呪いをアナタに
なんか執筆止まらなかったので、早めの投下です。
早朝、瑤華とエレナは竜人族の背に乗り、大空へと飛び立った。少し遅れて、騎兵部隊が出立する。まずは2人が空から直接補給部隊を襲い、混乱したところで本隊が合流する二段構えの戦術だ。
初陣にして先遣隊を任せられるというのは、それだけ瑤華は掛けられた期待が大きい証拠だ。しかし、拠点に残ったエルフ族長、アリアの表情は優れない。それは人狼族長のペネットも同じで…
「アイツ、行かせて良かったのカ?」
「……それが、彼女の望みですから…」
近くに控えてる妹のマリアも……否、革命軍幹部として基地で働くエルフは皆、暗い表情をしていた。
◇◇◇◇
半日が経った。
地上部隊があと半刻程で会敵する頃、瑤華とエレナは上空からイースタント軍の様子を窺っていた。
「瑤華、補給部隊に1人だけ強い気配があるのを感じる?」
「…はい。合計値は…2万に届かないくらいの」
「そう、そいつは私が殺る。瑤華は私より5秒遅れて降りて落下しつつ私の動きを見てて、着地に失敗しないでよ?」
「はい!」
「…あと、その仮面似合ってるよ」
「ッ、ありがとうございます!」
エレナはこれから殺戮を行うとは思えない程に優しい笑みを浮かべ、敵陣に向かって飛び降りた。言われた通りにそれを追った瑤華が見たのは────
────一切の無駄と音の無い、まるで微風のような剣閃が、鎧に身を包んだ巨漢の首を刎ねている光景だった。
「……て、敵襲だぁー!」
「は、早く増えグホッ──」
着地と共に4人が瑤華に斬り捨てられた。
半分は応戦、半分は敵襲の報告(という名の逃亡)に走るが、余り早々に増援を呼ばれては補給部隊を壊滅させるのは難しい。だから──
「«紅蓮地獄»」
補給部隊の前方に居た兵隊達が、途端に動かなくなった。当然だ、昼間の砂漠すら一瞬で白く化粧させる冷気に襲われて血液から各器官から何まで凍ってしまったのだから。その肉壁が兵士達の逃げ道を塞ぎ、更にはエレナがこっそり«無音化»の術式を使ったから声も届かない。補給部隊は本隊より500mは離れて進軍していたから、これで暫くは誰も気付けまい。
「どう?初めて人を斬った感想は…」
「もう何度も殺ってますよ、何も感じません」
「そっか、そうだった」
2人が雑談する間も、兵士達の悲鳴は絶えない。斬り刻まれる者、肉壁をどかそうとして触れた瞬間腕から凍り付いていく痛みと恐怖に襲われながら死ぬ者。後者に至っては、おぞましい悲鳴と共に皮膚が裂け、まるで紅い蓮の華を連想させる姿に成り果てている。
「師匠ッ、私が引き付けとくので…荷物の方、やっちゃって下さい!」
「ん、任せた────«プロミネンス»」
エレナから補給物資を乗せた荷車までは距離があった。しかし、その間に立っていた兵士達ごと炎の波が攫っていく。«プロミネンス»は火属性では高位の魔法で、適性があっても会得は難しいとされる。
「わぁ…いつ見ても凄いなぁ……っと危ない」
「ガアッ──!? 」
「………もう瑤華1人でも大丈夫そうだね。私は予定より早いけど、本隊を攻撃する」
「はい、お気をつけて」
「…瑤華も、飛び道具と魔法には気を付けてね」
「はい!」
今度は少し悲しそうに笑うと、エレナはもうそこには居なかった。
『神速』の二つ名持ちが居なくなって兵士達の士気が上がる────なんて事は無かった。さっきだって、半分は瑤華が殺したのだ。喩えるなら同時に直撃した台風と地震、揺れが止まったって台風は関係無く猛威を振るう。
「さて……私だけなら、お前達だけでも殺し切れるんじゃない?」
黒い鬼の面の下で瑤華は笑ってみせる。
少し希望を持たせておいた方が、折れてから立ち直れない。束になって襲って来たのを返り討ちにすれば効率良く狩れる。
「……残念だったな亜人風情が!本隊には聖十二騎士のアインス様が居られぶぎゅッ!?」
「(それはマズい…序列によっては師匠でも危ない相手だッ!! )」
聖十二騎士とは、イースタント王国が誇る超人的能力を持つ12人の事で、序列が高いほど実力が優れている。因みに、序列4位であるサルバード・ロイセンツは王国の政治を動かす十二貴族の1人でもあり、政治と武力の両方で優れた功績を残している事から、王家に続いた事実上のトップの家系とも言われている。
エレナが言うには、『…7位までなら余裕で斬れるけど、6位からは段違いの実力者…私じゃ敵わない』らしい。実戦の為に色々試行錯誤しようとしていた瑤華も予定変更、即刻始末して加勢に行く事を決める。
「もう……数が多いんだよ…」
◇◇◇◇
「……お前、確か序列6位の…」
「いかもに…ワタクシは聖十二騎士の序列6位を頂いております……ドモル・バランと申します。以後御見知り置きを……失礼、貴女にはここで死んで貰わねばいきませんね、『神速』のエレナ…」
「……私を覚えてたんだ。と言うか生きてたんだね…」
「はい…30年前、唯一ワタクシが討ち漏らした小娘ですから。その汚点を払拭する為に80手前の老骨になっても戦ってるのですよ」
「私も、出来ればお前は自分の手で殺したかったから……そこだけは感謝だね」
直後、エレナは納刀し右手を水平に伸ばした。
「……何の真似です?」
「…ずっと、敢えて普通の刀で戦ってきた。お前を倒す為には地力を付けなきゃいけなかったからね。癪だけど、武器の性能に頼ってたら私じゃお前に勝てないからね」
「ほぅ、つまり…いきなり奥の手と言う訳ですか」
「おいで«月夜魅»、血を吸わせてあげる」
エレナが抜いたのは『忌太刀:月夜魅』……神器と呼ばれる、人の技術では到底作り上げる事の出来ない幻想級の武器。
普段は異空間に存在し、持ち主の躰に刻まれた紋章を介して呼び出す事の出来るという特性を必ず持ち、相性が悪いと触れるだけで死に至る…だからこそ得られる力も強大だ。
────────
名前:エレナ・土御門・フェリス
種族:エルフ族
Lv:255
適性:火・光・闇・無
異能:«刹那の見切り»
筋力:46500(+25000)
敏捷:80869(+27500)
耐久:37991(+15000)
持久:49728(+15000)
魔力:82342(+27500)
────────
()の中の数値が加算され左の数値となる。
今のエレナのステータス合計値は30万超えの境地にあり、そこに圧倒的な技量を合わせれば軽く40万の相手なら互角に斬り結べるだろう。
「死ね──」
地面にクレーターが出来る程の踏み込み、稲妻の様に加速したエレナの一撃は──
「……残念、そこまでしてもワタクシの装甲は砕けませんね」
「ッ!? 」
──ドモルの首に当たって、皮一枚破れずに止まっていた。
「知ってるでしょう?ワタクシのアーツは«魔術師の戦場»、ワタクシに対する物理攻撃は効きません。まぁ、ワタクシも物理攻撃出来ないんですけどね」
「……そのアーツは、使い手の魔力値を自分の筋力値が上回っていれば相殺出来た筈なのに…」
「えぇ、最近は衰えと一緒にステータスも減少していましてね……最高位魔法の1つ、«コネクション»によって全ステータスを魔力に統合しました」
────────
名前:ドモル・バラン
種族:人間族
Lv:124
適性:全
異能:«魔術師の戦場»
筋力:0
敏捷:0
耐久:0
持久:0
魔力:268509
────────
これには、エレナも絶句するしか無かった。
合計値なら圧勝出来るが、魔力は雲泥の差だ。唯一弱点と言えそうな、魔力以外のステータスがゼロという事も、アーツが完全に補っている。
「このッ!」
「幾らでもお試し下さい。貴女は絶望させてから殺したいので…あぁ、逃げても構いませんよ?その時はお連れの方共々燃やしますから」
「……下衆が…!」
「チャチャな炎ですね、相殺してあげます」
魔力が一桁違うのだ。魔法は相殺されるし、幾ら敏捷力があったって逃げる前に本当に焼き殺される。それに、増援も恐らく……
「そう!そうです!! その自分の無力さに打ち拉がれる顔が見たかったッ!」
「……私の負け、早く殺せばいい」
「……………………………諦めが早いんですね。つまらないです。つまらないので……貴女のお連れの小娘を今から目の前で拷問してやりましょう」
「……は?」
「ふふ、お前の恋人もこう言ったら激怒していましたねぇ?貴女を守る為に特攻して……まぁ、為す術無く無様に死にましたけ──」
「黙れッ!」
エレナはありったけの剣戟を叩き込んだ。
ただそれは、剣術と呼ぶには余りに無作法で、纏まりの無い……子供のチャンバラ遊びのようなモノだった。
彼女は怒りに我を忘れ、自分が必死に磨き上げた技すら棄ててしまった。
「おやおや、そんな声も出せたんですねぇ…。まぁ、蚊程も効きませんけど」
「煩いッ!あの子は絶対殺させない!」
「その反抗的な眼、堪りませんねぇ……でもまぁ、増援が来たようなのでお終いです」
「──いッ!!?」
巻き上がった鎌鼬は、エレナの躰に✕字に紅い筋を刻んだ。傷は肋骨を通り越して肺にまで傷を負わせていて、呼吸の度に空気の抜ける音がした。
「すぐにお連れの小娘を連れて来ますから、まだ死なないで下さいね?それでは索敵魔法を「師匠…」…おやおや、探す手間が省けましたね」
「お前が、やったのか……」
「えぇ。ワタクシを殺すなんて息巻いておいて、実際は何も出来ずにこのザマです」
「……ころしてやる」
「よ…か……だ、め……」
補給部隊を蹂躙し、より強い兵士達の包囲網を潜り抜けた瑤華は既に傷塗れ。ドモルに勝てる確率なんて、万に一つも無い。
「1つ良い事を教えてあげましょう。ワタクシはアーツの効果で魔法しか効きません」
「……」
「倒したければ、魔法でどうにかしないといけませんよ?まぁ、魔力で私に勝てる者は居ませんから全て相殺しますから」
「……」
「(……この小娘、何故ここまで言われて殺意が一切変わらない?)」
エレナは早々に諦めた。
他に殺して来た者達も、絶望の中で死んでいった。なのに何故、瑤華の殺気は揺らがないのか……答えは簡単、大切な師匠を傷付けられて正気を失っているからだ。
「シッ──!」
「生憎、貴女に時間をかける余裕は無いです。無様に死んで下さい」
「──ガハッ……」
「瑤華ッ!! 」
地面が変形し、突き出た杭のように瑤華の全身を縫い止めた。腹部には2つの穴が、右腕は肩口から吹き飛んで、左脚は太腿の中程から千切れて垂れ下がっている。余りの激痛に声すら出せず、口から大量の血が溢れ返った。
エレナは痛みを忘れ、瑤華のもとへ這って行く。しかし、まだ1m以上あるのに触れた血溜まりに……瑤華の傷が手遅れだと察しが付いてしまう。
「あぁ……瑤華…、ぁ…また、また守れなかった……瑤華…嫌だよ……死なないでよ…」
「……素晴らしい、その顔だ…その顔を見たかったッ!」
眼に涙を溢れさせるエレナを見て、ドモルは歓喜した。生涯唯一の汚点となり得た女が、今や生涯最高の首級になるのだから。しかも、完全勝利というオマケ付きで。
「満足だ、終わりにしましょう!」
「瑤華……ようか……ぁ…」
空中に浮かび上がる光魔法で作られた剣が、その狙いをエレナに定めて降下した。
──ブチッ。
◇◇◇◇
私は、薄れてく意識の中で空を睨んだ。
空に輝く無数の剣、狙いは……きっと師匠だ。
「(ダメだ…動け……)」
全身を縫い止めてて動けない……血が足りない、私も死ぬ?……それも嫌だ、まだ死ねない。師匠との約束があるから死ねないっ!
「(でも、どうやって倒せば良い……?私の魔法じゃコイツは……?)」
もう一度、輝く剣を見た。
あれは剣の形はしてるけど、魔法。
「(………ッ!)」
勝てるかも知れない。
まだ夜は明けてないし、私の現状は……寧ろ好都合かも知れない。
この予想が外れたら2人共死ぬけど、やらなくても死ぬ……なら、信じるしか無い。痛みも今は忘れろ、私が無茶して傷付く人達の事は考えるな!
「«ルナティック・ブレイヴ»ッ!! 」
──ブチッ、ブチブチッ!
皮膚が引き裂かれる音がする。
痛い、奴隷だった頃なんて笑って済むくらい痛い。でも止まらない、止まったら負けだ。
「ッ!? 」
「貴様ッ、まだ生きて──」
動揺してる今がチャンスだ、地面を蹴れ!
左脚は邪魔だ、引き千切れ!懐に入れ!
「死に損ないが!敗れ被れの自爆でも──」
耳を貸す余裕なんて無い。
私が力んだ時に右肩から吹き出た血……それを凍らせるッ!
腕は振れない、身を捻るしか無い……左手でその襟首を掴んで──
「ぎっ、があああぁぁぁぁぁぁあッ!?!?」
「ア゛ァ゛ァ゛ァァッ!!!」
「な、何故ッ!? 物理攻撃は禁じ…グウッ!!」
魔法は、魔力で自然に干渉して引き起こす者が多い。コイツみたいに魔力で光を集めて剣の形を作ったり、私みたいに空気中の水分に干渉して氷を作り出したり……肝心なのは、作り出された氷に当たっても物理攻撃じゃなくて魔法攻撃に加算されるってこと。随分前にアリア様から教わった事を、さっき光の剣を見て思い出した。
現に、私の魔力がたっぷり篭った血の氷はコイツの左の鎖骨まで食い込んでる。
「殺ス、絶対ブッ殺スッ!! 」
「舐めるなァ!」
更に少し食い込んだ所で、刃が止まった。
コイツ、体内に結界張ったなッ!?
「無縫艶舞«燦華»」
「何っ!? 」
師匠が握るのは、さっき左脚から吹き出た血を凍らせておいた即席の刀。そして、『無縫艶舞』は師匠が編み出した最強の剣術だ。これなら──
「ぬうっ!貴様ッ、どこにそんな力が!? 」
「弟子が頑張ってるんだ、私だってッ!!!」
師匠の剣戟は四肢をほぼ同時に斬り落として、私とは真逆……右の脇腹から心臓を目指す。
「無縫艶舞«月蝕»ッ!!!」
私も負けじと無縫艶舞を使った。
無縫艶舞は、特異な呼吸で躰への負担の蓄積を一時的に減らし、斬撃の威力を何倍にも引き上げる。尚且つ無駄なく繋がった複数の剣技が『無数に繋がった一撃』として、まるで演舞のように続いていく。
──今は剣技を繋げようとする必要は無い、この一撃をより強化すれば、コイツの結界だって!
「「ヤアアァァァアアァッ!!!」」
「ぐあっ!こうなったら…」
魔法の術式詠唱を始めるのを見逃すとでも?
「«紅蓮地獄»ッ!」
「はぎゃッ!?!?」
ゼロ距離だから防ぎようが無いのはコイツも同じ、口の中の水分が一気に凍結したから詠唱出来ないし、詠唱を必要としない低級魔法すら痛みで集中出来ない筈。
「好い加減ッ……」
「斬られろーッ!! 」
左手で首を鷲掴みにして、そのまま絞める。
喉を締められても直接ダメージは無いだろうけど、気管が狭くなれば窒息死の可能性も生まれる。何より、首を絞められるって言うのは本能的に恐怖心を煽る……少しでも正常な判断を滞らせる。
空中にはまだ剣が残ってるけど、下手に使えば巻き添えを食らうから動かせないだろうし、周りの兵士達はこの攻防の間に師匠が燃やしてくれた。
……問題は、私達の時間切れ。
«ルナティック・ブレイヴ»を発動してれば身体能力も治癒能力も向上するけど、魔力が尽きたら使えない。今の私の傷なら即死だって有り得る。師匠だって、焼いて傷口を塞いでるけど今にも広がりそう……そもそも、内臓だってきっと傷付いてる。何で動けるのか不思議なくらい…。
──バキンッ!
結界が壊れた──しかも私の方から。
…って喜ぶな、出し惜しむな!心臓を斬って、確実に殺さないと勝ちじゃない!
「ゴホゴボッ…ええい、こうなれば!」
「させないッ!」
師匠が離れた!?
訳が理解らなくて混乱したけど……すぐに上から降り掛かってきた温かい液体、吸血鬼の本能を騒がせる匂いで何となく理解ってしまった。空中にあった剣を、巻き添え覚悟で使ったんだ…。そして師匠は……
「ふっ…ざけるなああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああぁあぁああっ!!!!!!」
師匠がその身を呈して私を庇った。
だから私は、振り向きたくても振り向けない。
師匠が作り出した最後のチャンスを無碍には出来ない。このままトドメを刺す────それだけが私に許された選択だから。そして……
──シュパッ…。
終わりはあっさり訪れた。
敵の胴体が斜めに裂けて、私は着地も出来ずに地面に叩き付けられた。咄嗟に起き上がる事も出来ない、辛うじて視線を送った先には、絶命した男の死体が作った血溜まりがあった。
◇◇◇◇
「…よう……か…」
「師匠…そんな……早く治癒魔法で…ッ!! 」
アーツが切れて、全身を激痛が襲ってくる……ってそうじゃなくて、師匠の鳩尾を貫いていた光の剣が目の前で消えた。そこからの血が止まらない…、でも師匠は治癒魔法も使えるから……。
「«パーフェクトヒール»」
「………えっ……?? 」
治ったのは、私の傷だ。
«パーフェクトヒール»はどんな傷でも完治させてしまう代わりに、魔力消費量が馬鹿にならない。師匠でも、1日1回が限界だって……。
「何してるんですか師匠ッ!? 」
「……良いの、私は…ここで死ぬ」
「何でですかッ!? 」
「アリアの«天啓»があった……まぁ…どうして死ぬのかまでは判らなかったけど」
「そんな……」
アリア様のアーツ、«天啓»は覆らない。
でも、それなら──
「どうして教えてくれなかったんですかッ!!?」
「……言ったらアナタの動きが鈍る、巻き込みたくなかった」
「でも……」
「…詳しい話は、帰ってからアリアにでも聞いて………あのね、私はずっと死にたかった…」
「えっ…」
突然の告白に、私の思考は追い付かなかった。
ただ漠然と、『近くに居たのに気付けなかった』って悔しさはあった。
「…大切な相手を、自分の驕りが原因で見殺しにした……何度も死のうとして、止められて──生き恥を晒した。……生きてる理由も失った」
「……」
「…でも、そんな時に瑤華に現れた……」
「ッ!」
師匠の眼は相変わらず穏やかで、出血が酷いのに平気そうで…、私の口からは何も出て来なかった。
「…根は優しくて面倒見が良いのに、怖い顔をし…て他者を遠ざけてしまう。全部独りで抱え込んで、甘えたいだろうに…自分に厳しくして──強くなる為に努力を惜しまないアナタに、私は救われた……」
「そんな……師匠が、居たから……」
「……瑤華…貴女には才能がある………誰かの為に自分を殺してしまう才能……とっても優しくて、一歩間違えたら自分の身を滅ぼす才能……だから、もっともっと強くなれる……刀だけじゃない、他のどんな分野でも…」
やめて、褒めないで……。
そんな、遺言を残すようなこと…
「……瑤華…、右手を……出して」
「えっ……?」
「…いいから、早く……」
師匠の冷たい右手が重ねられて────師匠の右手の刻印が、私の右手に移動した。
「…これで、月夜魅の契約者はアナタ……契約出来たって事は、瑤華には月夜魅を振るう資格がある……」
「い、嫌です!これは師匠の刀でしょ!? 生きて師匠が持つべきです!」
「……お願い………これは、呪いだから…」
「…呪い…?」
「うん……『革命軍のこと宜しくね』って呪い………ごめんね、酷い師匠で……でも……瑤華なら…」
「師匠ッ、もう喋らないで!すぐに救援が…」
師匠は……首を横に振った。
「……大好きよ…瑤華…………私の、可愛い……愛弟子──────」
師匠はそう言い残して眼を閉じた。
無縫艶舞については、今後改めて詳しい解説を入れます。
……もう少しエレナの出番作れば良かった…………。