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ピクシースパイス ―魔法少女大戦―  作者: 弥馬田 ぎゃん


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元最強の魔法少女弥馬田グフ子VS復讐者蝉川秀一

二人掛けのソファが長方形の長机を向かい合う形で挟んでいるボックス席が4つ、丸机を挟む形で向かい合う一人掛けの丸椅子が2脚ずつセットされてある箇所が三箇所、カウンター席の横並びにされた椅子六脚。ピンクを基調とした壁紙と床は、マスカラチックなケバい目玉とぷっくりとした口紅の濃いクチビルにハートを模したオブジェでキラキラギトギトにデコレーションされ、異世界観を演出。そして、金色の額縁で飾られた魔法少女達の今までの活動写真。

それが、元最強の魔法少女弥馬田グフ子の今の財産の全てだった。

北大阪府の日本橋駅近くの最高の立地に建てられた魔法少女カフェは、弥馬田グフ子が退化剤を打ち、魔法少女を引退することで手に入れた退職金の全てが費やされている。

大画面テレビには、魔法少女カフェで働く元魔法少女候補生たちの自己紹介プロフィールが常に映像で流れていて、その前に設置されてあるステージでは、正午と昼3時と夕方5時の一日計3回、元魔法少女候補生の店員達による歌とダンスの萌え萌えなショーが行われる。店内には、推し店員の応援グッズが売っている場所があり、物販は充実している。

キッチンフロアには、バイトではないプロのコックがいて、出てくる料理の味もきちんと補償されている。

そこまでしていて、店内のBGMは、店長である弥馬田グフ子が作詞・作曲・歌唱をした「弥馬田グフ子グフ子は、DX」が流れているので、全てが台無しになっていた。

が、本人は、もちろん、その事を自覚していない。

営業時間が終わり、元魔法少女候補生の店員達やコックのいなくなった店内で、今、弥馬田グフ子は、一人でステージの掃除をしていた。

弥馬田グフ子は、魔法少女狩りの存在が推定されてから、ずっとこの店内に住み、外出していない。

食事は、ウーバーで済ませ、排泄も店内のトイレで済まし、風呂は自分以外の人がいない深夜にキッチンでキッチン用洗剤で身体を洗い、済ました。

ピクシースパイスやピクシータイガーやピクシーブルーファイアが護衛を申し出ても、頑として譲らず、自分の護衛は断り、それより元魔法少女候補生達の護衛を徹底するように、と強く要求した。

ピクシースパイス達は、何度か説得を試みるも、最終的にピクシートラップ弥馬田グフ子の要求を聞き入れ、彼女一人の魔法少女カフェでの籠城を了承した。

「ここが私にとっての一番、安全な場所だ」と繰り返す元魔法少女ピクシートラップ弥馬田グフ子には、何か考えがあるらしく、ピクシースパイス達は、天才である彼女を信用する事にしたのだ。

弥馬田グフ子は、ほうきとちりとりを手にして、店の出入り口に背中を向けていた。

そこにカランコロンカランと音を立て、サラリーマン風のスーツ姿の男が入室する。

弥馬田グフ子は、鍵を掛けてなかった。

男は、蝉川秀一であった。



「すみやせん。お客様。当店、本日は、営業時間をとっくに過ぎとりやす」

振り返って、そう言う弥馬田グフ子に向け、蝉川秀一は、いきなりショットガンをぶっ放した。



「客ではない」



という蝉川秀一の一言が届く頃には、弥馬田グフ子の身体は、キッチンフロアまで吹っ飛ばされていた。

フゴウコーポレーション社製魔人用ショットガンである。威力は、抜群だ。

しかし、弥馬田グフ子は、



「あ痛てて……」



とキッチンフロアから顔を出す。



「どうして、生きている?」と蝉川秀一は、眉も寄せずに真顔で訊いた。



「自分を殺しに来る奴がいるのに、何の備えもしない阿保がいますか?」

と青くなった顔で言う弥馬田グフ子。



「防弾チョッキ……フゴウコーポレーション社製か。皮肉だな」

蝉川秀一は、少し笑う。

「しかし、肋骨は、確実に何本か折れたろう」



「当たる瞬間に後ろに飛んだんで……そうでもないっすよ」



「嘘をつけ」



蝉川秀一は、1秒でショットガンの装填を済ませ、再び、照準を弥馬田グフ子に合わせた。

すると、弥馬田グフ子の方も蝉川秀一に照準を合わせていた。



「なんのつもりだ?」



蝉川秀一が訊くのも、当然、弥馬田グフ子が構えているのは、どう見ても水鉄砲だった。

金持ちの子どもが持っていそうなどでかいサイズではあったが、市販の水鉄砲にしか見えない。



「秘密兵器っす」

と弥馬田グフ子は、青い顔で不気味に笑う。



「中身は、ただの水ではないということか……」

蝉川秀一は、動揺しなかった。

水ではないにしろ水鉄砲で発射できるのは、液体。到達するスピードは、銃弾よりも遅いはずだし、キッチンフロアまでは、距離がある。完全に水鉄砲の射程範囲外だ。

一方、こっちは、フゴウコーポレーション社製のショットガン。100メートル先の人の頭蓋でも粉砕できる。

命中するかの心配はしなくていい。その為に自分は、今まで訓練をしてきた。

蝉川秀一は、自信と殺意に満ち満ちていた。



「一年前、お前ら、魔法少女が殺した少女の名前は、覚えているか?」

蝉川秀一は、弥馬田グフ子を強く睨みつけながら、いつもの質問をした。

「慎重に答えろよ。今度は、胸じゃなく、頭を撃ち抜く」



「はぁ〜、魔法少女狩りさんは、私たち魔法少女と魔人との戦いに巻き込まれた一般人の犠牲者の遺族さんっつーことっすかぁ〜。年間何人の一般人が私たち魔法少女と魔人の戦いで死んだと思ってるんっすかぁ〜。そんなのいちいち覚えてないし、私たち魔法少女も全ての人は、救えないっすよぉ〜」

弥馬田グフ子は、悪びれず、むしろ、呆れたように言った。



「娘は、お前ら、魔法少女と魔人の戦いに巻き込まれたんじゃない!!お前らの魔法によって、お前らに殺されたんだ!!」

蝉川秀一は、一気に怒りの沸点へと到達する。興奮して、ガチガチと震える銃口を抑え、必死に弥馬田グフ子の頭部に照準を合わせ直す。



「でも、娘さんって、一人でしょ?なんで、たった一人の為に私たち魔法少女が全員、殺されなきゃいけないんっすかぁ〜?」



「なんだと!!」



「あなたが殺した魔法少女にも親は、いるんですよ。蝉川秀一さん」

弥馬田グフ子にそう言われ、蝉川秀一は、一瞬、頭が真っ白になる。



こいつ、私とマナの事を覚えて……!!



と蝉川秀一が意識を働かせた時、弥馬田グフ子は、すでにキッチンフロアにある何かのボタンを押していた。

すると、蝉川秀一の立っていた床が突然に動き出し、メリーゴーランドのように回り始めた。

蝉川秀一がそれに驚いている間に机と椅子が蝉川秀一に向かって、突っ込んで来る。

蝉川秀一は、机と椅子に無遠慮な力で挟まれ、痛めた骨をさらに痛め、思わず、呻き声を上げ、倒れてしまう。

そこにさらに別の机と椅子が突っ込んで来る。

それをもろに次々とくらう。

床は、回り続けている。方向感覚を失い、弥馬田グフ子を視界にしっかりと捉え、銃口を合わせる事ができない。

弥馬田グフ子は、そんな蝉川秀一に秘密兵器とやらの水鉄砲は使わず、何かを何個か投げつける。

蝉川秀一は、あっという間にカラフルに染色される。

弥馬田グフ子が投げたのは、コンビニ強盗などに向けて使う防犯用のカラーボールだった。

床の回転がそこで止まるが、弥馬田グフ子は、今度は、スイッチを押し、部屋の照明を消した。

室内が真っ暗になり、危険を感じた蝉川秀一は、弥馬田グフ子がいたと思われる方向に向け、ぐらぐらに酔った状態でショットガンを発砲した。

当然、それは、弥馬田グフ子に命中しなかったらしく、



「グフフ、わしゃしゃしゃしゃっ!!」



今までの人生で聞いたことのない笑い声がこだまする。

次弾を撃とうにも、真っ暗で装填できない。

一方、敵からは、カラーボールの蛍光塗料で自分の位置は、丸見えだ。

やがて、何かが発射され、自分の肉体に何か温かい液体が広がっていくのを感じて、蝉川秀一は、絶望し、敗北を覚悟した。



俺の復讐は、こんなところで終わるのかと――。



照明が点き、明るくなり、自分の身体に広がっていたのは、自らの血ではなかったと気づく蝉川秀一。

蝉川秀一の全身には、白濁液がまとわり付き、すでにカチカチに凝固し、身動き一つ取れなかった。



「なんだ?これは?」

と蝉川秀一は、白濁液のかかっていない口を動かし、弥馬田グフ子に訊いた。

弥馬田グフ子は、それに



「最後の敵性魔人久保田和也を捕まえるのに、使った特殊強力粘着ネットを溶かして、液状にしたものっす。温めた分、空気に触れると冷えて、ガチガチに固まるっす」

と不気味なまでに正直に答えた。



なるほど、水鉄砲に入れていたのは、これか。



と蝉川秀一は、心の中で独り言ちる。



「もう、抵抗しても、無駄っすよ。その粘液、魔人の力でも、どうにもならなかったっんすから」



弥馬田グフ子に言われて、蝉川秀一は、力を込め、試してみたが、確かにどうにもならなかった。

頼みのショットガンの銃口まで粘液で塞がれ、ガチガチに固まっている。



「私の敗因は、なんだ?私は、何故、負けた?お前は、もうトラップ魔法を使えないただのガキのはずなのに……」



蝉川秀一は、問うた。弥馬田グフ子にそれに答える義務はない。

が、弥馬田グフ子は、



「運っすね」

と答える。

「お客様の中には、自分を神様だと勘違いして、店員に失礼を働く部類もいるもんで、そういうお客様をお仕置きする為にこの店には、私がいろんな仕掛けが施しておいたんでさあ。だから、そのからくり仕掛けを全て把握している私にとっては、ここが一番、安全な場所なんっすわあ。それを知らずにあなたは、まんまとここにやって来たと。まぁ、全ては、運っす。あなたは、運が悪かったんですわ」



運?そんな理由で俺の復讐は、終わるのか?



「私からも質問いいですかね〜?」

弥馬田グフ子は、青い顔して、ニヤニヤと不気味に笑う。



「なんだ?」

蝉川秀一は、是非に及ばずといった目で弥馬田グフ子を見る。



「あなた、単独犯では、ありませんね?」

弥馬田グフ子のその問いに蝉川秀一は、何も答えることができなかった。が、それが、そのまま、答えになっていた。

「やっぱりね~。この店内の監視カメラの映像は、新大阪都庁に繋がっていて、何かあったら、警察に連絡がいくように約束してあるんすよ。ここから最寄りの交番まで3分もないのに、誰も来ねぇし、サイレンも鳴らない。さっきから、スマホであなたのこと撮影して、北大阪府警に送信しようとしてるのに、作動しない。これって、外から誰かが、妨害してますよね?つまり、あなたには、仲間がいる」

弥馬田グフ子は、ずさずさと核心を突いてくる。

そして、奥のキッチンフロアに戻ったかと思うと、バケツを持って、再び、蝉川の前に立つ。



「なんだ?それは?」



という蝉川秀一の問いに答えず、弥馬田グフ子は、バケツの中身を蝉川秀一に被せた。

新たに全身に纏わり付いたそれは、油っぽいだじゃなく、呼吸ができなくなるんじゃないかという匂いがして、蝉川秀一は、むせかえった。



「ガソリンか……」と蝉川秀一は、言い、



「今から、あなたを燃やします」と弥馬田グフ子は、言った。

「あなた一人の単独犯なら、このまま、警察が来るまで、のんびり待っていてもいいんですが、仲間がいるとなると、助けに来るかもしれませんし、殺せるうちに確実に殺しておかないと」



「わかっていないようだから、言うが、このまま、火を点けるとお前も燃えるぞ」



蝉川秀一が忠告すると、弥馬田グフ子は、

「ヤダなぁ。わかってますよう」

とテンション高く狂ったように笑った。

「だからぁ、こうします」

とロウソクを蝉川近くの床に置き、チャッカマンで離れて、火を点けた。

「このロウソクの火が床に着くまで、短くて一分、長くて三分ってところですか?それまでにあなたの仲間が助けに来れば、あなたの勝ちであなたは、助かる。助けが間に合わなければ、あなたの負けであなたは、死ぬ。わかりやすいでしょ?」



蝉川秀一は、目の前の床のロウソクを見つめた。

手を伸ばせば、届く距離なのに、特殊強力粘着液とやらでカチカチに固まって、手を伸ばすことがどうしてもできない。どかすことができない。

目の前で見る見るうちに、ロウソクの火が床に近づいていく。

蝉川は、それをただ見ている以外にできることがない。



「そんじゃ、アタシは、これで」

と弥馬田グフ子は、その場から去ろうとするが、

「あっ!忘れるとこだった!」

と言って、再び、蝉川秀一の正面に廻ると、カシャッ!と音を立てて、フラッシュを浴びせた。

「昔なつかしのインスタントカメラ〜♪」

と歌うように言うと、今度こそ、スキップをして、魔法少女カフェから出て行った。

一人残された蝉川秀一は、



「マナ、すまん……」



と言って、ゆっくりと目を閉じた。



それから、しばらくして、弥馬田グフ子の全財産である魔法少女カフェは、全焼。

弥馬田グフ子は、それ以来、行方をくらます。



全焼した弥馬田グフ子の魔法少女カフェからは、誰の遺体も発見されなかったと云う。

復讐者は、いったい、どこか?

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