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半吸血鬼少女の往く道は  作者: 月弓
学園潜入生活
9/46

王立勇者育成学校

新章スタートです。

新キャラも複数出てきます。


冬の寒さが去り、イースタント王国の王都にも桜が咲き乱れる頃、王立勇者育成校の第6期生の入学式が執り行われる。

この学校は、勇者とその仲間になり得る者を育成し、王国に平和を齎す勇者パーティーを作る為に創設された。

1〜4期生は元々の王立学校からの編入として入校し、勇者であるユイナ・ロイセンツは5期生として入学。つまりこれが、2回目の入学式となる。

1学年300人の座をかけた入学試験は倍率が10倍は下らない、それを勝ち抜いた者達が更に入学式後に実施される能力検定で優れた者から順にクラス分けされる事になっている。


「ここが王立勇者育成校…」

「大きい」

「流石は王都…って事か」

「ほ、本当に…今日からここで暮らすの…??」


校門前で屯する4人組が居る。

同じ村(・・・)の出身で、男女2人ずつ。

少女のうち、長い黒髪で顔の左側に大きな眼帯を着けた少女は瑤華、同じく長髪で艶やかな銀色の髪の少女は結美。

他に、身長190センチメートル以上の巨体に細めながらも厳つい筋肉を纏った男がゲオルグ。結美より僅かに背が低い、心底怯えた様子の男がラン。


「瑤華、口数少ねぇけど大丈夫か?」

「え〜だってこんなに大っきいと圧倒されるじゃん」

「僕もです〜」


瑤華と結美は吸血鬼族、ゲオルグは人間族でランはエルフ族だ。本来エルフがこの場に居れば大騒ぎになるが、ランは耳が発達せず人間と遜色無い程度にしか成長しなかった希少種だ。

……言わずもがな、この4人は革命軍の手先────それも、極秘中の極秘である暗殺部隊の構成員。当初はランはこのメンバーに組み込まれていなかったが、特徴的な耳と戦闘時に現れる別人格が見込まれて途中入隊した。

4人の目的は勇者の暗殺。

加えて地方に領地を持ち、住民に法外な税を納めさせる貴族のドラ息子達を間引くのが仕事だ。


「ほら、大講堂に行くよ。式が始まっちゃう」

「うん」

「おう」

「はいぃ〜…」


4人は大講堂へ行き、校長やら生徒会長やらの長話を聞き、ヘトヘトになったところで訓練場へと移動させられた。







◇◇◇◇


訓練場はさながらコロシアムのような造りで、中央には300人が入っても半分以上余裕のあるコートがあり、それを囲うように観客席が設けられている。


「新入生諸君!これから君達のクラス分け検定を行う!内容は単純、近衛騎士団の団員と戦ってもらう!」


生徒達とは反対側の出入口から現れた男が、声高々に叫んだ検定の内容に、観客席の生徒……つまり先輩からは歓声が上がる。これは王立学校の時からの通過儀礼で、クラス分けと同時に生徒達がそれぞれ運営するチーム──通称『レギオン』への勧誘の場に使われる。

有能な者達は学園のトップレギオンから勧誘だって有り得るし、今年度は昨年新設された勇者が率いるレギオンもこの勧誘に参加している。1人に対して先着6レギオンしか勧誘出来ない仕組みになっている為、王立学校時代からこの日はお祭り騒ぎなのだ。


「対戦相手はランダムだ。必ずしも勝つ必要は無い、代わりに死力を尽くして戦ってくれたまえッ!」


ここでやっと、新入生達も盛り上がり出す。

順番が決まっている訳ではないので、誰から戦うかだけで大騒ぎ。何せ、レギオン側も募集可能な人数が決まっている。良い実績を残しても、後に回ったが為に有名レギオンから勧誘が来ないなんて事例も過去にはあった。




そんな中で、瑤華だけが観客席に1つ……ズバ抜けてヤバい気配を感じ取っていた。間違い無く勇者だ。そして……


「…ふふっ、彼女凄いね。ちゃんと僕の方を見てカーテシーして来た」

「マスター?」

「ねぇ、出入口すぐの所に居る4人組に勧誘状の申請しておいて」


勇者……ユイナもその存在に気付いていた。

中でもユイナは、刀を携えた少女に興味津々らしい。


「使える勧誘枠を全て使ってしまいますが……宜しいのですか?」

「うん。僕の勘がアタリだって言ってるんだ。後悔はさせないよ」

「マスター、一人称に気を付けて下さい」









……一方、



「勇者に気付かれた」

「嘘ッ、終わった……」

「おいおいマジかよ」

「私達の所在がってこと?」

「ううん、単に強い奴に気付いたくらいだと思う。何人かの人達を急いで動かしてたから、もしかしたら勧誘が来るかもね」


瑤華のこの発言が大当たりだと後に判明し、3人は愕然とする羽目になる。それはさておき、気付けば50人程が近衛騎士団の洗練を受けていた。悉く惨敗、我先にと名乗り出ていた声も少しずつ小さくなっている。


「俺達はどうする?」

「トリは私がやるから、あとは好きなタイミングで良いよ」

「んじゃ、俺次行くわ」


ゲオルグが背中に吊った両手斧を手に取り、ステージに上がる。

相手は左手に盾を持ち右手に槍を持つ兵士で、どうやらまだ新株らしい。身長差もあって、どっちが試験官か判らなくなりそうだ。


「初めッ!」


ゲオルグの反応は早かった。

より重い武器を使うにも関わらず、同時か少し早いくらいのタイミングで駆け出し、反時計回りに勢い良く斧を振るった。しかし相手は近衛騎士だ、素早い反応で盾を斜めに構える……その威力を的確に予想し、受け止めるよりも受け流すべきだと判断したのだ。

だが──


「貰ったァ!」

「なっ──ぐあっ!!?」


端からその程度先読みしていたゲオルグは、それまで水平だった斧の切っ先を地面と垂直にした。

その結果、面で降り掛かって来た圧力は受け流せず、相手は反対側の壁近くまで吹き飛ばされた。


「まぁ、こんなもんか」











次にステージにたったのは結美。

相手が重装甲を纏っているのを逆手に取り、まず水責めで相手をびしょ濡れにした後で、氷魔法で急速冷凍。くぐもった悲鳴が鎧の中から聞こえて、これには試験官もビビっていた。

……が、それよりも場を凍り付かせたのが、


「ヒャッハーッ!オラオラどうした?もっと遊ぼうぜぇー!!」

「……あいつ、間違えて試験官殺したりしないだろうな……?」

「大丈夫でしょ?」

「んな楽観的な……」

「ほら、相手が武器を落として降参した」


ゲオルグは肩を落として苦笑いするしかなかった。まぁ、彼も試験官を吹き飛ばしてるから他人の事は言えないのだが……。










◇◇◇◇



「あの少女、中々出て来ませんね」

「最後じゃないかな?多分、僕が勧誘状を出したのも察してる」

「……ここまでとなると、革命軍の刺客の可能性が高いのでは?」

「その時はその時さ。第一、僕に勝てる相手なんて聖十二騎士団でもそう居ないからね」


とか言いつつ、実はもう«看破»スキルであの子がステータスを偽造してるのは知ってるんだ。まぁ、中々に高い«隠蔽»スキルの持ち主みたいで、接触でもしない限りどこをどう偽造してるのかまでは理解らないけどね。


「あっ、本当に最後に来ましたね」

「さて……出来れば予想を上回って欲しいな…」


僕が壇上に視線を向けると、そこには隻眼の少女と……まさかの近衛騎士団序列3位が居るじゃないか。

少女の方は…刀を使うんだ。

僕も昔使った事があるけど、正しく使わないとすぐに折れるから向かなかったんだよね。鎧相手だと刃毀れするし…。


「始め!」


掛け声の直後、試験官の大剣が上段から振り下ろされた。下段受けの構えの彼女は不利──なんて思ったのも束の間、綺麗に躱してみせた。

次も、その次の斬撃も躱してしまうのは凄いけど…


「反撃しないですね」

「ジリ貧だろ、アレは」


そう、反撃が一切無い。

躱して躱して、それしか能が無いみたいに。

観客席からはブーイングも飛んでる、それでも彼女はその姿勢を崩さない。


「マスター、彼女はハズレなのでは?」

「……まぁ見てて、特に目元とか」

「?」


そう…多分僕と、対峙してる試験官しか気付いてないだろうけど、彼女はね……


「嘘だろ、眼ぇ閉じてやがる!」

「なっ……本当だ、何も見てない!」

「そもそも、試合開始からここまで1回も攻撃を受けてないなんておかしいでしょ?抜いた刀を振ってすらいない」

「あんな紙一重の避け方出来る人なんて、そうそう居ませんね」


一切眼を開けず、気配だけで対応している。

恐らく、僕が見る事前提での僕だけに向けたパフォーマンス。ブーイングをする他の生徒が憐れでならないよ……今、この会場は彼女に遊ばれてるんだ。


「……そろそろ攻めてくるね」


…僕の予想通りになった。

回避の瞬間、彼女の切っ先が試験官の鎧の胸部を掠め始めた。キンッ、キンッって……小さな音を、大剣が床を破壊する音に混ぜている。

厄介な事に、彼女は拳術も使うらしい。

さっきから回避と同時に鎧の薄い所を狙って蹴りや手刀を叩き込んでる。勿論、本命は刀の方だろうけど。

暫くはこの状態が続いたけど、先に試験官が崩れ始めた。恐らく大剣を振るい続ける疲労と、攻撃が当たらない事への焦りだろうね。隙の大きい大振りを放ってしまった。彼女はそれを──鎬で受け流してみせる。


「これは凄いね」


刀と大剣の物量差で、水が流れ落ちるのよりも自然に受け流すなんて達人の領域だよ。僕でも真似出来ない。しかも、受け流した大剣を踏み付けて空中で半回転、逆さで放った水平斬りは見事に胸部装甲を打ち砕いた。さっきまで切っ先を掠めていたのは、鎧を砕く為に繰り返し傷を付ける為だったんだ。

圧倒的な戦闘センスだね……。


「嘘だろ、あの鎧を砕くのかよ…」

「下手したら私達より強いかも知れませんね」

「"かも"じゃないと思うなぁ。少なくとも、あの武器で戦うなら戦闘センスは僕より上だろうし」

「御嬢様がそこまで言うなんて……」


驚いてるようだけど、彼女はまだやる気だよ?

装甲を砕いておきながら距離を取って、あまつさえ構えを解いている。見事に挑発に乗った試験官は激怒しながら斬撃を放つけど────案の定、というか予想を超えて大剣を真ん中で斬り捨ててしまった。どうやったら刀であの鉄塊を斬れるの?

最後は峰打ちで終わらせた彼女を見て、僕は拍手を送った。近衛騎士団の序列3位に勝って、まだ全然余裕な彼女の本気を知りたい……底知れない実力者を前に、僕は興奮を抑えられなかった。












◇◇◇◇



「あっ、クラス発表されてる」

「…おいおい、なんで瑤華が10組なんだ?」


ゲオルグが顔を真っ赤にしてるけど、私は正直こうなると思ってたんだ。

聞いた話だと、私が戦ったのは近衛騎士団の序列3位。そんな人間が、どこの馬の骨とも知れない新入生にフルボッコにされたら……近衛騎士団のメンツが丸潰れ、だから"不正"があったことにされた。

でも、他の3人が揃って5組なのを見ると……試験の結果なんて建前で、本当は賄賂だの何だのが裏でやり取りされてたんだろうね。


「あの女、反則がバレて10組らしいぜ?」

「何それダサーい」

「てかあの仮面みたいなのなんだよ」

「気持ち悪ッ!」


私は別に、本命に媚び売れたからどうでも良いんだけど……人間ってマウント取らないと生きていけないのかな?


「納得出来ません……」

「結美、落ち着いて」

「瑤華さん……な、泣き寝入りしちゃ…ダメですよ…」

「泣き寝入りなんかじゃないよ、ほら──」


こっちに真っ直ぐに近付いてくるヤバい気配。

視線を向けた先には──


「御機嫌よう、これから時間大丈夫かな?」


──勇者、ユイナ・ロイセンツの姿があった。


「勇者様だ」

「格好良い…」

「なんでこんな所に?」

「もしかしてレギオンへの勧誘!?」

「一体誰が選ばれるんだ…」


飛び交う憶測の中で、1組に選ばれた貴族達のうちの何人かが身嗜みを整え始めた。……きっと、自分が選ばれると思ってるんだね。可哀想、彼女の視線は痛いくらいに私に向いてるのに。


「キミ、さっきの試合で最後に戦った子で間違い無いよね?」

「はい、そうですね」

「私はユイナ・ロイセンツ、さっきからちらほら聞こえて来るけど勇者だよ」

「そんな凄い人が、私に何の用ですか?」


私の言葉遣いや態度に、周囲の人達から怒りの声が上がった。勇者様は敬うべき、無礼な態度を改めろってさ。


「ふふっ、肝が据わってるみたいで何よりだよ。君達4人を私のレギオンに勧誘する為に来たんだ」

「…一応なんですけど、どうして私達なんですか?」

「キミを始めとして、優れた実力を持っているからさ。特に……えっと、まだ名前を聞いてなかったね」

「瑤華です」

「ありがとう。特に瑤華さんは素晴らしい、キミは絶対に他に取られたくないんだ」


やっぱり、見透かされてた。

隠し通せるとも思ってなかったけどね。

私達は顔を見合わせて、それから時間が欲しい旨を伝えた。


「構わないよ。取り敢えずレギオンとしての要件は終わったから……次に瑤華さん、個人的な要件があるんだけど…良いかな?」

「何ですか?」

「私と擬似姉妹の契りを結んで欲しい」

「………………………はぇ?」


この瞬間、私は久々に頭が真っ白になった。

ちょっと、いやかなり吃驚だよ…こんな展開予想出来ないじゃん……。















擬似姉妹制度って良くない?

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