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ピクシースパイス ―魔法少女大戦―  作者: 弥馬田 ぎゃん


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エレベーター内での攻防

ピクシーロスト・灰島仄香の行方がわからなくなった。


私(ピクシースパイス・古生小梅)を含めた魔法少女生き残り組と北大阪府シティキングホテルで灰島仄香は合流するはずだったが、その合流する日、当日に急に連絡がつかなくなり、消息不明となった。

警察の捜査により、北大阪府シティ中の監視カメラの録画された映像をあらった結果、灰島仄香が北大阪府シティキングホテルの地下駐車場に入っていくのが、確認されたが、肝心のその地下駐車場の監視カメラの映像が一定時間の間、停止していて、ピクシーロスト・灰島仄香の姿が一切、映っていなかった。

ピクシーロストが地下駐車場から出て行った映像も確認できなかった為、北大阪府警は、地下駐車場内の大捜索を行ない、不自然な黒炭化した灰が多量に発見する。

DNA鑑定の結果、その灰が灰島仄香であることが判明し、魔法少女狩りが未だ健在で北大阪府シティキングホテルのセキュリティがガバガバである事がわかった為、私たち生き残りの元魔法少女課の魔法少女は、新大阪都庁に集合するように、元魔法少女課室長の柊 香子から司令を受けた。

私は、ピクシータイガーちゃんとピクシーブルーファイアちゃんの三人で、もうすでに魔法能力を失っている元魔法少女二人を保護しながら、柊 香子元室長の待機しているという魔法少女課室長室のあった新大阪都庁の上層階へ正面一般口のエレベーターではなく、資料などを運ぶ大型搬入口のエレベーターで向かった。


「ピクシーオールディクショナリーは、来るのかしら?」

私は、自分より多少、魔法少女オールディクショナリーと交流のあるブルーちゃんに向かって、訊いてみた。



「あいつなら、来ないわよ。自分の命を守ることにしか興味がないもの。予言だけして、我、関せずよ。今頃は、エリア51の地下施設にでも籠もってるんじゃない」


他人が聞いたら、軽口の冗談に聞こえるかもしれない。

でも、ブルーちゃんは、決して、冗談を言わない魔法少女で有名だ。

ブルーちゃんがそう言うなら、本当に未来予知の魔法少女は、アメリカで自主防衛に勤しんでるのかもしれない。


私たちのその会話中に、柊元室長の待つ新大阪都庁40階に向かうエレベーターが途中で止まる。

時刻は、すでに深夜を回っている。一般職員は、すでにとっくに帰っているはずだ。ましてや、私たちが使っているのは、普段から使用される事の少ない大型搬入口のエレベーター。

いったい、誰が途中から乗り合わせるというのか――。

魔法少女狩りという言葉が第一に浮かんだ。

みんなの顔に一様に緊張が走る。

チーン と音を立てて、エレベーターの扉が開くと、そこに立っていたのは、時東 誠人だった。



「なんで、お前が今、ここに?地下で幽閉されてるはずじゃ?」



と一番、驚いていたのは、ブルーちゃんだった。



「俺が捕まってる間にピクシーロストが殺されたんだろ?それで容疑が、とりあえず晴れたんで、解放されたんだよ」



時東誠人は、飄々とした口調でそう言って、エレベーターの中に入って来た。

その様子に私は、違和感を覚えた。

上手く説明できないが、何処かいつもの彼と違う気がした。

エレベーターの扉が閉まり、上層階へと向かい、再び、動き出す。

何か判然としない気持ちの悪い沈黙がしばらく流れた。

それを破って、口をまず開いたのは、時東誠人だった。



「ブルー。香水、変えたか?」



「私は、香水などつけない」



「おかしいな。ピクシーロストと同じ香水の匂いが、仄かにするぜ。俺は、魔人だから人間と違って、そういうのに、気づいちまうんだぜ。残念ながら」



「そういうお前からは、血の匂いがするぞ。時東誠人。まるで、さっき人間を食って来たようだな」



時東さんとブルーちゃんは、目も合わせず、隣に並び立って、淡々と会話したが、見た目の様子に反して、一気にエレベーター内で二人の殺気が充満した。

戦場と同じ匂いだ。

私は、マジカルステッキを身構えた。

その瞬間には、もう戦いは、始まっていた。

青い閃光が走ったかと思うと、次には、ボウと轟音を立て、その次には、真夏の太陽光よりちりちりと凶悪な熱が襲って来た。

目を開けてるのも、辛い熱さの中で私が見た光景は、ピクシーブルーファイアの人工的に作ったガス熱と同等の温度の青い炎を、時東誠人が左腕を巨大な大王イカのような触手に変え、受け止めているところだった。

スルメが焼かれる臭いあの悪臭が鼻をつく。しかし、それどころではない。元魔法少女課の仲間同士が殺し合いを始めた。


止めなくては。


私は、二人の間に分厚くデカい魔法障壁を展開する。


「何をしているの!?ブルーちゃん!?」

ブルーファイアは、私が魔法障壁を展開してからも、継続して、魔法の青い炎を魔法障壁に向かって、放出し続けている。

こんな広さに限りのある密閉されたエレベーター内で正気の沙汰とは思えない。



「お前こそ、何をしている!?そいつは、地下から脱獄してきたんだ!!人を食ってるぞ!!」


ブルーちゃんが青い炎を放出しながら、そう叫ぶと、時東誠人が私の方へと振り返り、


「騙されるな!ピクシーロストを殺したのは、こいつだぞ!こいつは、お前ら、残りの魔法少女を全員、ここで焼き殺す気だ!!」

と言った。

しかし、そういう彼の顔は、すでに彼ではなかった。


イカのように白い肌に時東誠人の面影はなく、顔形は、すべて最後の敵性魔人・久保田和也のものへと変貌していた。

やはり、久保田和也の魔人再生細胞によって、一度、蘇生した時東誠人の精神が久保田和也に乗っ取られているのではないか、という疑惑というか仮説は、真実だったの?

困惑と目の前の畏怖の塊であるイカの魔人に私がたじろいでいると、ブルーちゃんがまた叫ぶ。


「魔人の味方をするのか!スパイス!!この魔法障壁を解け!!」


バカな。そんなことをすれば、イカの魔人ごと私たち残りの魔法少女も黒焦げになってしまうじゃない。



私は、展開した魔法障壁を自分の前に瞬間移動させ、とりあえず、久保田和也の上下前後左右を新たな魔法障壁で囲み、ボックス型にしたその新たな魔法障壁を収縮させ、その中にぎゅっと久保田和也を閉じ込めた。

久保田和也は、全身の触手の数を増やし、押し返し、魔法障壁のボックスを力づくで割って、打ち崩そうとしたが、私の中身が幾層にも重なり、強化された魔法障壁は、びくともしなかった。

それを見て、ブルーちゃんは、私の見たことがない悪辣な笑みを浮かべ、


「なんだ、これは?ピクシーブロックの魔法障壁と同等、いや、それ以上か。いつの間にこんな進化をしたんだ、スパイス」

と言って、閉じ込めれた久保田和也に向かって、炎殺魔法を放出し続けた。


「いいぞ、いいぞ、スパイス。私の魔法の炎にも耐えうる魔法障壁の耐久力。素晴らしい」

自分の魔法の炎でも私の魔法障壁を焼き崩せないと知って、何故かブルーちゃんは、嬉しそうにしている。

私の知らないブルーちゃんが、そこに確かに存在し、


「焼き殺せないのは、残念だが、どうやら、炎が届かなくても蒸し殺せそうだな」

と魔法障壁の中で宙に浮いてる状態の汗だくの久保田和也を見上げながら、やはり、笑っていた。

見間違いではない。

私は、自らの魔法障壁で守られた状態を保ちながら、



「ブルーちゃん。あなたが仄香ちゃんを殺したなんて、嘘よね?」

と訊いた。



ブルーちゃんは、笑みを薄く滲ませたまま、熱波で表情の明暗をゆらゆらと歪め、


「スパイス、改めて、お前を仲間に誘うよ。今から、上にいる柊を一緒にぶち殺し、一緒に新しい魔法少女課を作ろう」

と答えになっていない答えをした。

答えになってはいないが、あきらかだ。

こいつは、仲間の魔法少女を殺している。



「ブルーちゃん、あなたが魔法少女狩りなの?それとも魔法少女狩りの仲間?どうして、こんな事を?」



「決まってるだろ。私たちで新しい魔法少女課を作って、人々にまた私たちが必要だと認めさせる為だよ。柊抜きでな。柊達の作った世界をぶち壊し、私たちの作った新しい世界で、人々に愛される平和の使者として、正義の味方として私たち魔法少女は、君臨するんだ。あれだけ、何度も守ってもらい、救ってもらっていたのに、最後の最後でお姉ちゃんを否定した人民や世界を下に敷き、私たちが上に立つんだよ」



「魔人少女ヘルファイア」

私は、無意識にその名を口にしていた。


「その名で私の姉を呼ぶな!!」

こちらが過剰に感じる反応をブルーちゃんは、見せる。魔人少女ヘルファイア、魔法少女レッドファイアがブルーちゃんの姉であることは、日本国民の誰もが知っている。こんな言い方は、ないだろうけど、それほどに有名な出来事だったし、災害級に人々の心に傷を与えた。

当然、柊元室長が彼女の姉にした事も魔法少女課の全員が知っている。

それでも、彼女は、魔法少女課に入り、魔法少女になった。普段の彼女の言葉や行動を見て、全てを乗り越え、姉と同じ正義の道に進んだのだ、と思った。思っていた、少なくとも私は。

しかし、彼女の中では、ずっと復讐の炎が燃えていたのだ。考えれば、当然だ。当然の感情だ。身内を殺されたのだから。

身内を蔑まれたのだから。彼女自身も魔法少女になって、汚名を削ぐまで、魔人少女ヘルファイアの家族として、蔑まれていたのだから。

もっと早くに気づくべきだった復讐者が仲間に、こんな近くにいたのだ。

それに気づかせなかった彼女は、それほどまでに魔法少女課に貢献していたし、信頼を勝ち得ていた。

彼女の正義の味方の擬態は、完璧だった。


「目的は、柊室長への復讐?」

と私は、ストレートに訊いた。


ブルーちゃんは、鼻で笑った。

「そういう問題じゃないんだよ、スパイス。話をちゃんと聞いていないな。今、人々は、私たち魔法少女を必要としていない。私たち魔法少女を見捨てようとしている。これは、私たち魔法少女の存在意義をかけた世界との戦争なんだよ。世界に再び、私たちを必要だと認めさせるには、新しい敵が必要なんだよ。魔法少女狩りのようなな。敵がもういなければ、作ればいいんだ。そうすれば、私たちは、正義の味方でいられる。これからも、魔法少女でいられるんだよ」



「理解できない。だって、私たちは、どのみち、あと一年で魔法少女じゃなくなるのに、仲間を殺してどうなるっていうの?」



「その問題は、クリアしてある。まだ、発表していないが、フゴウコーポレーションの製薬部門が新薬を作った。その薬を使えば、私たちは、魔法少女としての能力を維持したまま、大人になれる。おかしいとは、思わないか?柊だけが、何故、大人になってからも、現役の頃と比べて微弱ではあるが、魔法能力を有しているのか。奴は、秘密裏にその新薬の被験体になっていたんだよ。不正にその事を私たち魔法少女に秘密にして、自分だけが、魔法能力という富を独占しようとしていたんだ。その事実だけでも、奴は、断罪するに値するとは、思わないか?私たちの作る新世界に奴のような正義の為じゃなく、利得だけで動く奴は、いらないだろう?」



「私は、そんな風には、思わない。もし、柊室長が私たちにその新薬の事を隠してたなら、隠してた何か理由があるはずよ。柊室長の事は、私も嫌いだけど、あの人が悪い人だとは、思わない。私は、柊室長を信じている。」



「あくまで、私たちの仲間にならないというのか?答えは、本当にそれでいいのか?わかっているのか?私たちの仲間にさえなれば、お前は、これからも魔法少女でいられるんだぞ」



「 仲間を殺すような奴の仲間になるのは、ごめんよ」



「柊も仲間を殺しただろうが!!私の姉を!!」



「それは、レッドファイアが魔人化したから、仕方なく」



「仕方がないが理由で、家族を殺されてたまるか!!」



やはり、ブルーちゃんの思考は、復讐の炎で焼かれている。

ずっとその状態が続いていたのに、今まで隠してたのだと思うと彼女のことが、いたたまれない。


「これ以上の話し合いは、無駄のようね。やれ」

ブルーちゃんがそう言うと、私が魔法障壁でガードしているのとは、反対側、つまり、私の後ろから、私は、押し倒された。

獣のようなこのパワーは、

「タイガーちゃん!?」



「ごめんなさい!スパイス先輩!!私もブルー先輩の作る新世界に賭ける側なんです!!」

グフ子ちゃんの警告通りだった。


私たちの中にいるブルータスに気をつけろ


あの手紙を受け取ってから、ブルータスについて私もスマホで調べてみたが、ブルータスとは、古代ローマの大将軍とも言える傑物ガイウス・ユリウス・カエサルの暗殺に加わった一人だった。

のちにカエサルの最後の言葉として、人々によく知られることになる「ブルータス、お前もか」は、戯曲「ジュリアス・シーザー」でシェイクスピアが書いた脚色で歴史的事実ではないが、この「ブルータス、お前もか」のセリフでもわかる通り、カエサルを暗殺したのは、ブルータス一人ではない。

つまり、グフ子ちゃんは、私たち魔法少女の中にいる裏切り者は、一人ではないと暗に示していたのだ。

ブルーちゃんの味方をしているのは、タイガーちゃんだけとは、限らない。

タイガーちゃんは、「私もブルー先輩の作る新世界に賭ける側なんです」と言った。「私も」と――。

いくら、先輩の言うことに流されやすい性格のタイガーちゃんとは言え、ブルーちゃん一人に説得され、今回の犯行に加担したとは思えない。つまり、タイガーちゃんを説得したのは、ブルーちゃん一人ではなく、複数人いた。

私が知らない裏切り者は、まだまだ、たくさんいるのかもしれない。

何より、先程からブルーちゃんがずっと言っている。

私ではなく、「私たち」と――。



「スパイス、この私の前にある魔法障壁を消せよ。さもないと、タイガーに腕を折らせるぞ。おとなしく死ぬか、苦しんで死ぬか、だ。それとも仲間になるか?」



「ブルー先輩、私も一緒に燃やさないでくださいよ」

「わかってる」

とブルーちゃんとタイガーちゃんが会話する隙をつき、私は、一か八か久保田和也を閉じ込めている魔法障壁のボックスを消した。

瞬間、イカの魔人・クラーケンマン久保田和也がブルーちゃんに襲いかかる。



「クッソ!面倒なことを!!」

ブルーちゃんは、炎殺魔法の青い炎で対応するが、襲いかかる久保田和也の魔人細胞の再生能力が以前より高くなってるようで、なかなか彼の身体の全てを焼き尽くせない。その間も久保田和也は、一歩また一歩とブルーちゃんに近づいていく。

まるで、前進するゾンビに銃弾を撃ち込むが、あまり効いていないかのような光景だ。

そんな戦いの最中、今までエレベーターの隅っこで縮こまっているだけだった魔法能力を失った元魔法少女課の魔法少女の二人のうち一人が

「あの!!」

と声を上げる。



「なんだ!?命乞いなら後にしろ!!」

ブルーちゃんがほぼ叫ぶように言う。



「このエレベーター、落下してません?だって、いつまでも、40階に着かないし……」



!!?



緊急ボタンの上のスピーカーから知らない少女の声が響く。

「魔法少女裏切り組と正義の魔法少女の皆様、さよ〜なら〜」

呑気な間延びしたグフ子ちゃんのような声だった。



「裏切ったのか!!加鳥花子ぉおおおお!!」

上層階に向かって、ブルーちゃんの声が響く。


私たちは、エレベーターごと落下していった。

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