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01「巻き込まれた中年」

「勇者"達"よーーよう参った」


 声の良く通った男の声。

 煌びやかな椅子に座り、頭に冠を乗せている。

 

 まるで王様のようだ。

 というか王様なのだろう。

 白髪混じりで口髭か似合うダンディな王様。


 脇にはゴージャスなドレスを着た貴婦人。

 あれは王妃様だな。

 金髪青目のまさに美女。

 羨ましいが、気が強そうで気疲れしそうだ。

 

 王様の左隣に立っているのは、髭がカールした偉そうな男。俺達を値踏みするような視線を送っている。


 というか、ここは一体どこなのだろう。

 俺は今さっき観光バスに轢かれた筈。

 成田空港行きの修学旅行生を乗せたバスに。


 なんたる不運。久しぶりの目覚めの良い朝だっから、早めに家を出たのが運の尽き。


 青信号で渡る俺。

 突っ込んで来るバス。

 運転手は居眠り。


 ああ、思ったよりも短い人生だったな。

 そんな諦めの境地にいた筈だった。


「ここどこだよ?」

「私達バスに乗ってたよね!?」

「確か急ブレーキで衝撃が来て……」

「ねえ相澤君! 私達どうなってるの!?」


 前にいる高校生達が俺が思っている事を代弁するかのように騒ぎ出した。俺も同じように騒ぎたかったが、二回り近く歳下の子供の前では流石に恥ずかしいのでぐっと堪えた。


「落ち着いてみんな! 良く分からないけど、あの人が説明してくれそうだから話を聞こう」


 皆んなを落ち着かせたのは、意思の強そうな瞳をした相澤君と呼ばれていた男子。


 恐らくクラスのリーダー的な存在で、性格も容姿も優れたピラミッドの上位にいる奴だ。ああいうのは大人になっても人気は衰えない。

 

 将来は出世して、美人な奥さんと可愛い子供を授かる順風満帆な人生を送るのだろう。


 別にそういう奴が嫌いとかではない。性格も良いから付き合って損はないし、友達としては最高だ。


 ただ、どうしたらそんな優れた人格者になれるのか、純粋な疑問で観察してしまうだけだ。


「ゴホンッーーでは、私から説明致そう」


 咳払いを一つして、学生達の意識を集めた大臣が語り始めた。内容的にはそんなに難しい事ではなかった。


「という事は、僕達はあなた方"グランギル"帝国の勇者として召喚されたと……」

「うむ、魔術師十人と生贄となった三十人が犠牲になったのだ。貴殿達には存分に力を発揮して頂こう」


 相澤君と大臣とでやり取りを交わし、話を進めていた。予想はしていたが、大臣の上からの態度はムカつく。


 勝手に召喚しといて、召喚には犠牲が伴ったのだからその分働けと宣っている。


 それにしても、異世界召喚されたとは驚きだ。空想の世界だと思っていたものが、現実になるとは思ってもいなかった。


「それは……他の国が召喚した勇者達と戦えという事ですか?」

「ああ、その通りだ。今年は五百年に一度の大魔周期。各国も軒並み勇者を召喚し、世界の覇権を狙っておるのだ」

「そんなの知るかよ! なんで俺達がお前らの為に戦わないといけないんだ!」


 良く言った名も知らぬ男子。大魔周期だかなんだか知らんが、そんなの異世界の住人だけでやっとけって話だ。


「戦うなんて無理! 折角の修学旅行だったのに……家に帰りたいっっ」


 一人の女の子が泣き出してしまったのを境に、空気は最悪に。それを更にドン底に落とす畜生発言をしたのは、今まで黙っていた王妃様だった。


「戦えぬ者は放逐するのみ。温情として、少しの路銀なら渡して上げましょう。ですが、その後あなた達がどうなろうと知った事ではない。か弱い女は当然死ぬまで犯され、男は鉱山に売り飛ばされる未来が待っているでしょう」


 性格がキツそうなのはなんとなく想像できたが、予想を上回る畜生発言だ。


「ですが、あなた達が纏まった軍団としてグランギル帝国に協力すると言うなら、衣食住は保証致しましょう」

「僕達が帰る方法はないのでしょうか」


「ええ、ありません」

「分かりました。一度みんなと相談させて下さい」


 クラスのリーダー相澤君が学生達と相談を始め、十分ぐらいああでもないこうでもないと、話し合いをしていた。


 その間、俺は後ろでその輪に混ざる事なく見ていた。流石にアラフォーのオッサンが学生に混じるのは気が引ける。


 一番の問題は、未だ誰一人として俺を認識していなさそうな事だ……。


「話は纏まったか?」

「はい」


 偉そうな大臣の問いに相澤君が答える。


「戦うと言っても、僕達は戦闘とは無縁な人生を送って来ました。もしそれでも戦えというなら力を尽くしますが、先ずは訓練をさせて下さい」

「うむ、それは良かろう。当然、まともに戦えるようになるまでの訓練期間は与えるつもりだった」


「それと、どうしても戦えない者がいても、放逐するのはやめて頂きたい。戦えなくても、役に立つ事はいくらでもあります。僕達のサポートに回れば、僕達は更に強くなれると思います」

「ふむ……王妃様、如何しますか?」

「アイザワと言ったな」


 鋭い目つきの王妃の問いに、相澤君は臆する事なく静かに頷く。


「お主が纏め役を引き受け、管理をするなら良いだろう」


 王妃の言葉を受け、相澤君は後ろを振り向きクラスメイト達の同意を求める。


 そこで否定する者は居らず、みな頷いて相澤君が纏め役になる事を受け入れていた。


「分かりました。慎んでお受け致します」

「うむ、良きに計らえ」


 今までのやり取りを見て分かったのだが、この国は実質、王妃が政治の指揮を取っているように思える。


 大臣も王様ではなく王妃様にお伺いを立てている所を見ると、まず間違いないだろう。もしかしたら、女帝の系譜なのかもしれない。


 そんな考察をしていると、大臣が次のステップへ進むため口を開いた。

 

「では、召喚された貴殿達のスキルを確認するとしよう」

「スキル……ですか?」


「うむ、異世界から召喚されし者には、神々からスキルを付与されている。この世界にもスキル持ちはおるが、召喚された勇者には二つ以上のスキルが付与されている事もざらだ。先ずは"スキルブック"と唱えてみよ」


 大臣の言葉を聞いた高校生達が、次々に「スキルブック」と唱えると、目の前に本が浮かんでいた。


「これがスキルブックでしょうか?」


 クラスを代表して相澤君が大臣に尋ねる。


「うむ。その本には、貴殿達のスキルや個人の能力を数値化したものが記載されている」

「うお、本当だ!」

「レベルの観念もあるのか……まるでRPGみたいだな」


 大臣の説明を聞いた生徒達が、目の前に浮かんだ本を捲って確認している。


 どれ、俺も確認してみるか。


 囁くようにスキルブックと唱えると、目の前に青い本が現れた。本が空中でプカプカと浮いている光景は、まさに異世界らしい。


ーーーーーーーーーーーーー

名前:立花浩 年齢:40歳 


称号:巻き込まれた中年


Lv 1


体力:5

気力:7

筋力:7

速力:6

技力:5


スキル

『飲食時経験値獲得』

『???』

『???』

『???』

『???』


ーーーーーーーーーーーーー


 うーん、これは強いのか? まあ、能力は兎も角、スキルは五つも付与されている。

 

「これは凄いんジャマイカ?」

 

 やべ、親父ギャグ出ちゃった。

 ええ……誰一人気づいてくれない。


「さて、それぞれの能力を確認した所で、我々も貴殿達のスキルと能力を確認させてもらう……衛兵! 鑑定士を呼べ!」

「は!」


 大臣の言葉にキビキビと動く兵士。暫くすると、ローブを羽織った女性が連れて来られた。


「鑑定士よ、此度召喚した勇者達を鑑定し、今現在一番強い者を報告せよ」

「畏まりました」


 大臣の命を受け、ローブを羽織った女性が高校生達へ顔を向ける。


「神々から与えられし魔眼よ……源流を暴きたまえ!」


 鑑定士と呼ばれた女性がそう唱えると、女性の両目が赤く光る。その赤く光った瞳で、緊張した面持ちの生徒達をギロギロと観察していた。


「報告致します! この者達で現在最も強いのはーー"アイザワユウヤ"と申す者です!」

「わぁ、やっぱり相澤君なんだ!」

「流石うちらの委員長!」


 期待通りの展開に嬉しそうな生徒達。相澤君はそんな報告を受けても、どこかクールな表情をしていた。


「そうか。では、相澤とやらの能力とスキルを報告せよ」

「畏まりました」


ーーーーーーーーーーーーー


名前:相澤優弥 年齢:18歳 


称号:召喚されし勇者


Lv 1


体力:80

気力:74

筋力:46

速力:55

技力:45


スキル

『心技体』

『導く者』

『武器の達人』

『剛壁』

『勇者の雷』


ーーーーーーーーーーーーー


 ちょっと待てよ相澤君。

 能力値、俺の十倍以上って、エグくないか……。

 スキルもめっちゃ強そうだし。

 

 これは相澤君が強いだけか?

 それとも、俺が激弱なだけ?


「ほう、期待以上の能力とスキルだ。これは帝国を世界の覇者に導くだけの素質がありそうね」


 鑑定士の報告を受けた王妃がニヤリと笑う。


 その笑顔は、とても朗らかとは言い難く、まさに"邪悪な笑み"と呼べるものだった。


「更に、この中で最も弱い者も報告致します」

「うむ、頼んだ」


 あ、なんか嫌な予感がする。


「この中で最も最弱な者はーータチバナヒロシと申す者でございます!!」


 まるで犯罪者を炙り出すように、鑑定士がビシッと俺を指差した。


「たちばなひろし? そんな奴いた?」

「後ろだよ後ろ」

「え、誰だあのオッサン?」

「知らない。運転手の人?」


 こっち見ないでっっ。

 おじさん羞恥心でどうにかなりそうっっ。


「その者の能力とスキルは?」 



 予想外の召喚者。

 能力も低く、スキルも大した事がないオッサン。

 そんな奴がどうなるか知っているか?



「なんだあいつ? 変な格好してんな」

「なんか陰気臭いわね……」


 寒空の元に、放逐されるのさ。

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