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ピクシースパイス ―魔法少女大戦―  作者: 弥馬田 ぎゃん


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33/54

戦いは、終わった。 魔法少女引退の時 最後の魔法少女

私が病院で目覚めた時、あのピクシーブロック師匠の灰色のミニスカドレスを勝手に着ていた金髪ボブヘアの女に付けられた腹部の傷は、跡も一切、残らず、まるで魔法をかけられたように、すでに治っていた。

いったい、どんな名医があの致命傷を治したというのか――、大量に出血し、肉もえぐれていたというのに――、病院の誰に聞いても、それは、わからなかったけれど、ピクシーブルーファイアと共に今も逃亡中だという裏切りの魔法少女がピクシーミュージックだと聞いて、ああ、彼女がまた天然で私を助けたんだなと悟った。

ピクシーブルーファイアとピクシーミュージックは、未だ捕まっておらず、全国指名手配中だけれど、裏切りの魔法少女のうちピクシータイガーちゃんだけは、捕まり、今は、新大阪都庁の地下13階の特別収容所に収監されている。

弥馬田グフ子ちゃんについては、未だ、生死不明で行方不明。

未来予知の魔法少女ピクシーオールディクショナリーは、世界の何処かにある秘匿施設で今も安全に守られている。

その他の魔法少女については、敵味方関わらず、全員の死亡が確認された。

魔法少女課に在籍していた現役の魔法少女で、魔法少女狩りに加担した裏切り者ではないうえに北大阪府シティに残っていて、生存している魔法少女は、ピクシースパイス古生小梅、私だけだと新大阪都庁の職員が知らせてくれた。

私が見た金髪ボブヘアの魔法少女もどきについては、あきらかに魔法少女狩り蝉川秀一の仲間である事が推定されたが、北大阪府シティ中のどの監視カメラの映像記録にも残っておらず、私の証言だけが頼りなこともあり、目下、捜索中であるが、未だ捕まっていない。

クラーケンマン久保田和也と魔法少女狩り蝉川秀一は、魔法少女に代わる日本の新たな防衛組織ジャパン・ストロンガーズとダイヤモンドダストというヒーローが退治してくれたようで、生き残った私は、何故か彼らと共闘し、新大阪都庁や柊室長を守った事になっていた。

目覚めてから、即日退院した私は、表彰するので、来てほしいと新大阪都庁前で行われるジャパン・ストロンガーズ設立発表記者会見のセレモニーに呼ばれた。

新大阪都庁の火災跡を隠すように赤絨毯や花飾りで彩られた壇上に上がった私をテレビカメラが一挙に捉え、おびただしい程のフラッシュを焚いた。

目がチカチカして、細目の渋い顔になる私を出迎えたのは、なんと時の内閣総理大臣 泉 総一郎だった。

泉総理は、私のありもしない新大阪都庁での防衛戦の活躍を褒め称えると私の胸元に勲章を付け、国民栄誉賞を与えると宣言し、両手で握手し、私の身を引き寄せ、同じカメラの画角に収まり、数秒白い歯を見せた優しい笑顔を向け、静止した。

そして、私の耳元へ向け、私にしか聞こえない声のボリュームで

「色々、大変だったね。君のこれからの生活は、国が保障するから、今は、ゆっくりと休みたまえ」

ささやいた。

浮足立ち、胸がほわほわと高揚していた私は、顔と頭がライトで熱くなるばかりで、返事一つまともにできなかった。

ぼわっとしたまま、壇上の中央でフラッシュを浴び続けていたが、セレモニーの司会進行の有名な大阪芸人が、

「それでは、皆様、今まで日本の平和を守り続けてきた本日限りで引退なさる魔法少女課最後の魔法少女に温かい拍手を〜!!」

と促したことで、自分のセレモニーでの役目は、終わったのだと悟り、壇上から降り、元魔法少女課の化学分析班の班長の柳 大和さんが先導するまま、群衆から離れ、まだ焼け跡の残る新大阪都庁に入っていく。

後ろから、また有名な大阪芸人の声で、

「それでは、これからの日本を守る新たな防衛組織、ジャパン・ストロンガーズとそのリーダー ダイヤモンドダストの紹介に移りたいと思います!」

と言うのが、聞こえた時点で、私は、はっ!と

「最後の魔法少女?本日限りで引退!?」

と自分が先程、何を言われたのか、知覚し、とろとろのバターのように熱で溶けていた脳がまともに動き、働きだす。

「どういう事ですか?柳さん?」

と私は、弟のように背の低い何歳も年上の柳さんの背中に向け、訊いた。


柳さんは、振り向いて、

「どういう事って、そのままの意味だよ。これからは、ジャパン・ストロンガーズとダイヤモンドダストが日本の平和を守るから魔法少女は、不要になったんだよ。魔法少女狩りに加担する犯罪者も魔法少女から出てしまったからね。君もそうならないように、今から、君には、退化剤を打ってもらう」

といつもと違う素っ気ない役人行儀的な物言いで言う。


「そんな急すぎますよ。ブルーちゃんは、仲間として、私が捕まえたいし、退化剤を打つなんて、私、了承した覚えないですよ!」

少し険が立つのも、おそれずに私は、言った。

柳さんは、信頼できるし、話せば、わかってくれる大人だ、と思っていた。


しかし、柳さんは、

「了承もクソも関係ねぇんだよ!」

と荒っぽく怒鳴った。

「魔法が使えるって時点で、お前らは、もうテロリスト予備軍なんだよ!魔法少女狩りの件みたいに敵側に付かれるような事が万が一にも、あったらいけない強力な力を持ってるんだよ!お前ら、魔法少女は!!自分が危険分子だって、自覚しろよ!」


「柳さんも私たち、魔法少女を危険分子と思ってるんですか?私が急にテロリストになるような奴に見えてるんですか?」

私は、声が震えた。

柳さんは、答えない。

「答えてよ!!」

と怒鳴った時、私の目から涙が一筋、勝手にこぼれていた。


「ピクシー、お前、もう18だろ。18って言ったら、もう大人だろ。察しろよ。俺だって、こんな事、言いたくて、言ってるんじゃない」

柳さんは、顔をくしゃりとさせ、うつむいて、目をつむり、動かなくなった。

いい歳をした大人の男性を泣かせてしまった。

柳さんが難しい立場に立っているのは、立ちたくもない立場に立たされているのは、間違いない。

わがままを言っているのは、自分の方だ。

こどもみたいな事を言ってるのも。

こどもみたいな事を言って、困らせてるのも。

わがままを言っていいのは、こどものうちだけなのに――。

私は、

「わかりました。私、退化剤を打ちます」

と返答した。


「そうか。わかってくれたか。すまんな」

柳さんは、赤くなった目を開いて、いつもの優しい口調になった。


「ただ、退化剤を打つ前にクラーケンマン久保田和也に会わせてください」


「なんで?」

と柳さんは、私の思わぬ発言に面をくらったような表情になる。


「退化剤を打つという事は、私、もう魔法少女じゃなくなるって事ですよね?」


「もちろん、そうだ」


「という事は、もうこことは、完全に部外者になっちゃいます。新大阪都庁に来る理由も無くなり、彼と会う権限も無くなります」


「彼って言うのは、久保田和也の事か?それとも、時東誠人?」

柳さんは、私の気持ちをみ取るように訊いた。


「彼がいつから久保田和也だったのか、知りたいんです。それとも、夢洲決戦で時東誠人は、一度、死んだ時から、もうずっと身体を久保田和也に乗っ取られてて、久保田和也がずっと時東誠人のフリをしていたのか。この一年、共に過ごした仲間が存在していたのか、まるっきりの嘘だったのか、この機会を逃すと私は、二度と真実を知れなくなります」


柳さんは、しばらく、熟考してるようだったが、口を開き、

「いいだろう」

と言ってくれ、私を久保田和也が幽閉されている地下13階の特別収容所まで連れて行ってくれた。



久保田和也は、地下13階で一番、広い独房に入れられ、X字に重なった柱に手足を繋がれ、入念に拘束具を何重にもして、くくり付けられてた。

真っ暗な室内で彼だけが、ライトアップされてるので、まるで舞台の主演俳優のようだった。

「これ以上、近づくと危険だ」

と柳さんは、私を彼から3m手前で止めた。


「この匂い……ピクシースパイス。古生小梅か」

アイマスクを付けてる久保田和也が鼻をひくつかせて、そう言った。


「この野郎。麻酔が全身を回ってるはずなのに、首から上は、まだ動きやがる。麻酔に対しても、抗体ができ始めてるんだ。数日中に殺処分しないと、誰にも手が負えなくなる」

柳さんは、暗闇で見えなかったが、歯噛みしてるようだった。


「一つ、あなたに聞きたいことがあって、来たんだけど」

と私は、彼に喋りかけた。


「ん?俺にか?それとも、時東にか?なんだ?言ってみろ。脱獄するまでの暇つぶしに答えてやるよ。最弱の魔法少女」

久保田和也は、顔をしっししと笑みで顔を歪めながら、こちらを窺うように首を少し傾けた。


「あなたは、いつから久保田和也だったの?それとも、死んで蘇生手術を受けてから、ずっと時東さんのフリをしていたの?」


私の質問にすぐには、答えず、久保田和也は、しっししと下卑た声を漏らして、楽しんでいるようだったが、やがて、

「最初から、俺だった。この一年、全部、俺の演技だった」

と言ったが、

「と言った方が面白いが、ここは、あえて、正直に言ってやろう」

と訂正し、自分語りを始めた。

「この一年、お前と喋っていたのは、ほとんど時東だ。奴は、いにしえの神々だのとの契約で精神を保護されていたからな。俺が最初から、乗っ取ることは、簡単にできなかった。古の神々と聞いて、は?なんだ、それは?と思うだろ。そんなもん、本気で言ってんのか?頭、正気か?ってな。もちろん、俺は、そんな妄言は、信じちゃいないさ。昔から、奴は、俺は、悪魔と契約したとか平気で言う中二病の度の越したイタイ奴だったからな。だがな。ここでは、真実なんて関係は、ないのさ。いや、大概の場合において、真実は、関係ない。大事なのは、奴が強く、そう並外れて強く、そう思い込んでいる事で、プラセボ効果なのかなんなのか、事実、俺が奴の精神は、乗っ取れないことだ。そう、真実より事実が全てに優先される。人は、ほぼ思い込みで、できているしなぁ。この奴の思い込みの力に俺が勝てないという事実ある限り、俺は、違ったアプローチをしなきゃ自由には、永遠になれない。だから、俺は、奴の精神を乗っ取るのを諦め、身体を乗っ取ることにした。同じことだと思うだろうが、大違い。精神なんて曖昧なものを掴むより、俺は、奴の細胞一つ一つを俺のものに作り変えるのに、注力したのさ。つまり、奴の精神は、残して、保護したまま、身体だけ少しずつ、ゆっくりとだが、着実に俺のものに入れ替え、身体の主導権を手に入れたってワケ。奴の信じる神様ってやつは、奴の精神は、保護しても、身体は保護するとは、契約していない。だから、細胞一つ一つを奴のものから俺のものへと変化させるのには、何の障害もなかった。これは、屁理屈に近い論理で、俺の思い込みかもしれないが、大事なのは、事実この方法で奴の肉体を俺が乗っ取れた事にある。まぁ、俺が気をつけたのは、奴の精神に身体が少しずつ俺のものに入れ替わってるのを気づかせない事ぐらいだ。完全に身体を乗っ取る前に気づかれて、邪魔されたら、厄介だからな。四六時中、すでに乗っ取った身体の部分を奴の精神が思う通りに動かし、たまに身体が思うように動かないのを検査の日に魔人細胞をわざと少なくして、人間に戻りかけているからだ、と奴に納得させるのには、苦労したよ。そこの柳のダンナが検査で俺の思う通りの誤診をしてくれたおかげで、奴は、人間に戻りかけてるんだと信じ込んでくれたがな」

そこで柳さんが音もなく、小さく呻くのを私は、感じた。

「奴の精神が思う通りの言葉でピクシースパイス、お前と喋るのは、俺にとっては、苦痛だったが、今から思えば、楽しい思い出だよ。99%、奴の身体を支配した今となっては、なっ」

久保田の言葉で今度は、私が小さく呻くと、

隣の柳さんが、

「身体を支配しても、こんな囚われの身では、意味がないだろう」

と言い返す。


が、囚われの久保田和也は、鼻で笑って、

「時間の問題だ。こんなところ、身体を100%支配したら、すぐに出るさ」

と自信を匂わせた。


「本気でここから出られるとでも思っているのか?」

と訊く柳さんに

「本気で俺を止められるとでも思っているのか?」

と久保田和也は、訊き返した。


「バカらしい。ピクシー、帰ろう。これ以上、ここにいても、時間の無駄だ。どのみち、こいつは、俺が上にかけ合って、明日にでも、死刑にしてもらう」

柳さんは、そう言って、私の手を引き、退出を促した。


そこで、久保田和也は、大きく声を張り上げ、

「敵が敵の顔をしているとは、限らないぞ。ピクシースパイス」

と言った。


もう、この部屋から出ようとしていた私は、立ち止まって、振り返り、

「どういう意味?」

と訊いた。


久保田和也は、心底おかしそうな口調で

「蝉川秀一は、どこからクラーケン大魔人ラブリーの魔人細胞なんて、手に入れたと思う?フゴウ・コーポレーションの社員だったらしいが、フゴウ・コーポレーションにも、クラーケン大魔人ラブリーの魔人細胞なんて使い方を間違えるとヤバい代物は、無かったはずだ。国が許可を出すはずがない!」

と言う。


「訊くな!ピクシー!相手にするな!」

柳さんの怒声に少し焦りが見えた。


「クラーケン大魔人ラブリーの魔人細胞なんて、ある場所は、世界に一つしかないだろう?なぁ、誰が魔法少女狩りに魔人細胞なんて横流ししたんだと思う?クラーケン大魔人ラブリーの魔人細胞を保管していた元魔法少女課の化学分析班の責任者さん?」


柳さんは、久保田和也の問いに答えない。


「柳さん?」

私は、暗闇の中、私の手を引こうとしていた柳さんを必死に目をこらして、見つめようとした。


「ピクシー、これには、理由があるんだよ」

そこには、私の信じていたものはなく、聞きたくない言葉しかなかった。

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