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ピクシースパイス ―魔法少女大戦―  作者: 弥馬田 ぎゃん


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柊 香子の追憶 別れ編

全国の魔人達が蜂起したのちに魔人大暴動と呼ばれる日、私を含めた魔法少女四人に下された指令は、魔人達の掃討ではなく、魔人少女ヘルファイア・藍井エマの抹殺だった。

私達が指令を受けたその時点で藍井エマは、すでに魔人化し、理性を失い、多数の民間人を含め、仲間である魔法少女を一人殺害していた。

その日、魔人大暴動が起こる事を魔法少女課は、公安の大魔人会への内偵調査で把握していた。

前日に大魔人会のDr.ゲルリオンを含めた魔人達に藍井エマがさらわれた事も、私達、魔法少女には、知らせていなかったが、魔法少女課の上層部は、すでに知っていた。

公安の調査によれば、藍井エマは、数カ月前に外国人旅行者をよそおった大魔人会の関係者を道案内する事をきっかけに敵勢力に接触。

もちろん、それは、ただの偶然ではなく、大魔人会の計画的犯行で最初から魔法少女課のエースであり象徴たる魔法少女ピクシーレッドファイアを洗脳するつもりで接触したのだ。

藍井エマの底抜けの親切心を利用し、外国人旅行者を扮った大魔人会の関係者は、上手く口車に乗せ、藍井エマと連絡先を交換。その後、数カ月に渡って、何度かの食事をし、薬剤と会話を介して、ゆっくりと藍井エマを洗脳していった。

私の思考ジャックでもない限り、人をすぐに思いのままに操る事などできない。

大魔人会は、入念な計画を立て、藍井エマの洗脳を成功させる為にそれだけ充分な時間を費やした。

公安が最後に藍井エマの姿を確認した日、つまりは、魔人大暴動の前日、藍井エマは、攫われるというより、正確には、自分から大魔人会のアジトに向かって行ったと云う――。

しかし、そうなる過程で公安が魔法少女課に中間報告を上げる事はなく、魔法少女課上層部すらその事実を知ったのは、魔人大暴動の前日だった。

縦割り行政の弊害。魔法少女課と公安の連携が上手く機能していない為、起きた悲劇だと上司は、私達、魔法少女に説明したが、公安が単独でもそうなる過程で大魔人会か藍井エマ、もしくは、その両方を止めていれば、よかったじゃないかと当時の私は、歯噛みしながら思ったが、公安は、私達のように魔法を有していない。

だから、公安単独で魔人達を止めるなど、どのみち、無理だったのだろう。

たらればを言っていたら、キリがない。私達、四人の魔法少女は、すぐに切り替えて、とはいかなかったが、魔人少女ヘルファイアと化した藍井エマの討伐に向かった。

北大阪府シティの御堂筋歩行者天国で私達は、対峙たいじした。

藍井エマは、いつもの藍井エマの姿をしていなかった。

いつもの魔法少女の戦闘服である赤いミニスカドレスを着てはいたが、マジカルステッキは、持っておらず、背中や身体のあちこちから生えた無数の赤いイバラのような触手から直接、炎を放射し、人々を次々と焼き殺していた。

「ヒャーハッハッハッ!!」と彼女からは、およそ聞いたことのない甲高い奇声、狂った笑い声を上げながら――。

私は、悪夢を見てるのかと思った。

あのムカつく程、善玉な女が嬉しそうに人を殺しまくっている。

洗脳でここまで人は、変われるものなのか?

と思考ジャックの魔法を所持してくるクセに私は思い、呆然とした後、急激な吐き気をもよおした。

藍井エマは、もはや、藍井エマではなく、赤い触手の生えた悪魔そのもの――、いや、魔人少女ヘルファイアという名が一番しっくりとくる存在と化していた。

正義の魔法少女の面影は、無い。

しかし、私は、彼女のことを魔人少女ヘルファイアとは、呼ばず、


「藍井エマぁ!!」

と呼びかけた。


周りの魔法少女が不信な目を私に向ける。

魔人少女ヘルファイアが私達の存在を知覚する前に、私の思考ジャックで動きを止め、自殺させる。そういう手筈になっていたからだ。


「んゅ〜〜?」

と彼女には、不似合いな赤いルージュを引いた唇を尖らせ、藍井エマは、こちらを見る。

いや、ルージュではなく、……まさか、こいつ、……人を食ったのか?

藍井エマは、くちゅくちゅと口を動かしながら、目を丸くなる程、見開いている。

「どったのぉ〜?香子ちゃ〜ん?」

と喋り方がいつもの調子と違う。


「藍井エマ!!ちゃんと意識は、あるのか!?」

私は、何をしてるんだろう?と思った。

まさか、洗脳されてる相手を説得しようとでも言うのか?

それとも、話し合いで彼女の洗脳を解く?

そんな事して、なんになる?

彼女は、すでに人を殺してるんだぞ。

「お前は、今、敵に洗脳されているんだ!操られている自覚は、あるか!?もし、意識があるなら、もう、こんな事は、やめるんだ!!」

自分でもバカなことを言っているのは、わかっている。しかし、口が勝手に動いて、あの女をなんとか助けようと糸口を探してしまう。


「んゅ〜?意識なら、バリバリあるわよ!もう、ぜっこーちょう!!今まで、生きてきた中で一番、気分がいいわ!!」

やはり、会話では、いつもの彼女には、戻らないのか。

それでも、私は、


「エマ!!お前は、操られてるんだ!!いつもの自分を取り戻せ!!」


「ノンノンノン♪私は、操らていなくってよ、香子ちゃん♡大魔人会の人たちに自らの欲望を解放する薬をもらったの!だから、これが本来のわたしってワケ!!キャハッハハハ!!」


「なっ……」

大魔人会がどんな薬をエマに使ったかは、私は、わからない。だが、

「お前は、そんな奴じゃないはずだ!!」


「いえいえ、そんな事なくってよ。だって、逃げ惑う人を後ろから燃やすのって、サイコーにキモチいいものぉおおお!!」


「ブレイン!!無駄だ!悔しいが、早く、エマを楽にしてやろう!!」

と私を周りの魔法少女が説得しようとする。それでも、私は、

「エマ!!」

と呼びかける。


藍井エマは、それをおかしそうにおどけた表情になり、

「でもね〜、逃げ惑う人を燃やすより、面白いのは、あんたたち、魔法少女を焼き殺すことよ!今でも、思いだすとゾクゾクしちゃう!!あの、あいつの信じられないって顔!!仲間だと思ってた私に裏切られて、燃やされ尽くす無惨な敗者!!キャハッハハ!!」

と言って、私達に向け、炎を放射した。


私は、反射で思考ジャックを発動させ、放射された炎の向きを変え、藍井エマの動きを止めた。

私の前面に三人の魔法少女が立ち、魔法障壁を展開。

思考ジャックを発動中で無防備な私を守るタンクの役目を果たす。


「ん?香子ちゃん?みんな?私は、何を?」

藍井エマの声音がいつもの静かで優しいものへと変わる。

洗脳されていた人格を私の思考ジャックで抑えたおかげで、本来の彼女の人格が表に出てきたのかもしれない。


「ブレイン!!油断するな!!演技かもしれない!!」

と仲間の魔法少女が激しく忠告する。

確かに仲間の言う通りだ。

しかし、藍井エマは、

「私なんて事を……街の人を……仲間を……」

とボロボロと涙を流し始めた。

洗脳されていた自分が何をしたのか、記憶が一気に駆け巡ったに違いない。


「エマ!!」

と私は、再び、彼女に呼びかけた。


藍井エマは、そんな私を睨みつけ、

「殺してよ!!」

と叫んだ。

「動きを止めて、こんな生殺しみたいにしてないで、思考ジャックで私をさっさと、殺しなさいよ!!」


「エマ、何か別の道があるはずだ……お前が投与された薬が何なのか、魔法少女課の化学分析班に調べさせれば、洗脳も」


「殺せって言ってるのよ!!私の事が嫌いなんでしょ!!」

涙を流し続けながら、彼女は、私を強く睨みつけ、訴えた。


私は、

「で、できない……」

と震える声が漏れた。

生まれてきて、そんな人間的感情が喉から出てきたのは、初めてだった。

弱音を吐いたと言われても、仕方のない弱々しい声だった。

瞬間、私の思考ジャックの力も弱まったのか、藍井エマの赤いイバラのような触手が動きだす。

私は、自分に向け、炎が飛んでくる事を覚悟し、身をビクッと縮こまらせた。


しかし、藍井エマが豪炎魔法で燃やしたのは、彼女自身の頭部だった。

彼女は、あっという間に火だるまになり、獣のような慟哭を上げ、やがて、黒炭化し、死んだ。


「どうして……」

私は、もう彼女は死んでいて、どうしようもないのに呟いていた。

「どうして、そんな事ができるんだ?」


その後、その日一日、私は、呆然としてしまい、使い物にならなかったが、魔人大暴動は、残りの魔法少女や魔人対策課の活躍でなんとか沈静化した。

すべてが終わってから、アナウンサーが私にマイクを向ける。

「仲間の魔法少女を殺めるのは、心中、さぞ、お辛かったと思いますが、やはり、日本国民の為、正義の為、仕方のない判断だったのでしょうか?」

と聞いてきたので、

私は、力なく、

「人は、正義の為には、戦わない」

と答え、

あの女以外は

という言葉を噛み殺して、その場を去った。

悪には、理由があるが、正義には、ひょっとしたら、理由は、いらないのかもしれない。

だとしたら、それは、とても危険なことだ。

また、第二第三の藍井エマが生まれ、正義の殉教者達の屍の山ができてしまう。

それだけは、防がなくてはいけない。私が。

なんとしても。


私の追憶は、そこでぷつりと途絶えた。

目覚めると、元魔法少女課室長室の壁が一面無くなっていて、夜と繋がり、瓦礫で溢れていた。

ひどく寒い。

私は、折れた腕をなんとか動かし、紙タバコを一本取り出し、口にくわえて、ぶるぶると震えながら、ライターで火を点けた。

「オールディクショナリーの奴め。初めて、予言を外しやがったな……」

ふーっと紫煙を吐いて、また私は、倒れてしまう。

意識が泥に飲み込まれるようだ。

今度は、目覚めなくてもいい。

私も早く、仲間達の元へ行きたい。



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