敵か味方か!? 味方殺しの魔法少女
腹部から血が噴き出す程のダメージを負ったピクシースパイスは、加鳥花子を追うことができず、目の前の2体のスプリングバルーンという名の戦闘ロボットとの戦いを強いられていた。
スプリングバルーンは、見た目が銀色の巨大なヤドカリだが、その動きは、バネ仕掛けで俊敏だ。
床にいたと思った次には、壁面にくっつき、壁面にいたと思った次には、天井にぶら下がっている。
一瞬後には、違う場所にいるスピード、その生き物じみた形とは、裏腹な予測不可能な動き、びょ〜んびょ〜んとそこら中を跳ね回り、一度として、じっとしてないロボット2体にピクシースパイスは、対応するのが、精一杯だったし、実際は、対応しきれてなかった。
戦闘ロボット達は、跳ね回るだけじゃなく、当然、攻撃してくる。
バネのような見た事のない弾丸を射出し、それは、通常の弾丸を弾く強度の魔法障壁に簡単にヒビを入れた。
スプリングバルーン達は、弾丸を撃つだけじゃなく、時には、自らの形を球体に戻し、勢いをつけて、突進してくる。ヒビの入った魔法障壁は、それで簡単に砕けてしまう為、その都度、ピクシースパイスは、新たな魔法障壁を作り直さなくては、いけなかった。
そして、魔法障壁では、スプリングバルーンの全ての攻撃を防ぐことができなかった。
スプリングバルーンの射出する弾丸は、壁や床や天井に当たると跳弾し、不規則な軌道でピクシースパイスめがけて、襲って来た。
腹部を負傷しているピクシースパイスは、全方位をカバーリングできる程の魔法障壁を展開する集中力をすでに有していない。前方を守るので、精一杯だ。
跳弾した弾を必死に避けるも、何発かは、被弾してしまい、そこから、また血が噴き出た。
絶命は、していないだけで、ジリ貧だった。
時間が追うごとに戦況は、悪くなるばかり。
かろうじて、生き延びることができているだけの状態――。
腹部の負傷がなければ、ピクシースパイスは、スプリングバルーンを魔法障壁で作ったキューブの中に閉じ込め、圧縮して押し潰すことができただろう。
だが、それをするだけの集中力が今のピクシースパイスには、ない。血の気が引いていく身体と鈍痛に意識を保つのが、やっとだ。
前方に魔法障壁を展開させ続けてるのだって、奇跡に近い。
目がかすみ、次第にそれがよりひどくなっていく。
ピクシースパイスは、ついに動きを止めない機械仕掛けの銀色の巨大ヤドカリの猛攻に負け、膝をついてしまう。
もはや、万事休すかに思われたその瞬間、突然、動き続けていたスプリングバルーン2体が停止し、ぶるぶると痙攣しだすと、次の瞬間には、粉々に砕けた。
ピクシースパイスの前方に展開していた魔法障壁もほぼ同時に粉々に砕ける。
巨大な音の波が、その場を通過したのだ。
「ちょっとちょっとぉ〜、室長室に魔法少女全員集合って言うから、ずっと待ってんのに、なんで誰も来ないんだわなぁ〜♪」
と言って、音の波の後に姿を現したのは、ヘッドフォンをつけたオレンジ色のミニスカドレスを来た魔法少女ピクシーミュージックであった。
スプリングバルーンとピクシースパイスの魔法障壁を粉々にした音の波は、彼女が得意とする爆音魔法デスボイスである。
「なんで私抜きで勝手に戦闘始めちゃってるんだわな、スパイスちゃん♪ありゃ、スパイスちゃん?」
ピクシースパイスは、耳と鼻と目と口から血を流し、その場に倒れていた。
「あちゃ〜、私ったら、また、やっちゃったんだわな♪」
ピクシーミュージックの爆音魔法デスボイスは、攻撃範囲も威力も絶大だが、一度、放つと敵味方関係なく、その場にいる者に効果を発揮する為、事故的にこういう事をよく起こしてしまう。
いや、能力の使い勝手の悪さが原因ではなく、正確には、絶大な能力を持っているピクシーミュージック本人があまりにも適当で天然な性格をしている為、こと戦闘において、味方を犠牲にしてしまう比率が多いのである。
それ故、彼女についた異名が味方殺しの魔法少女――。
彼女の性格的欠点が明らかになってから、彼女は、大魔人会との戦闘において、一切の仲間との連携プレーから排除され、ほぼ爆撃機みたいな任務しか任されていなかった。
だから、今回も仲間ごと爆撃してしまったのである。
しかし、彼女には、もう一つ特異的な能力がある。
ピクシーミュージックは、両手を組むとおよそ人が表現できない程の美しい歌声をピクシースパイスに浴びせた。
すると、ピクシースパイスの血の気がひいた顔色からみるみるうちに生気が戻っていき、加鳥花子の魔法障壁のキューブによる攻撃でえぐれた腹部やスプリングバルーンの弾丸によりついた傷口がすべて塞がった。
それは、ピクシーミュージックの福音魔法エンジェルボイスによる効果だった。
「これで完了っと♪」
ピクシーミュージックの歌声が止み、傷が癒えても、ピクシースパイスは、目覚めなかった。
音によって、飛んだ意識は戻らず、むしろ、エンジェルボイスによって、完全に癒され、すやすやと寝息を立て、心地よい夢を見ていた。
「こりゃ、あと一時間は、目覚めんだわな♪」
そこで非常階段の出入り口の扉を開け、顔面蒼白な顔で現れたのは、魔法少女ピクシーブルーファイアだった。
ピクシーブルーファイアには、すでに左腕がなかった。
「どったの?ブルーちゃん、その腕?」
ピクシーミュージックが訊ねるが、ブルーファイアは、それには、答えず、
「テメェ、何、敵を助けてんだ?」
とピクシーミュージックを睨んだ。
「ん?なんて?」
とピクシーミュージックは、ヘッドフォンを外す。
「スパイスは、私らの仲間の魔法少女じゃねぇだろっつったんだよ」
ブルーファイアは、よれよれとした足取りでピクシーミュージックに近づく。
「え〜、そうだったんだわな♪初めて、知ったわな♪」
ピクシーミュージックのいつもの調子にブルーファイアは、うんざりとした表情を向ける。
「私、何度も説明したよな?これは、私達、魔法少女の存続をかけた戦争なんだぞ?」
「そうだったんだわな♪初めて、知ったわな♪」
「お前、一度でいいから、人の話、聞けよ」
「それより、ブルーちゃん、その腕。そうとう出血してるわな♪私のエンジェルボイスで回復してあげるわな♪」
「やめろ、エンジェルボイスは、使うな。すでに私の炎で焼いて、止血は、してある。それより、加鳥達が裏切った以上、柊は、私の手で始末しなければ……」
ブルーファイアは、よれよれとした足取りで室長室へ向かおうとしたが、その時には、すでにピクシーミュージックは、歌いだしていた。
ブルーファイアの蒼白になった顔がみるみるうちに健康的な顔色になり、ブルーファイアは、猛烈な睡魔に襲われた。
「エンジェルボイスは、使うなっつっただろ……」
ブルーファイアは、がくんと膝を落とす。
ピクシーミュージックのエンジェルボイスを浴びせられた者は、身体の免疫機能が瞬間的に上昇し、ありとあらゆる病と傷が回復する代わりに、強制的睡眠状態に陥る。
これがピクシーミュージックが仲間とのチームプレーを禁止されたもう一つの理由である。
彼女の気分次第で傷ついた仲間を勝手に回復させられ、強制的に眠らされては、どんな完璧な作戦を立てても、その作戦自体が破綻しかねないからだ。
だから、彼女は、味方殺しと呼ばれている。
「だから、人の話をちゃんと聞けって……」
と言った時には、ブルーファイアも限界で白目を剥いていた。それ以上、意識を保つことは、できず、床に倒れる。
ピクシーミュージックは、
「早く、病院に連れて行かないと、手遅れになるんだわな♪私のエンジェルボイスで回復させれると言っても、限界があるんだわな♪」
と言って、倒れたブルーファイアを担ぐと飛行魔法で非常階段を下りて行った。
ピクシースパイスは、その場に放置され、すやすやと眠り続けた。




