クラーケンマンVSダイヤモンドダスト
「この物語の主人公、ダイヤモンドダストの登場だ。きらりん✨️」
白銀に輝く高圧縮特殊加工のダイヤモンド繊維の全身スーツの上から白銀のメタリックな機械仕掛けのアーマーを着込んでいるスリムなシルエットに大量のダイヤモンドでできた仮面をつけた男は、日曜の朝から飛び出して来た戦隊ヒーローの一人にも見えたし、新しいアメコミのヒーローというコンセプトの元、作られたファンによるオマージュ作品、金をかけるだけかけて制作されたご当地ヒーロー感もあり、悪趣味の極みみたいな存在だった。
しかし、当の本人、ダイヤモンドダストことフゴウ・タカラは、これ以上ない自分のヒーローデビューに満足気だった。皆にも自分がカッコいい存在として、映っていることを信じて、まるで微塵も疑っていなかった。
透明化を解いたクラーケンマン久保田和也は、しばらく、突如として現れたこの言動のおかしい不審者に唖然としたが、気を取り直して、24本の触手で囲むように一斉に襲いかかった。
が、パシュンッという音と共に弾けて、24本の触手は、一瞬で細切れにされた。
「なっ!?」
切り刻まれた24本の触手は、魔人細胞の再生能力ですぐに元通りに形を取り戻したが、自らを無敵と自負していた久保田和也は、動揺を隠す事ができなかった。
それを見て、フゴウ・タカラは、愉快そうに
「フフフ」と笑い声を立てた。
「何も驚くことはない。この戦闘スーツは、クラーケンマン時東誠人とクラーケンマン久保田和也、君との夢洲での最終決戦での戦闘データを元に作った上位互換機なんだからね」
八の字に両手を広げて、自慢気に説明するフゴウ・タカラを再び、久保田和也の触手が先程よりスピードを上げて襲う。
が、それもパシュンッと音を立てて、弾け飛び、細切れの肉塊となり、フゴウ・タカラには、届かない。
「無駄だよ。この自動制御でボクを守るダイヤモンドパウダーを塗り込められた鞭、ダイヤモンドジェノサイドアームは、先に行く程、細くなり、その先端は、ナノファイバー程の細さ。鞭は、先端が細くなる程、遠心力で破壊力が増すから、人間の手ではなく、機械の手によって最速で振るわれたこの鞭、ダイヤモンドジェノサイドアームは、現代科学技術と原始的な武器の混合により、音速を超えたスピードと異次元の破壊力を併せ持つ。その数、君の24本の触手を上回る倍の48本。目には、見えない細さのナノファイバーの鞭の先端を君が避けることは、絶対に不可能。君の触手を参考にして、その特性を最大値にまで上げた上位互換だからね。君がボクに勝つことは、できない。後出しジャンケンで負ける方が難しい」
フゴウ・タカラが絶対有利を主張するが、久保田和也は、絶望を顔に出さなかった。
「それは、どうかな?」
と黒い眼球の中の紅の瞳をフゴウ・タカラに向け、舌舐めずりする。
「俺には、無敵の再生能力があるが、あんたには、無い。つまり、俺は、一撃でも致命傷をあんたに当てれば、勝てるが、あんたは、いくら、俺をバラしても、俺がすぐに再生するから、いつまでも勝てない」
久保田の言葉にフゴウ・タカラは、
「それは、どうかな?」
とマネして、返した。
「再生能力の高いクラーケン大魔人ラブリーの魔人細胞を持っていると言っても、君も生物だ。無限機関じゃない。再生するにも、限度ってもんがあるさ。ほれ」
と言って、どこから出したのか、白銀のヒーロースーツ姿のフゴウ・タカラは、ラグビーボール程の何かを投げた。
久保田和也が見ると、それは、人の生首だった。
「蝉川秀一。君と同じように大魔人ラブリーの魔人細胞を自らの体内に取り入れた哀れな復讐者の末路がそれさ。再生が追いつかなくなる程のスピードでバラバラにし続ければ、君もそうなる。まぁ、驚くべきことに魔人細胞を体内に取り入れた蝉川秀一は、その状態でもまだ生きてるようだがね。まぁ、首だけにして、動けなくしてしまえば、死んでるのと同じさ」
久保田和也は、それでも絶望しない。
「俺が持ってて、お前が持ってないのは、再生能力だけじゃないさ」
久保田和也は、言って、再び、透明化した。
そして、姿を現し、何体にも自分を増やし、フゴウ・タカラを取り囲んだ。
ジャパン・ストロンガーズを苦しめたピクシーミラージュの幻覚魔法だ。
「これで、お前が相手する触手は、24本以上になっただろう?」
言って、10体以上のクラーケンマン久保田和也が全方位からダイヤモンドダスト フゴウ・タカラに襲いかかる。
透明化した久保田和也本体は、そのどれでもなく、ブルーファイアの炎殺魔法の青い炎をフゴウ・タカラに向かって、放射した。
フゴウ・タカラは、それを煌々とした鱗粉のようなものをアーマーの背中から撒き散らし、吹き上がるようにして渦を巻き、飛翔し、避けた。
その後も透明化している久保田和也の放射する青い炎を連続でとてつもない飛行スピードで避け続けるフゴウ・タカラ。
これには、さすがに久保田和也も
「バカな!?」
と焦る。
「俺の位置がわかっているというのか!?」
フゴウ・タカラは、得意気に
「ふふん」
と鼻を鳴らす。
「サーモグラフィーモードだよ。最新マシン搭載のこのダイヤモンドダストが視覚なんかに頼るわけないだろ」
それを聞いて、久保田和也は、
「ハッ!」
と笑った。
「最新マシンが搭載されてても、扱う奴のおつむが悪いと台無しだな!そんな重要な情報をベラベラ喋るとは!!」
クラーケンマン久保田和也は、フゴウ・タカラに向かって、青い炎を放射するのを止め、辺り一帯に炎を撒き散らした。そして、自らの肉体にも火をつけた。
フゴウ・タカラのサーモグラフィーモードのモニター画面全体が赤一色に染まる。
「馬鹿は、君の方じゃないのか?イカ焼きにでもなる気かね?」
フゴウ・タカラは、サーモグラフィーモードを解き、モニターを通常視覚モードに戻すが、そのころには、
「ハッ!一瞬、遅い!!」
とクラーケンマン久保田和也は、言って、跳躍し、飛行しているフゴウ・タカラの背中に襲いかかっていた。
イカの魔人の触手の吸盤で吸着し、フゴウ・タカラの鱗粉のようなものを放出している白銀のアーマーのリア部分を簡単にバキバキと音を立て、引っ剝がす。
「まずは、一番邪魔なこれから、取り除く!!」
ダイヤモンドダストは、飛行能力を失い、墜落する。
前のめりに這いつくばるフゴウ・タカラの背中に燃えながら馬乗りになり、クラーケンマン久保田和也は、触手の根元にある第二の大きな口を開き、鮫のものと酷似したぎざぎざの歯が何層にも並んでいる口内を見せた。
「馬鹿なおつむから食ってやるぜ!!」
触手の根元にある大きな口が大量のダイヤモンドでできた仮面を被ったフゴウ・タカラの頭部を包み込もうとした時、
「ゴホッゴッ……ゴホッ!!」
と久保田和也は、急な呼吸困難に襲われる。
「だから、馬鹿は、君だと言ったのさ」
フゴウ・タカラは、馬乗りになっていた久保田和也をなんなく払いのけ、立ち上がる。
そして、苦しみもんどり打ち始めたまな板の上の魚のような燃え続けてる久保田和也を悠然と見下ろし、
「正義は、勝つ」
と言って、ダイヤモンドジェノサイドアームを振り下ろそうとした。
が、その瞬間、巨大な音の波が辺り一帯を包み込み、ジャパン・ストロンガーズのダイヤモンド繊維の全身スパッツを粉々にし、吹き飛ばし、ピクシータイガーの獣化魔法を解き、吹き飛ばし、フゴウ・タカラの意識も久保田和也の意識も吹き飛ばした。新大阪都庁の一階を蹂躙していた青い炎すら、クラーケンマンの肉体を燃やしていたものも含めて、全て、その音で消し飛んで、鎮火してしまった。
「あ〜、これで邪魔な炎が消えて通りやすくなったわな♪」
非常階段の方からピクシーブルーファイアを担いで、ピクシーミュージックが現れる。
そうピクシーミュージックは、自らの強力無比な爆音魔法デスボイスを外に出るのに炎が邪魔だから、という理由でよく周りも見ずに発動したのだ。
「ありゃ、タイガーちゃん、なんで裸なんだわな?」
それは、ピクシータイガーが獣化魔法を発動して白い巨大な虎になる際に自らの衣服を全て破り捨てていたからで、ピクシーミュージックの爆音による衝撃で強制的に獣化魔法が解けてしまったからだった。
「あらあら、こちらの男性陣も裸なんだわな♪」
ピクシーミュージックの爆音魔法デスボイスは、ジャパン・ストロンガーズのダイヤモンド繊維の衣服も粉々に破壊力していた。逆に彼らの肉体が無事だったのは、ダイヤモンド繊維が代わりに犠牲になってくれたからで、高圧縮特殊加工のダイヤモンド繊維の特性ヒーロースーツを着ているフゴウ・タカラ以外のその場の全員が爆音魔法デスボイスにより全裸になっていた。意識を保っている者は、特殊ヘッドフォンを装着してるピクシーミュージック以外、その場に誰一人としていなかった。
その自らが起こした惨状を見て、ピクシーミュージックは、
「ひょっとして、乱交パーティー?」
などと言う。そして、
「あぁ、早く病院に行かないと、ブルーちゃんが死んじゃうわな♪」
とブルーファイアを担いで、飛び去った。
三時間後――、
気絶していたフゴウ・タカラは、目を覚ました。
目を覚まして、一番に視界に入ったのは、たくさんのパトカーに救急車にマスコミと野次馬群衆――。
それらが新大阪都庁をぐるりと囲んでいた。
その中でフゴウ・タカラは、白銀のヒーロースーツを着たまま、突っ立ち、フラッシュと脚光を浴びていた。
「タカラ様、お目覚めですか?」
ダイヤモンドマスクの内蔵無線から執事のポイリー・カタルシスの声が響く。
「タカラ様が気絶している間、私がダイヤモンドダストを遠隔で操作し、マスコミ対応など必要な処置は、させて頂きました。すでにクラーケンマンは、魔人対策課が回収しました」
「ハン。一番、おいしいところを持っていかれてしまったかぁん。まぁ、いいさ。これでようやく魔人も魔法少女も存在しないボクが主役の物語が始まるんだからねん」
「いえ、フゴウ様。どうやら、現場から何人か逃走した魔法少女がいるようです」
「何?なら、その逃げた魔法少女は、即刻、指名手配しろ。魔法少女は、一人残らず、皆殺しにするんだ」
「はい、すでに逃亡した魔法少女は、フゴウ様がそう言われると思って、指名手配しておりますが、不味いことに他に生き残って、マスコミの間で裏切りの魔法少女達をフゴウ様と退治した事になっている魔法少女がいます」
「誰だ?そのボクの手柄を横取りした不届きなエセヒーローは!?」
それは、フゴウ・タカラがとっくに死んでいると思って、無視していたノーマークの魔法少女――。
「ピクシースパイス。最弱の魔法少女です」
まさか、彼女こそが自分を討ち倒す真の物語の主人公だとは、フゴウ・タカラは、知る由もなかった。




