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03「レベル上げって楽しいっすね」

「では、制限時間四十分! 爆盛りトルコライス食べ切りチャレンジ始め!」


 店主の掛け声と共に、戦いの火蓋が切られた。

 今回挑むのはトルコライスという、ミートソースパスタ、チャーハン、豚カツが一度に共演した料理だ。


 更に爆盛り仕様のトルコライスには、唐揚げとウインナーも追加されている。


 目の前に盛り上がった爆盛り。

 

 こんなものが食べ切れるのは化け物だと思っていたが、俺もとうとうその化け物カテゴリに新登場してしまうかもしれん。

 

「おおっ、あのおっさん全然ペース落ちねえぞ」

「確かに、あれなら食べ切れんじゃねえ?」


 制限時間は四十分と比較的長い部類だ。早食いというより、大食いに比重を置いた設定なのだろう。


 まあ、そういう所をわざわざ選んだのだがな。

 早食いは早く食べるテクニックが必要だが、大食いは兎に角量を食べれば良いだけ。


 今の俺には、もってこいの戦い方だ。


「残り十分っ!」


 制限時間が十分を切った所で店主の焦った声が響く。


「マジでイケるぞ!」

「おっちゃん頑張れ!」


 テーブル一杯に広がった大きな皿には、チャーハンが三人前ほど残っているだけ。後はこれを流しこめば俺の勝利だ。


 因みに、爆盛りトルコライスチャレンジは、未だに成功者0人。だから店主もたかを括っていたのだろう。どうせ食べ切れないと。


「ご馳走様でした!!」


 制限時間残り三分を残し、皿にはご飯粒一つ残さず食べ切ってやった。


「うおー! 凄えよおっちゃん!」

「動画に撮っときゃ良かったぜ」

「お、おめでとうございます……」


 完食を讃える野次馬達。

 悔しがる店主。

 あー、気持ち良い。


 食べ切ったご褒美は、食事代無料と賞金五千円。


「ありがとうございます。また来ます」

「もう来ないで下さい……」


 中々賞金を離そうとしない店主に、颯爽と礼を言って店を後にした。


 正直、腹は満たされていない。腹七分目感はあるが、そこから溢れる感じがしないのだ。


 どうなっているのか分からないが、考察するに、体に必要な栄養以外のエネルギーが、経験値として変換されているのではないだろうか。


 そんな事を考えながらプラプラと歩いていると、道の真ん中でナンパされている女の子に遭遇してしまった。


「ねえねえ、暇なら行こうよ」

「暇じゃありません」


 男の方は今時のパリピな見た目。

 頑張ってイキってます感が強い。


 女の子はどちらかと言うと清楚系な感じだ。

 それは無理だろという組み合わせ。

 男の方も良くやるよ。


「そんな事言わずにさ~、飯奢るし行こうよ」

「結構です」


 うーん、かなりしつこいな。

 ダメなら次に行けば良いものを……。


 女の子がスタスタと歩いて振り払おうとしているが、男の方が諦め悪く追いかけている。


「あんまりしつこいと警察呼びますよ」


 女の子はあまりのしつこさに最後通告を出していた。男の方はそれで引き下がると思ったが、どうやら逆効果になってしまったようだ。


「お前生意気だな。ちょっとこっち来い!」

「やめて! 離してください!」


 普段ならこんな場面に出会しても関わる事はなかった。精々警察に連絡して様子を見るぐらいだ。


 だが、今は違う。今の俺は、あんな雑魚に遅れを取るレベルじゃない筈。なんと言っても、漲る力を試したかった。


「兄ちゃん、そこら辺にしときな」

「なっ、なんだお前!」


 パリピ男の腕を掴み女の子から引き剥がす。

 

 抵抗して俺の手を退かそうと頑張っているが、赤子より力弱くない?

 

「ナンパすんなとは言わんが、引き際を見極めろ。無理やりは良くない」

「う、うるせえ! おっさん、俺が誰か知ってんのか! 俺はこの辺仕切ってる学君と友達なんだぞ!」


 学君って誰だよ。とりあえず、こいつは口だけのイキリだと分かったので、ここらで放流するか。

 

「もう行け」

「お、覚えてろよ!」

「覚えてません」

「ぷっっ」

 

 どこぞの捨て台詞を吐いて逃走するパリピを見送り、被害者の女の子を振り向いた。


「ありがとうございました! 捨て台詞とか漫画の中だけだと思ってましたけど、現実でやる人いるんですね!」


 女の子は案外平気そうだ。

 

 パリピの捨て台詞と俺の覚えてませんが効いたのか、女の子は暫くケラケラと笑っていた。


「はぁ~、おかしいっっ、久々にこんな笑ったかも」

「ははっ、それは良かった。じゃあ、変なのに絡まれないように気をつけてね」


 もう大丈夫だろうと思い、その場を後にしようとした。すると、女の子が俺の袖を掴んで引き留めてくる。


「あ、あの、まだお礼が……」

「あー、大丈夫大丈夫! 気にしないで」


「いえ、そう言う訳にはいきません! もし良かったら、コーヒー奢らせて下さい!」

「うーん……」


 今時律儀な子だ。ただ、自分より若い子にご馳走様して貰うのは気が引けるしな……。


「あ、だったら、ここ付き合ってよ」

「ここですか?」

「うん。男一人じゃ入りずらくてさ」

「わ、分かりました!」


 ちょうど近くにあったパンケーキ屋に向かう。

 

 フワフワのパンケーキを一度は食べてみたいと思っていたが、おじさん一人で食べに行くにはハードルが高すぎる。


 今はいくらでも食べられるし、楽しみだ。


「おー、フワフワだ!」

「本当にこんなに食べるんですか!?」


「ああ、全然全然余裕! さ、ユキちゃんも遠慮せずに食べて」

「いただきます……すいません、助けて貰ったのにご馳走にまでなってしまって……やっぱり私が払います!」


「俺が食いたくて付き合って貰ってるだけだから、余計な気を回さなくて宜しい。歳下は黙って奢られなさい」

「は、はいっっ」


 パンケーキ屋に入り、大量注文。テーブルには、所狭しと様々なパンケーキが並んでいた。


 助けた女の子はユキちゃんと言い、大学三年生らしい。二人でいるとまるで親父と娘だな。


 いや、最近流行りのパパ活してると思われそうだ……。そう思うと、急に回りの目が気になり出した。


「なあユキちゃん、俺といるとパパ活してると思われそうだから、早く食べて出ような」

「こんだけ無茶苦茶な注文しといて、気にするのはそこですか……別に私は気にならないので、ゆっくり食べて下さい。それに、浩さんはそんなにおじさんに見えませんよ」


「お、嬉しい事言ってくれるね! これも食べる?」

「いや、別にお世辞とかじゃありませんよ! てか、よくそんなに食べられますね……」


 俺の食いっぷりを見て少し引き気味のユキちゃん。だっていくらでも食えるんだからしょうがないじゃないか。


「てか、浩さんって格闘技かなにかやってるんですか?」

「いいや。なんで?」


「だって、あの男の人結構ガタイ良かったですよね。それを子供みたいに軽々捻ってたから……」

「そんな事ないよ? あいつが口だけ野郎だっただけ」


「まあ、それは確かに……」

「それより、ユキちゃんもどんどん食べて」


 その後は、他愛無い話をしてユキちゃんとは解散になった。解散する時、連絡先を聞かれてビックリしたが、「就活に向けてアドバイスを貰いたいだけです!」という事だったので了承した。


 爆盛り食って賞金ゲットして、可愛い女の子とパンケーキ食ってレベルアップ。レベル上げって、こんなに楽しいもんだったんですね。


 ところが、そんなルンルン気分に水を差す輩達が道を塞いできた。


「おい、おっさん。ちと顔貸してくんない?」

「このおっさんで良いのか?」

「そうです学君!」


 俺の前に立ちはだかったのは、ユキちゃんをナンパして困らせていたパリピと、その仲間二人。


 一人は同じようなパリピっぽい男だったが、真ん中の男はどうみても雰囲気が違う。


 剃り込みの入った厳つい風貌。

 筋骨隆々の体。

 身長は190cm以上ありそうだ。


(これが例の学君か……確かに、虎の威を借るならピッタリかもな)


「こいつは俺のダチの弟なんだわ。手を出した借り、返してもらうぜ」

「俺は女の子が困ってたから止めただけだ。手を出したなんて事実はない」


「あん? 適当な事抜かすなよおっさん! 逆だからね学君! このおっさんが女の子に無理矢理パパ活迫ってたから止めたんだ! そしたら殴ってきたんだよ!」

「と、言ってるが?」


 良くもそんな嘘をペラペラと……。

 学君は騙されやすいのか?


 なんか根は良いやつそうだから、パリピ男に利用されてるだけな気がする。


「嘘はついてない。どっちの言い分を信じるかは君次第だが」

「面倒だな……とりあえず、体に聞けば分かるだろ」


 あー、学君は脳筋さんの部類か。

 考える事が苦手で、行動が先のタイプだ。

 

 この手の相手に説得とか無理だしな……。

 まあ、なるようになるだろ。


 路地裏へと連れて行かれるが、抵抗はしなかった。多分だが、今の俺だったら学君に負ける事はないだろ。


 ちょうど力も試したかったし、良い機会だと思ってしまった。


「じゃあ、おっさん。歯食い縛れ」


 俺をしっかりと見据えた学君の拳が、顔面へと迫っていたーー


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