04「親友が出来ました」
「マジかよ……」
顔面に真っ直ぐ飛んできた学君の拳。
華麗に、とはいかなかったが、半身で避けると予想以上に学君は驚いていた。
「学君のパンチを避けた?」
「立川さんでも避けられなかったパンチだぜ……」
立川さんって誰やねん。
「やるな、おっちゃん。ボクシングでもやってたのか?」
「いや、全くの素人だ」
疑い深い視線を向けて来る学君だが、嘘はついてないのだからどうしようもない。
「……だったら、これは避けれるか?」
ノーモーションの左ボディだとっっ!?
くっ、これは流石にーー
「受け止めるわ」
「なっ!?」
右手で包むように受けた学君の黄金の左ボディは、ズッシリ重い……のだと思う。
「おっちゃん……あんた何者だ?」
「何者って言われてもな……立花浩でございます」
何者だと聞かれれば応えるまで。すると、眉間に皺を寄せていた学君の顔が和らいでいく。
「はっ、あんた面白いな! よし、飲みに行こうぜ!」
突然の飲みの誘い。
今の今まで喧嘩を吹っかけてきた相手だ。
そんな相手と……。
「行くか! 学君、君は素直で良い子だと思うが、利用しようとする相手はちゃんと見極めた方が良い」
「あん、説教かよ……そんなの分かってる。分かってるが、頼られると断れなくてな」
「なるほどな……学君にはあれだ。止めてくれる親友が必要だな! 誰か居ないのか?」
「そこまで心を許せる奴はいねえな。まあ、浩君となら親友になれそうな気がするぜ」
「そうか!歳は離れてるが、それも悪くないかもな!」
「がははっ! よっしゃ、それじゃあ、さっそく仲を深めに行こうぜ!」
ガッチリ肩を組んで歩き出す俺達。
時刻は夕方。
飲みに行くにはちょうど良い時間帯だ。
「あ、お前さ」
数メートル歩いた所で、学君が突然後ろを振り向く。俺を嵌めようとしたナンパパリピに、何かを言おうとしていた。
「はいっ!」
「明日は一日立てなくしてやるから覚悟しとけよ? 逃げたら一日じゃ済まねえからな」
うわ、凄え迫力。漫画のヤンキーみたいだ。
あまりの迫力に、ナンパパリピはへたり込んでしまった。
「ちょっと可哀想じゃないか?」
俺がそう問いかけると、学君は真剣な顔で答えた。
「利用されたのが分かったんだ……ケジメつけなきゃ筋が通らねえ。なに、一発しか殴らねえから大丈夫だろ」
「そうか、それなら仕方ないな」
一発でも十分ヤバそう。
パリピ君、成仏しろよ。
その後、学君と連れ立って居酒屋を梯子酒。
体格通りの酒豪ぶりで、おっさんは着いていくのがやっとだ。
それでも、ほろ酔い以上には酔わないでいられるのは、スキルの影響かもしれない。
「俺に着いてこれるのは、浩君が初めてだぜ! よし、次は俺が奢る!」
「よ! 太っ腹! 筋肉ダルマ!」
「あん?」
「冗談冗談……マイケルジョーダン」
「ガハハッ! やっぱり浩君は面白えや!」
「そうか! 俺のギャグで笑ってくれるのは、学君だけだ!」
歳が離れているのにも関わらず、俺と学君はかなり気が合った。
彼は孤児院育ちで、高校の時に友達を庇って逮捕。少年院を出た後は、クラブのセキュリティとして働いているらしい。
筋骨隆々で強面の彼にはピッタリの職業だ。
性格は素直で友達思いの良い奴。
まあ、それが原因で利用される事もあるのが残念な所だ。
「学君、また今回みたいな事があったら、先ずは一度考えてから行動してみたらどうだ?」
「それが出来たら苦労はねえよ。残念ながら、俺は馬鹿だからさ。考えるより先に手が出ちまう」
「うーん……なら、今後は行動する前に俺に相談してくれないか? もし間違ってたらハッキリ言ってやる」
「そりゃ良い考えだ! 頼むぜ浩君」
そんなこんなで、学君との絆を深める親睦会は無事に終わった。帰り際に連絡先も交換して、また飲みに行こうと別れた。
「しっかし、今日は出会いが多い日だったな……お、噂をすればユキちゃんから連絡来てるな」
『今日は助けて頂いてありがとうございました! パンケーキもご馳走様でした! 凄く美味しかったです。良かったら、今度は気になるケーキ屋さんがあるのでお茶しませんか? 勿論、就活のお話を聞くためです!』
相変わらず律儀な子だ。
『ケーキか……勿論、行く!』
『嬉しいです! 後で暇な日を教えて下さい!』
「返信早っ……あれ? これって、やっぱりパパ活に入るのか?」
そんな不安を抱きながら帰路に着いた。
「ふー、今日は食って飲んで食ったな。そうだ、レベルも上がってるだろうし、寝る前に能力の確認でもしおくか」
家に帰りベッドへダイブ。このままだと寝てしまいそうなので、能力の確認をする事にした。
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名前:立花浩 年齢:40歳
称号:成長する中年勇者
Lv 60
体力:128
気力:124
筋力:135
速力:121
技力:130
スキル
『飲食時経験値獲得』
『偽装』
『瞬間移動』
『体術』
『???』
『???』
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「おおっ、レベルもかなり上がってるし、ステータスも爆上がりやん! てか、スキルが増えてる!?」
なにかスキルが増えるような事でもあったかと、思い返してみた。
思い当たるとすれば、パリピや学君とのやり取りぐらいだ。ちょっとした戦闘にはなったが、あんなので体術が身につくのか?
「まあ、考えてもしゃあねえか。考えるより感じろだな」
思考の闇に堕ちる前に、今日は寝る事にした。
明日はちょっと試したいスキルがあるので、早めに就寝だ。
「もう少し強くなったら、異世界に戻ってみるか……」
そんな事を呟きながら、瞼を閉じた。
俺にはやらなければいけない事がある。
未だ異世界に閉じ込められている高校生達を、元の世界へ帰してやる事だ。
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