05「黄昏れの頂」
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次の日。朝六時に目覚めた俺は、シャワーを浴びて出掛ける準備を整えていた。
『現在起こっている集団失踪事件ですが、対象は全て高校生に絞られています。何か関連があるのでしょうか?』
『そうですね……大人でもない子供でもない年頃を狙うのは、洗脳しやすい上に行動力があるからではないでしょうか。恐らく、某国が関わっていると私は思っていますーー』
ニュースで大々的に報じられている集団失踪事件。間違いなく、俺が巻き込まれた異世界召喚に繋がっている。
失踪者は全部で150人以上だと確認されているようだ。異世界の各国がそれぞれ召喚したとして、少なくとも、五カ国以上の国が覇権争いに加わっているのだろう。
「俺の瞬間移動で助ける事が出来れば良いが……問題は俺以外も一緒に移動出来るかだな。それに、国が勇者として祭り上げている中でおいそれと近づくのは難易度が高そうだ……」
不安要素はあるものの、事情を知っている上で知らんぷりは出来ない。先ずは最初の問題を解決しないとな。
「その前に……資金作りとレベル上げが先だな」
資金作りには少し当てがある。
それは俺が持っているスキルの内の一つーー
『両替』
このスキルは、自分が持っている物を、その世界の価値に応じて換金出来るスキルみたいだ。
例えば、グランギル帝国から渡された金貨をこの世界で換金すると、その価値に応じて現金を手に入れる事が出来る。
そして、逆もまた然り。地球では低い価値のものが、異世界では高い価値に変わる可能性がある。
そのレートを見定めるのに、色々買い物をして異世界に持っていこうと思う。
「試しに金貨を両替してみるか」
テーブルの上に金貨14枚と銀貨7枚を並べ『両替』スキルを発動してみた。
「……う、嘘だろ!?」
テーブルの上に並ぶ札束。
震える手で数えた結果ーー
「397万円……」
ヤバすぎる結果に心臓が破裂しそうだ。
という事は、帝国から貰った金貨は混ぜ物なしの純金という可能性が高い。
「異世界で金貨に変わる物を両替出来れば、資金の心配は無そうだな」
問題は何を両替するかだ。こっちの世界で安価に買えて異世界で高値が付きそうな物……うん、一つ思い浮かんだ物があったので、それを買いに行くか。
家を出た俺は、目当ての物を売っている店が開くまで、レベル上げに勤しもうと思う。
「クイーン牛丼五人前下さい」
「五人前ですか!?」
先ずは牛丼屋で大食いして店員をドン引きさせた後、朝早くからやっている市場の寿司を好きなだけ喰らう。
「トロ十貫、イクラ十貫、ウニ十貫下さい」
「あ、あいよっっ」
板長は嬉しいような悲しいような絶妙な顔で寿司を握っていた。
お会計、しめて十万円なり。
「ご馳走様でした!」
腹パンの幸福感は味わえなくなったが、好きな物を好きなだけ食える満足感は、なんとも言えない幸せな気持ちを与えてくれる。
「てか、高い寿司だけあってレベルの上がった感じが尋常じゃないな……」
後で能力を確認するのが楽しみだ。
その後、良い時間になったのでお目当ての店へ向かう。
「あれは2階かな?」
なんでも揃うで同じみの総合ディスカウントストアに到着した俺は、お目当ての商品を買うため店の二階に上がった。
「お、あったあった。電池式よりソーラー式の方が良いか? よし、どっちも買っとくか。後はレディースとメンズ、どっちも買っといた方が良いな」
四つの商品を買い二階を降りる。
後は人との交流用に必要な物を買い店を出た。
「お目当ての物も買えたし、家に帰って準備するか」
家に帰った俺は、リュックに必要な物を詰めて準備を整えた。
「よし……行くか」
覚悟を決めて目を瞑り、瞬間移動を発動させる。
何秒か経った後、恐る恐る目を開けてみるとーー
「おお、成功した……」
埃が舞い、硬いベッドが置かれた簡素な部屋に出迎えられる。ここは、素泊まり銀貨3枚の宿屋。地球から異世界への移動は成功したのだ。
「とりあえず降りるか」
荷物をベッドに置き、宿屋の一階へと降りる。
「すいません! チェックアウトに間に合いました?」
「ああ、まだお昼の鐘が鳴ってないから大丈夫だ」
「それなら良かったです。所で、その鐘って"時計"を目安に鳴らしてるんですか?」
「あ? まぁ、そうだな。教会が持ってる大時計を見てシスターが鳴らしてんじゃねえか? 詳しい事は分からんが」
「なるほど。因みに、持ち運びが可能な時計ってありますか?」
「そんもんねえよ。時計は大規模なカラクリで動いてんだ。持ち運び出来るような時計があったら、貴族どもがこぞって買い漁ってるだろ」
うむ、大変良い事を聞いた。
異世界にも時間の観念は存在するようだ。
ただし、時間を表す肝心の時計は、大規模な物しかないみたいだな。
「教えていただきありがとうございます。それでなんですが、自分この宿が気に入ったので、後一週間ほど連泊したいのですが可能でしょうか?」
「おうそうか! 全然構わんぞ! ただし、料金は前払いだがな」
「ありがとうございます。さっそくお金を取って来ますね」
「分かった」
二階に上がり7号室の部屋へ戻る。今は異世界のお金がないので、持ってきた商品を両替しなくてはいけないのだ。
リュックから商品を一つ取り、ベッドへ置く。
それぞれの価値を調べるため、一つずつ両替する事にした。
「さて、最初はこの"腕時計"からだ」
そう、俺が異世界へと持ってきた商品は、腕時計だ。それも、ボタン電池式とソーラー式の二つのタイプ。
最初に両替するのは、メンズ用のボタン電池式からだ。目の前の腕時計を対象にして両替スキルを発動すると、地球で買った三千円のボタン電池式の腕時計はーー
「金貨十枚……」
予想を上回る価値を見せた。
「やべぇ……地球で三千円の価値だった腕時計が、異世界では十万円に跳ね上がるのか……」
ヤバすぎて上手く頭が回らなくる。とりあえず、気を取り直して次の腕時計を両替する事にした。
「次はレディース用のボタン電池式にするか」
次の腕時計は、金貨五枚へと両替される。
「なるほど、レディース用よりメンズ用の方が価値が高くなるのか」
その次はソーラー式のメンズ用腕時計。
「金貨……四十枚!? ソーラー式だと四倍も上がるのかっっ」
多分、寿命が関係してそうな気がする。
ボタン電池式は二年。
ソーラー式は八年。
二つの寿命差はちょうど四倍だし。
地球で買った時も、ボタン電池式は三千円だったが、ソーラー式は一万円した。最後のレディース用のソーラー式腕時計は、金貨二十枚だった。
腕時計を両替した合計、しめて金貨七十五枚。
これを地球で換金したら、とんでもない事になりそうだ。
今回の実験で分かったのは、メンズ用のソーラー式腕時計が一番換金率が良く、価値が高い事が分かった。
一万が四十万に化けるのだから恐ろしい……。
調べればもっと高換金率の物があるかもしれないが、当分はこれで良いだろう。
という訳で、資金作りという問題はこれで解決したという事だ。こんな簡単に資金が増えるなら、仕事とか辞めちゃおうかな……。
そんな事を考えつつ、次の問題をクリアするため再び一階へ降りる事にした。
「これでお願いします」
「あいよ、お釣りは……」
「あ、お釣りは良いので、一つ情報を教えて貰いたいのですが……」
「お、気前の良いお客さんだな。で、聞きたい事って? オススメの娼館とかか? ぐへへ」
「いや……それも後で聞きますが、この城下町で奴隷を買える所はありますか?」
「奴隷? そんなもんとっくの昔に禁止されたぞ」
え、奴隷買えないの……。
次の問題を解決するのに、守秘義務契約とか刻めそうな奴隷が欲しかったんだけどな。
あからさまに残念そうな顔をする俺に、宿屋の店主が言葉を続けた。
「まあ、それに変わる制度はあるがな」
「そ、それって、秘密とか喋れないように出来る制度ですか!?」
「お、おお……契約次第だが、金額を上乗せすればそういう契約も結べる筈だ」
「因みに、その制度の名前は?」
「"社畜"制度だ」
「なにそれ怖い……」
社畜というワードに思わず体が竦む。
多分、この世界の言葉が俺に分かるように翻訳されているだけなのだろうが、その言葉の強烈さは日本人なら竦み上がる。
社畜を取り扱う施設の場所を、オススメの娼館と共に詳しく教えて貰った俺は、さっそくその場所へ向かう事にした。
手持ちの金貨で買えるか分からないが、値段だけでも分かればと思ってだ。
勿論、社畜の方だ。
決して歓楽街など向かっていない。
「ここか……黄昏の頂は」
「はーい♡ そこのイケてるおじ様♡」
ブロンド爆乳美女っっ!!
目の前で揺れる二つの頂。
俺は拳を力強く握りしめ、唇を噛み締めた。
「二つの山が俺を誘ってる……くそっ、ここは我慢だ!」
ここはグッと堪えて我慢だおっさん!
絶対行くなよ! 絶対だからな!
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