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ピクシースパイス ―魔法少女大戦―  作者: 弥馬田 ぎゃん


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蝉川 秀一VS柊 香子

新大阪都庁40階の元魔法少女課室長室で光沢のある木製の執務机を前に黒い革張りの元室長の椅子に座り、柊 香子は、身動き一つせず、だんまりを決め込み、目を細めて、正面に対峙する男をまぶしいものを眺めるように見ていた。

男は、紺色のスーツの似合う細身の中年だが、今、彼が着ているのは、サラリーマン風のスーツではなく、肉体にフィットした何の素材でできているか、わからない黒の全身スパッツのようなもの。その上から、ホルダーやホルスターがまんべんなく付いた緑のベストとベルトを付けている。ホルダーやホルスターには、これ見よがしにナイフや銃が収まっている。頭には、一つ目の赤いモノアイが光る暗視ゴーグルのようなものを付けていて、それは、両耳もキレイに覆っていた。

部屋は、電源が何者かによって、落とされており、薄暗い。月明かりだけが、頼りの中、柊 香子は、


「蝉川秀一だな」

と口火を切った。


蝉川秀一は、それに答えず、圧倒的優位な暗闇の中、襲いかかりもしない。

代わりに、「元魔法少女課室長柊 香子だな」と聞き返した。そして、

「お前が殺した少女の名を覚えているか?」

と言葉を重ねた。その声は、押し殺した怒りと殺意でみっともなく、震えていた。


柊 香子は、それを嘲笑せず、またおそれもせず、

「蝉川 愛子さんなら、覚えている」

と答え、

「一年前の大魔人会の首領ドボスとの最終決戦でマジカル テラ・アトミック ビッグバンでお亡くなりになった唯一の民間人犠牲者だ」

と付け加えた。


「一年前、お前が指揮し、お前が発案した作戦で、間違いないな」

と蝉川 秀一は、震えながら、念を押すように訊いた。


「ああ、間違いない」

と柊 香子は、淡白に抑揚なく、答えた。


「お前さえ、いなければ、……お前さえ、いなければ、娘は、死なずに済んだんだ!!」


「ああ、同意する」

柊 香子の淡白な答えが響くのと、同時に12本の大王イカのもののような巨大な触手が柊 香子に襲いかかった。

柊 香子は、それに無抵抗に捕まり、全身を強く雑巾を絞り込むように締めつけられる。


「今から、俺に殺されるというのに、なんだ!?その態度は!?」


「泣いて許しを乞う方が良かったか?」

蝉川秀一の巨大なイカの触手と化した右腕に締めつけられ、パキパキと全身の骨が音を立てる中、柊 香子は、うめき声一つ上げず、顔が青ざめるも酷く冷静な声音を使って、言った。

「悪いが、人から恨まれない生き方なんざ選らんじゃいない自覚があるんでね。今さら、ジタバタ足掻くつもりは、ないさ。許しを乞うたところで、すでに魔法少女を何人も殺してる奴が私だけを助けてくれるとも思えんしな」


「ぐっ……!」

蝉川秀一は、柊香子の態度に肉体的に一瞬、息が詰まった。

「貴様ァアア!!」

しかし、すぐに怒りが湧き起こり、触手に込める力をより一層、強くした。

「死ねぇえええ!!」


内臓や骨が押し潰される感覚を味わい、柊香子は、口から血反吐をぐぴょっと吹き出した。

彼女は、最後の力を振り絞り、右手で蝉川の触手に触れた。

「思考ジャック……」

柊のその声が聞こえた瞬間、蝉川は、触手に込める力を弱めた。

「現役時代は、視界に入るだけで、ありとあらゆる生物を操れたが、今は、こうやって、手に触れたものしか操れない。でも、賞味期限が切れた魔法少女の中で魔法が使えるのは、私ぐらいのものなんだぜ」

口から出る血で溺れそうになりながら、柊 香子は、蝉川に向け、不敵に笑った。


蝉川は、それを見て、

「勝ったつもりか?」

と再び、触手に込める力を強めた。


圧迫され、柊 香子の顔の表情から余裕が消える。

「何故……!?」


目玉が飛び出しそうな程、目を見開いた柊に向け、蝉川は、まだ人間の手をした左手の指先で自らの頭部に装着している暗視ゴーグルのようなものを小突いた。

「PNC。パーフェクトノイズキャンセラー。米軍が、お前のような精神操作系の能力者の対策用に作った特殊電気信号自動遮断装置。身体の外部から脳に向け送られる命令信号を電気、音波関わらず、全て、遮断してくれる装置だ。こいつを付けていると世界一の催眠術師の催眠術でも無効化してくれる。フゴウ・コーポレーションが開発に少し関わっていたんでな。お前対策に社の在庫から取ってきたんだよ」

言うと蝉川は、圧縮され、瀕死状態の柊を壁におもいきり叩きつけた。

「すぐには、お前を殺さない。お前には、マナが味わった苦しみの何倍もの苦しみを味わさせてやる!!」


かっは……!!

と柊は、声にならない息を吐き、白目を剥く。


そこに、

「そこまでだ!!悪党!!」

と青年の声が高らかに響く。

元魔法少女課室長室の左の窓のある側の壁が、バラバラに切断され、粉々に砕け、外界の夜空と繋がる。

繋がった夜空には、ダイアモンドを敷き詰めたマスクと煌びやかな白銀色の機械仕掛けのスーツを着た男性がどういう仕組みかは、一目ではわからないが、羽や翼もないのに飛翔していた。

空中で静止した彼は、辺りにキラキラと光る鱗粉りんぷんのようなものを撒き散らしながら、

「蝉川秀一!!魔法少女連続殺害の犯人は、お前だな!!このスーパーなヒーロー、ダイアモンドダストが成敗してくれる!!……いや、成敗ってジジ臭いか……粛清してやる!!ん~~、なんか独裁者っぽくて、ヴィランぎみな気が……決め台詞ゼリフぐらい考えて、出てくるべきだったかな?」

アゴに手を当て、考え始める。


まるで、緊張感の無い突然の乱入者に蝉川秀一は、

「フゴウ様、いったい、何を?」

と訊ねる。

どうやら、蝉川秀一は、ダイアモンドダストを名乗る青年と知り合いのようだった。


「おいおい、君と僕とは、初対面な設定なんだから、他人のフリをしてくれよ。僕は、突如、現れた新ヒーローで君は、その初陣を飾る最初のヴィランなんだからさ。二人が知り合いだと、辻褄が合わなくなるだろ?これ、録画して、後で配信で全世界に流すんだからさ。まぁ、編集すれば、済む話か。おし、カット2!このスーパーなヒーロー、ダイアモンドダストが悪を煌めく星に帰す時が来た!!う〜ん、今のは、なかなかいい感じ♪編集時に微調整して、音声を撮り直せば、イケるんじゃね?あとで、ポイリーに相談しよ」


少し変なテンションの自称ヒーローの成人男性に蝉川秀一は、

「あのフゴウ様、本当に何をしに来たんですか?」

と訊ねた。


「だーかーらっ!!僕と君は、初対面なんだって!!めんど臭いな、もうっ!!」

全身白銀色のコスチュームの青年がそう言った瞬間、蝉川が柊を掴んでいた白い吸盤付きの巨大な12本の触手は、バラバラに切断された。


「なっ……!?」

蝉川が視認した時には、すでに蝉川の触手よりは、細いが、蝉川の触手よりは、長い白銀色のムチが幾つも通過した後だった。

鞭には、荒く削られた細かいダイアモンドの粉が塗り込められており、機械によって高速で振るわれた遠心力が合わさり、その鞭の威力は、殺人的だった。

後に青年は、この鞭の事を「ダイアモンドジェノサイドアーム」と名付けるが、この時点では、その鞭に名は、無い。

その無名の白銀の鞭の超高速攻撃によって、蝉川秀一の魔人細胞により発達している肉体は、次々と細切れにされていく。


「フゴウ・タカラ!!お前、裏切ったのか!!」

ほぼ頭部だけになっても、魔人細胞の影響によって、死なない蝉川秀一は、フゴウ・タカラなる青年を強く睨みつけた。


「最初っから、お前は、そういう役割だったんだよ。誰がお前の娘の為のお涙頂戴の復讐劇に何の利得もないのに、協力なんて、するもんか。これは、全て、魔法少女に取って代わって、僕が新ヒーローになる為の脚本だったんだよ。手垢の付いた魔法少女達じゃなく、これからは、僕が物語の主人公さ!」

フゴウ・タカラは、そういうと悪役然とした高笑いを始めた。


「俺を利用したのか!フゴウ・タカラぁあああ!!許さん!許さんぞぉおおお!!」


叫ぶ蝉川秀一にフゴウ・タカラは、

「うっせぇよ。雑魚キャラ」

と白銀の鞭を振るう。

バシュッと何かが、弾ける音がして、肉塊が壁に背を預けて、座り込んでいる柊のところまで、飛んでくる。

その頃には、柊 香子の意識は、追憶の彼方の中にあり、現在には、なかった。

壁に預けた彼女の上半身がぼたりと横向きにずれ落ちるようにして倒れ、辺りは、静寂に包まれた。

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