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半吸血鬼少女の往く道は  作者: 月弓
第1章 復讐のハーフヴァンプ
2/46

行く宛ても無く


瑤華が目を覚ますと、強い日差しの降り注ぐ浜辺に打ち上げられていた。


「はは……生き残ったんだ……」


ふと、自分のステータスを見てみると……やはり笑うしかない。魔物を倒して経験値を得たのだろうが、中々に馬鹿げた値が揃っていた。







────────


名前:瑤華・トワイライトムーン

種族:吸血鬼族

Lv:11

適性:闇・氷

異能:«ルナティック・ブレイヴ»

筋力:205

敏捷:345

耐久:80

持久:180

魔力:500


────────





ステータスの合計が1000を超えだと、人間の冒険者に置き換えればB級冒険者にあたる。

しかしそこに、アーツによるステータスの大幅増加を加味すると、総合値が10000以上のS級冒険者と同格である事を意味する。勿論、実戦経験の少ない瑤華では力不足であるが、まだ10歳にもならない子供が得る力にしては大き過ぎる。


「…まぁ、悪い事じゃないか…。それより……」


この海岸は、見覚えのある場所だ。

瑤華が昔、走り回ったり貝殻を拾ったりした場所。つまり──


「私、帰って来れたんだ……ッ!! 」


歓喜する声と表情とは裏腹に、歩みは辿々しかった。内心では『どうせ無駄だ、誰も残ってない』と思っているからか……少なくとも、感極まったからではない。


「………あはは、騒いじゃってバカみたい……」


3年以上経ったのだ。

生活の痕跡なんて、運良く残っていても廃屋くらいだろう…。そう思っても、瑤華は進むのを止めなかった。ひょっとすると、瑤華の壊れた心がより深い憎しみを得る為に進ませていたのかも知れない。










──ザザッ。



「ッ!? 」


街…のあった場所に近付くにつれて、生き物の気配が強くなった。魔物が住み着いてるのか…なんて考えては居たが、今の音はそれにしては不自然だった。



──ザッ、ザザッ!



「(やっぱり…向こうも私に気付いてるし、何人も居る……)」


そう思った次の動作は早かった。

1歩の踏込みで音のした方へ急接近、5つの気配のうちの真ん中を歩いていた者の背後に回ってからボロボロでなったマチェットを添えて、


「動かないで」


瑤華が捕まえた1人を除く全員が即座に抜剣した。その瞬間、全員の眼が吸血鬼族特有の紅色に染まってるのを確認した。しかし、念には念で確認を入れる。


「私は瑤華・トワイライトムーン……3年前の侵攻で奴隷にされて、何日か前に脱走して来た。……そっちは、生き残りって事で良いの?」

「……嘘を言うな!お前、片眼しか紅色じゃないだろうが!! 」

「私は父親が人間だった、ハーフヴァンプなの」

「待て2人共。……取り敢えず、武器を下ろすべきじゃないのか?何故同胞に刃を向ける?」


リーダー格だろうか、比較的落ち着きの早かった男の質問に、瑤華は言葉を詰まらせながらも答える。


「……捕まってた間、幻影魔法で魔物を吸血鬼族に視せておいて……戦えなくなった奴隷を見世物にしてるヤツが居たの……。私は吸血鬼族の生き残りは居ないって聞いた、だから人間の罠を疑ってる」

「どうすれば信じてくれるんだ?」

「……3年前、族長をやっていた男の次女の名前を答えて」


その子の名前は結美・スキャルドメイル──瑤華の親友で昔はよく一緒に遊んでいた。


「…結美ちゃんのことか?」

「……ごめんなさい。突然同族に剣を向けた事を謝罪しま──」


瑤華が彼等を信用し、ずっと腕の中で押さえ込んでいた男を解放した瞬間、いつの間にか背後に回っていた男に斬り付けられた。


「お前ッ、あの男の娘か!! あの裏切り者の娘なんだなッ!」

「ゲホッ……何…言って…」

「惚けるなっ!あの日、あの男の手引きで人間が町を襲ったんだ、知ってんだろ?妻であり巫女でもあった梓を殺して、無惨な姿にしたッ!」

「……え………」


文字通り、頭の中が真っ白になった。

瑤華は父の無惨な死体を見た筈だった。かと言って目の前の男が嘘を吐いてるようには見えない。


「死ね、死んで償えぇぇえぇ!! 」

「待て!この子を見ろ……本気で混乱してる、この子は本当に何も知らなかったみたいだ。それに、さっき服の背中の隙間から焼印の痕が見えた!」

「でもよっ!」

「親の罪を子供に押し付けるなんて、人間とやってる事が同じだ!! お前はそれで良いのか?」

「っ……それは…」

「連れて帰って族長の指示を仰ごう」


混乱から抜け出せない瑤華は、眼こそ開いていたが焦点は合ってなかった。治癒魔法で傷が癒えた後もそのショックから立ち直れてはおらず、結局族長の住む所まではずっとリーダー格の男がその手を引いていた。





















◇◇◇◇



「族長!俺だ、レックだ」

「おぉレック、狩りはどうだった?」

「まだ途中だったんだけど、この子の事で…」

「ん?その子は──まさか!!?」


驚きに満ち溢れた顔で、族長のタルミッシュは腰から提げていた片手斧を振り抜いた。紙一重の所で躱した瑤華に、タルミッシュは罵声を浴びせる。


「出ていけぇ!」

「何でですか!? 私は──あぐっ!!?」


瑤華の抗議の声は聞き入れられない。

殴り飛ばされて、ただでさえ朽ちて脆くなった木製の壁を突き破る。受け身に失敗した所為で勢いを殺せず、タルミッシュの家に面した広場の中央まで吹き飛ぶ瑤華。


「皆聞け!あの裏切り者の娘が帰って来た!同士を売り飛ばした男の娘がだっ!」

「何だって!? 」

「よくもノコノコと…」

「ぶっコロせ!」


広場には次第に人が集まり、瑤華に向かって石や瓦礫…酷い者は攻撃魔法が飛来した。

瑤華はその小さい躰でそれ等を受け止めて、その度に嗚咽とも苦悶の声ともつかない音を漏らしていた。


「な…で……」

「裏切り者に制裁を!! 」

「夫を返して!」

「なんで……ッ…」


帰って来れたと思ったら仲間が生き延びていて、それだけで自分は……ずっと動かなかった心臓が脈打った気さえしたのに…。


「何でッ!? 私だけが──」


──その時、瑤華の躰から昏い瘴気が溢れ出して辺りを覆った。先程までの狂騒は静寂へと変わり、向けられていた怒りは畏怖へと変わった。それでもまだ、瑤華から溢れ出す瘴気は収まらない。

…同じアーツを宿すタルミッシュには察しが付いた。この瘴気が、瑤華の抱く憎悪を可視化したモノだと。そして自分の行いが、とんでもない過ちだと。


「父さんが裏切り者とか、私全然知らないんだけど……なのに『裁きを受けろ』って?」


口調も声音も変わってしまい、一言喋る度に威圧感が増してすら居る。


「私は3年も、奴隷として生きてきた……知ってる?焼印を入れられるの、すっごく痛いんだよ?火傷の何倍も痛いのをグリグリ押し付けられるの…それで泣いたら『五月蝿い』って殴られる、泣くのを我慢した子は『面白くない』って殴られる。鞭打ちなんて毎日だし、やっとお風呂に入れたと思ったらオークションで売り飛ばされるのッ!」


蹲って、両手で首を掻き毟る瑤華。


「人が死ぬ?そんなの毎日だよ…。私にパンをくれた男の子は朝になったらお腹抱えて死んでるし、私に懐いてくれた赤ん坊は脱走しようとしたその子の親と一緒に解体された!! お前等さ、さっきまで笑ってた子供が……痛みに苦しんで泣き叫ぶ声を聞いた事ある?痛いんだよ、私は何もしてあげられなかった……そんな後悔が張り付いて離れない、今でもあの子の悲鳴が聞こえて来る……」


他にも、一生耳から離れない声はいくつも聞いて来た。


「もう何人も死んだ、何十人も殺されたッ!! なのに何で私だけ責められなきゃいけない!? お前等こそ、生き残ったなら助けに来いよッ、どれだけの仲間が助けが来るって信じてたと思ってる?どれだけの仲間が、助けが来ないって絶望しながら……ッ……」


もう誰も、瑤華を責め立てられる者は居なかった。涙を流し、想像するだけで吐き気を催す者も居た。だが、もう瑤華にはどうでも良かった。彼女はもうずっと諦めが早かった。


「もう良い、お前等には何も期待しない……お前等のやってる事は…お前等が憎くて仕方無い人間と全く同じだ」


そう吐き捨てて、小型船まで戻ろうと歩き出す。瑤華だって、もうこんな所には居たくなかった。この後行く場所は定まっていない、それでも瑤華は…自分の心を守ろうとした。

追って来る者は居なかった。

正確には、動ける者が居なかった…のだが。族長ですら瑤華の剣幕に圧されている。ただ、そんなの瑤華にとってはどうでも良い事で、すぐにその姿は木々の中に消えていった。








◇◇◇◇



「瑤華ちゃん!」


私がまさに船を発進させようとしてた時、懐かしい声が聞こえた。

声の主は結美・スキャルドメイル……昔はよく一緒に遊んでいた仲だった。正直死んだと思ってたから、その元気そうな姿を見て安心したけど、同時に湧き上がる嫌悪感が拭えない。


「何の用?」

「あの……私も一緒に行って良い?」

「は?」


正直に言うけど、本気で吐きそう…。

今更何をどう言ったって、お前等は私が嫌いなんでしょ?


「消えて」

「待ってお願い!謝るから置いて行かないで」

「……謝る…?」

「…皆に虐められてたのに、私何も言えなかった……それに、瑤華ちゃんの事怖いって思っちゃった……ごめんなさい」


……無視して出発の準備を始める。


「待って、なんで……」

「……」

「ねぇ待ってよ!他にも嫌な事しちゃってたら謝るから……」

「…………あのさ、誰も謝って欲しいなんて言ってないよ?」


結美は根本的に間違えてる。


「私は愛して欲しかっただけ。生き残った仲間に『辛かったね』『頑張ったね』って言って貰えたら満足だった、辛いのは皆同じでしょ?だから、またゼロから始められればそれだけで良かった」

「……」

「私は、それすら与えてくれなかった奴等を斬り捨てるだけ。だって、あのままじゃ私は殺されるかまた奴隷扱いじゃない?」


両親を亡くし、何年も自我を否定されて罵られ続けた。私まだ7歳なんだよ?もっと、誰かに甘えたいって思うのは間違いなのかな?


「自分が特段不幸だ…なんて、見苦しいでしょ?」


自戒を込めてそう伝える。

さて今度こそ出発しよう──って思っていたのに、後ろから抑え付けられた。すぐに振り払おうとしたけど、それより先に結美の泣き声が聞こえて動きを止めてしまった。


「ごめんなさい……」

「っ、またそれ?好い加減にして」

「…私、瑤華ちゃんの気持ちを理解ろうとしてなかった…瑤華ちゃんは私が慰めなきゃ…って」

「だから…一緒に来ようとしたの?」


結美の返答は、すぐには出て来なかった。

少し考え込む素振りを見せてから、私と距離をとって──


「ううん、私が瑤華ちゃんと一緒に居たかったから…瑤華ちゃんともう離れたくなかったから……酷い、よね。瑤華ちゃんの事慰めなきゃとか思ってたのに、瑤華ちゃんの事何も考えてなかった……」


その答えで、安心した。

同情とかじゃなくて、ただ自分が必要とされた──そんな気がした。


「……2つだけ伝えておく」

「えっ…」

「まず1つ、私に着いて来るのは結美の勝手だから止めないけど、命の保証はしない。2つ……そうは言っても、死なれたら寝覚めが悪いから私は全力で結美を守る」

「ッ、瑤華ちゃん!」


正直、行く宛ても何も無い旅路を独りで往くのは心細いし…。結美なら、良いかなって…。て言うか、そもそも結美はこの事を誰かに相談したのかな?


「おーい、どこだ結美!」

「結美ちゃ〜ん!! 」

「あっ、しまった…」


うん、ぶっちゃけ気付いてた。

相談なんかしてようものなら大人達が全力で阻止してただろうし、昔からそう言う人だった。


「結美」

「………あはは……」

「一応聞くけど、本当に良いんだね?」

「え、う…うん」

「じゃあ乗って、早くしないと置いてく」

「わっ!待って!! 」


多分今の声で気付かれた。

モタついてた結美を多少強引に船に引っ張り込んで、浜辺から急発進する。間も無くして、陸から矢が、結美からは苦情が飛んできた。


「瑤華ちゃん運転あら──」

「ほら伏せて、これからもっと荒くなるよ!」


いやいや、普通顔馴染みに射込んで来ないでしょ!? …なんて愚痴れたら愚痴りたかった。暫く海を進んでから、私は船体後方に刺さった矢の回収と船酔いした幼馴染の介抱に追われた。

行く宛てが無い、何の目標や目的も無い。しかも既に1人がダウン……なんとも締まらない船出だ…。でも、心のどこかで『悪くない』って思ってる自分が居たりして……。















結美は実はメインヒロインじゃないんです!

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[一言] 一緒に逃げる上にヒロインじゃない?複雑な心境
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