった私が今は、こんなにもパワーが溢れている。凄まじい全能感が私の脳髄を駆け巡っているよ」


「柊室長、あなたも久保田和也のようにクラーケン大魔人ラブリーの人格に操られて……」


「いや、それは、ないな。私には、ブレイン魔法思考ジャックがある。自分で自分の脳を操って、制御してるから、クラーケン大魔人ラブリーの精神干渉は、まったく、受けていない」


「なら、どうして……?」

柊室長の巨大なイカの触手に押し付けられて、その圧力で私は、息を吐くのも苦しい中、訊ねた。


「私から進んで、フゴウ・コーポレーションのモルモットになったんだよ。18歳をとうに過ぎて、弱まった思考ジャックの能力に代わる新たな全能感を手に入れる為にな。まだ、現役の魔法少女のお前には、わからないだろう。魔法少女でなくなる意味、元々、備わっていた力の喪失、それによって、薄まる自己の存在感、自己肯定感、特別じゃない普通の人間になっていく事の苦痛……」


「力を手に入れる為に仲間を売ったのか……!?私たち魔法少女を犠牲にして、フゴウ・コーポレーション側についたというの……!?まさか、魔法少女狩りが始まった時から……ずっと、私たちを裏切っていたの!?」


「私は、正義の魔法少女じゃない所詮は、自らの利得で動く人間なんでな。接触しなければ、発動できない程、弱まった私の思考ジャックの力もイカの魔人の圧倒的フィジカルを手に入れ、これで完全にカバーできるようになった。お前ら、魔法少女なんて、いくらでも、犠牲にするさ」


「そんな信じていたのに……柊室長は、いつも私たちに厳しくて、とっつきにくいところもあるけど……正義の為に動く人だって……」


「善か悪かなんて、関係ないんだよ。ピクシースパイス。フゴウ・コーポレーションのやり方は、確かに善悪論で言ったら、間違っている。だが、フゴウ・コーポレーションに任せておけば、いずれ、魔人細胞を使った一般療養が広まり、誰も死なない時代が来る。誰も死ななくて済むお前ら、魔法少女の要らない時代が来るんだよ。私は、今ある正義より利得のある未来を選らんだ。それだけの話だよ」


「そんな未来、クソ喰らえだ……そんなものの為に仲間たちを見殺しにした、あんたを私は、絶対、許さない……」

私は、スパイス魔法を発動させ、麻痺させて、柊室長の触手による拘束を解こうとした。

魔法少女側だった柊室長は、大魔人会のDr.ゲルリオンの開発したスパイス魔法の抗体ワクチンなど打ってないはずだ。

しかし、私のスパイス魔法は、発動できなかった。


「無駄だ。ピクシースパイス。お前は、すでに私と接触して、私の思考ジャックの支配下にある。今は、ゆっくりと眠っていろ。目覚める頃には、すべてが終わっている」

私は、抵抗しようとしたが、体がいうことをきかない。

ゆっくりとまぶたが閉じていき、思考がとろんと支配され、私の意識は、そこで途絶えた。

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