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08「どうも間が悪いおじさんです」

「今日はご馳走様でした! アリーちゃんとも仲良くなれたし、明日も頑張れそうです!」

「おう、気をつけて帰るんだよ」

「ユキお姉ちゃん、またね!」


 飯をたらふく食った俺達は、遅くなる前に帰宅する事にした。夜が深まってくると、変なやつがウロつきだすしね。


 ユキちゃんを見送り、俺達も行くかと歩き出した時、後ろから女の子の嫌がる声が聞こえてくる。


「良い加減にして下さい! 折角気分良かったのに、最悪……」

「そんな事言わずにさ~、俺達と仲良くしようぜ~」

「そうそう、クラブで騒いでベッドでも騒いじゃおうよ~」


 うわぁ……あんな露骨なナンパするやついるんだ……しかも、ナンパされてるのユキちゃんじゃん。


「アリーちゃん、ここでちょっと待ってて」

「分かりました!」


 アリーちゃんにその場で待機を命じ、ナンパ野郎達からユキちゃんを助けに行く。


「ユキちゃん、やっぱり家までタクシーで送ってくよ」

「あ、浩さん!」

「あん? なんだおっさん!」

「部外者は出てくんなっつうの!」


 お前らいつの時代のチンピラだよ……。


「悪いね、この子は俺の彼女なんだ」

「ひ、浩さん!?」

「はぁ? おっさんがこんな可愛い子の彼氏な訳ねえだろ!」

「もしかして、パパ活で勘違いしちゃった系? ねえねえ、やっぱり俺達と行こうぜ~、おっさんは俺達が退治しとくからさ~」


 俺だって、こんな可愛い女子大生を彼女に出来ると思ってない。でも、ナンパから助ける言い訳には、ちょうどいいと思っただけだ。


「行こうユキ」

「う、うん! 浩君♡」

「はぁ? まじ?」

「嘘だろ? 本当に彼氏なの?」


 ポカンとするナンパ野郎達を置いて、颯爽と退散する俺達。腕まで組んじゃって、ユキちゃんは演技が上手い。


 そうしてアリーちゃんの所に戻ろうとすると、予想外の出来事が起こっていた。


「君可愛いね~、俺とパパ活しない?」

「パパカツ? それは食べ物かなにかですか?」


「またまた~、いくらなら行ってくれる? 2? それとも3?」

「その数字はどういう意味ですか?」


 え~、こっちもかよ。

 ちょっと目を離した隙に……獣共め。


「あー、悪い悪い。行こうアリー」

「あ、ヒロシ様!」

「あん? なんだお前? お前もこの子を狙ってんのか? ダメだぞ! この子は俺が先に目をつけたんだ!」


「いや、この子は俺の女なんだわ」

「はぁ? こんな可愛い子が、お前みたいな冴えなそうな奴を相手にする訳ねえだろ! てか、お前既に女がいるじゃねえか! パパ活するならルールを守れルールを!」


 パパ活のルールってなんだよ……。


「お、俺の女……」

「大丈夫かアリー?」


「あ、はい! ヒロシ様は私の旦那様に間違いありません!」

「え!? う、嘘だろ……」


 嘘ではない。

 メイド的な旦那様という意味だろう。


「じゃあ、行こうか二人とも」

「「はーい」」

「な、なんであんな奴が可愛い子を二人も……」


 悔しがるパパ活親父やナンパ野郎達を置き去りにして、その場を後にした。


「悪いな二人とも。助けるためとは言え、彼女や俺の女なんて言っちゃって」

「私は全然構いませんけど?」

「アリーも全然嫌じゃなかったです!」


「なら良いが……そうだ、タクシー拾ってユキちゃんを送ってかなきゃな」

「え~、このまま浩さん家に行って飲み直しましょうよ」


「いや、それは流石にまずいだろ……」

「なにがですか? アリーちゃんも居るんだし、問題あります? それとも、変な事しようとしてるんですか~?」


 変な事なんてしたいけどしません。そんな事したら、本当にただのパパ活になっちまうからな……。


「しません。分かった飲み直そう」

「やったー! アリーちゃん! 一緒にお風呂入ろ!」

「良いですよ! みんなで入るんですか?」


 入って良いんですか?


「え~、私は良いけど……どうする浩さん?」

「ダメに決まってるだろっっ」


 なんだか恥ずかしくなるようなやり取りで、若い頃を思い出してしまった。


 こんな俺にも付き合っていた女性はいた。

 

 大学生からの付き合いで、結婚も考えていたが、社会人になってから考え方が合わなくなってきてしまい破局。


 それからは女性との関わりも薄くなってしまい、悲しいながらこの歳まで独身貴族という訳だ。


「浩さんは、もっと積極的になった方が良いとおもいますよぉぉ。渋い感じだし、強いし、イケおじ~」

「飲み過ぎだぞユキちゃん……」

「あ、ユキお姉ちゃん寝ちゃいましたね」


 家に帰って飲み直すと、ユキちゃんはすぐに酔っ払ってしまい寝てしまった。仕方ないのでベッドまで運ぶ事に。


 持ち上げると、女の子の柔らかい感触を感じる。

 ほのかに香る良い匂い……。

 

 変な気持ちになる前に、とっとベッドへ運んでしまおう。


「ふぅ~。アリーちゃん、悪いけど、今日はソファーで寝てくれるかい?」

「分かりました!」


 後でアリーちゃん用のベッドも用意しないとな。

 てか、二人で暮らすには手狭だし、いっそ引越しもありだな。


 明日不動産屋にでも見に行くか。


 そんな事を考えながら、就寝の準備をしていたのだが、とある事に気づいた。


「俺が寝るとこ無いじゃん……」


 ベッドはユキちゃんが使ってるし、ソファーはアリーちゃん。別に床でも構わないが、次の日を考えたら体が痛くなりそうだ……。


「異世界の宿屋で寝るか」


 固くて寝心地の悪そうなベッドだったが、床よりはマシだと思い移動する事にした。


 一応伝えておくべきだと思いソファーを見ると、アリーちゃんも静かな寝息を立てて寝ている。


「朝早く戻って来れば良いか……」


 移動する前に、念の為戸締りと火の元を確認してから瞬間移動を発動させた。


「ごほっ、ごほっ……相変わらず埃っぽい部屋だな」


 異世界の宿屋へ移動し、硬いベッドに身を沈める。


「にしても、今日も色々あったな……」


 まさか、あんな可愛い女の子を従者として雇うとは思いもしなかった。アイドル好きの同僚に自慢したら、泣いて悔しがるだろうな。


 アリーちゃん自身も素直で良い子だし、この事だけは異世界召喚に巻き込まれて良かったと思える出来事だ。


 今後はアリーちゃんに家の事を任せつつ、異世界の事情などを教えて貰う予定でいる。あの高校生達にもなんとか接触して、こっちに連れ戻して上げないと。


 問題はどうやって接触するかだな……。

 

 城に行って会わせてくれと言っても、放逐された身では難しそうだ。あの王妃、俺の事嫌ってたし。


 一番簡単なのは、会えるような存在になってしまう事だ。異世界で活躍し、知名度と名誉を手に入れれば堂々と会う事が出来る。


 だが、それもそれでどうかと思う。

 

 万が一俺が活躍して、やっぱり異世界人は使えると思われたら、面倒な事に巻き込まれそうな気がする。


 んー、他に異世界人として認知されていなくて、俺の代わりに活躍してくれる人が居ればな……。


「はぁ……また明日考えよ」


 頭が回らなくなってきたので、難しい事は明日考える事にした。


 そして次の日。

 

 鳥の囀り声と共に起床した俺は、硬いベッドに別れを告げ地球へと戻る事にした。


「ふぁ~、シャワー浴びてこよ」

「えっ……ひ、浩さんがいきなり現れた? 嘘でしょ? だって、そんなのありえないっっ」


 どうやら、ものすごく間が悪かったみたいだ……。

読んで下さりありがとうございます!

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