災厄の魔法少女VS復讐者
クラーケンマン時東誠人が新大阪都庁の地下13階特別収容所に幽閉されてからの三日間――、魔法少女達は、魔法少女狩りに襲われる事なく、平和な日々を過ごした。
しかし、それは、時東誠人に対する疑惑がより濃くなる事を意味していた。
彼が幽閉されてから、魔法少女が襲撃を受けなくなったという事は、やはり、ピクシースナイパーを殺したのは、彼、時東誠人で、そのまま彼が魔法少女狩りの一味であった事を証明する事になるのではないか――。
三日間、平和が続けば、不穏を感じる者もいれば、安堵する者もいる。
ピクシースパイスは、過去に時東誠人に助けられた経験から、時東誠人を復讐者蝉川秀一の一味とは、どうしても思えず、だからと言って、彼の潔白も証明できずに、そわそわと落ち着かない気分で複数人いるであろう魔法少女狩りに対し、警戒していたが、それとは、対照的にピクシースナイパーを殺したのは、時東誠人で、彼が捕まり、大きな戦力を失った魔法少女狩りの一味は、早々に魔法少女達のこれ以上の殺害を諦めたのであろうと楽観的に考える者も魔法少女達の中にはいた。
その楽観的思考の持ち主は、魔法少女の中でも稀有な絶対的無敵魔法能力の持ち主でもあった。
彼女の魔法少女としてのコードネームは、ピクシーロスト。通称で災厄の魔法少女と呼ばれている。
ピクシーロストは、ピクシーブルーファイアとピクシースパイスとピクシータイガーの三人が、すでに引退して、退化薬を打った魔法少女達を保護している北大阪府シティキングホテルの地下駐車場まで来ていた。
北大阪府シティキングホテルは、北大阪府の直営企業で新大阪都庁にほど近い場所にあり、いざという時の増援も期待できれば、朝食バイキングが美味いことでも有名だった。
長期に渡り、スマホでピクシーブルーファイアからこちらに合流するように、と説得を受け、自分の事は自分で守れると断っていたピクシーロストであったが、合流場所が北大阪府シティキングホテルと聞き、朝食バイキングが今回の事件のセキュリティの一環として、府の経費で無料で食べられると聞き、文字通り、飛んでやって来たのだ。
魔法少女の戦闘服である胸に大きなリボンの付いたミニスカドレスでは目立つだろうから、正面玄関ではなく、地下駐車場から深夜に来るように、というブルーファイアの忠告を受け、それをちゃんと守って、やって来た。そんな彼女を待ち構えていたのは、身体中にミイラのように包帯を巻き、その上からサラリーマン風のスーツを着た男だった。
「ありゃりゃ、ブルーちゃん。この場所、敵に待ち伏せされてんじゃん」
物言わぬ車体がキレイに何台も駐車されている中、他に人の気配はない。
天井が思ったより、低く、飛行魔法が存分に使える場所ではなかったが、ピクシーロストは、目の前の明らかなる敵に余裕を失わなかった。
何故なら、彼女には、このような閉鎖空間での近接戦闘において、無敵の能力があったからだ。
見たところ、包帯男は、銃を持っていないし、銃弾ぐらいなら、魔法障壁で簡単に防げてしまう。
「魔法少女ピクシーロスト灰島仄香だな?」
と包帯男は、訊いてきた。
「そうよ〜」
とピクシーロストは、余裕を崩さない。
「一年前、お前ら魔法少女が殺した少女の名を覚えているか?」
と包帯男は、いつも訊くのと同じように訊いた。
「セミカワ マナコちゃんだっけ?ごめん。報告、受けるまで、私、忘れてたタイプの魔法少女なんだわ。あなた、本当に蝉川秀一さん?クラーケンマン時東誠人は、今、新大阪都庁にいるはずだもんね?」
というピクシーロスト灰島仄香の問いには、包帯男は、答えず、
「充分だ」と言って、
自らの右腕を12本の巨大なイカの触手に変え、銃弾が飛ぶより速いスピードでその触手を伸ばし、ピクシーロスト灰島仄香の全身を包んだ。
あとは、その触手に力を込め、握り潰すだけで、ピクシースナイパーの時のように簡単に決着は、ついてしまう。はずだったが……、
へたへたと包帯男の触手は、力を失い、地面へと落ちる。
そのまま、物になったかのように地面にべったりと付いて触手は、動かなくなる。
灰島仄香は、触手から解放され、馬鹿にしたように
「私の魔法は、喪失魔法ロストデイズ。半径2メートルまで近づいた者の四肢の感覚をどれでもいつでも喪失させ、不能にできる。襲撃する前に私の能力について、何も調べて来なかったの?あきれるぅ〜」
と言う。
ピクシーロスト灰島仄香の喪失魔法は、接近戦において、無敵であるが、一度、発動すると敵味方関係なく、四肢の感覚を奪ってしまう。
半径2メートルの範囲の敵の足の感覚を奪おうと能力を発動した時に、同じように味方が半径2メートルの範囲に入っていると味方の足も不能にしてしまうのである。
それ故、災厄の魔法少女と呼ばれている。味方殺しの魔法少女ピクシーミュージックと一二を争う使用上要注意の無敵魔法少女なのである。
おまけに効果範囲の半径2メートルまで敵に近づくのに、味方のフォローが大概の場面で必要な為、魔法少女中一番使い勝手が悪い魔法少女でもある。
しかし、その能力については、繰り返しになるが、無類の強さを誇る。何せ、ピクシーロストの喪失魔法で奪われた四肢の感覚は、何をしようと元には、戻らない。
そう、目の前の男一人を除いては――。
包帯男は、不能になったイカの触手の右腕を左手に握ったフゴウコーポレーション社製の超振動ナイフで切断した。
すると、一瞬で切断箇所から新たなイカの巨大な12本の触手が生えてきて、灰島仄香へと襲いかかった。
灰島仄香は、喪失魔法で今度は、自分に到達する前に触手を不能にした。
包帯男は、また超振動ナイフで使えなくなった触手を切り落とそうとしたが、灰島仄香の喪失魔法が発動する方が早かった。
左手は、超振動ナイフを落とし、左腕ごと、だらんとなる。
次は、左足の感覚が無くなり、順番に右足の感覚も無くなる。
包帯男は、立てなくなり、尻もちをついた。
だらんと四肢の感覚が無くなった人形のような状態で包帯男は、強く灰島仄香を睨んだ。
「そんな目しても、ダメダメダ〜メ。状況は変わらな〜い。あなたが今すべきは、命乞いでしょ?」
そう言って、灰島仄香は、超振動ナイフを拾いあげると、身動きの取れない包帯男の左目に刃先を突き刺した。
そして、そのまま眼球をえぐり取る。
空洞になった、ただの穴になった包帯男の左目を見つめ、灰島仄香は、不思議そうにする。
「あれれれ〜?右腕みたいに再生しないぞぉ〜?どうしてかなぁ〜?かなかなかなぁ〜?」
そう言って、灰島仄香は、包帯男の頭部を鷲掴み、自らの眼球を近づけ、包帯男の残った右目を覗き込んだ。
「ねぇ、どうして?」
包帯男は、答えなかった。
「まぁ、いいや。本当は、何度も再生するあなたの目玉を繰り返し、えぐって、くり抜き続けて、仲間が何処のどいつか、吐かせようと思ってたけど……拷問は、プロに任せましょ。いるでしょ。国には。そういう専門部署の人が」
少し残念そうに灰島仄香は言って、
「まだ右目も残ってるしね♥」
と笑った。
包帯男は、灰島仄香に唾を吐きかける。
「ぷっち〜んっ!」
と冗談のように灰島仄香は言って、スマホを取り出す。
「もしめ〜し、ブルーちゃん?今から、そっこーで地下駐車場まで降りてきてくんない?ちょっと燃やしてほしい奴がいんだわ」
灰島仄香は、スマホをしまい、
「さ〜て、どれど〜れ」
と包帯男の顔面の包帯を掴み、剥がした。
!!
包帯男の顔は、誰なのか判別できない程、全体的に焼け爛れていた。
灰島仄香は、驚きはしたが、目を背けなかった。こんなものは、魔人との戦場でいくらでも見たことがある。
一般人の犠牲者は、数えきれない。
そんなのいちいち全ては、覚えておけない。
どうして、命を張って、この国を守ってきた私たちが恨まれなければ、いけないのか。
確かに、犠牲者は出たが、私たちが戦わなければ、もっと大勢の人が死んだはずだ。
綺麗事だけで、人が救えるか。
灰島仄香は、そんな心中は、語らない。
それは、魔法少女なら誰でも個人個人で思って、黙って抱えてる事だし、語ったところで、目の前の男が救われるとは思えなかった。
「な〜んだ、時東誠人じゃなかったのか。ってことは、あんた、蝉川秀一?」
包帯男は、答えなかった。
彼の目にもう一人の魔法少女が映る。
コバルトブルーを基調としたカラーリングの大きなリボンの付いたミニスカドレス。
「ブルーちゃん、いいところに来てくれた。この魔法少女狩り、さくっと燃やしちゃってよ。私の能力じゃ、心臓止めたり、脳を機能停止させたりして、トドメ刺すのは、無理だからさ」
ピクシーロストは、後ろに佇むピクシーブルーファイアに向け、言った。
ブルーファイアは、迷いのない足どりで灰島仄香と包帯男に近づき、灰島仄香の首に注射を打った。
退化薬が灰島仄香に注入され、彼女の全身に行き渡る。
ピクシーロストの喪失魔法が喪失され、一瞬で消えていく。
灰島仄香は、もはや、魔法少女ではない。彼女は、ただの少女と化した。
「何を!?」
驚愕の表情を向け、振り向く灰島仄香をピクシーブルーファイアは、無言で自らの炎殺魔法の青い炎で焼き払う。
「どうして!?ブルゥー!!」
それが、灰島仄香の最後の聞き取れる言葉となった。あとは、獣のような叫び声を上げ続け、彼女の苦しみだけが、周りに鳴り響いていた。
黒い燃えカスとなったピクシーロストを証拠を隠滅するように、細かく踏み潰し、蹴って辺りに散らすブルーファイア。
そんな彼女の淡々とした殺人行為を見つめ、包帯男は、
「どうして、仲間を殺した?」
と訊ねる。
ブルーファイアは、青い瞳を向け、じっと包帯男を見つめる。
包帯男・蝉川秀一は、知らなかった。
まさか、魔法少女の中に自分の復讐を手伝う者がいるなんて――。




