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ピクシースパイス ―魔法少女大戦―  作者: 弥馬田 ぎゃん


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戦いは、終わった。 魔法少女引退の時

わたし、魔法少女ピクシースパイスこと古生こしょう小梅こうめは、人口3000万都市の北大阪府シティの国道から南大阪自治区へ向かって逃亡する銀行強盗団の車両を、魔法少女の基本スペックである飛行魔法で追いかけていた。

わたしたち、魔法少女は、あくまでも北大阪府シティの新大阪都庁所属の公的執行機関。南大阪自治区まで逃げられてしまえば、南大阪自治区は、日本の国土でありながら、他国と同じなので、管轄外になり、手出しができなくなってしまう。

強盗団の乗っている逃亡車両は、南大阪自治区まで、あと200メートルぐらいまで近づいていた。

わたしは、焦りから人の全身を麻痺させるスパイス魔法の力の込められたビームをマジカルステッキで強盗団の逃亡車両に向かって、放った。

強盗団の乗った車は、失速し、方向感覚を失くしたようにぐらぐらと蛇行する。

運転手にわたしのスパイス魔法が効いたのは、あきらかだ。

けれど、強盗団の車は、失速したとはいえ、充分、人を轢き殺せるスピードを保っていた。ぐらぐらと蛇行しながら、路面側が全面ガラス張りのブティックへと向かって、突っ込んでいく。


「頼んだわよ。クラーケンマン」


ブティックと強盗団の車の間に空から降り立つように何処からか跳躍してきた成人男性が割って入る。

成人男性は、右腕だけ大王イカのような巨大なイカの触手になっている異形な姿をしていた。

男性は、自分に向かってくる車のフロント部分をその巨大なイカの触手12本で掴むと力づくで止めてしまった。

が、遅れるようにちょっとだけ、その車に身体がドン!と轢かれて、ガラス張りのブティックへと彼は、突っ込んでいった。バリンッ!ガシャンッ!とけたたましい音が鳴る。


「大丈夫?」


わたしが地面へと降り立ち、訊くと彼は、ガラスの破片が散乱するブティックの店内から血だらけで出てきて、


「大丈夫だ。客や店員にケガはない」と答えた。


「いや、そうじゃなくて……」


わたしは、心配して彼を見つめる。

いつもなら、数秒で塞がる彼の傷が、いつまでも塞がらず、血を流し続けている。

彼の名は、時東ときとう誠人まこと。一般的には、クラーケンマンと呼ばれている。

大魔人会最後の生き残りの魔人クラーケン大魔人ラブリーの細胞を事故的に肉体に取り込んでしまい、半イカの魔人化してしまった不幸な中年男性。

人間から魔人化したにも関わらず、自我を保ち、同じようにクラーケン大魔人ラブリーの細胞を取り込み、イカの魔人化した久保田和也を倒すのに助力した為、今は、魔法少女課預かりの戦闘員として、日夜、日本の平和の為に、こうして、魔法少女と共に犯罪者などと戦っている。

わたしが、いつまでも血だらけの彼を見つめていると、彼は、照れくさそうに人間の手の方の人差し指で頬かいた。


「ああ、これか。分析班の柳が言うにはさ。俺の中の魔人細胞は、日を追うごとに減少していってるんだってさ。だから、足裏の吸盤の力がいつもより弱くて、吹っ飛ばされちまった」


そう言って、時東さんは、裸足の足裏のイカの吸盤を見せた。人間の足裏にいくつもの吸盤が付いている。いつ見ても、グロテスクな足裏だ。


「一年後には、俺、普通の人間に戻れるかもしれないんだって」


「よかったじゃん」

わたしは、一年の間に彼と何度か一緒に任務をこなすうちに普通に何歳も年上の彼にタメ口をきくようになっていた。彼には、年下にタメ口をきかれる何かがある。ダメおじ臭というのか。彼は、それを特段、気にした様子は見せない。だから、今は、魔法少女全員にタメ口をきかれている。


「一年後か〜。その頃には、わたしも魔法少女、引退してるかな〜」


「なんで?」

彼は、不思議そうに訊いてきた。


「知らない?魔法少女は、大概、19歳になると魔法の力が消えるの。それが魔法少女因子の消費期限なんだって。わたし、もう18だし、ラストイヤーってわけ」


「魔法少女を辞めた後、お前は、どうするんだ?」


「さぁね〜。ずっと魔人会との戦いの事しか考えてこなかったから」


遅れてやってきた警察が、銀行強盗犯達を無事、捕らえ、連行して行ったのを見届けた後、わたしは、将来について、引退まで、あと一年はあるし、それまでに決めればいいやと軽く考えていた。

しかし、わたしの考えは、甘かった。

その日の午後6時、新大阪都庁にある魔法少女課の会議室に魔法少女課室長のひいらぎ 香子かおるこさんの呼び出しで現役の魔法少女16名が集合させられた。

わたしは、何事かと胸に久し振りの圧迫感を感じた。通常、魔法少女は、柊室長に一人か二人もしくは、三人ずつ呼び出されて、直接、指令を受ける事はあっても、全員が呼び出される事はない。基本、任務があったら、携帯で連絡が来て、現場集合、現場解散。任務の度に魔法少女課にいちいち集まっていたのでは、現場の即時対応ができない。魔法少女が魔法少女課に呼び出される時は、それなりの通常の任務よりも重要性を帯びている。

それが魔法少女全員が呼び出されるなんて、大魔人会の首領ドボスとの決戦以来の事だ。

最後の敵対魔人クラーケンマン久保田和也の時もほとんどの魔法少女がリモートで柊室長(当時は、主任)から指令を受けた。

新たな敵でも現れたのか。

魔法少女全員に緊張が走る。

魔法少女ピクシートラップ弥馬田グフ子だけは、鼻くそをほじっているように見えたが、たぶん、わたしの気のせいだ。


「大魔人会の首領ドボスとの最終決戦以来、クラーケン大魔人ラブリーとの戦い、クラーケンマン久保田和也との戦い、豪華客船で発生したゾンビの掃討戦など数々の苦難を我々、魔法少女課は、乗り越えてきたわけだが……」


どんな時でも、ピシッパシッと指令を下す柊室長が珍しく、言葉を詰まらす。


「ここ数ヶ月、半年以上、魔人のような凶悪な変異体は、現れていない。ここ数ヶ月の我々の活動と言えば、南大阪自治区からやって来る犯罪者を捕える警察の手伝いばかりだ。正直、警察の仕事は警察に任せておけばよいという世間の声も強い。化物がいなくなったのに、いつまで魔法少女に国民の税金を使うのか、という声も、……つまり、日本国民は、もう我々を必要としていない。魔法少女課をこれ以上、存続させていこうにも、民意を得られない」


柊室長は、一呼吸を置いた。もう、室長が次に何を言うのか、だいたい予想はつき、私は、覚悟した。


「新しい法案が国会で可決され、我々、魔法少女課は、本日をもって、解散する事となった!」


その宣言に私は、脳が痺れて、ぼうっと熱くなった。

目も熱くなり、視界が滲む。

その時になって、わたしは、魔法少女は、わたしにとってわたしの全てだったのだと知った。

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