引退しない魔法少女たち
私、魔法少女ピクシースパイスの作った魔法障壁は、いとも簡単に弾かれ、ガラス細工のように砕け散った。
魔法障壁の後ろにいた私は、その衝撃で尻もちをつく。
私は、すぐに立ち上がり、
「師匠、もう一本、お願いします!! 」
と頭を下げ、半透明の壁のような防御魔法、魔法少女の基本スペックである魔法障壁を再び、展開する。
「もう一本、もう一本って、これで何本目だ。もう100本、近くは、やっているぞ」
そう言って、私の正面でマジカルステッキを構え、魔法障壁を展開しているのは、ピクシーブロックこと堅持 要。
先輩の魔法少女で私の師匠だ。
大きなリボンの灰色のミニスカドレス(魔法少女の戦闘服)姿に何故かマッチしている黒髪のベリーショートの髪型していて、その顔立ち、仕草、喋り方は、宝塚の男役を上回るかっこ良さで魔法少女中女子人気を独り占めしている。
「そう言わず、もう一本!お願いします!師匠!」
「その師匠っていうの。やめろよな。先輩って、言っても、私の方が魔法少女デビューするのが、3か月早かっただけだし、私たち同い年だろ」
「いえ、師匠は、私に戦闘のいろはを教えてくれた指導官でありますし、師匠に教わった魔法障壁の操作術がなければ、今日の私は、存在しておりません」
まさに、そうなのだ。彼女から教わった魔法障壁の強度の強弱をつける操作術がなければ、私は、魔人などの敵から受けたダメージを魔法障壁をクッションにして、上手く受け身がとれずに、今頃、とっくに絶命している。今日の私がこうして、生きていられるのも、すべては、私の指導官であったピクシーブロックさんのおかげなのだ。
「そんなオーバーな」
ピクシーブロック堅持 要さんは、呆れきった視線を私によこしたが、その後も魔法障壁による押し合いっこ、魔法障壁の強度訓練に付き合ってくれた。
私の0勝196敗で力尽きる頃には、夕日が落ちていた。
「なぁ、ピクシー。お前、どうして、今さら、強くなろうとする?」
私たち魔法少女課では、新米や後輩の魔法少女のことをピクシーと呼ぶ。訊ねながら、ブロック先輩は、まっすぐに私を見つめた。この人は、人と喋る時、いつも、このようなまっすぐな視線を向ける。だから、大好きだ。
「私も師匠のように魔法障壁を極めてみたくて……」
ピクシーブロック先輩は、魔法少女中唯一、魔法少女の基本スペックである魔法障壁を極めた魔法少女だ。
単なる防御魔法である魔法障壁の強度を極限まで高め、敵の前後左右上下、全方位をその魔法障壁で囲み、キューブ状にして、その魔法障壁のキューブの中に敵を入れたまま、キューブの大きさを縮め、敵を圧死させる魔法の使い手。
ついた異名は、無慈悲の魔法少女。
「だから、なんで今さら魔法障壁を極めようとするんだ?魔法少女課は、解散して、もう私たちに戦闘任務が下りてくることはない。使いどころがないだろう?だいたい、あと一年も経てば、私たちの力は、自然消滅してしまうんだぞ。今さら、魔法障壁を極めても、意味がないだろう」
改めて、ブロック先輩に訊ねられても、私には、明確な答えなどない。ただ胸がもやもやするのだ。
「確かに師匠の言う通りです。でも、私、このままで終わりたくないんです!」
自分が思ってたより、大きな声が出て、自分でもびっくりする。私は、動揺したまま、ブロック先輩に向かって、叫ぶように発言を続ける。
「まだ、自分の限界を、最高値を一度も出してない気がするんです!このまま、不完全燃焼で終わったら、後々の人生にも響くような……このまま、最弱の魔法少女と呼ばれたまま、終わるなって、心が、体が、全細胞が叫んでる気がするんです!!」
自分でも何を熱くなってるんだろうと思う。私には、時折、こういうところがある。突然、死火山から思い出したように、マグマが飛び出て、噴火する自分を見失い、止められない時が。
「最弱の魔法少女で終われないか……。私にも、わかるよ、その気持ち。ピクシー」
ピクシーブロック先輩は、意外にも私の言葉に共感したようだった。
「お前が最弱の魔法少女と呼ばれる前は、私が最弱の魔法少女と呼ばれていたからな」
「え? ブロック師匠が? 」
「ああ、私には、お前たち他の魔法少女のようになんの固有魔法も発現しなかったからな」
固有魔法とは、空を飛ぶ、魔法障壁を作るなどの魔法少女の基本スペック以外に、魔法少女それぞれが発現するその人個人特有の魔法のことだ。
私の場合は、人の感覚を麻痺させるビームを放てるスパイス魔法があり、魔法少女ピクシートラップの場合は、いつでもどこでもトラップを召喚できるトラップ魔法がある。でも、ブロック先輩には、それがない!?そんなはずはない、だって……
「ブロック師匠には、魔法障壁を強化する魔法があるじゃないですか!」
「固有魔法が発現しなかったから、基本スペックを極めただけだ。今の敵を魔法障壁のキューブに閉じ込めて、圧死させる方法を思いつくまでは、ただの魔法障壁がやたらと他の魔法少女より丈夫な弾除け要員、デクの盾、はっきり言って、下っ端だったよ」
「そんな……」
憧れの先輩の思わぬ告白に私は、多大なショックを受けた。
「魔法障壁の強度を異常に上げる魔法なんて、本当は、存在しないんだ。実際は、普通の魔法障壁の中に幾層にも魔法障壁を重ねているに過ぎない。練習さえすれば、魔法少女の誰でも会得できる技能だ。それを今まで、私は隠して、自分の固有魔法だと言い張ってただけだ。今だから、告白するがな」
私は、師匠が私だから誰にも言っていない秘密を告白してくれたんだと思った。私は、感激したのか、心の空白にぽっと純粋な言葉が突いて出てきた。
「師匠は、どうして魔法少女を引退しないんですか?」
師匠は、まっすぐ私を見つめたまま、答えなかった。無視されてるのかと私は、不安になり、
「引退届け、まだ、出してませんよね?」
と訊ね直す。
師匠は、
「お前と一緒だよ。最弱に戻りたくない。私から、魔法障壁を取り除いたら、何が残る? 他の魔法少女達にしても、そうだ。私たちは、青春の全てを魔法少女としての活動に捧げてきた。今さら、魔法少女以外の何になれる?」
と私にまっすぐに訊ねた。
訊ねられても、私には、返す言葉が見つからない。
「魔法少女課も無くなって、柊室長のような天下り先も私たちには、無くなってしまったしな。ブルーファイアも意地でも、引退届けは、出さんと言っていたよ」
「タイガーちゃんも出さないと言ってました」
「多額の退職金を出すと政府から言われてもな。一度、手にした力は、なかなか手放せんよ。それにきな臭いとは、思わないか?」
「きな臭い?何がですか?」
私は、師匠がなんの事を言ってるのか、まるで、わからなかった。
「日本政府だよ。引退届けを出した者は、多額の退職金を受け取れる代わりに、魔法少女としての能力が失われる退化薬を注射される決まりだろ?しかも、引退届けを出さずに、それを拒否した者には、今後、要監視対象として、政府の役人が24時間体制で私らを見張るらしいじゃないか。これじゃ、まるで世界を救ったヒーローの私たちが、ヴィランみたいじゃないか」
「ヴィランって……私たちがヴィランなわけないじゃないですか」
「私たちからすればな。でも、世間から、したらどうだろう?もっと言えば、日本政府からすれば?魔人の出現しなくなった世界で一番、脅威になるのは、誰か?恐怖の対象になるような強力な力を持つ集団の存在を日本政府は、許すだろうか?私が思うに、日本政府は、私たち魔法少女を粛清にかかってるんじゃないか?殺しは、しないだろうが」
「殺すなんて、まさか……」
まさかと思いつつ、私は、ブロック先輩の言葉を簡単には、否定できなかった。私たちの知らない大人の世界で私たちが、どう思われてるかなんて、私には、わからない。
「まぁ、残り一年の辛抱だ。19歳になって、私たちから魔法能力が失われれば、政府も私たちを脅威には、思わなくなるだろう」
というブロック先輩の見立ては、甘かった。
私たち魔法少女に一年なんて悠長に待ってられる時間なんてなかった。
すでに、この時、先に引退して退化薬を打った魔法少女達が次々と殺されていたのだ。




