復讐者の協力者の過去 復讐編
私(加鳥花子)は、魔法少女への復讐に失敗した。
しかし、それは、過去であって、今ではない。
魔法少女課人事部との直接交渉に失敗し、魔法少女になれなかった私が一番に復讐しようと、殺害しようと企て、ターゲットに選んだのは、もちろん、弥馬田グフ子だった。
その頃には、弥馬田グフ子は、すでに最強の魔法少女と呼ばれ、魔法少女の中でもかなりのビッグネームになっていた。
その時点で倒す事は、容易ではないと普通の人なら、諦めるのかもしれないが、私は、諦めなかった。
魔法少女と言っても、私達と同じ人間。特別なのは、彼女達の使用する魔法であって、彼女達自身ではない。
彼女達が人間である限り、弱点も私達人間と一緒。
私は、注射器を用意した。打つだけで、即死するような毒を使うのではない。
そんなものは、一般人の私には、用意できない。
使うのは、空気だ。人は、血管に注射器で空気を入れるだけで死ぬらしい。理由は、わからないが、サスペンス系かなんかの漫画にそう書いてあった。
理由や原理などどうでもよいのだ。私にとっては、そうすれば、人が死ぬ、弥馬田グフ子が死ぬという事さえ、わかっていればそれでいいのだ。
私は、魔法少女課広報部が定期的にやるファンサ会に空気の入った注射器を忍ばせ、参加した。
その日のファンサ会のゲストの魔法少女は、ピクシートラップ弥馬田グフ子だった。
もちろん、私は、狙って、その日を選んだのだ。
次々と握手を求める魔法少女ヲタク供に不気味な笑顔を浮かべながら、応じるグフ子。
私は、そのグフ子ファンの列に屈辱にまみれながら、並び、ただ自分がグフ子と握手できる番が来るまで、待った。
何も知らないグフ子が目の前に来た時、私はセキュリティに見えないようにブレザーの裾で隠していた注射器を取り出して自らの両手に包み込み、グフ子に向け、差し出した。
私は、まんまとやって来たグフ子の左手を自分の両手でしかっりと掴まえ、注射器の針をグフ子の左手首の血管へ打ち込んだ。
――バリン!――
と音を立て、注射器の針がはね返され、注射器が割れ、粉々になって地面に落ちる。
私が両手で握ったグフ子の左手は、陶器のように硬く、冷たかった。
グフ子の左手首から先がすっぽりと抜け、本物の左手が現れる。
ダミーだ。でも、どうして?
驚愕と困惑の表情で固まっているであろう私の顔をグフ子は、不気味な瞳で見つめる。口元がぐにゃりと歪んでいる。アヒル口を作るのに、失敗したかのように。
「加鳥花子さん、お久しぶりですねぇ~。まさか、私があなたの事をお忘れしていると思いましたか?忘れるわけがないでしょう。自分が殺しかけた人間ですよ。いつか、復讐しに来るに決まってますもんね〜。金髪のボブヘアーにしたんですねぇ。似合ってますよ。イメチェン成功ですね。カモフラージュとしては、失敗ですが」
「どうして……」の先の言葉が出てこない。あらかじめ、私が今日、ここに来る事と殺害方法がわかってないと対応できるわけがないのに……。
なんだか頭がクラクラとしてきた。
「どうして、対応できたか?ですか?私のトラップ魔法は、正式名は、創造神と言いましてね。どこでも、いつでも、自分の考えた通りのトラップを一瞬で出現させれるんですよぉ。あなたが見えた時点でトラップを仕掛けさせて頂きました。まぁ、才能と天才的なアドリブ力の賜物と言ったところでしょうか」
私の視界の中でグフ子の姿がぐにゃりと歪む。気づけば、私の握っている陶器製のようなグフ子のダミーの左手から紫煙のようなものが出ていて、私は、すでにそれを大量に吸っていた。
くそ、神経毒のガスか何かか……。
私は、そう考えを巡らすのが、精一杯で反撃をするどころではなかった。くらくらとふわっと体が一瞬、浮いたと思ったら、次の意識下では、体を強かに床に打ちつけていた。
全身がゴム人形になったかのように、力が入らない。そのまま、溶けるように床に寝たまま、意識もトロトロになっていく。消えていく現実と夢の狭間で弥馬田グフ子の声が私に語りかける。
「考えが、甘すぎるんですよぉ、加鳥ちゃん。復讐ってのは、戦争なんです。成功させるには、もっと道徳心や倫理観にまみれた常識を捨てないと。変な自分のプライドや勝った時の気持ち良さを優先しちゃいけないんです」
こいつ……、自分を殺そうとしている相手にアドバイスしている……正気じゃねぇ。
私の意識は、そこで完全にぶつ切れ、目覚めた時には、病院のベッドの上だった。
警察病院かと思ったが、普通に中津にある病院の一般病棟だった。
「魔法少女のファンサ会で倒れたんだって?貧血か熱中症かしらね。これ、心配した魔法少女さんからの手紙だって」
と言って、看護士が私にハートのシールで封をされたピンクの封筒を渡す。
私は、中の便箋に書かれた文字を見て、怒りでプルプルと両手が小刻みに震える。
「ファン想いの魔法少女さんね。なんて、書いてあったの?」
看護士のお気楽な声に私は、発狂しそうになるのを必死でプライドで抑えた。
弥馬田グフ子からの手紙には、こう書かれていた。
「またのお越しをお待ちしております。――グフ子」とだけ――。
こうして、私の一回目の復讐は、失敗に終わったのだ。




