07「可愛いは正義」
「あの……私はなにをすれば……?」
「アリーちゃんはそこに立ってくれてれば良い」
「ど、どうして私の肩に手を!?」
「怖かったら目を瞑ってくれてれば終わるから。もし、俺が一人で行っちゃっても焦らなくて大丈夫だよ。すぐに復活するから」
「ちょっと待って下さい!」
「ほら、良いから目を瞑って」
「痛い事はしないで下さい……」
「痛くなんてないよ? すぐ終わるからさ」
……。
「はい、目を開けて」
「……え? ここ、どこですか?」
「ここは俺の家だ」
「家?」
魔族のゴブリン種であるアリーちゃんと社畜契約を結んだ俺は、さっそく自宅へと連れ込んでいた。
いや、連れ込んだは言葉のチョイスが悪い。
職場へ案内しただけだ。
兎も角、瞬間移動のスキルでアリーを地球へ連れて来る事に成功した。条件は多分、連れて行きたい物や人と繋がっている事。
恐らく、それに上限はない気がする。流石に建物ごと、とはいかないが、複数人を巻き込む事が出来ると分かったので、問題がまた一つ解決した。
まあ、気力をゴッソリ持っていかれた気がするので、もっとレベルを上げて気力を上昇させないと、複数人は辛そうだ。
「アリーちゃん。君には、俺の秘密を話しておく事にする」
「わ、分かりました! 誰にも言いません!」
アリーちゃんをリビングのテーブルに座らせ、お茶を飲みながら事情を話す事にした。
「ーーなんとなく分かりました。ヒロシ様は、異世界から召喚された勇者で、他の勇者様達を助けるために計画を立てているのですね」
「ああ、突拍子もない話だけど、信じてくれるかい?」
「正直、良く分からないのが本音です。私は、目の前で起きた出来事を整理するだけで精一杯なので……それに、私の仕事はヒロシ様の従者ですから、その仕事を真っ当するだけです!」
「そっか……」
はにかんだ笑顔がとっても可愛らしい。
本当、この子はええ子やな~。
「とりあえず、その仕事を教えるとするか」
「はい! ご指導お願いします!」
1LDKの自宅を案内し、家事や炊事のやり方を簡単にレクチャーする。見た事もない機械に驚いたり感動したり、一々可愛い反応をするので、ニヤけを抑えるのが大変だった。
最初こそ戸惑っていたアリーちゃんだが、若さ故なのか覚えも早く、機械の操作もスムーズに出来そうだった。
「便利な道具ですね~、一応覚悟はしてたんですが、こんなに楽ちんで申し訳なくなって来ました……」
洗濯と掃除を終えたアリーちゃんが、申し訳なさそうな表情でそんな事を呟いた。
「そんな風に思う事はないよ。それに、買い出しとかもして貰うから、覚える事はまだまだあるよ? こっちの料理だって作れるようにして欲しいしね」
「頑張ります!」
まだ家の外には連れ出していない。窓から見える景色だけで腰を抜かしそうになっていたので、少し落ち着いてからにしようと思っていたのだ。
「じゃあ、夕飯でも食べに行くか。今日は社畜契約のお祝いにドーンといこう! 因みに、肉、魚、野菜だったら、どれが好き?」
「いや、えーっと……」
言いづらそうにモジモジするアリーちゃん。
その姿がなんとも愛らしくて、アイドルに嵌る奴らの気持ちがなんとなく分かった。
「遠慮せず言ってみて」
「お、お肉が食べたい……ですっ」
「か、可愛い過ぎるだろっっ」
「そんな事ないですっっ」
俺の可愛いの一言に、顔を真っ赤にするアリーちゃん。こんなに初々しくて、可愛い生き物が存在するとは……神様、グッジョブ。
さて、社畜契約記念でアリーちゃんに美味い物をご馳走して上げようと思ったのだが、一つ問題がある。
アリーちゃんの着ている服が、くたびれてボロボロなのだ。流石にうちには女の子の服なんてないので、食事をする前に服を買って上げようと思う。
ただ、女の子の服なんて分からないので、選んでくれる助っ人が必要だった。
「あ、もしもし、ユキちゃん?」
そこで白羽の矢を立てたのが、最近知り合った大学生のユキちゃんだ。
「外国で暮らしてた親戚の子を暫く預かる事になってさ、その子の服を買いたいんだけど、もし良かったらユキちゃんが選んでくれない? 勿論、お礼に美味い物ご馳走するからさ」
「行きます!」
俺の突然のお願いに、二つ返事で了承してくれたユキちゃん。これは良い物をご馳走しなきゃだな。
その後、とりあえず俺のパーカーを着せて外に出た俺達は、ユキちゃんとの待ち合わせ場所に向かう事にした。
「凄いっ、人が一杯! あれはなんですか!? 動く鉄に乗って移動してます! こんな高い建物見た事ない!」
「ははっ、気になったらなんでも聞いてよ」
待ち合わせ場所に向かう道中は、まさに質問の嵐だった。まあそれも致し方ない。別の世界の事なんてなにも知らないアリーちゃんが、色々聞きたくなる気持ちは痛いほど分かっていた。
「あ、ユキちゃんお待たせ!」
「浩さん! その子がアリーちゃんですか?」
「初めまして! アリーです!」
「きゃーっ、めっちゃ可愛いんですけどっ! こんな美少女世の中に居たんですね!」
「だろ? アリーちゃんに比べれば、そこらの自称美少女は全員石ころだ」
「うわー、親バカならぬ叔父バカですね」
「良いだろ別に! じゃあ、さっそく買い物に行くか」
「はい! それにしても本当に可愛い……神様、グッジョブ!」
「か、可愛いくなんてないですよっっ」
無事にユキちゃんと合流した後、近くの商業施設に入り、若い娘が着るブランド店で服を見繕って貰う事にした。
ああでもないこうでもないと、アリーちゃんの服を選ぶユキちゃん。まるで着せ替え人形の如く次々に試着させている。
暫くすると、ようやく買う服が決まりお会計する事に。
合計158000円なり。
女の子の服って高いんですね……。
「ご、ごめんなさい……調子に乗って選び過ぎました!」
「いや、良いんだ。元々着回せるように一杯買うつもりだったしね。それにしても……かわええぇぇ」
「ですよね、ほんとかわぇぇぇっっ」
「そ、そんな事ないですぅっっ」
「これって、地雷系って言うんだっけ?」
「お、良く知ってますね! 他にも、ロリ系や量産系も買ってますよ! なんでも似合うので、アリーちゃんが着たら、総じて可愛いは正義になります!」
「「ほんまかわぇぇぇ」」
自分の格好を見て恥ずかしそうにするアリーちゃんを、俺とユキちゃんはニヤニヤしながら見ていた。
アリーちゃんの服を揃えた後は、いよいよ今夜の晩餐へ行く事に。今日の夕食は、みんな大好き"焼肉"だ!
「ここだな」
「えっ、本当にここですか!?」
店の前に着くと、ユキちゃんがビックリした表情をしていた。
「ここって、テレビでも紹介してた超高級焼肉店ですよね!? 一人前数万円もする焼肉店ですよね!?」
信じられないのか、何度も確認を取るユキちゃん。
「心配しなくても、今日は俺の奢りだから。好きなだけ食べて」
「えぇぇ……浩さんって、滅茶苦茶お金持ちとかですか……?」
金持ちと言えば金持ちか? まあ、いつでも金を作って持ち出せるという点は間違っていないが。
「もしかして、凄く高いお店なんですか? それなら、私なんかのために勿体無いですっっ! 私なら、そこらで取れた魔獣のお肉で十分ですのでっっ」
「魔獣? それって、なに?」
「あ、なんでもない! さあ、入ろう! ほら、アリーちゃんも遠慮なんかしないで!」
アリーちゃんの口からポロッと出てしまった発言に食いつくユキちゃん。俺は面倒な事になる前に、二人を強引に店へ押し込んだ。
「さあ、どんどん焼いてどんどん食べよう!」
テーブルの上に並ぶ輝くお肉達。
最高級品質の特上お肉達だ。
この店はプライベート性を大事にしているお店なので、最初に説明があるだけで焼くのは自分達だ。
店主曰く、"自分が食べたい焼き加減が一番美味い食べ方"だそうだ。
「美味しいっっ!!!! こんなに美味しいお肉、初めて食べました!!!!」
アリーちゃんに喜んで貰えて、おじさん嬉しいです。
「今日来て良かったー! こんな高級なお店、二度と行けそうにないですもんっっ!」
ユキちゃんも喜んでくれているようで良かった。
「うん、確かに絶品だ……あ、今、滅茶苦茶レベル上がった」
「「レベル??」」
今まで食べた料理で、一番経験値を獲得したような気がする。こりゃぁ、レベル上げが捗るぜ。
その後は食って食って食いまくった。
お腹一杯だと言ってデザートに手を伸ばす二人を尻目に、焼いては食い焼いては食いを繰り返す。
そしてーー
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名前:立花浩 年齢:40歳
称号:美少女を社畜にした中年勇者
Lv 300
体力:620
気力:632
筋力:631
速力:626
技力:633
スキル
『飲食時経験値獲得』
『偽装』
『瞬間移動』
『体術』
『両替』
『???』
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レベルと能力が、とんでもない事になってきた……。
段々能力が化け物じみてきました。
読んで下さりありがとうございます!
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