プロローグ
一年前、私の愛する娘が死んだ。
最初の子供が死んだのは、私と妻が30歳の時だった。
男の子だった。
名前もまだ付けていなかったその子は、流産で死んだ。
妻は、その事で自分を責めたが、私達は、なんとか乗り越えた。
それは、私と妻が35歳の時、娘を授かったからだ。
妊娠適齢期ぎりぎりの妊娠で高齢出産とほぼ変わらないと妻は、不安を滲ませていたが、娘は、無事、生まれてくれた。
愛女という意味で愛子と名付けた。
愛子は、私達、夫婦にとって、宝物だった。
なんの大病も患う事なく、愛子は、10歳まですくすくと育ってくれた。
娘の将来の夢は、魔法少女になる事だった。
娘が生まれる一年前から、私達の世界では、魔人と呼ばれる異形の姿をした怪異的な能力を持つ者達が出現し、人々に無闇やたらに危害を加えたり、殺戮したり、食人したりする事が大きな社会問題となっていた。
それは、テロリストというよりも自然災害に近いレベルでニュースで扱われた。
日本政府がその災害に出した対抗策が魔法少女だった。
彼女達、魔法少女は、魔人と同等の力を保有していながらも、私達と同じ人間で私達の味方、人間の味方であった。
魔法少女は、アニメや漫画で出てくるヒーローと一緒、正義の味方と誰もが疑っていなかった。
私でさえも。
娘が初めて魔法少女になりたいと言った時も、私が心配したのは、娘が魔法少女になるというその事自体よりも、娘を魔人と戦う危険な職業には就かせられないという事だった。
当時、私が恐怖を抱いていたのは、魔法少女ではなく、あくまで魔人の方だった。
私は、娘の魔法少女になるという夢を強く反対したが、娘は言い出したら、聞かない子だった。
何度も魔法少女と魔人が戦っている現場に出向いては、その魔法少女が戦っている様子を携帯で撮影し、私に自慢気に見せてくるようになった。
私は、娘への愛情からその度、そんな危険な場所へは、行ってはダメだと叱りつけた。
愛子は、その度、私に泣いて謝るのだが、それは、その時だけで、翌日には、また魔法少女の撮影へと出かけてしまう。
何度、魔法少女と魔人が戦っている危険な現場に出かけても、娘がかならず生きて帰って来るので、私も口では怒りながらも段々と麻痺していった。
娘の夢を尊重すべきではないかと。
私は、将来、娘が就く職業かもしれない魔法少女について調べるようになっていた。
彼女ら魔法少女は、普通の少女達と何が違うのか。
彼女ら魔法少女は、どうして魔法が使えるのか。
調べた結果、彼女ら魔法少女には、遺伝子の中に魔法少女因子なるものが組み込まれている事がわかった。
魔法少女因子が魔法とも呼べる彼女らの異能の力の源なのだ。
魔法少女因子は、人為的人工的に作られたものではなく、フォトンブラスタ(宇宙光エネルギー)か未知の宇宙からのウイルスに人の遺伝子が反応または、影響を受けて生まれるもので、自然発生的なものである事以外、発動・覚醒条件は、わかっていない。
世間では、魔法少女症候群と言われ、病気扱いになっているが、魔法少女因子は、人類の新たな進化であるというのが、医学界の定説になっているらしい。
10歳から一部の日本の女性のみにその魔法少女因子の影響が顕著になり、国の全国児童健康診断で簡単に発見される。
その魔法少女因子により魔法能力が発芽した兆候の見られる少女達の中から国が志願者を募り、さらに志願した少女達の中から14歳の時に行われる魔法少女適正試験に合格した者のみが、15歳の就任式を終えた後に晴れて、魔法少女になれる。
娘がちょうど10歳ということもあり、私は、娘がすでに国の健康診断を受けたどうか気になり、そわそわし、国から何も連絡がないという事は、大丈夫だったのだろうとほっと胸を撫で下ろし、また、娘が魔法少女となり、人々を救い、ヒーローとして人々に讃えられる誇らしい立派な成長した姿になるのを夢想したりした。
あの当時の私は、愚かであった。
ある日、私が残業から家に帰ると妻の姿も娘の姿もなかった。
私は、言いしれぬ不安に襲われ、妻に電話をかけた。
「おい、今、どこにいるんだ?マナが家にいないぞ」
「あなた、ニュース見てないの?」
電話口の妻の声は、震えてた。すすり泣きながら、
「何度も電話したのに……」
と妻は、あきらかに私を責めていた。
携帯の画面を見ると、確かに妻からの通知が一日のうちに何度も来ていた。鞄に入れていて、気づかなかったのは、私のケアレスミスだが、
そんな事よりも、マナだ。
私は、妻に言われるがまま、テレビを点けた。
日本全国の魔人を束ねていた大魔人会の首領ドボスが、魔法少女達全員による魔法少女最上級魔法マジカル テラ・アトミック ビッグバンで跡形も無く、消滅したというテロップと人々が歓喜する様子が飛び込んできた。
次に爆心地のようになった戦いの現場と死傷者1名の文字が映る。
「まさか、……嘘だ」
「亡くなられた方を繰り返し、お伝えします。マジカル テラ・アトミック ビッグバンによる死亡が確認された民間人の犠牲者は、蝉川愛子さん10歳です」
女性アナウンサーが非情にその名を読み上げる。
「マナ……そんな……」
愛する私の娘は、その日、死んだ。
「我々ができうる限りの調査をした結果の真相は、こうです。その日、魔法少女達と大魔人会の首領ドボスとの最終決戦をどうしても、生で見て撮影したかった蝉川愛子さんは、避難勧告の出ている地域に自ら、入り込み、マジカル テラ・アトミック ビッグバンの効果範囲の目測を誤り、その魔法の爆発に飲み込まれ、死んでしまったのです。戦闘地域に民間人の侵入を許してしまったのは、我々の落ち度、過失です。この件に関して、国は、非を100%認め、充分な賠償額を提示、致します。三億5000万円でいかがでしょう?」
「マナの命が、……三億だと、……ふざけるな!!」
私は、役人行儀な男に殴りかかろうとして、やめる。彼は、自分の仕事をしに来ただけの直接、マナの死に関与していないまったくの部外者だ。拳を振るう相手が違う。
ニュースは、最初こそ、愛子の事をセンセーショナルに伝えていたが、大魔人会の幹部クラーケン大魔人ラブリーが生きていた事やその後、クラーケンマンなる新たな魔人が現れた事を取り上げるようになり、世間の人々の愛子に対する関心が一気に薄れていく。
私達、夫婦以外の人達の記憶から、まるで愛子が消えてゆくようで、いや、実際に消えてしまい、私達は、月日が経つにつれ、傷口に塩を塗られる想いをした。
妻は、ついに耐えられなくなり、今は、精神病院にいる。
愛子が死んで一年が経った。
私は、今日、復讐を開始する。
魔法少女を一人残らず、全員、ぶっ殺してやる。




